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この世界には聖女様がいるらしい  作者: やまとうみ
第六章 阻止せよ!世界大戦
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66.交錯する思い


狭い会議室には王侯貴族から一般人。大人から子供まで勢揃いした。上座にはファルガ。ファルガを挟むように席に着くのはゼイザックとポラリスだった。ガナッシュはロゼを車椅子のままテーブル前に座らせて、その後ろに立っている。ゼイザックの隣にはセバスチャン。ポラリスの隣にはマーカス。ロゼの隣に座らされたルノの後ろに、ガナッシュと同じようにフラミンゴが立つ。アネットとテラは扉の前で立っていた。


「よし、役者は揃ったな。んじゃ、配役を決めるぞ」

「まるで演劇でもするような言い方よしてくださいよ」

「似たようなもんだろ。俺たちはそれぞれの使命を背負って舞台に立つ。そこに必要なのは個人の主張じゃねぇ。成功させるための働きだ」


ファルガはガナッシュに視線もやらずに淡々と述べた。ガッチガチに固まっているのはマーカスとフラミンゴ。子供のロゼとルノは内容をわかっておらず、ぽかんとしている。


「大きな流れは俺とゼイザック、ディオ、ポラリスばあさんで既に話が済んでいる。あとのメンバーは難しいことを考えずに、自分の持てる力を出してくれ」

「どうして僕まで」

「ジョーイ。お前はポラリスばあさんと一緒にムシュンドゥルに渡ってもらう」

「はいい!?僕を戦地に送ったところでなんにもなりませんよ!?」

「お前は医者だ。セレスティアのケアを頼む」


マーカスは開いた口が塞がらないまま唇を震わせる。「ポラリスじゃ。よろしく頼むぞ」隣に座るポラリスがマーカスの顔を覗き込み小さく頭を下げた。


「セバスチャンはゼイザックと一緒にボワイアへ帰るんだ。裏で戦争を仕掛けようとするゼネフを止めてほしい」

「・・・・父上を」

「ゼネフは今回の件を軽く考えてる部分がある。東の国では戦争が起こっていてその救世主としてセレスティアが攫われた。ここに西の大国までも戦争をしかけちまったら全世界にまで広がる恐れがある。報復に次ぐ報復の応酬だ。とにかく火に油を注がないように上手く説得してくれ」

「・・・・・・。」

「案ずるな、セバスチャン。私に任せろ」


ゼイザックは凛とした表情を崩すことなく、目を伏せていた。セバスチャンは考えを表情には出さないが、チラッとガナッシュに目配せする。ガナッシュは頷くように瞼を下ろした。


「んで、残るはロゼだ。ロゼは・・・奇跡を起こす準備をしてほしい」

「え!?奇跡!?」

「ああ。実はな、ロゼ。セレスティアを攫った東の国は今大規模な戦争を起こしているらしい。このままでは多くの人が死に、土地は荒廃していく。俺たち西側の人間にはなんの関係もねぇ話だが、聖女(セレスティア)を攫った以上、ここにもその火種が降ってくる可能性はゼロではない」

「・・・・・聞きました。ポラリスおばあちゃんが夢を見たって」

「そうか。だから・・・つーか・・・俺は」


急に言葉につまずきだしたファルガが目を泳がす。荒っぽく髪を搔いて「俺は・・こんな、子供に」髪を搔いた手で顔を覆い、はあ、と深い息をつくと顔を伏せてしまった。


「ファルガ大公。子供に見えてもあの娘も聖女の一人です。何を躊躇う必要がありますか。あの老婆はムシュンドゥル行きを決めた。あの娘も同じでしょう」

「ゼイザック・・・お前って奴は」

「ロゼとかいったか?お前も本物の聖女であれば、戦争の一つや二つ止めることは可能であろう?」

「兄上、そんな言い方」

「聖女は苦しむ人々を救ってくれる。そう伝承されている。セバスチャンを救ったその能力(ちから)で今度は東の国を救ってやるといい」

「兄上、おやめください。この問題にロゼさんは関係ありません。そもそも東の国が縋ったのは姉上です。姉上に能力(ちから)があれば、何も問題は起きなかった」

「セレスティアがあんな汚く貧しい国で力を発揮できるわけないだろう。セレスは繊細で臆病なんだ。誰かが傍で守ってやらなければ」

「民を守るべき立場にある人間がそれほどまでに弱弱しく、自ら汚れることを恐れてしまっては、どうやったって苦しむ人々を救えるはずがないじゃないですか。環境や規模など関係ありません。いい加減現実から目を逸らさないでください。姉上は・・」

