29.大切な人のために
機関室で遊んだロゼはドレスから普段着に着替えた姿で蒸気機関車から下車する。名残惜しく眺めていると「ロゼ、行くぞ」フラミンゴに呼ばれた。ジンの引く荷台に乗せられ向かった先は、あちこちから蒸気が噴き出す機械だらけの街だった。道の真ん中には線路が引かれ当たり前のようにトロッコが行き交う。人も乗っていれば荷物も乗っている。
「あれ、私も乗れる?」
「今は無理だろ。あとで聞いてみるか」
安全のためか決してスピードは速くないけれど、人力でなく自動で動くものにはロマンがあった。それは蒸気機関車も同じ。ロゼは街のあらゆるものに目移りしながらゴトゴトとジンの引くリヤカーに揺られていた。
馬車は小高い丘を越えて展望台で止まった。そこから見下ろす景色は蒸気に包まれてよく見えない。雲の上に上ったようだった。「お疲れ様ですー!」更に高いところから白髪混じりの焦げ茶の髪を揺らしながら体格のよい大きな男性が小走りで近寄ってきた。動くとピチピチのスーツが破れてしまいそうである。その後ろにぞろぞろと同じようなスーツを着た男性が続いた。
「お久しぶりです。ゼイザック様、セレスティア様。そして・・・?」
「セバスチャンです。どうも初めまして」
「ああ!貴方様が!お目にかかれて光栄にございます!ルイズベート家に仕えております、テラと申します。この家のことはわたくしに何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます」
ボワイア国から来た兵士や侍従たちにも挨拶を済ませたテラはガナッシュを見ると「よく無事にお戻りくださいました、坊ちゃん」と嬉しそうに笑う。「人前で坊ちゃんはやめてくれ」対照的にガナッシュは嫌そうな顔をした。
「テラ、君はニヘイア家の人たちを頼む。他に俺のお客がいるから・・・ロウは?」
「え?いる、はずですが」
テラが後ろを振り返る。同じような格好をしている人たちが王族が乗る馬車を誘導している中で突っ立っている若い男性がいる。テラと呼ばれた男性と同じ焦げ茶色の髪をしている。その若い男は過ぎ行く人たちに笑顔でお辞儀をするだけで仕事という仕事はしていない。「ロウ!」ガナッシュが大きな声で呼ぶとロウと呼ばれた男性は、頬をぷくーっと膨らませズンズンと早足でガナッシュに近づいてくる。
「なんでこんなに早く帰って来たんですか!?予定と違うじゃないですか!!」
「それは俺も同じだ。文句は父さんに言ってくれ」
「言いましたよ!!僕の残りの休みどうしてくれるんですか!って!なのにあの人わっはっはって笑うだけで知らんがなって!知らんがなって言うんですよ!家来の貴重なロングバケーションを潰しておいて知らんがなって!」
「三年も休もうとするお前が悪い」
テラがロウの頭を殴る。「では坊ちゃん。私はこれで」テラはセレスティアたちを案内するためにその場を去った。「あの剛腕親父め・・・グーで殴りやがって」殴られた頭をさするロウと呼ばれた男性とロゼは目が合った。
「え?誰すか?その子」
「俺の客。変なこと吹き込むなよ」
「は?ディー君はボワイア国の王女様を嫁にもらうくせに、愛人まで用意してるの?いかがわしい」
「その考えがいかがわしい。・・・フラミンゴさん、このふざけた男はローウィンと言いまして一応俺の召使いです。全く使えませんが」
「いやいや、なんでも自分でやっちゃうディー君がいけないんだよ」
「気を遣う必要は全くありませんので、好きに使ってください。ロウ、この人たちは俺の恩人。だから失礼のないように。あっちの犬を除いて」
「あえて除かなくてよくない?」
ビーグルが口を尖らせる。ビーグルを見たローウィンは「オーケー、認識しました。君は僕と一緒でディー君の下僕ってことね」親指を立てグッと前に突き出す。「いや、全然違うし。ってか俺のご主人様ロゼちゃんだし」ビーグルは目の前にいたロゼに後ろから抱きついた。「ひぃい!!」悲鳴を上げるロゼに「なんでいつもそんな嫌そうにするかな。いい加減慣れてよ」しょんぼりした演技で顔を首筋に寄せる。
