39.真っ暗な二つの未来
温泉卵の販売員だったお姉さんに教えられたのは観光地として栄えているところでなく、この島の住民たちが集まる小さな集落だった。港からぐるりと反対側に回り観光客を避けるかのようにある。人気のない道を歩いていると「こっちは地元の人間が住んでるところだ。観光客が近寄んな」と門前払いされた。
「温泉卵を売っているお姉さんに言われてきました」
「ミリアに?」
「名前はお伺いしてないですけど、聖女様に占ってもらったら?って紹介してもらったんです」
「はぁ、アイツが他所の人間を通すなんて珍しいこともあるもんだ」
「卵をたくさん買ったんですよ!!」
「それでか」
門番として集落の入り口に立つ男が納得したように手をポンと叩いた。はっはっはと大きく笑い「君も珍しいね。この島に来る人たちは温泉だけが目当てで、卵には目もくれないんだよ。飲料目的で源泉を盗もうとする奴らは、ごまんといるけどな」と集落の中に入れてくれた。
「突然すみません。まさか集落の方に通されるとは思わず」
「あー、いいんだ。表は観光客でいっぱいだろうし、裏は金持ちどもに占拠されちまって温泉に入ることなんかできねぇだろ」
「すごい賑わいですね」
「まぁなぁ。今まで見向きもされなかった島が、誰かが夢の島だなんて言い回ったせいでここまで荒らされちまった。しかも温泉を掘り当てた伝説の聖女が未だに島に身を隠してるっつー噂まで流れちまって、ほんと、人の噂ってのは恐ろしいもんだね」
ガナッシュと話すカロッチャ島の住民であろう男は苦い顔をした。「金持ちどもが島を荒らすことには何も言わなかった。俺たちも生命の源泉を独り占めするつもりもなかったからよ。けど、噂が噂を呼び、どんどん金持ちが集まり今度は観光客も集まり、地元住民たちは隅に追いやられちまった。それなのにアイツらは温泉に与るだけには飽き足らず、聖女を出せと金を積んできたり、脅してきたり、余所者のくせに何を偉そうに」苦い顔をしていた男は今度は眉間に皺を寄せ怒りを露わに出す。
「・・・・それなら、どうして俺たちを集落に案内するのですか?」
「んあ?・・・あぁ、珍しいからだよ」
「珍しい?」
「さっきも言っただろ?この島に来るやつは卵には目もくれないって。別に珍しくもないその辺で手に入るゆで卵だ。それを大量買いするような奇特な奴らをポラリスさんが好むんだ。“温めた卵から孵る雛は自分のところに連れてこい”って」
「ポラリスさん?」
「噂の聖女様だよ」
「本当にいるんですか!?」ロゼがガナッシュよりも一歩前に出た。「あぁ、いるよ。まぁ、聖女様だなんてのは周りが勝手につけた名前であって自称占い師だけどな」男がそう言ったところで集落の中心地に到着した。小さな木造民家が所狭しと密集している。「山側に歩いて行って、一軒だけこの集落から少し離れたところに家があるからそこだよ。じゃ」男は踵を返し立ち去っていく。門番の仕事に戻るのだろう。
ロゼたちは男に言われたとおり山側に向かって歩いた。集落には外で作業をしている者たち数名がチラチラとこちらを見てきたが特に何も言わない。何も言わず視線を山側に投げた。ロゼたちがポラリスに会いに行くことを察しているのだろう。
「自称占い師の聖女様かぁ~。どんなかな?白いベールで顔を覆ってて、額には宝玉のついたアクセサリー垂らしててさ~」
「占い師は水晶玉ですよ。水晶玉に未来を映すんです」
「二人とも夢見すぎじゃない?」
「ガナッシュ君って顔はロマンチストのくせに、言動は冷めまくってるよね」
「現実的だと言ってくれる?」