「・・・セバスチャン、いいんだ。兄弟で言い争う必要はない。全ては・・・俺たちが背負うから」


ガナッシュがロゼの両肩に手を置き、優しい声でゆっくりセバスチャンに言葉をかける。ロゼは自分の頭上にあるガナッシュの顔を見上げた。


「ゼイザック、君は信じたいだけだろう?“自分”という“正しさ”を。君は孤独だ。王太子として人の上に立つ以上、自分を信じる以外どうしようもないのだろう?」

「言い方に疑問が残るな。私は“正しい”んだよ。正しいから上に立てるのだ」

「哀しいな。自分しか信じられないってのは。・・・わからないでもない。俺もそうだった。孤独でいることの方がよっぽど楽なこともある。けど、俺は気づいた。それでは誰も守れないんだと。誰も救うことはできないんだと。そして自分が助けられることもないんだってことを」


目を伏せていたゼイザックが視線を上げた。ガナッシュを睨みつける。


「今ここにいる人たちはセレスティアを助けたいとか、ボワイアに手助けしたいという理由で戦っていない。ただ、巻き込まれただけだ。不本意な争いに俺たちが巻き込んでしまっただけだ」

「不本意だと!?ディオ、貴様は妻であるセレスティアのことをなんとも思ってないとでも言うのか!?どの口がものを言っている!?貴様にはその小娘さえいれば十分で、幼き頃から家族のように育ったセレスティアのことなど簡単に切り捨てられるとでも言うのか!!」

「違う。俺が言いたいのは、皆の協力を己の力だと過信してはいけないと言いたいんだ。いいか、ゼイザック。人を動かすにはまず自らが動かなければならない。信頼は言葉では決して買えない。行動で示すしかないんだ。どんなに苦しくても逃げ出したりせず、全て受け止め、立ち向かう。多くの傷を抱えながらも、正解のない答えを導き出し、前に踏み出してようやく同調してくれる人が少なからず現れる。それが仲間だ。仲間のために、大事な人たちのために、大切なものを守るために、身を切る覚悟をもって事にあたる。その覚悟を・・・君たちは放棄している。だから代わりに俺が背負おう。今までがそうであったように。今回も俺たちネラルク大公国が背負おう」


ガタッと勢いよく席を立ったゼイザックの後ろで椅子がひっくり返る。怒りを滲ませ険しい顔のゼイザックを見てもガナッシュは表情を変えない。


「セレスティアを助けるのは身を切れない君(覚悟のないボワイア)じゃない。俺たち(ネラルク)だ。よく、覚えておくといい」


ゼイザックが奥歯を噛みしめ顔を歪めた。目を血走らせて吠えるかのように大きく口を開けたところで「ゼイザック」ファルガが止める。


「ディオの言い方はよくないかもしれねぇが、お前が動かせるのはお前のもつ兵だけだ。ここに集まった他国の民間人にお前の命令に従う義理はねぇんだよ。だから俺やディオは“お願い”してる。力を貸してほしいとな。ディオはそれを言いたいだけだ。従うのは当然、身分の低いものは犠牲になって当然、それは・・当然なんかじゃねぇってな」

「ファルガ大公!?貴殿までそのようなことを私に・・・!!」

「俺はつらいぞ。仲間を戦地に送ることも、民間人を巻き込むことも、無知な子供を・・利用することも。そんな涼しい顔で酷なことを平然と言えるほど、俺は心を殺せてねぇんだ。甘っちょろい人間なんだ。それってゼイザックからしたら大公爵失格かもな。別に、それでもいいがよ」


