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残業-2

都内のIT会社に勤めている知人、Mさんから聞いた話だ。

Mさんの会社はシステム開発をしていて、納期前になるとどうしても残業が続く。

とはいえ最近はコンプライアンスもうるさくて、昔ほど無茶な残業はできない。だから夜10時を過ぎるころには、フロアに残っているのはせいぜい数人くらいになるそうだ。

その日もMさんは仕様書の修正が終わらず、ひとりで作業をしていた。

周りの席はほとんど空いていて、照明も半分くらいは落とされている。オフィス特有の静まり返った感じだったという。

しばらくして、ふと音が聞こえた。

カタ…カタカタ……

キーボードを打つ音だった。

最初は

「ああ、まだ誰か残ってるんだな」

と思ったらしい。フロアには机が並んでいて電気が消え、離れていると姿が見えないこともある。

ただ、その音が妙に耳に残る感じがした。

カタカタカタカタ……

カタ、カタカタ……

プログラムを書いている人のタイピングの音に近い。

「……誰だろうな」

と思って、Mさんは一度立ち上がって周りを見渡した。

だが、誰もいなかった。

奥の席も、窓際の席も、全部空席。

モニターも消えている。

「気のせいか」

と思って、自分の席に戻った。

ところが、座った瞬間だった。

また聞こえた。

カタカタカタ……

今度ははっきりと、さっきより近く感じたという。

Mさんは思わず手を止めた。

オフィスは静まり返っている。

エアコンの風の音しか聞こえない。

だが、しばらくするとまた。

カタ……カタカタ……

確かにキーボードを打っている音だった。

今度は音のする方をよく見た。

それは、Mさんの席から二つ向こうの机だった。

モニターは真っ黒。

椅子も引かれていない。

当然、誰も座っていない。

それでも、音だけが聞こえてくる。

カタカタカタ……

「さすがに気味が悪くなってきてさ」

Mさんはそう言っていた。

その日は作業を切り上げて、少し早めに帰ったらしい。

翌日、雑談のついでにその話を同僚にしてみた。

すると、隣の席の先輩が妙な顔をした。

「それ、あの席?」

Mさんがうなずくと、先輩は少し考えてから言ったという。

「昔そこにさ、すごい人いたんだよ」

その人はかなり仕事ができたらしい。

納期前になると、ほとんど毎日のように遅くまで残っていた。

夜中でも、ずっとキーボードを打っていたという。

ただ、その人は数年前に会社を辞めている。

転職したらしい。

今も普通に別の会社で働いていると聞いている。

「だから別に幽霊とかじゃないんだけどさ」

先輩はそう言って笑った。

「ただね」

少し間を置いて、こう続けたという。

「たまに夜遅くなると、あの席からキーボードの音がするって話だけがあるんだよ」

Mさんはそれ以来、できるだけその席の近くで残業しないようにしているらしい。

ただ一度だけ、終電間際まで残ったことがあった。

その時も、やっぱり聞こえた。

カタカタカタ……

あの席から。

モニターは真っ暗で、

誰も座っていないはずなのに。

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