「俺、占いとか苦手なんだよなぁ。酒場にゃよく出没すんだよ。そんで悪いことしか言わねぇ」
「それはそうですよ。良いことって当たらないじゃないですか。けど悪いことは多少内容が違ってても当たってるように感じるもんです」
「・・・・ガナッシュ君、チョー冷めてるわ」
ビーグルがまたロゼの手を取り「占い真相追及部隊、出陣!!」と先を走った。ロゼは後ろを気にしながらもビーグルに手を引かれながらついていく。山の麓にある集落から少し離れた民家は他の民家よりも大きい。「頼も~!!」と乱暴にビーグルが扉をドンドンと叩いた。ガチャと開いた扉の向こうに人はいない。
「あれ?」
「下じゃ、下」
ビーグルが視線を下ろすと、推定八十歳オーバーの老婆がいた。十歳満たないくらいの子供並みに背が低く、顔はしわしわで、頭も白髪がすけすけで、身体も骨と皮しかないくらいのガリガリの化け物のような姿が目の前にある。
「誰、ばーさん」
「お前こそ誰じゃ」
「俺はポラリスっていう可愛い名前の聖女様を訪ねてきたんだけど」
「ワシがポラリスじゃ」
「夢を壊さないで!!!!」
「今までの流れってものをわかってよ!!可愛い系、美人系ときたら今度はミステリアス系じゃないの!?なにこれ!!化け物じゃん!!」キャンキャン騒ぐビーグルを強制的に黙らせるためにフラミンゴはビーグルの口に卵を突っ込んだ。
「卵・・・そうか、お前たち、ミリアの卵を買った奴らか」
「はい。ミリアさんから紹介されました」
「ほうほう、他所の客なんぞ久しぶりじゃわい。ほれほれ上がれ」
ポラリスが家の中を案内する。かなり年季の入った家は歩くだけで床が軋んだ。机も椅子もシミのようなものが多くある。「ポラリスおばあちゃん、ひとり?」リビングを抜けキッチンに立つポラリスにロゼが訊ねた。「まあな」その返答にお手伝いさんらしき人はいないと察したロゼは「私、やる。酒場で働いてるからお手伝いできるよ」とポラリスに並ぶ。
「なんじゃ、この可愛い孫娘みたいな子は」
「え?」
「若い娘はババアの世話なんぞ嫌がるもんじゃよ」
「私、おばあちゃん子だったからかな?」
ロゼは脚立に上がろうとするポラリスに代わり戸棚からグラスを取ろうとするが二つしかない。ポラリスを含めて五人いるので数が足りない。「おい、ロゼ。他人様の家を勝手に」フラミンゴが冷や汗をかきながらロゼを止める。「お前さんたち男どもは何もいらんじゃろ。お嬢ちゃん、レモネード好きか?入れてやろうな」ポラリスは一瞬でロゼを気に入ったのか孫を可愛がるようにあれこれ世話をしようとする。「フラミンゴさん、気にしなくてもいいようです」ガナッシュは小さく笑いながらフラミンゴに言った。
椅子も足りないポラリスの家。ポラリスとロゼだけが椅子に座りレモネードを飲んでいる。ガナッシュとフラミンゴは立ったまま。テーブルに腰掛けようとしたビーグルをフラミンゴが叩く。
「して?この島に何しに来たんじゃ?」
「この子に観光させてあげようと思ったんです。けど、人の賑わいがすごすぎて宿も取れず、温泉にも入れずで」
「じゃろうな。もうこの島はワシらのものではなくなったからの」
「・・・ブルジョワたちが占領しているそうですね」
「そのうち、いざこざを起こさんことを祈るばかりよ」
ポラリスがふぅと息をついた。ガナッシュも黙る。その沈黙を切り裂くように「ねぇ、ばーさん占いできんの?」不躾な言い方でビーグルが訊ねた。
「未来を予知できる聖女様なんでしょ?ねぇねぇ、俺の未来占ってよ」
「お前のその態度なんとかならんか?今、ポラリスさんの話を伺ってるところで」
「え?いる?ばーさんの話に付き合う必要ある?」
「お前、何様だと」
