56.救いの手をとって
マーカスは医療キットから取り出した瓶の中からある液体を綿花に湿らせた。それを小さく千切りロゼの鼻の穴に突っ込む。「無理やり眠らされたり、無理やり起こされたり、僕は彼女にとんでもなく嫌われそうだな」既に自分たちに嫌われてるのに何を言う。フラミンゴが顔で語る。
「う~ううう~~!!」
「ロゼ!!」
「あっ・・・たま、いたい~~!!」
目をぎゅっと瞑ったままロゼはガナッシュの胸に頭をぐりぐりと押し付ける。「ロゼ!?大丈夫!?水飲める!?」押し付けてる頭をガナッシュは優しく撫でて、戻ってきたホアンナから水を受け取った。まるで運動をした後のように肩を上下させながら呼吸してるロゼが眉間に深い皺を刻みながらガナッシュを見上げる。
「ロゼ、無理やり起こしてごめん。水、飲める?」
「み・・・ず」
ロゼは腕に力が入らないのか動かない。ガナッシュは水差しを直接ロゼの口に付ける。勢いよく飛び出てきた水を顔に浴びたロゼは「んぷっ!」口でなく鼻に入ってしまったであろう水に顔を歪めた。「ご、ごめん!!」焦っているガナッシュではロゼに水を飲ませることすら難しい。逆に顔に水を浴びたことでロゼははっきり目を覚ました。
「いたぁい、頭いたいよぉ。ここどこぉ?」
「ロゼ、大丈夫か!?」
「フラミンゴさあん。頭いたい」
「痛いのは頭だけか!?足は!?足はどうだ!?」
「足?」
ロゼは手で頭をさすりながら足に目を落とした。「・・・・・ああっ!思い出した!!マーカスさんに捕まってそれで!!」ロゼの声に被せるように「でも燃やしたのは君だよ?」マーカスが邪魔してきた。
「マーカスさん、やっぱりアンタが」
「説明は後でします。今はこの状況をなんとかしましょう」
「悪化させたのアンタでしょうに」
焦った素振りも見せずにマーカスは涼しい顔をしている。そんなマーカスをフラミンゴは睨みつけた。
「ロゼちゃん!ロゼちゃん!よかった!」
「ルノちゃん」
「ロゼちゃんごめんね!私のせいで酷い目にあったんだよね!ごめんね!お願い!嫌いにならないで!」
「え?どういうこと?」
「ロゼちゃん、魔女に間違われちゃったの!魔女は私なのに!本当は火にかけられて処刑されなきゃいけなかったのは私なのに!」
「え・・・っと、よくわかんないんだけど」
大粒の涙を零しながらロゼにしがみつくルノにロゼは首を傾げる。そんなロゼの足に水で濡らした布をマーカスが巻き付けてきた。ロゼは驚いたが足が動かない。「優先順位があるからごめんね。今は冷やすだけで悪いけど後でちゃんと治療するから。まずは銃創の治療、そして延焼させないために火を消すことだ」慣れた手つきでマーカスはぐるぐるロゼの足に布を巻き付けている。
「ロゼちゃん!俺のこと助けて!」
「君のことは僕が診る。聖女様は先に火を消す方法を考えてくれないか?」
「ちょっとおお!!俺はアンタに触られたくないんだって!」
「ケガを治療したところで魔女から聖女のカードはひっくり返せない。ここにいる人たち全員を黙らせるだけのことをしてもらわないと」
「アンタずっと勝手なこと言ってばっかなんだよ!!火をつけたのも、ロゼちゃんを魔女に仕立てたのも全部アンタなんだよ!!なんでアンタの尻ぬぐいを全部ロゼちゃんがやんなきゃなんないんだよ!!」
「さっきから驚いてるんだけど、君は銃で撃たれてどうしてそんなに元気なの?優先順位変えようかな」
「話を逸らすな!!」
ビーグルは身体を捩るが起き上がることはできずにいる。「ビーグルさん、ケガしたんですか?」ロゼがガナッシュに訊ねた。「大丈夫。マーカスさんに任せよう」そんなガナッシュの言葉を聞き逃さないビーグルは「ふっざけんなって!!」声を張り上げた。
「・・・俺、もう、自分が嫌だ。マフィアに攫われたときも、今回も、一緒にいながらなんでロゼが守れないんだろう。もう、人間辞めたい。犬にでもなって人生やり直したい」
「ガナッシュ、反省は後だ。それを言うなら俺もだからな」
