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この世界には聖女様がいるらしい  作者: やまとうみ
第二章 その男、B
13/87

13.自分よりも大切なもの


視界は真っ暗だった。目隠しをされている。口の端がジンジン痛み出した。ロープを咥えさせられ後頭部で縛られている。少しでも口を動かそうとすると皮膚が擦れて痛い。口が半開きなので乾いてしまう。唾液すら上手く飲めなかった。


「人攫いなんてしてくるな。後々面倒になる」

「いいカードになるんじゃないかって思って。ほら、見てよ。格好に似合わない金のネックレスしてるんだ。ボス、好きでしょ?金」


クンと首が前に引っ張られる。「やめろ、ブラッド」とても低い声の男性が制止をかけた。「無関係の人間を巻き込むとランサーの仕事に影響が出るって言ってるだろ。アイツはあれでも経営者なんだよ」近づいてくる足音がする。見えないが自分の目の前まで来たのだと察することは簡単だった。


「無関係じゃないでしょ。Bと何か企んでる」

「だったらなんだ?BUG()ごときにできることなんて大したことじゃない」

「でもアーノルドだって怪しんでたからアイツをPのところに連れてったんじゃないの?」

「ランサーが野暮用でいないから待つように言っただけだ」

「そんなの嘘だよ。BとPは仲が悪いからね。待遇の悪いBと自由のないP。いつだってお互いないものねだり」


「特にPは豚箱に押し込められてるようなもんだから、相当うっぷんが溜まってるだろうし、無事じゃ済まないんじゃないの?」背後にいる自分を攫ったであろうブラッドと呼ばれた人物は、子供のように前のめりな喋り方をする。善悪のつかないような無邪気さに躊躇いはなく「処分なら僕に任せればいいのに」と銃のスロットルを回す音がしたかと思えば後頭部にゴツと堅いものが当てられた。「だから、やめろって」今度は身体を前に引っ張られ誰かの腕に収まった。多分、アーノルドと呼ばれた人物だろう。


「勘違いしてないか?始末屋ってのは誰でも彼でも殺していいんじゃないんだよ」

「指示があった人だけ?そんなのわかってるよ」

「わかってねぇから、こうやって指示もないのに人を攫ってくる。貴族ってのは“襲う”んじゃなく“使う”んだ」


力強さはないがまた首を引く感触がする。「・・・(ゴールド)、か」低い声を更に低くして呟く。「お嬢ちゃん、声を出さずに答えてくれるか」声の低い男は穏やかに訊ねる。


「このネックレスはお嬢ちゃんのかい?」


ロゼは頷く。


「貴族の子か?」


ロゼは首を左右に振った。


「誰かに貰ったのかい?」


ロゼは暫し躊躇い、首を傾げた。


「なんでそんなこと聞くの?」

「あまりにも似つかわしくないからな。十代半ばの女の子に、厳ついライオンのネックレス」

「カッコイイじゃん」

「それはお前の好みだろ」

「あーじゃあ、一緒にいた細長い男のかな?兄貴っぽいのがいたんだよね。仲良さそうで」

「それをお前は引き裂いたわけか?・・・勘弁してくれよ。ランサーの手間を増やすな」

「なんでよー、喜んでくれると思ったのに」


「これだからアーノルドはつまんないんだよ。なんでもすぐランサーランサーって。この石頭!」拗ねた声を上げたブラッドが遠ざかっていく。「うるせー、鳥頭」アーノルドがポツリと呟くと、ロゼの目を覆っていた布を取る。急に視界が明るくなって、ロゼは目にぎゅっと力を入れ強く瞑った。


「騒がないって約束してくれたら口のも外してあげるよ」


ゆっくり目を開けると、見上げるほどに大きい男性が目の前にいた。Bの言っていた通りアーノルドという人はガナッシュよりも大きい。身長だけでなく横幅も広く屈強さがある。瞼が厚く垂れ下がっているように見えるのは、ただ単にこちらを見下ろしているからだろうか。ロゼは小さく二度頷いた。アーノルドはポケットからナイフを取り出し、わざとロゼの目の前に翳すと口を縛っていた縄を切る。凶器を敢えて見せつけるのは脅しなのだろう。


「・・・あーあ、擦り剝いてんな。血、出てるし・・・手加減っての知らないのかね。女の子相手に」


目と口は解放されても手は縛られたままのロゼは擦り剝けてしまったであろう、頬と口の端を拭うこともできない。唇はバリバリに乾燥していて喋るとプチッと音を立てて裂けた。