「これが普通じゃよ。ロゼとかいったか?ロゼはババアにも優しくできる気の利いたいいこじゃの~」
ポラリスがロゼの頭を撫でる。「ポラリスおばあちゃん、レモネードと卵は合わないね」さっき買った卵を頬張っているロゼがマイペースに言う。「ロゼちゃんも、ばーさんの話聞いてなくない?」ロゼは二つ目の卵を食べ終えた。
「ロゼに免じて、失礼極まりないお前を占ってやろう。ほれ、そこに立ってみろ」
ポラリスは椅子の上に立ちビーグルと向かい合う。「ちょいと屈め」ポラリスは目線を合わせたいようだった。
「未来といっても漠然としすぎるのぉ」
「なら恋愛運!俺とロゼちゃんの将来見てよ!」
「うわ、やだ」
「良い結果だったら結婚しようね、ロゼちゃん」
ロゼが苦虫を嚙み潰したような顔をする。「めちゃんこ嫌がるじゃん」ビーグルはポラリスに顔を向けたままロゼの顔を見てケラケラ笑った。ビーグルを睨むように見ているロゼの肩にポンとガナッシュが手を置く。「安心して、ロゼ。占いなんてのは良いこといわないんだ」
「相性は悪くないが、甲斐性なしを見抜かれてどうせ捨てられるのぉ」
「捨てっ!?いや、ロゼちゃんに限ってそんなことないでしょ!?」
「ギャンブルはやめたほうがいい。勝てはせん。あと短命の相が出とる」
「短命!?」
ビーグルの顔が引き攣った。「えっ!?なんでっ!?今まで病気知らずで健康にやってきたんだよ!?キングコブラに咬まれても生き残ったんだよ!?なんでなんで!?」ポラリスに掴みかかろうとするビーグルをフラミンゴが止める。そんなビーグルを指さしながら「ほらね」とガナッシュがロゼに言う。卵を沢山食べさせなきゃいけないのは誰よりもビーグルだったのかもしれない、とロゼはぼんやり思った。
「そうじゃ、お前さんもみてやろう」
「は?いや、俺は」
「遠慮しなさんな。で?何を見てほしい?」
「え・・・・じゃあ、金運を」
「そうじゃのぉ。・・・大金を手にするチャンスは多くある。が、それを掴むか掴まないかは自分次第じゃな。掴めば余計なものまで手に入れるじゃろう。掴まなければ金すらも手に入らん。お前さんは金回りはいいようじゃが、そこにしがみつくか手放すかで己の運勢は大分変わるじゃろう」
「はぁ・・・。似たようなことを昔も言われたような」
「それよりも顔色が悪い。肝臓のダメージが顔に出とる。今すぐ酒をやめろ」
「あぁーーっ!!でた!!いっつもこのパターンだよ!!」
急にフラミンゴが声を荒げる。「俺に酒をやめろっつーのは死刑宣告と同じようなものだぜ!そうやって脅されてばっかだけどなぁ、酒を抜いちまったら俺の中の俺が死んじまうんだ!それは生きてないことと一緒だろう!?」頭を抱えながら狼狽しているフラミンゴが少し滑稽に見えると言ったら怒られそう。
「男どもを見てもなーんも面白くないの。どれ、ロゼ。ロゼも何か見てほしいものがあるか?」
「見てほしいもの?」
「ケッコン!!ケッコン!!ばーさん、ロゼちゃん結婚しない気なんだよ!!ロゼちゃんが将来誰と結婚するのか見て!!」
「えっ!?やだ!!」
「何で嫌なのさ!!ガナッシュ君だったらどうするの!?」
「えええええっ!?」
ロゼは顔を真っ赤にしてガナッシュを見る。目が合うとパッと逸らした。「ビーグルさん!!変なこと言わないで!!ガナッシュさんはもう結婚してるの!!ばかばか!!」ロゼがビーグルの頭を平手でぺちぺち叩く。ビーグルはロゼに叩かれて嬉しそうだった。
「・・・・・・・・。」
「ばーさん、急に黙りこくっちゃったけど」
「えええっ!?ポラリスおばあちゃん!!どうしたの!?」
「・・・・・・・ロゼ、お前さん」