顔を俯かせるガナッシュの頭をフラミンゴが叩く。
「ロゼ、詳しい話は後だ。とりあえずこの状況をひっくり返さなきゃならん」
「ひっくり返す?」
「今、ロゼとルノは魔女だと思われている。悪い魔女だと。だから、ひっくり返すんだ。聖女の奇跡を起こして」
「聖女様の奇跡?」
「何か案がないか?あのランサーを黙らせたようにフリでいいんだ。それっぽいなにかできないか?」
泣きそうな顔でいるフラミンゴを見ながらロゼは口を半開きにして黙った。それからゆっくり顔を動かし、ヒルケット村の人たちが必死に火消しに奔走している姿が目に飛び込む。「急げーっ!!全員バケツ持ってこーいっ!!」村民全員がバケツを持って水を引き上げている風車小屋や、畑の灌漑から水を汲んで走っている。
「家、燃えちゃったんだ。そっか、そうだよね」
「一瞬で火を消せないか?」
「一瞬で?それは無理だよ」
「最初っから諦めるな!!考えるんだ!!」
「ええっ!?」
顔を真っ赤にし、必死の形相でロゼに詰め寄るフラミンゴ。「なに!?なにがなにでどうなってるの!?無理だよ!火を一瞬で消すなんて!魔法使いじゃあるまいし!」詰め寄るフラミンゴから逃げるようにロゼはガナッシュにしがみついた。
「フリでいいんだって!何かないか!?」
「うえ~・・・?うう~ん」
「頑張れ!なにか閃け!」
「うううぅぅ~・・・・ん?」
「ロゼちゃん頑張って!よくわかんないけど頑張って!」
フラミンゴとルノが胸の前に拳をつくってロゼを鼓舞する。「がんばれー!がんばれー!」まるでスポーツ観戦をする観客のように。「ううう・・・あたま、いたい」頭を捻るロゼは考えを巡らせているのか痛みに唸っているのかよくわからない。「ちょお!俺のこと忘れないで!」ビーグルの声は誰にも届いていない。
「火・・・火かぁ・・・。どうしてたっけ。おばあちゃんがよく燃やしてたやつ・・・大きくなったとき、どうしてたっけ・・・?」
「頑張れロゼ!思い出せ!」
「水・・・の他に。なにかまぶして・・・蓋を・・・?」
「頑張れロゼちゃん!がんばれがんばれ!」
「お鍋なら蓋できるけど家は・・大きすぎるよね・・・。うーん・・・火が小さくなればどうにか・・・。えーと、えー・・っと」
「生み出せっ!」
「うみだせっ!」
フラミンゴとルノの応援は変な方向へ行っている。「あの、フラミンゴさん、ロゼは無理やり起こされて頭回ってませんし、そんな大声出したら更に頭痛を・・・」ガナッシュはうんうん唸っているロゼの頭をさすっている。
「んー・・あー・・、あっ!?塩とか?」
「塩?」
「ルノちゃんの塩。アレ使えばなんとかなるかも」
「なんとかなるの!?私の塩で!?」
「でもならないかも」
「やけに弱気だな」
「だって!普通は無理だよ!!あんなに大きく上がってる炎を消すなんて!!おばあちゃんだって、うひゃっひゃっ!って笑いながら消火活動は適当だったもん!大変だったんだよ!?何度も山火事になりそうになって!」
ロゼはフラミンゴの頭をバシバシ叩く。「よし、ロゼ、指示してくれ!ガナッシュ、ロゼの足になってくれや!」叩いてくるロゼの手を避けもせずフラミンゴはガナッシュの肩をポンと叩くと立ち上がった。
「マーカスさん。あの火はロゼとルノで消してきます。なので、さっきの魔女の発言、撤回してくださいよ」
「わかってますよ。こっちも聖女にひっくり返してくれれば都合が良いので」
「アンタ・・・何を考えて」
「早く行かなければ燃え広がってしまいますよ。彼のことは僕にお任せください。銃創の治療は慣れてます」
「俺は嫌だってば!!ロゼちゃん!!」
「ビーグルさん、さっきからどうしたんですか?」
「後で話すよ」
「後にしないでよ!!」
ガナッシュはロゼを抱えて、はあ、と息をつきロゼの額に自分の額を合わせた。「ロゼ・・・よかった、目を覚ましてくれて」溜め息と共に額をこすり合わせてくる。そして段々と顔に重みが増しガナッシュの顔が落ちてきた。触れる!触れる!口と口が触れるー!声にならない声を詰まらせたロゼは、迫ってくるガナッシュの顔から逃げられず肩を竦めて縮こまるだけ。
