17.新たな仲間
あれからBは高熱を出し数日うなされていた。九官鳥のようにうるさい男が喋る気力もなくすほど苦しんでいたのでロゼが看病にあたる。すると急に甘えだす。どこまでが本当でどこからが嘘なのかがわからなかったフラミンゴとガナッシュはBからロゼを引き離し、すぐさま再度医者を呼んだ。「高熱がこれだけ続くとは、感染症かなにかじゃないかね」医者が口髭を揺らして言う。ロゼは事実を話していいのかわからず目を泳がす。けれど、あの男が黙ってるわけがなかった。
「コブラに咬まれたんだってば~。キングコブラだよ?めちゃめちゃ怖かった」
「この地方にキングコブラは生息しない」
「密輸してる人がいるんだよ~、世の中にはおっかない人がいるんだよ~」
「仮に毒蛇に咬まれたとして、どうして君は無事なんだ。確かに手には蛇の歯型のようなものがあるが、ガラガラヘビにしては症状が違うし」
「だからコブラなんだって~」
「脳みそやられたか?」
医者がBを指さしフラミンゴを見上げる。「これが通常運転だ。相手にすると疲れるぞ」やれやれといった様子で両手を腰に当てたフラミンゴが首を振った。
「まぁ、なんの蛇に咬まれたか知らないが、今の様子を見る限り安静にしていれば良くなるだろう。さて、手は動くかい?」
「動くよ」
Bは両手を天井に上げて指をバラバラとピアノの鍵盤を叩くように動かす。「足は?」同じように天井に伸ばし自転車のペダルを漕ぐように動かした。「熱だけか。なら十分に水分をとって休んでいなさい。豆のスープなど食べるといいよ。タンパク質は身体をつくるからね」と言うと医者はBの肩をポンポンと叩いた。
「ねぇ、先生」
「なんだい?」
「先生は俺が毒蛇に咬まれたって信じられない?」
「コブラの話は信じられない」
「だよね」
「どちらにせよ君は無事だったんだ。奇跡に近い。折角取り留めた命を無駄にせず日々の生活に感謝して、その生を全うしなさい」
「面倒くさい説教飛んできた」
「君も教会に通ったらどうだ?信仰はいいもんだぞ。つらいときの支えになる。医者ってのは孤独なもんでな、少しでも奇跡を手繰り寄せるために教会に通ったり、手術の前には祈願もする。神様、聖女様、力をお貸しくださいってな」
「聖女様はいるもんね」
「目に見えなくてもな」
「さて、そろそろ次の診療があるので失礼するよ」医者は椅子から立ち上がると脱いでいたジャケットを羽織りボストンバッグに手をかけた。フラミンゴが財布から診察代を出そうとすると「金じゃないだろ、お前は。また薬を頼むよ。お前が仕入れる薬は効くから助かってんだ」とフラミンゴの手を止める。
「今、野暮用済ませてんだ。少し先になるがそのときに持っていくな」
「はいはい、珍しく大所帯でいるから何かしてんだろうとはお察しするが危険なことはするなよ」
医者は右手をひらひらと振り部屋を出て行った。「ロゼ、アイツも俺の客だ」人のいなくなった扉に向かってフラミンゴが親指を突き立てる。「あの方にロゼの薬を売っているのですか?」ガナッシュの問いにフラミンゴが頷く。
「薬ってのは高値で売買されるから一般の人たちは手が出せん。病院は勿論、その辺のやぶ医者も高い診療報酬要求しやがる。だがアイツは利益よりも薬や病気の研究に余念がない変人だからな。患者を救うために日夜勉強してて利益なんぞ度外視だ。そういう奴だからこそロゼの薬を売れる。必要としている人に必要なものが届かなければ意味ないだろ。まぁ、貧乏性の奴から金は取れんから割安で売ってて俺も利益ねぇけどな」
ぼやきながらも誇らしげに言うフラミンゴにガナッシュは嬉しそうに笑った。
「んじゃ、Bの野郎も元気になったことだし・・・テールズ、ちょいと付き合えや。さすがに酒が切れてきた」
「ちょっとお!!おっさん!!高熱に苦しむ俺を置いて酒飲みに行く気ぃぃ!?信じらんない!!」
上半身を起こして大声を出すBを完全に無視しているフラミンゴは鞄すら持たず、いつもの帽子を被って扉へ歩き出す。そしてその後ろをついていくテールズ。「テールズ!!本気!?」自称友達のテールズにすら置いていかれそうになってBは声を荒げた。「十分元気じゃん。俺も美味い飯食いたいからフラミンゴさんに奢られてくる」右手を敬礼するように頭の上に翳したテールズは嬉しそうに小走りでフラミンゴの後を追う。「薄情者~~!!!」膝を立てて顔を埋めるBの虚しい叫び声が部屋に響いた。