「ああいうのは鉄槌を下しておいて。ロゼのことは・・・あとで説明する」
「はいはーい。いっつも孤独なディー君が連れてきた大事なお客様、心配せずとも無下にはしませんよ。ご安心を」
「頼むな」
ガナッシュはローウィンの肩を叩くと「では、またあとで」とフラミンゴたちに頭を下げた。フラミンゴたちに代わりガナッシュに手を振ったローウィンは「あーあ、可哀相に。折角自由を手に入れたのに連れ戻されちゃって」溜め息混じりに呟いた。
「さて、皆さんをお連れしましょうかね。僕はローウィン。皆さんは?」
「えーっと、俺はフラミンゴ。こっちの女の子がロゼで、あの犬がビーグル」
「ビーグル?本当に犬なんだ」
「主人に仇なすものには噛みつくぞ!」
「主人って?この子?」
ローウィンがロゼを指さす。その指にビーグルは噛みつく素振りを見せた。「あ、ごめんごめん。さすがに指さすのは失礼だったね。いや、ちょっと意外でさ。あの無機質で何考えてるかわからなかった人が、まさかこんなにも不揃いな人たちと親しそうにするもんだから。恩人って言ってたけど、よほど世話になったみたいで」ローウィンは深々とお辞儀した。
「ありがとうございます」
「いや、俺たちゃ何も」
「あの人は不器用で他人を頼ることを知らない。けど、初めて僕を頼った。驚きです。二十年近く一緒にいたのに、ほんの一年足らずでここまでディオがあなたたちに気を許すなんて、少し悔しいですね」
「それはきっと立場が違うからでしょうよ。アイツも俺たちも。だから気兼ねなくいられただけですよ」
「だからこそ悔しいんですよ。主従の関係にあっても信用してくれなかったんですから」
ローウィンは頭を搔くと、ふっと強く息を吐き出した。「さ、行きましょう。ボワイア国とは比べものにならない小さな迎賓館ですが、ゆっくりおくつろぎください」先を歩くローウィンの後ろをロゼたちはついていった。
ローウィンの言葉通り、ボワイア国よりも小さい迎賓館は床も壁も綺麗に磨かれた大理石で出来ているのに装飾などは一切なく、ロココ様式で飾られたニヘイア家の城をゴテゴテしているというならば、ここルイズベート家はつるんとしている。「飾り立てるのが嫌いなんですよ」と説明するローウィンに、何となくガナッシュらしいなと思った。別にガナッシュが造ったわけでもないだろうけど、そう思った。
客室に通されて「どうぞ」と促されたソファにフラミンゴとビーグルが腰を下ろす。「どうぞ?」座らないロゼに小首を傾げながらローウィンが再度声をかけた。
「ローウィンさんは座らないのですか?」
「僕は召使いなので」
ロゼは頭上に?を浮かべ、ソファの数を確認した。一人掛けのソファが二つ。二人から三人が掛けられそうな長いソファが一つ。「ビーグルさん、そっちに座ったらローウィンさんが座れませんよ」長いソファに座ったロゼが自分の隣をポンポン叩く。「うわ!隣に誘われちゃった!」嬉しそうに隣のソファに飛び移ったビーグルの間にロゼはわざと行商箪笥を置く。「うわ、あからさま!」あからさまに距離を取られながらもビーグルは嬉しそうだった。
「えーと、ロゼさん?僕は座らなくていいんですよ?」
「でも」
「ロゼ、彼は仕事中なんだ。邪魔しちゃいけない」
「本当はサボりたいんですけどねー。僕も船に乗ってあちこち遠出したかったのに急に呼び戻されちゃうんですから」
溜め息を零しながらローウィンは部屋の外に顔を出し「お茶、持ってきて」外にいる別の侍従に指示を出すと、すぐ部屋の中に顔を戻す。
「あの、こんなことを訊いていいのかわかりませんが、この結婚って急に決まったもので?」
「はい、そうですよ。・・・まぁ、いずれそうなるだろうとは思ってましたけど早急でしたね。相当ボワイア国はファルガ大公の外交力の高さに恐れをなしているようです」
「恐れるだなんて・・・なぜです?同盟国ですよね?」
「だからですよ。この同盟に他国は必要ない。ネラルク大公国を支援するのは自分たちだけでいいのだと思っているのではないですか?上の考えなんて僕のあずかり知らぬところですけど」