「泣くな、ガナッシュ。この状況をひっくり返さんことには何も変わらん。守るぞ、ロゼも、ルノも」
「・・・はい」
「ロゼ!ガナッシュのことこき使ってやれよ!」
固まっているロゼに返事はない。ガナッシュは腕に抱きかかえていたロゼを今度は背中に乗せた。
「さて、ロゼ!どうする!?」
「・・・・・・。」
「ロゼ!起きろ!」
「うえっ!?あ、はい!?」
「どうするよ!?」
「えーっと、なんだっけ・・・あっ!!ルノちゃんから買ったカリは!?」
「そういえば、俺の荷物どうなった・・!?燃えたか!?」
「ええーっ!!」
「あ?いや?商品はジンとこだ!!・・って、ジン!?無事か!?」
フラミンゴは慌てて燃え盛っているブルーノの家に走った。その隣の馬小屋ともいえない雨よけの屋根があるだけの質素な小屋でジンとマーカスとホアンナの馬が炎に怯え暴れ回っている。「うおわっ!!ジン!!すまねぇ!!」フラミンゴは急いで繋がれていた手綱を解くと三頭はものすごい速さで畑に逃げて行った。「あ!おい!戻ってこいよ!!」馬三頭に返事はない。ヒヒヒーィィと怯えた声を上げて遠ざかっていく。
「ジン、行っちゃった」
「迷子にさえならなければ戻ってくるだろ」
フラミンゴは炎が迫る小屋からいつもジンに取り付けているリヤカーを引っ張り出した。積まれた木箱からある袋を取り出す。
「これだが、これでどうにかできるか?」
「うー・・・少ないな」
「そりゃあ、何十グラムってとこだし」
「だよねぇ」
ロゼはフラミンゴから袋に入ったカリを受け取る。「どうにかできそうか?」不安げに訊ねるフラミンゴに「ううう~・・・」ロゼは唸ることしかできない。
「ロゼ、悪いんだが聖女っぽいやり方でやってほしい」
「ムチャいう」
「そうなんだがよ。けど、そうしねぇと疑いが晴れねぇ。どうにか無事この村を出たい」
「とりあえず思いついたことやってみる。うまくいくかわかんないけど」
ロゼは首を伸ばして辺りを見回した。「フラミンゴさん、一斗缶ほしい。たしか納屋にあったと思う。あと脱穀で使った足踏みペダルもほしいな」ロゼは前にルノとドリューと一夜を明かした納屋を指さした。「わかった、取ってくる」頷いたフラミンゴはドタドタとガニ股で必死に走り去っていった。
「ルノちゃんは、ウェストさんにお願いして酢をもらってきてほしいのと、私の薬箱取ってきてくれる?」
「うん!わかった!」
そしてルノも走り去っていった。「ウェストさーーーん!!」大きな声でウェストの名を呼びながらバケツリレーで一列になっているヒルケット村の人たちの中からウェストを探し始めた。「あ、ガナッシュさん、ジンのリヤカーに前に使った噴霧器があるので、それを取ってもらえ・・・ガナッシュさん?」ガナッシュはさっきから無言で返事すらない。
「あの、ガナッシュさん?」
「ん?」
「ごめんなさい。重たいですよね」
「いや?」
「でも」
「・・・・あ、ごめん。フラミンゴさんにも反省は後って言われてるのに。ごめん、なに?」
急に優しい声色になった。けど、僅かに震えている声は何かを堪えているようにも感じる。ガナッシュに背負われているロゼからはガナッシュの顔が見えない。「あ、の・・」ロゼは伸ばしていた背筋を丸めて、ガナッシュの肩に顎を乗せた。
「心配かけてごめんなさい。このごめんなさいは、本当にそう思ってます」
「・・ううん。俺こそごめん。いつも俺はロゼを守れていない」
「そんなことありません。ガナッシュさん、ずっと私のこと呼んでくれていましたよね?」
「うん。やかましいほど呼んでた」
「炎に巻かれたときも、私、逃げるっていう考えが浮かばなくて、とにかくこれ以上燃えたらいけないからって薬品が入ってそうなマーカスさんの荷物と私の荷物を外に放り出して、それから火を消さなきゃって」