「ロゼ、俺たちも行こう」
「そりゃないよ!!ガナッシュ君!!俺はガナッシュ君のために頑張ったところもあるのに!!」
「うん。ありがとう。あとで謝礼金渡すよ」
「すぐ金で解決しようとしないで!!」
Bはベッドから半身乗り出してロゼの左腕を掴む。「行かないで!!本当に行かないで!!」熱を持って熱くなっているBの力強い手がロゼの腕を掴んで離さない。ロゼはBとガナッシュを交互に見ると「わかったから、行かないから、離して」強制的にガナッシュがBの手を離した。
「病人に冷たすぎるよ・・・」
「元気そうにしてるからさ」
「そりゃ大分楽にはなってきたけど・・・なんか調子悪いときって寂しくならない?俺、下手したら死んでたかもって思うと身体が震えて目を閉じるの怖くなるんだ。だから、今は、一人になりたくなくて」
Bが背中を丸め俯く。ふう、と溜め息をついたガナッシュは、さっきまで医者が座っていた椅子にロゼを座らせ自分はベッドサイドに腰掛けた。「一応、君にも感謝してる。だから今日くらいは付き合うよ」ガナッシュの言葉にBは口を歪める。「言葉は全然優しくないんだよね。ガナッシュ君って」そして身体を後ろに倒しBはベッドに仰向けになった。
「そもそも、あの無茶な作戦は誰が発案したの?」
「無茶?」
「君とロゼが二人で・・・厳密に言えばロゼが単身でアジトに乗り込んできたのはどうして?そんなのフラミンゴさんが許すはずないと思うけど」
ガナッシュはロゼを見ることなくBに厳しい顔で訊ねる。「ロゼちゃんだよ。ロゼちゃんの作戦に乗った。もちろんおっさんは反対したけど、ボスと交渉するには金には代えられない価値の高いものしかなかった。それが、ロゼちゃんの言う毒を無効化する薬ってわけ」Bは枕を折り曲げて頭の位置を高くするとガナッシュに顔を向ける。
「交渉の場に立つのはおっさんがいいと思ってた。元々商人だし、駆け引きには慣れてるだろうから。でも、その経験が却って邪魔になる。交渉の術を知ってて頭の回るおっさんでは最悪ボスにいいようにされるリスクがあった。お互い手の内がわかるというか、考えていることが読めるというか。そうなるとおっさんは不利でしかない。ボスは理不尽だからね。だからゴリ押ししかできないロゼちゃんがボスとの交渉に立つ方がこちら側が優位に立てるかもしれないってことになった。押され続ければ引くしかない。駆け引きできるボスは引くはずだと」
「・・・・・無理がすぎる」
「もちろん打開策も考えた。一時間経っても俺たちが戻ってこなかった場合、強硬手段に出ると」
「酒場を燃やすってやつ?」
「そう。そうなった場合、ボスたちが俺たちを連れて逃げるわけないでしょ?自分の命が危ういのに。ブラッドさんが犯人を始末しに飛び出しそうなのが心配だったけど、爆竹をいたるところに設置しておけばあの銃声のような音でブラッドさんを混乱させることができるんじゃないかって。その間に俺がロゼちゃんとガナッシュ君を連れて逃げる作戦ってのがプランB」
「・・・・・・・。」
ガナッシュは手で顔を押さえ俯き黙る。「はぁー・・・・」と長い溜め息をついた。「そんなやり方ではいくつ命があっても足りないよ。・・・本当に無事でよかった」顔が膝に付きそうなほどガナッシュは背中を丸める。そんなガナッシュの姿を見て「・・・・迷惑でしたか?」弱弱しくロゼが訊ねた。その声に反応してガナッシュは顔を上げる。「いや・・・そうではないんだけど」とガナッシュは口をもごもごさせながら丸めていた背中を伸ばした。
「まさか助けにくるなんて思いもしなくて・・・。ランサーは俺に食いつくっていう確信があったから、自分のことはどうにでもできるだろうと思ってて」
「できそうだったの?」
Bが訊ねる。ガナッシュは少し間を置き、小さく首を横に振った。
「我慢比べをするつもりだった。圧倒的に俺が不利だったけど、そんなの俺が折れなければいいだけだから」
「無茶があるのはそっちの方じゃん。ボスに持久戦は悪手だよ。あの手この手で苦しめてくるんだから」