ローウィンは急に仮面を被った。感情のない張り付いた笑顔でフラミンゴを見る。フラミンゴはその続きを聞くこともできず黙るしかなかった。
「結婚って好き同士でするものじゃないんですか?」
「ロゼさんは恋愛結婚をお望みなのですか?」
「え?みんなそうなんじゃないんですか?」
「結婚の形は色々ですよ。好き同士で結婚できるのが一番かもしれませんが、貴族は家柄の関係で生まれたときから結婚相手が決まっているところも多いですし、そうでなくても親の一存にかかってますからね。見ているのは相手の人間性よりも親祖先だったり、階級だったり計算も多いものです。お互いに惹かれあって、想いが通じて、何の障害もなく結ばれて、末永くお幸せに、なんてものは空想上の物語であって、だから人はそれに憧れるのだと思うんですよね」
丁度ローウィンが話し終えたところでノックが鳴る。扉を開けてワゴンを受け取ったローウィンが紅茶を注ぎ始めた。甘い香りが部屋中に広がって一気に身体が緩む。「どうぞ」と出されたティーカップの中にオレンジが花のように浮かんでいて、香りだけでもう美味しいのに口に含むと程よい甘さにホッと一息つく。
「おいしい」
「それはよかった」
ローウィンはフラミンゴとビーグルにもティーカップを差し出すと「男性のお口には合わないかもしれませんが」と頭を低くする。「いえいえ、ありがたく頂戴します」とフラミンゴはティーカップを持ち上げ口につける。礼儀を知らないビーグルはティーカップに鼻をつけクンクン匂いを嗅いでいた。離れて座っているフラミンゴはビーグルを注意することもできず睨むだけ。その視線をビーグルは無視している。
「ところでそちらはディオとはどういったご関係で?」
「マーケットでうろついてた俺にアイツが弟子になりたいと言ってきたんで、そのまま一緒に行商をしてたんですよ」
「行商・・・。あなたは商人ですか」
「まぁ、そうですな」
「で?そちらのお嬢さんは?」
「この子は俺の行きつけの店で働いてる子だ。ちょっと特殊な技法を持っていて珍しい薬を作ることができる。それがたまたまボワイア国のセバスチャン殿下の元に行き渡って、それで」
「うえっ!?あのセバスチャン様の病を治したのって君なの!?」
飛び跳ねて大きく仰け反ったローウィンにロゼは返事をしない。「ロゼちゃんはすごいんだよ~。毒を無効化する薬も作れちゃうし、痛みを一瞬で消す薬も持ってるんだから!」なぜかビーグルが誇らしげに顎を上げる。ローウィンは口を開けて固まってしまった。
「おい、ビーグルよ。あんまりロゼのことを言いふらすな」
「え?なんで?」
「下手に目立つと危ない。理由は別だがマフィアの目にも留まった以上、ロゼの能力を利用しようとする輩が現れる可能性がある。ロゼはこのままでいいんだよ」
「えー?でも悔しくない?俺さー、なーんであの王女様が聖女様って言われてるのかわっかんないんだよねー。聖女様ってもてはやされてるわりに自分の弟救えてないし、助けを求めた人たちのこともまるで無視してたじゃん。王族だからとか美しいからとか見せかけばーっか」
「見せかけでもそうでなくても、聖女様がいるって思えるだけで幸せになれるもんだ。その象徴をセレスティア様がしているのであれば彼女の存在は誰かを幸せにしてるんだよ」
「またでたよ、おっさんの綺麗事」
ビーグルは足を投げ出し両手を頭の後ろに組んだ。「おい」ローウィンの前でだらしない格好をするビーグルにフラミンゴは厳しい声を上げ睨みつけたが、ビーグルはフラミンゴを見ようとしない。
「・・・・・いや、聞いていましたよ?ディオを治した奇跡の薬が見つかったってね。それでセバスチャン様も治ったってね。でも、それを、こんな、子供が・・・って言ったら失礼かもしれないけど。ええぇ~?」
頭を抱えるローウィンに「別に私じゃないです。たまたまなんです」ロゼは首を横に振った。「いつまでそう言い続けるの?」ビーグルが視線だけをロゼにやる。「だって本当のことですから」ブレないロゼの姿勢に「ロゼちゃんもなかなか頑固だね~」頭の後ろで組んでいた手を外しビーグルがロゼの頭を撫でた。ロゼは無言のまま身体ごと頭を離そうとすると「逃げたら追うよ?」ニシシと口角を最大限まで上げて笑うビーグルに恐怖を覚え、ロゼは大人しく頭を撫でさせた。