ファルガが倒れた椅子に目配せする。サッと動き出したのはテラで、すぐゼイザックの傍に駆け寄り倒れていた椅子を起こした。「ゼイザック、俺たちには俺たちのやり方がある。お前の仕事は何としてでもゼネフを止めることだ。今、東の国に攻め入って得られるものなんぞ何もないことを念頭に置いておけ。セレスティアのことは俺たちに任せろ。もしセレスティアが無事でいられなかったら、ネラルクとの同盟を解消し、俺たちをぶっ殺せばいい」ファルガの言葉にゼイザックは何も言わなかった。その場を動くこともなく、険しい表情できつく奥歯を噛みしめている。


「・・・ファルガ大公。兄に代わり僕からお願いします。どうか、皆さんの力をお貸しください。僕は皆さんを信じます」

「おう。セバスチャンも頼むぞ。ゼネフのことは任せた」

「はい。・・・あの、ウチの兵は必要ありませんか?数は多いに越したことはないかと」

「いらねぇよ。俺たちは戦争しに行くわけじゃねぇ。武装した方が相手も警戒するだろうからな」


セバスチャンは目を伏せ表情を曇らせる。「心配すんな。なんとかなるさ」ファルガの軽い口調にセバスチャンの顔色は変わったりしない。「そんな言い方・・。セバスチャンは何かしてあげたい気持ちでいっぱいなだけなのに」怒気を含んだ言葉を溜め息と共にアネットが零す。


「んじゃ、俺様は船の準備をしに行く。テラは汽車の手配をしろ」

「かしこまりました」

「ゼイザックとセバスチャンはボワイアに帰る準備だ。必要なものは今日中に集めとけよ」


ゼイザックに返事はなかった。セバスチャンだけがファルガに頭を下げる。


「ディオは」

「わかってます」

「そうか。あとは・・ジョーイ。お前、俺様と一緒に来い。打ち合わせするぞ。お前がムシュンドゥルの文字が読めるってこと知ってんだからな」

「ええっ!?どうしてそれを!?」

「お前に売ってた医学書の中にムシュンドゥルから仕入れてきたものもあったはずだからな」

「ファルガ大公は仕入れてきた品を全て覚えてらっしゃるのですか!?」

「いや?んなもん一々覚えてねぇけど。・・・・やっぱそうだろ?」

「カマかけたんですね!!!」


「うわああ・・。」両手で顔を覆い机に突っ伏したマーカスの首根っこを席を立ったファルガが掴み上げる。「はっはー!!ディオたちがお前に恩を売っておいてよかったぜ!よーく尽くせよ!ジョーイ!」強制的に引っ張られるマーカスは、怯えた目でガナッシュを見上げる。ガナッシュは張り付けたような笑顔を浮かべ、いつぞやの人を食おうとしていたマーカスの顔を彷彿させた。


ファルガがマーカスをずるずる引き摺って会議室を出る。その後ろを追うように未だ怒りの収まっていないゼイザックが早足で出た。小走りでついていくセバスチャンは扉の横に立つアネットに、そして背後のガナッシュに顔を向けたが、アネットもガナッシュも微笑んで頷くだけ。そのアイコンタクトの意味はロゼにはわからない。セバスチャンはお辞儀をして会議室を出て行った。


「では、奥様」

「ええ、テラも気を付けて」


テラが会議室を出て扉は閉められた。「ふう」ガナッシュが安堵の息をつくと「お疲れさん、ガナッシュや」ポラリスが小さく笑った。


「なあロゼ。ガナッシュの奴、カッコよかったの」

「ポラリスさん、茶化さないでくださいよ」

「本音じゃ、本音。大人しいお前さんが王族相手に啖呵きれるとは思いもせんかった」

「ほんとね。私も驚いたわ」


ロゼたちの向かいの席にアネットが腰掛ける。さっきまでセバスチャンが座っていた席だ。


「黙っていられなかっただけですよ。俺の大事な人たちを捨て駒のように言う様に」

「仕方ないわ。ゼイザックにとって、自分の大事な人以外の人間は単なる人形でしかないのだから。そのことにセバスチャンも苦しんでいた。兄弟ですもの。わかりあえないのは苦しいに決まっているわよね」