「ほーらね、結果的にロゼちゃんが大正解!かなりリスキーだったけど、成功すれば絶対にガナッシュ君を助けられる確信があったんだから。ね!」Bがロゼを見てにっこり笑う。ロゼはちらっとBを見て、すぐさまガナッシュに視線をやった。Bの言う通り結果的に見れば成功だったのかもしれないけれど、全然ガナッシュが嬉しそうにしていない。本当はガナッシュが用意していたシナリオがあって、それを台無しにしてしまったんじゃないかと不安である。視線を落として自分の足元を見た。すると「ロゼ、おいで」ガナッシュが呼ぶ。顔を上げるとガナッシュが手招きをしていた。ロゼは椅子から立ち上がり、おずおずと小さな歩幅でガナッシュに近寄ると、腕を引かれ、そのままガナッシュの膝の間に座らされた。
「え!?ガナッシュさん!?」
「ちょっと!!目の前でイチャイチャしないでよ!!」
覆いかぶさるようにロゼを後ろから抱きしめるガナッシュは頭をロゼの肩に乗せ「ずっと、しんどかった・・・。俺、今回、ロゼのこと全然守れなかった。怖い思いさせて、顔にも傷つくらせて、一人で戦わせて・・・。本当にごめん。ごめん、ロゼ」掠れた声が胸を締め付ける。
「謝ってほしくないです。・・・・だってガナッシュさん悪くないから。ガナッシュさんが責任を感じるのは違います。これは・・・その、Bさんが悪いんですよ」
「そうです、はい、そーです!ごめんね、ガナッシュ君、ロゼちゃん。そしてありがとう。だから、俺の目の前でイチャイチャするのやめて。早くやめて。俺、また熱が出そう」
「テールズさんの件がなければ絶対に関わらなかった。絶対に」
「わかってる、わかってるよ~。本当に俺、運が良かったんだってわかってる。だから、離れてってば」
ガナッシュは顔を上げたがロゼから離れようとはしない。抱きしめていた手を緩めロゼの手の上に添えると手遊びをするように指を絡ませた。「・・・性格わる~ぅ。仲良しアピール、最悪~」諦めたようにBは寝そべったまま顔をガナッシュでなく天井に向けた。「離すわけにはいかないよ。ロゼ、不安そうにしてるし。あれだけ怖い思いしたんだから寄り添ってあげないと」ガナッシュが背後からロゼの顔を覗き込もうとすると耳が真っ赤になっているロゼが目に映る。「・・・・ロゼさん、息してますか?」頬が触れるほど顔が近づくとロゼは肩を上げて息を止めた。「・・・・・・うん、でも」背中に小さな振動を感じガナッシュが小さく笑ったのが伝わる。「今日は、離してやらない」離れてくれなかった。
「ところで、あの話、どこまで本当なの?」
「なにが?」
「ガナッシュ君がネラルク大公国の大公令息ってのは本当なんだってわかったけど、あの有名な聖女様の話だよ。ロゼちゃんって本当にあの有名な聖女様なの?」
ガナッシュは何も言わなかった。握っているロゼの手の指をこするだけ。
「俺は今でも自分が信じられない。ブラッドさんが出した蛇の姿見たでしょ。あれはコブラの特徴まんまだったよ。詳しい種類まではさすがにわかんないけど、猛毒をもった蛇ってことには変わりない。その蛇に俺は咬まれた。牙の痕も残ってる。ってことはさ、ロゼちゃんは本当に毒を無効化させたってことだよね?それってやっぱ聖女様じゃなきゃできないことじゃないの?」
「さすがに俺も驚いた。絶対に無理だと思ったから。その場で誤魔化すことができたとしても、後々君は事切れるんだろうと」
「酷いな。いや、わかるけど」
ロゼは顔も耳も首まで真っ赤にしながら俯いている。ガナッシュに握られている手を見つめていた。「ロゼ、あれもおばあさんから習った薬?」ロゼに返事はない。「ロゼ?ロゼさん?聞いてますか?」ガナッシュがロゼの顔を覗き込もうとすると「うひゃあ!」と変な声を上げて身体を縮こませた。
「ご、ごめんなさい!聞いてませんでした!」
「疲れてる?大丈夫?」
「だ、大丈夫です!なんですか!?」
「ランサーに取引を持ち掛けたあの薬、すごいよねって話。致死率100%をひっくり返したから」
「あ・・・、あれ!本当に貴重な薬なんですよ!作るの大変なんです!だってコブラの毒は手に入りにくいから!」
顔を真っ赤にしたままロゼはガナッシュに振り返る。いつもなら照れて呼吸すら忘れてじっと縮こまっているのに少し興奮しているロゼを見てガナッシュは驚いた顔をした。
「毒?今、ロゼちゃん毒って言った?」