「ははあ~、ディオが君を連れてきたのはそういうことね。何でニヘイア家が何も言わないのか不思議に思っていたけど、そういうことか。ふ~ん」
ローウィンは顎に手をやり物色するようにじろじろとロゼを舐めるように見る。「にしても若いなあー。セレスティア様の対抗馬になるのはちょっと・・・。」ぐぐぐっと首を横に折るローウィンを真似るようにロゼも同じように首を倒し「対抗馬?」と訊ねる。
「セレスティア様とディオを取り合うんじゃないの?」
「なんのことですか?」
「え?王女VS聖女じゃないの?」
「なんの話ですか?」
「んん?そのつもりでついてきたんじゃないの?」
九十度横に首を折り曲げるローウィンと同じように首を折り曲げたロゼはそのまま身体が倒れていきソファにボスンと横になる。「いやいや、子供か」頭の重さに抵抗できない子供のように転がったロゼを喉の奥で笑いながらビーグルがロゼを起こした。
「そんなつもりは・・・ないと思いますがねぇ」
「ディオですか?でも」
「アイツは自分の都合にロゼを巻き込もうとはしないでしょうよ。どちらかというと、そういったものからはロゼを遠ざけたがるはずなんですよね。ロゼに関しては潔癖ですから、アイツは」
「はぁ・・・。確かに自分でなんでもやっちゃう彼は人を頼ったり巻き込んだりしないでしょうけど、ディオ自身この結婚には相当業を煮やしてると思うんですよね。やっと手に入れた自由。約束された三年。それらを反故にされて強制的に結婚。元々大公殿下とは相容れない部分がありましたから、それに太刀打ちするための聖女のカードかと」
「聖女というカードはそんなにも魅力的で?」
「そりゃそうですよ。世界中の人がその存在を願ってはやまない」
「それをどう使う気なのかは知りませんが使いたければ使えばいい。それがアイツの数少ない我儘なら、俺はそれをきいてあげたいんでね」
「え?」
「アイツは自分のことをあまり喋らない奴ですから何を考えているのかはさっぱりわかりません。けど、やりたいことがあれば好きにさせる。それが自立しようとする弟子を見守る師匠ってもんでしょうよ」
「ま、それが言えるのはアイツがロゼのことを悪いようにはしないという信頼があってこそですがな」カッカッカと大きく笑うフラミンゴ。「うわ~おっさんカッコイイ~。けど俺たちまで巻き込むのは違わな~い?ね?ロゼちゃん」ビーグルがにっこり笑顔でロゼを見る。「ビーグルさんだってガナッシュさんにお世話になったんですから、困ってるガナッシュさんのこと助けなきゃダメですよ」人差し指を立てたロゼは、まるで犬を躾けるかのように指を振る。
「ローウィンさん」
「はい」
「私たちみんなガナッシュさんのことが大好きなんですよ。だからガナッシュさんの為ならなんでもしたいんです。一緒にいた期間は短いかもしれませんけど楽しい思い出たくさんあります。だからボワイア国でお別れかなって思ったのがガナッシュさんの母国であるネラルク大公国まで来られて私とっても嬉しいんです。また思い出を重ねられる」
「ロゼさん・・・。」
「ガナッシュさんはいつも自分のことは後回しで私やフラミンゴさんのことばかりでしたから、だから今度はその恩返しを私たちにもさせてください」
「お願いします」とロゼは身体を折り曲げ頭を下げる。ローウィンは困惑した顔で「え、なにを、お願いされてるのか。・・・っていうかガナッシュって、え?もしかしてディオ?」ロゼを見てフラミンゴを見てビーグルを見てと目が泳ぐ。
「ガナッシュさんは、甘くて美味しいチョコレートのような、食べた人を幸せにするに相応しい名前ですよ!覚えてください!」
「はあ?あの無表情で無感情で生きてるのか死んでるのかわからない操り人形みたいな奴がチョコレートのように甘い男だと?顔だけでしょ」
「違いますよ!ガナッシュさんはー」
「ロゼ、それ以上言うのはやめろ。ガナッシュの沽券にかかわるかもしれない」