「セバスチャン、一人で抱えさせて悪かったな」

「なら、こちらから人数を割こうじゃないか。フラミンゴ、お前さんが王子を支えてやれ」


ルノの後ろに立っていたフラミンゴが声も発せないまま大きな口を開けてポラリスを見た。


「セバスチャン殿下は頭は良いが味方が少ない。いい年のおっさんが味方についてくれるだけでも心の負担は減るじゃろ」

「な・・・・な・・、なにを・・言ってるんですか!!?俺は平民なんですよ!?しがない行商人なんですよ!?王族と同じ空間にいるだけでも恐れ多いのに、ボワイア国の第二王子を支えろと!?」

「いい案ですね、ポラリスさん。フラミンゴさん、セバスチャンをお願いできますか?」

「ガナッシュまで何言ってんだ!!」

「気負わずセバスチャンの指示に従うだけで構いません。理解者が傍にいる、それだけでセバスチャンは動きやすくなると思います。是非に」

「おいおいおいおい」

「フラミンゴさん、私からもお願いします」

「うええええっ!?」


アネットからまでお願いされたフラミンゴは腰を抜かしてその場にひっくり返った。「おじちゃん大丈夫?」背後で転がったフラミンゴをルノが心配そうに見ている。フラミンゴは足に力が入らないのか立ち上がれない。


「ロゼ。ロゼからも言っておやり」

「え?なんて?」

「励ます言葉なんかをな」


ポラリスの言葉にロゼは首を傾げた。が、すぐその折れた首を真っ直ぐに戻してルノの座る椅子の後ろで腰を抜かしているフラミンゴに顔を向けた。


「よくわかんないけど、フラミンゴさん。頑張って!」

「おい・・・ロゼ」

「セバスチャンさん守ってあげて。お兄さんと仲がよくないみたい」

「んなこたなんとなく察してたが・・・あれだけヒリついてたら互いになにしでかすかわかんなくて怖ぇよ」

「あ、でも、フラミンゴさんボワイア国に行っちゃうの?私は?」


フラミンゴに向けていた顔を今度はポラリスに向けるロゼ。「ロゼはワシの後にムシュンドゥルに来るんじゃ。本物の聖女として交渉の場に立ってもらう」ポラリスはロゼに顔を向けることなく、正面を真っ直ぐに見据え静かに言った。


「ロゼ、俺が説明するよ。案をくれたのはポラリスさんだけど、その責任を負うのは俺たちでなければならないから」

「責任?ですか?」

「あのね、海を隔てた遠い東の国で戦争が起こっているらしいんだ。終わりの見えない戦争に疲弊したムシュンドゥルという国の偉い人が、この世界で噂される聖女様の奇跡に与りたいと願ったみたい。それでセレスティアを攫った。苦しみから解放されるために」


ガナッシュは膝をつき車椅子に座るロゼを見上げた。膝の上に乗る両手をそっと握る。


「けど、セレスティアにそんな力はない。だからセレスティアを攫った国は本物の聖女を渡せって言ってきたんだ。その候補に挙がったのがロゼ」

「私?」

「そう。だけど俺も父さんもそんな気はなかった。他に手はないか。どうにかこの難局を乗り越えられないかって。考えに考え抜いた。けど、答えが出なくて、答えを出せなくて、苦しんでいたところにポラリスさんの助言があったんだ。それで、俺たちは“みんなの力”を借りることにした。その中にロゼもいる」


眉が垂れ、目を細めるガナッシュは、笑顔を繕っているが泣きそうな顔をしている。


「ポラリスさんはセレスティアを保護するために先にマーカスさんと一緒にムシュンドゥル国に行く。俺たちネラルク大公国に争う気がないことを伝えてもらい、困っているであろう終戦後の復興支援を惜しまないことを約束する。けど、聖女の奇跡を願うムシュンドゥル国はこの条件でセレスティアを引き渡してはくれないだろうから・・・ロゼ、君を本物の聖女として連れていこうと思う」

