か ん ば ん
これは新潟県で農業をしているAさんから聞いた話だ。
Aさんの畑は村の外れにあった。
近くに民家はなく、夜になると真っ暗になる。
ある年の夏、畑の隅に看板が立っているのを見つけた。
ベニヤ板に杭を打ち付けただけの簡素なものだった。
そこには黒い字で何か書かれている。
ただ、その字が妙だった。
子供の落書きとも違う。
老人の震えた字とも違う。
まるでミミズが泥の上を這い回った跡のような、ぐにゃぐにゃと曲がった線で文字が書かれていた。
辛うじて読めたのは、
「入るな」
という3文字だけだった。
誰かのいたずらだろうと思い、Aさんは引き抜いて処分した。
ところが数日後。
同じ場所にまた看板が立っていた。
前回と同じ汚い字で、
「夜に入るな」
と書かれている。
村の集まりで聞いてみたが、Aさんの畑でしかそんなことは起きていないという。
作物には特に何もされておらず、結局今回見つかった看板も捨てた。
すると1週間後。
今度は畑の中央に立っていた。
畝を踏まなければ刺せない場所だ。
そこには、
「抜くな」
と書いてあった。
字は相変わらず酷かった。
むしろ前より崩れている。
文字というより、何度も何度も同じ場所をなぞった傷跡のようだった。
その後も看板は増えていった。
「だから言ったのに」
「まだいる」
「帰れ」
「見つかった」
見れば同じ人物が書いたと分かる。
いたちごっこになってバカバカしくなったAさんは別の畑を使うことにしたそうだ。
使わなくなってからも遠目で件の畑を見ることがあったが、やはり看板が増えているように見えた。
ある朝、1本を残して看板はすべて消えていた。
杭の穴だけが畑に残っていた。
ただAさんは、最後に立った看板だけは今でも覚えているという。
その看板は畑の中央にあった。
そして例の字で、
「かか ん ばば ん」
と書かれていた。
それ以降、今に至るまで看板は現れていない。