「危ないよ」
「そうなんですけど、その頭がなくて・・・。だから、ガナッシュさんの声が聞こえてホッとしたのを覚えてます。一人でパニックになっちゃってたから」
ぎゅっと首に腕を回す。「ガナッシュさん、ありがとうございます。私のこと呼んでくれて。そうでなければずっとジタバタするだけで、そのまま死んでいました。だから、今、私が生きていられるのは、ガナッシュさんのおかげです」薬品による爆発の炎の広がりは既に手に負えなかった。それなのに逃げなかった。ガナッシュの声がなければ、いつまでも一人で炎と戦っていた。
「ロゼ」
「はい?」
「それは言い過ぎ」
「え?」
「俺はなにもできていない。そして自分が無傷でいることが許せない。大切な人を守れず、傷つけ、苦しめてしまったのに、自分は守られ、情けをかけられ、なにもできないとか、そんな自分が許せない」
背負っているロゼの足を持つ手に力が入る。ロゼはガナッシュの肩から顔を出して自分の足を見下ろす。膝から下は濡れた包帯で巻かれており突っ張ったような感覚があるのみ。自分では思うように動かせない。
「・・・すみません。間違えました」
「・・・・・。」
「ガナッシュさん!!助けてください!!ブルーノさんの家を燃やしてしまったのは私なんです!!」
「・・・え?」
ロゼは背後からガナッシュの肩を掴み前後に大きく揺さぶる。「このままじゃ怒られちゃいます!恐ろしいほど怒鳴られて、弁償しろって言われちゃいます!私、お金持ってないのに!!」何度も何度も大きく揺さぶる。
「大変です!!このままではフラミンゴさんから多額の借金をしなくちゃならないです!!借金地獄です!!そして私は一生奴隷生活を強いられるんです!!いいえ、それよりも!ブルーノさんには今まで良くしてもらってたのにとんでもないことしでかしちゃいました!!・・・ですから、一人じゃ怖いので、私と一緒にガナッシュさんも怒られてもらえませんか?」
「ロゼ・・・。」
「あと、今から更にあの家にガスをぶっかけますので、それも一緒に怒られてもらえると助かります」
コツンとガナッシュの後頭部におでこをぶつけた。無反応のガナッシュの反応を確かめるために、もう一度ぶつけた。「お願いします」すると小さくガナッシュの背中が小刻みに上下する。
「笑ってる場合じゃないんだけど、笑ってしまった」
「笑ってる場合じゃないですよ!!莫大な借金のせいで蟹工船に送られちゃいます!!終わらない重労働で一生終わっちゃいます!!」
「そのときは俺も乗る」
「とにかく急いで火を消しましょう!!今から燃えてるブルーノさんの家に突撃します!!いいですか?一緒にですよ!!だって私、一人で怒られるの怖いんですもん!!」
「うん。一緒にね」
「一緒にです!!一緒に怒られにいきましょう!!」
ロゼはガナッシュにぎゅっと抱きついた。自分でも何を言っているのかわからなくなっている。別にガナッシュに借金の肩代わりをしてほしいわけじゃない。一緒に謝ってほしいわけでもない。けど、伝わってくる。自分を責め、許せないガナッシュが欲しいのは慰めなんかじゃない。同じくらいの痛み、そして罰なんだと。
「・・・ありがとう」
肩に乗せたロゼの頭にガナッシュが頬ずりして耳元で囁く。ロゼはなにも言わず、首に回した腕の力を強めた。
**
日がだいぶ暮れてきて、赤い空の色が夕日によるものなのか、燃えているブルーノの家のものなのかわからなくなってきた。「ロゼちゃん!」ルノが一本の瓶を抱えてロゼとガナッシュの元へ走ってくる。その隣にはウェストも並んでいる。
「これでいい!?」
「ありがとうルノちゃん」
ロゼはビネガーの入った瓶と乱暴に引きずられた行商箪笥を受け取った。ロゼの代わりにガナッシュがルノの頭を撫でる。嬉しそうに笑うルノの隣で「・・・あの、さ」話しづらそうにたどたどしく目も合わさないウェストが俯きながら「今度は、なにを・・する気なの?」小さな声で訊ねる。