「あの・・・あなたはどうして私を」

「逆にこっちが聞きたいね。ウチのBUGと何か関係あるの?急に一千万持ってきて驚いたんだけど」


ロゼは口噤む。勝手にBとのことを喋っていいのかわからなかった。


「黙ったところでいい結果は生まない。始末されるだけだ」

「始末・・・って」

「君を攫ってきたアイツ。アイツに殺されちゃうんだよ」


「基本的に俺たちは同業者以外に手を上げたりしない。これでも表向きは一般人なんでね。けど、邪魔をするやつらは消す。ランサー(仕事)の邪魔になるのなら問答無用で消す」アーノルドはまたナイフをロゼの目の前に翳して「覚えておくといい」と冷たい視線をロゼに投げるとナイフをポケットにしまった。


「・・・邪魔って、例えばなんですか?」

「そうだな・・・ここの場所を保安官に喋るとかだな。数多くある拠点の一つに過ぎないが、誰だって痛くもない腹を探られるのは嫌なもんだろう?同業者が放つスパイも厄介だが、保安官も何かと面倒なんでね」

「それは・・・なんとなくわかります。私も保安官さんは嫌いです」

「あ?」

「保安官さんは私たちを守ってくれない。嘘つきです。悪い人を捕まえるのが保安官さんだと思ってましたけど・・・保安官さんはお金で簡単に買収される」


勿論全ての保安官がそうではないとわかっていても、今は保安官を信じる気にはなれない。仮にこの状況を説明して自分は酷いことをされたと訴えたところで相手にしてくれるとは到底思えなかった。

顔を俯かせるロゼを見て、アーノルドが肩を小刻みに揺らし笑いだす。「はっはっは、面白いことを言うお嬢ちゃんだ。なに、保安官に恨みでもあんのかい?・・・いいね、反骨精神の塊みたいな奴は大好きだぜ。お嬢ちゃんがもっと大人な淑女(レディー)だったら俺の女にしてやったんだがな」余程おかしいのかアーノルドは腹を押さえている。


「だが、俺は子供に興味はない」

「・・・・・・・。」

「そっちも、おっさんには興味ないってか?・・・まあいい。保安官に相手にされなかった経験があるってのなら貴族じゃないのは本当みたいだな。けど、どこぞの貴族に目を掛けられてるのは間違いなさそうだ。そのネックレスはそういうことだろ?」


ロゼは肯定も否定もせずアーノルドの顔だけを見ていた。「言わずともわかる。俺なら君を買うだろう。いい目をしてる。濁りのない目だ。何にも染まってないものは自分色に染めたくなるからな」アーノルドはロゼに近づきネックレスに手をかけた。「ちょっと調べさせてもらう。どこの貴族がお嬢ちゃんを買ったのか興味が湧いた」外されたネックレスはアーノルドの手の中に収まってしまった。


「返してください」

「返すさ。持ち主が取り返しに来たら」

「あなたたちは何がしたいのですか?私を攫ったりBさんに一千万を要求したり」

「ああ、そうだった。Bとの関係を聞くのを忘れてた」

「人質を返してください。Bさんの友達として捕まった人は私たちの家族なんです」

「・・・家族?」

「私を引き取ってくれたご夫婦の息子さんなんです。だから、返してほしいんです」


アーノルドは片方の眉だけを吊り上げ、同様に片方だけの口角を上げた。「そういうこと。お嬢ちゃんは豚箱に突っ込んでるアイツを助けたかったのか」アーノルドは喉の奥でククッと笑っている。


「いいだろう。まさかBが一千万持ってくるとは思ってもみなかったし、君のような興味深い子と繋がれるなんて良い誤算だ」

「・・・・返してくれるのですか?」

「決定権は俺にない。ボスに相談してみよう。それまでお嬢ちゃんも家族とBと一緒に待ってるといい」


「いい結果を期待して、な」嘲笑うかのような笑みに信用などなかった。ロゼは血の味がする唇を噛み、アーノルドを睨みつけるので精一杯だった。


**


宿屋から最初の部屋までどうやって連れてこられたかわからない。目隠しをされ、口を縛られ、乱暴に抱えられたのだろうと予想できる。多分、次もまた同じように運ばれるのだろうと思った。ロゼの目の前にはズタ袋が用意され「中に入るんだ」とアーノルドに指示された。荷物として誤魔化す気なのだろう。ロゼの足は動かない。けれど強引にズタ袋の中に入れられ、アーノルドは軽々とロゼを持ち上げると歩き出す。真っ暗で何も見えない中、おなかに食い込むアーノルドの肩が痛くて息苦しくなる。暴れたい気持ちに駆られるが、目の前に晒されたナイフが脳裏にチラつく。ロゼは大人しくするしかなかった。


どれぐらいの距離を移動したかもわからない。酸欠で意識が遠のきそうになったところで足が地面に接触した。袋の口が開かれアーノルドがロゼをズタ袋から出す。「ロ・・ロゼちゃん!?」目の前には顔を腫らしたBが驚きの声を上げた。