「猛毒を持つ蛇の採毒はとっても危険なんです!だからお店に来るハンターの人にお願いして色んな種類の毒を集めてたんですけどコブラは本当に集まらなくて。他の蛇とかなら自分でもできるんですけどね」
「え、あの、ちょ、ロゼちゃん、さっきから不吉なこと言ってるんだけど。・・・君が使ったあの薬は何でできてるの?」
ベッドに横になっていたBが身体を起こす。若干声が震えている。
「あれは血清です」
「・・・・血清・・・とは?」
「毒で作ったお薬です」
Bは顎が外れたように大きく口を開けるとそのまま動かなくなった。「・・・・毒で作った薬・・・って?」今度はガナッシュが恐る恐る訊ねる。ロゼは目を丸くして「え?聞きたいですか?」冷や汗を垂らしているBやガナッシュとは違って澄ました顔をしている。
「集めた蛇の毒を少量生きたお馬さんの身体に入れるんです。しばらくしてそのお馬さんから採取した血を分離させます。そこで出来たのが抗毒血清で蛇の毒を中和させる薬になるんですよ」
「馬・・・・の、血?」
「毒を以て毒を制すって言われてるらしいですよ。だからか昔から毒を扱ってる私はあんまり毒が効かないみたいです。不思議ですよね」
「・・・・・・・魔女だ。聖女の皮を被った魔女だ」
Bは顔を蒼褪めさせそのまま倒れるようにベッドに横になる。「え、あれ、魔女?・・・と聖女って同じ?・・・いや、違うよね。だって、魔女って怖い・・・あれ?」完全に混乱しているBは譫言を漏らしている。
「あ、やっぱり言わなかった方がよかったですかね?」
「うー・・・・・ん」
眉も目も寄せて首を捻ったガナッシュは暫く唸り続けたが「うん。秘密にしとこう」うんうん、と何度も頷いた。ロゼは顔を引き攣らせているガナッシュと、現実逃避して天井を見つめ続けているBを交互に見て、薬の原料の話はしないでおこうと思った。
**
それから三日ほどするとBの体調も回復し、フラミンゴたちはようやく目的地であるボワイア国へ向かうために宿を後にした。見送るといってテールズとBが街道の入り口まで一緒についてくる。人の邪魔にならないようにジンを道の脇に待機させると「んじゃ、テールズ。約束通り家に帰れよ」フラミンゴがテールズに振り返った。
「そうします。俺には商才ないってわかったし」
「素直すぎんのかもな。ま、それがお前のいいとこだろうよ」
「そうだといいんですけど。中途半端なことして親父に怒られそう」
ははは、と乾いた笑い声を出してテールズは頬をぽりぽり搔いた。「怒られねぇよ。新しい夢が出来たんだろ?きっと喜ぶさ」フラミンゴがテールズの肩を叩くとテールズの隣にいたBが「え?新しい夢?」その場で小さく跳ねるとテールズの顔を覗き込んだ。
「恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど」
「いいじゃん!教えてよ!」
「ああ~・・・・、その、ビール造ろうと思って」
「ビール?え?なんでビール?マズいじゃん」
「そのマズいビールを美味いビールに変えたいんだよ」
テールズはロゼを見て「ウチはずっと魔女の恩恵を受けてきた。魔女は人知れず多くの人たちを救ってきたんだって今回の件で確信した。ロゼ、俺がいない間、親父たちのことをありがとう。さすがに俺がロゼみたいにすげぇもん作れるわけないから、せめて店に貢献できるようなとびきり美味い酒を造って人を楽しませたい。それが俺の新しい夢」頬を赤らめたテールズが顔は恥ずかしそうに、けれど声は堂々と力強く言った。
「お酒造るんですか?この間、保安官さんがお酒を造るのは許可がいるって言ってましたよ」
「知ってるよ。だから一度帰省したら修行に出る。まずは醸造家の許可を貰わないと」
「販売の申請は俺に任せな。公爵家の承認は貰えるはずだから」
「ありがとう、フラミンゴさん」
「あの、作業場にある私の道具も好きに使ってください。色々ありますから」
「ありがとう、ロゼ」
「これじゃあ今度こそ失敗できないな。立派なブルワーにならないと」スッと背筋を伸ばすテールズ。それを見てフラミンゴは「お前の造る酒、楽しみにしてるからな」嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また会おうぜ。それまで元気でな」