「俺らがなにをしたっての?・・勘弁してよ。突然来て、村のみんなと仲良くしてたと思ったら、こんな凶行に出てさ。・・畑に燃え広がったらどうすんの?収穫終わってないんだよ」
「ウェストさん、待ってください。ロゼもルノもあなたたちと同じで巻き込まれただけなんです。畑を守るためにも、今は早く火を消しましょう」
「そんなのわかってるよ!!わかってるんだよ!!けど・・許せないんだ!!どうしてこうなった!?なんで平和だった村がこんな目に遭うんだ!?それって全部、全部、魔女のせいなんだろ!?君たちが来たせいで俺たちは・・・!!」
「待ってください!彼女たちは」
「ノワイズ村に魔女がいようといまいと関係なかった!俺たちに害さえなければどうでもよかった!それなのに・・!俺らを巻き込まないでくれよ。放っておいてくれよ。こうなるかもしれないと思って、だから今までノワイズ村とは関わってこなかったんだ!!」
声を震わせ、ウェストは大きな声を張り上げた。びくっと肩を跳ねさせたルノはガナッシュにしがみつき「・・・・ごめんなさい」と風に消えてしまいそうなほど小さな声で謝る。
「すみませんでした。折角良くしていただいたのに。今回被害にあった部分については全てこちら側が負担しますので、もう少し、俺たちの勝手を許してください」
「勝手って・・・何をする気だよ。やめてくれって言ってるじゃないか!」
「ルノ、手伝ってくれ。ロゼは足に重度の火傷を負ってて歩けない。だからルノも一緒に火を消してくれ」
「火を消すって・・・どうやって?」
「ロゼが教えてくれる」
「ロゼちゃんが?」
「内緒なんだけどね、ロゼは聖女様なんだ」
「聖女・・・だとっ!?」
ルノは「聖女様ってなに?」と首を傾げている。だがウェストは目を丸くして大きく仰け反った。「・・・噂に聞く、聖女様・・?いや、でも、お嬢ちゃんは魔女だって・・マーカスさんが」口をわななかせているウェストにロゼは「そうです!私が噂の聖女様です!」両手をバンザイして空を仰ぎ、誰も騙されそうにない詐欺師のような口調で大根役者っぷりを披露する。ぷっとガナッシュが小さく吹き出した。「ランサーのときもそうだったけど、演技下手なんだよなぁ」今度はロゼがぷっと吹き出した。
「ウェストさん、マーカスさんは勘違いしてるんですよ。神の御業に近いものを体現できる存在を、その昔、断罪された悪しき魔女だと勘違いしたようです。彼女は違います。彼女は聖女なのです」
「そうなのです」
「そんな・・・聖女だなんてデタラメだろ?いるわけないよ、そんなの。神様だって実際には存在しないんだ。聖女だっているわけない」
「真実はその目で確かめてください。彼女は真の聖女であり、あの炎も一瞬で」
「・・・ガナッシュさん、あんまり大袈裟に言い過ぎると後で嘘だとバレたときに大変なことになりますよ」
「嘘じゃないから」
「フリなんですよ!」
ロゼがガナッシュの身体を前後に揺さぶる。「わかった、わかったから暴れないで」よいしょっと、ガナッシュはロゼを背負いなおすと、目も口も大きく開けているウェストに向かって「マーカスさんにはちゃんと訂正しておきます。ウェストさんも、自分の目で見たもの、心で感じたものを信じてください。真実はそこにあります」そう告げると、ルノの背中を押して燃えているブルーノの家へ歩を進める。
「ロゼちゃん・・聖女ってなに?魔女とは違うの?」
「聖女様はね、苦しんでる人や困っている人たちを助けてくれる存在だよ」
「ロゼちゃんがそうなの?」
「フリなんだけどね。でもルノちゃんもなれるよ」
「えっ!?」
ルノは真ん丸な目を大きく見開いて立ち止まった。ロゼはフラミンゴから受け取ったカリの入っている袋をルノの前に差し出した。
「これはルノちゃんのもの。きっとなれる。ルノちゃんだって」
ルノはその袋を震える手で受け取り、潤んだ瞳でロゼを見上げていた。