「フラミンゴさんまで!」
「えー?どうして?ガナッシュって名前、変なの?私好きなのに」口を尖らせるロゼに「そりゃあ、チョコレート好きの女子ならねぇ」眉は困ったように下がっているのに口角は上がって笑っているという何とも言えない変な顔でいるローウィンが言う。
「あの仏頂面、大人しくガナッシュって呼ばれてるんだ。今度僕も呼んでみようかな」
「やめてもらえますか。俺が大公殿下に殺されるかもしれない」
のろまを意味するガナッシュの名付け親であるフラミンゴの顔がどんどん蒼褪めていく。そんなの気にも留めないロゼは「美味しいチョコレートなのに」と変わらず口を尖らせている。そんなロゼを見てローウィンが「う~ん」と唸る。
「これが・・・聖女?」
「これがロゼちゃんの良さだよ。世間知らずで、体裁とかもよくわかってないし、計算とかも全くなくて、どんどん自分のペースに巻き込んでく。気が付けば周りは呑み込まれてるんだ。聖女がつくりだす空間にね」
ばっちりウインクを決めたビーグルに誰も反応しない。三人とも口を半開きにし、珍獣と対面したかのように目を細くする。「ちょっと、恥かかせないでよ!さすがに最後の台詞はクサかったけどさぁ!」既に短くなっている前髪で目は隠せないのにビーグルは前髪をガシガシ搔いて目を隠そうとする。
「うん、まぁ、信じがたいけど事実セバスチャン様は生きてるし、ディオも人が変わったように僕を初めて頼った。聖女だなんてくっだらねぇ夢物語だと思ってたけど、あの不気味な無機質人形に生気を吹き込み、悲運の王子の命を救ったという現実を見るに聖女は存在したわけだ」
ローウィンはその場に片膝をついて深く頭を下げる。「え?ローウィンさん?」驚いてロゼがソファから腰を浮かせると「お願いするのはこちらの方だ。どうか、ディオの力になってください」顔を上げることなく大きくはっきりした声でローウィンが言う。
「あの人は心を失った人形でした。そんな彼が息を吹き返した。それは・・・この先この国が浮かぶか沈むか、その重要なカギとなることを意味する」
「ちょ、ローウィンさん!顔上げてくださいよ!」
「あの人は本当に何を考えているのかわからない。わからないけど、きっと本当に欲しいものを手に入れようとしてるんだと思います。僕はあのわけわからん人の付き人なので、この先あの人が浮かぼうが沈もうが最後まで付き合います。なので、もしできるのならば、あの人の行く末を見届けてください」
更に深く頭を下げるローウィンの傍に駆け寄ったロゼはローウィンの肩をポンポンと叩く。ゆっくり顔を上げたローウィンに「当然のことをお願いする必要はないんですよ。だって私たちは友達ですから」と笑いかける。
「ロゼ、そういうときは仲間っていうんだ」
「仲間?」
「そう、一緒に酒飲めば友達、一緒に旅すりゃ仲間。仲間ってのは広く言えば家族みたいなもんだ」
「じゃあ俺も家族?」
細い目を最大に開けているビーグルの目はらんらんとしていて、あざといポーズで頬に人差し指を当てている。
「・・・前言撤回」
「しないで!」
ロゼの後ろで暴れ出したビーグルに応戦するフラミンゴ。「あ、またじゃれあってる」もう見慣れた光景に驚きもしないロゼはローウィンに向き直り「友達じゃなくて仲間でした」と訂正する。
「・・・・ははっ」
「ん?」
「いや、もう、手に入れてたのかもしれないと思って」
「はい?」
「いいえ、きっと君は知らなくていいんだと思います」
片膝をついていたローウィンが立ち上がる。同じように屈んでいたロゼに手を差し出して引っ張り上げる。「こんなに小さい子なのにね。持ってるパワーがすごいんだろうな」よしよしと頭を撫でてくるローウィンに子ども扱いされているのは明白だった。その背後でさっきまでフラミンゴとじゃれあっていたビーグルがロゼをローウィンから引き剝がした。「俺はね、ガナッシュ君以外にロゼちゃん譲る気ないの。気安く触らないでくださ~い」べーっと舌を出したビーグルに「お前もな」とフラミンゴが背後から拳骨を食らわした。