さっきまで人の反応を見て面白がっていたポラリスが急に真剣な表情になる。あまりの鋭い眼差しにロゼは肩に力が入り息が詰まる。ポラリスの言葉を息を止めながら待っていると「・・・・なんも見えん」ポツリとポラリスが零した。
「なにも、見えない?」
「あぁ、真っ暗で何も見えん」
「え、私の未来はお先真っ暗ってこと?」
真っ赤だったロゼの顔が今度は白くなる。口元に両手をやって大きく息を吸った。
「いや・・・・。何も見えない真っ暗な未来をもつ人物は八十年以上生きてきて二人目じゃ。未来が見えないという人は、その人にしか見えない未来があるということ。他人が計り知ることはできん」
ポラリスが頭を撫でた。「まだこんなに幼いのにのぉ。芯が強くあるんじゃな」しわしわでガリガリの手でずっと撫でる。ロゼは嫌がることなく少し頭を低くしてずっと撫でられていた。
「まぁ、ロゼは見えないがお前さんははっきり見えるぞ」
「え、」
ポラリスがガナッシュを指さした。「いや、俺は別に」両手を前に出したガナッシュは拒否の態度を示すがポラリスは黙らない。
「お前さんは破滅の道を進もうとしとる。踏み出した道の後ろがガラガラと崩れ落ちている。後戻りはできん。歩みを止めることなく進み続ければ違う道も見えてこよう。だが、少しでも立ち止まってしまえば奈落の底に落ち這い上がってくることはできん」
「・・・ガナッシュ君、誰よりも重たいこと言われてる」
「お前さんのはこの中で誰よりもはっきり見えるぞ。お前さん自身もそれを感じてるんじゃないか?」
「・・・そうですね。なんとなく」
「ワシから言えることは、足を止めるな、それだけじゃな。頭で考えた時点で終わる。悩めば悩むほど答えを見つけられずに苦しむだけじゃ。道は崩壊の一途を辿っておる。落ちんためには前に前に進むしかない」
「・・・はい。胸に刻みます」
ガナッシュの表情に影が落ちた。「大丈夫ですよ、ガナッシュさん!」ロゼが飛び跳ねるようにガナッシュの前に立った。「私なんてお先真っ暗なんですから!」堂々と言えるようなことではない。ガナッシュはさっきのポラリスのようにロゼの頭を撫でる。「大丈夫。占いなんて良いこといわないんだから」といいながらもガナッシュの表情に元気はなかった。
「まま、好き放題いってしもうたが気にするでない!ワシの家で温泉でも浸かっていけ!元気が出るぞ!」
「元気失くしたのばーさんのくせに」
「はいはいっ!ロゼ、ババアと一緒に入ろうな。孫と一緒に温泉に入れるなんて夢のようじゃ!」
「勝手に孫にされてる」
ポラリスに手を引かれてロゼは部屋の奥に連れていかれた。奥の扉を開けると石で囲ってできた湯壺がある。「うわあ、初めて見た!」湯壺から立ち上る白い湯気がくるくる踊っている。
「ロゼはまだ若いから健康とか気にならんだろうが、温泉は飲んでも浸かっても美人になれるんじゃぞ」
「すごーい!」
「好きな奴がおるんじゃろ?あの甘い顔したノッポか?いつの時代もやっぱ男は二枚目がいいよなぁ~」
「ちょちょちょ!ポラリスおばあちゃん!ダメダメ!ガナッシュさんはもう結婚してるの!変なこと言ってガナッシュさん困らせないで!」
「奪っちまいなよ」
「おばあちゃん!」
ロゼは軽くポラリスの肩を叩く。少し押しただけでも倒れてしまいそうなほど細い身体に似つかわしくないほど大きな声でポラリスは笑う。「恋する乙女を見るのはほんと癒されるのぉ~!可愛くって仕方がない!恋バナするか?ババアがアドバイスしてやろうか?」ロゼはまだ温泉に浸かってもいないのに顔を真っ赤にして首を左右に振った。