「本物の・・聖女?」

「もちろんロゼとセレスティアを交換するわけじゃない。それは俺が絶対にさせない。けど、東の国で起きている戦争を西側まで広げないために、ここで終結させる必要がある。その手助けを一緒にしてほしいんだ」

「私に・・・そんなことできるでしょうか」

「大丈夫。ロゼにしか考えつかないことを俺たちに教えてくれるだけでいいんだ。前にロゼが俺に教えてくれた“人も自然も自浄作用がある。その手助けをできるようにしなさい”っていうおばあさんの教えによってロゼは多くの人を助けてきた。それは、今まで身近で見てきた俺がよくわかる」


握られた両手をガナッシュは口元に引き寄せた。「ロゼにしかできないことがある。ロゼだからこそできることが沢山ある。多くの可能性を秘めたロゼは、本当はもっと広い世界に羽ばたくべきかもしれないって思うこともあるけど、俺はこの手を離せないんだ。この世界の聖女様としてじゃなくて、俺たちのロゼでいてほしいといつまでもそう願ってしまう。子供の我儘みたいだね」ふっと吐き出した息が手にかかる。伏せたガナッシュの目と視線が合わない。ロゼは握られた両手を軽く振った。


「ガナッシュさん、違いますよ。私がガナッシュさんから離れないんです。ガナッシュさんの傍を離れずついてくる世間知らずで能天気な子供は私の方です。ガナッシュさんが私の手を取ってくれるから、私は安心してついてきて好き勝手やってるだけなんです。ガナッシュさんにはたくさん迷惑かけたかもしれませんけど、どれも楽しかったです」

「迷惑だなんて」

「なんとなくわかりました。また聖女様のフリをすればいいんですね。もう、三回目なので役も様になってるかもしれませんよ!安心してください!聖女様の話を聞いて育った私は、聖女様になりきるのは得意になりましたから!」


ガナッシュの手を握り返したロゼは歯を見せて大きく笑う。目を伏せていたガナッシュが顔を上げ目を丸くした。緊張感のカケラもなく和やかに笑うロゼを見て、ガナッシュの強張った表情も緩んだ。「あの演技で得意になっちゃうんだ」あの演技とはどれのことだろうか。ランサーのやつか、それともウェストか。


「・・・・はあ、ロゼもやる気なのに俺も腰抜かしてる場合じゃねぇな」

「フラミンゴさん・・・。すみません」

「いや、いいんだ。やれるこたぁやるさ。だから、ロゼのこと頼んだぞ。もちろん、お前のことは信用してるけどな」

「はい、命に代えてもロゼは守り抜きます」

「重いんだよ。これ以上ビビらすな」


尻もちついていたフラミンゴがゆっくりと立ち上がる。「言葉は悪いが軽いノリでやらせてくれや。でないと怖すぎて息すらできねぇ」ふっ、ふっ、と短い息を吐いて、その場を跳ねるように身体を上下に揺らす。「うっし、俺も腹括るか」また短い息を強く吐き出した。


「ロゼさん、フラミンゴさん、ありがとうございます。ディオの傍にずっといてくれたこと、そして手を貸してくださること、感謝してもしきれません」

「ややっ、アネット大公夫人。こちらこそガナッ・・ああ、ええと」

「ガナッシュ、しっかりやりなさいね」


アネットはあえて別人として生きたガナッシュという名で呼んだ。面白がっているかのように、ニッコリ笑顔だ。


「今の貴方は、今の貴方をつくりあげたのは、ガナッシュとしての人生。その中で得た仲間。まさにガナッシュとして生きた証。その証に誇りをもち、貴方の望む未来を引き寄せなさいね」

「母さん・・・。」

「貴方がこんなにも多くの人を愛し、愛されているなんて、母としてこの上ない喜びだわ。もう、きっと貴方に迷いはない。前だけ見て進みなさい」


笑顔でいるアネットにガナッシュも笑い返した。ロゼの手を握るその手に力を込めて。


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