「そっちこそ。お酒の飲み過ぎで身体壊さないように」
「わーってるよ。ご忠告ありがとさん」
「テールズこそ、また悪い人たちに攫われないように注意するんだよ!」
「ああ、わかってる。・・・・・・って、ん?お前は?」
さっきまでテールズの隣にいたBが今度は当たり前のようにロゼの隣にいる。見送る側ではなく見送られる側に堂々と立っていた。「お前も行先そっち?ってか、お前こそこれからどうすんの?」テールズは小首を傾げてBに問う。Bは口角を最大まで引き上げて「俺、ロゼちゃんと一緒にいる!」大きな声で宣言した。
「はあ!?ふざけんなよ!ついてくるな!」
「ねねっ!おっさん!お願い!俺のこと雇ってよ!!俺、雇い主失っちゃったから失業中なんだ!」
「いらん!俺はガナッシュのことだってネラルク大公国に届けたら解雇するつもりなんだからよ!」
「ええ!?そんなの聞いてませんよ!フラミンゴさん!」
今度はBだけでなくガナッシュもフラミンゴに詰め寄る。「どうしてですか!?俺が二度もロゼを守れなかったからですか!?それならこれからは十二分に気を付けますから!」背の高いガナッシュに詰め寄られフラミンゴは逃げ腰になる。「違う!その逆だ!俺がお前を預かるには重すぎる!」フラミンゴは両手でドンとガナッシュの肩を突いたがガナッシュはよろけることもなく「違います!俺はガナッシュです!商人見習いの、のろまなガナッシュです!」真剣な形相でフラミンゴの肩を掴む。
「ガナッシュ君が解雇なら、俺が新規雇用でよくない?用心棒とかでいいからさ」
「いらんっつってるだろうが!!!」
ガナッシュに掴まれている手を振りほどき、牙を剥くほど大きな口を開けたフラミンゴが吠える。顔が真っ赤だ。
「俺の心労を少しは考えろ。ネラルク大公国の正統後継者に、元マフィアの組員。背負うにはデカすぎるし重すぎるし、何より関わりたくねえ!!」
「「ひっどっ!!」」
ガナッシュとBの声がシンクロする。顔を真っ赤にして息切れしているフラミンゴをロゼは眺めるしかできないでいた。そんなロゼに目を付けたガナッシュは「ね、ロゼ。そもそもこの旅はセバスチャンに会うためであってネラルク大公国に行くことじゃないよね。そうだよね。だから、俺はまだ帰らなくていいんだよね」フラミンゴから離れるとロゼの両手を取ってにっこり微笑んだ。真似をするように今度はBがロゼに振り向き「頼りないガナッシュ君に代わって俺がロゼちゃん守るからさ!ううん!フラミンゴのおっさんも守るからさ!是非とも用心棒で雇ってよ!」ガナッシュを肩で押しのけロゼの正面に立つ。
「お前ら・・・・!」
「フラミンゴさん、俺からも頼むよ。常識を知らないだけで根が悪い奴ではないんだ、アイツは。調教してやってよ」
「テールズ・・・お前まで」
「嫌になったら今度は俺がBを雇うから。それまでアイツのこと預かっててよ」
「お願いします」とテールズは頭を下げる。眉を顰め唇を噛んだフラミンゴは小さく唸ると「くそっ!仕方ねぇな!」大きく自分の太ももを叩き「さっさと乗れ!行くぞ!」とジンの手綱を引いた。
「ロゼ!俺、先に帰ってるから!ゆっくり遊んでおいでよ!」
テールズが大きく手を振った。「テールズさん!サンジェルさんとミラさんに、私は元気だって伝えてください!私もすぐ帰りますから!」ロゼも大きく手を振り返す。テールズは大きく頷いた。
フラミンゴがジンに乗り、ロゼとガナッシュとBが荷台に乗るとジンはゆっくり歩き出した。テールズが見えなくなるまでロゼは大きく手を振り続ける。「テールズ抜けてるところあるからな。一人にしてよかったのかな」今更テールズの心配をしだしたBを荷台から突き落とそうとガナッシュがBの背中をドンと突く。「テールズさんは君の大事な友達なんでしょ?なんで一緒にいないの?今からでも追いなよ」落ちかけたBを起き上がらせないように首に手をかけるとBはその手を力強く握った。
「君も俺の大事な友達だよ、ガナッシュ君」
ガナッシュは心底嫌そうな顔をする。「ガナッシュ君は友達、おっさんは雇い主、そしてロゼちゃんは俺の聖女様。絶対に裏切らないから、これからよろしくね!」長い前髪が揺れて隙間から見えたウインクしているBの首を遠慮なく絞めるガナッシュをフラミンゴもロゼも止めなかった。