ポラリスに促されて湯壺に入る。お湯に浸かるのも、ぬるぬるした温泉の感触も全てが面白い。泳ぐには湯壺が狭すぎた。「いいなぁ、おばあちゃん。毎日温泉入れて。ブルジョワさんや観光客が集まるのもわかるなぁ」水を絞ったタオルを頭に乗せて深く息をついた。
「温泉のせいかのぉ。ワシは、ちょいと長生きしすぎたかもしれん」
「長生きつらい?」
「あぁ」
「楽しくないと長く生きててもつらいだけだよね」
「変わったことを言うの、ロゼ。若いのに」
「私のおばあちゃんに仕事を押し付けた魔女が言ってたんだって。やっと死ねる!って」
「・・・魔女?」
「うん。私のおばあちゃんは魔女に仕事を押し付けられた元絶世の美女だったんだって。ぷぷっ」
ロゼが手で口を覆う。「魔女なぁ・・・。ワシも魔女だったら少しは違っておったかもしれんのぉ」ポラリスは頭に乗せていたタオルを目元にずらした。
「ワシはな、ロゼ。実は、予知夢を見ることができるんじゃ」
「予知夢?」
「そう。占いは趣味でやってるだけ。長く生きとると人の形を見ただけで、どういった人物か、どういった人生経験を歩んできたのか、ある程度わかってくる。それを面白おかしく未来に投影させてるだけなんだが・・・それ以上に予知夢というのはやっかいでの。良いことも悪いことも変えることはできんのじゃ」
ポラリスが息をつくと身体が少し沈んだ。
「不妊に悩んでいた夫婦が子供を授かる夢、結婚相手を探している貴族が来島して島の娘に一目惚れする夢、行方不明になった子供を見つける夢とか様々な夢を見てきた。それと同時に事故に遭う、病気を患う、死期を悟る、とかな。そういう夢も見てきた」
「実際に現実に起こるの?その夢」
ポラリスは頷く。
「そのせいでワシはすっかり聖女様扱いじゃよ。温泉を掘り当てたのもその夢の一つ。・・・しんどいぞ、聖女なんていう肩書は。人の未来を預かっておる。こんなよぼよぼで死にかけのババアなんぞが」
「・・・そっか」
「先の未来など知らない方が幸せじゃ。その方が希望を持てるじゃろ?」
「うん」
「さっきワシが真っ暗で何も見えん未来を見たのは二人目って言うたの覚えとるか?その一人が、この島の山奥に住む魔女だったんじゃよ」
「この島にも魔女がいたの?」
「ああ、火山で出来ているこの島は山の噴出物で様々なものが採れる。それを扱って奇妙な薬をよく作っとったの。結果、死んだが」
「死んじゃったの」
「火山というのは温泉のような生命の水に代わるものもあれば、危険な物も多い。それにやられたんじゃろ。毒に中てられて変な顔になっとったが最期は笑っとった。本望だったんだろうな」
ポラリスが目の上に乗せていたタオルを取りロゼを見る。「ロゼの・・未来はどんなかの?ワシは夢でなく実際に見てみたいもんじゃ」嬉しそうに笑った。
「ポラリスおばあちゃんは自分の未来も見えるの?」
「んお?」
「夢に見たことある?」
笑顔だったポラリスの顔がどんどん光を失っていく。「あぁ、あるぞ」ポラリスは完全に目を伏せた。
「真っ黒じゃよ」
「真っ黒?」
「ここカロッチャ島が大噴火して、島にいる住民、観光客、ブルジョワたちが全員死ぬ。ワシも真っ黒の噴煙に包まれそのまま目を覚まさない・・・という夢、をな」
「え・・・・それは、いつ?」
「わからん。この夢は三十年以上前から見続けておる。何度も何度も。だが、噴煙に包まれようとも最後は必ず目が覚める。悪夢から目が覚める。だからワシは、こう思うようにした。これは、ただの“夢”にしかすぎないのだと」
ポラリスがロゼに近づき顔を隠すように頭を預けてきた。「予知夢なんかじゃない。・・・夢、なんじゃよ」