「ここで待ってな。俺はボスと話をしてくる」

「な、なんで!?ロゼちゃんが!?・・・アーノルドさん!!」

「感謝しな、B。ブラッドが勝手に攫ってきたお嬢ちゃんだが、中々の大金を呼び込みそうな素性をしてる。ボスはこの結果を喜ぶだろうよ」

「大金!?なんで!?」

「いいから。お前たちもじっとしてろ。・・・既に一悶着あったようだが、取引の商品に手ぇ出すんじゃねえぞ」


アーノルドはコレクションを磨くようにロゼの頭を撫でると、部屋を出て行った。ガチャと鍵をかける音がやけに響く。「ロゼちゃん、なんで?どうして?血、出てる!何かされた!?」Bが慌てた様子でロゼに近づき口を手で拭おうとするのをロゼは顔を避けた。


「大丈夫です。唇が切れただけなので」

「でも、すっごく出てる。ほっぺたもどうしたの?」

「擦れただけですから。・・・Bさんこそ、顔どうしたんですか?」

「あ、えっと、ちょっと」


腫れた左頬をBはさすると誤魔化すように「テールズ、この子!」と後ろを向き、少し離れたところに初めて見る顔なのに親しみのある姿があった。テールズと呼ばれた男性はミラにとても似ている。


「・・・テールズさんですか?」

「ああ・・・。君は?」

「私、サンジェルさんとミラさんにお世話になってるロゼといいます。初めまして」

「親父とおふくろに?どういうこと?」

「テールズさんが家を出てから、引き取ってもらったんです。あの酒場で働いてます」

「え?どういうこと?」


テールズは小首を傾げながら目を白黒させている。「そんなことはどうでもいいの!それよりも、なんでロゼちゃんがここにいるのかが重要でしょ!?ガナッシュ君、どうしたの!?」Bはロゼとテールズの間を割るように入りロゼの目の前に立った。


「Bさんが、あのアーノルドって人に連れていかれたあとガナッシュさんと一緒に宿屋に戻りました。けど、ガナッシュさんが宿屋のおじさんに呼ばれていなくなったときに変な人に襲われて」

「それがブラッドさん!?・・・なんで、ブラッドさんが出てくるんだよ。仕事に全然関係ないじゃん!」

「あの、そのブラッドさんって?」

「あの人は始末屋なの!仕事で依頼を受けた人を始末するヒットマン!なのに、なんであの人が出てくるのさ!っていうか、ロゼちゃんよく無事だったね。いや、無事じゃないけど!」


「なにか布ない?」喋れば喋るほど裂けた唇から出血するロゼを見てBがテールズに訊ねる。「あるには・・・あるけど」テールズは言葉を濁し後ろを振り返った。部屋の奥には大きな作業台が一台設置されており、その作業台を囲むように人が六名ほど立っている。作業を止めている六名の手には乾燥した葉と鉄の延べ棒が握られ、部屋の壁際には木箱が数段詰まれており、そこからだらしなく麻布が垂れていた。


「・・・・あれ、大麻草ですよね」

「え?」

「マリファナ、それにコカイン?・・・・ここは病院(ホスピス)でもないのに、なにしてるんですか」


ロゼは無意識に呼吸を浅くする。「え?ロゼちゃん・・・なんでわかるの?」Bがロゼに振り向き訊ねるとロゼはBから距離を取るように後ずさる。「え、ちょっと」近づこうとすればするほどロゼは遠ざかる。


「このあいだ保安官さんが言ってました。・・・麻薬の密造はいけないことだって。これ、絶対に医療用じゃないですよね。だって」

「・・・・ロゼちゃん、しっ」


Bが自分の口元に人差し指を立てる。「そのワードは言っちゃいけない」そう苦言を呈するBを見るとアーノルドもそうであったように保安官を煙たがっている。保安官は本来ならば悪い人を取り締まるはずの人。その人たちを避けたいということは、それだけ悪いことをしているということだ。

マフィアがなんなのか理解できていなかったロゼでもようやく気付く。表向きは一般人を装い、裏では悪いことをしている人たちなのだと。


「B、それと新人。今、アーノルドさん、誰つれてきたんだ」

「だ、誰も!!」

「誰もってことねぇだろ。女の声したぞ」

「気のせい!女、子供には優しくしろがモットーのボスの右腕アーノルドさんが、こんな豚箱に女の子連れてくるなんてありえないでしょ!」

「豚箱だと!?このやろう!!」

「だって、PIGじゃん!!あんたたち!!」

「うるっせぇ!!クソに群がるBUGのくせに!!」

「BUGは飛べるんです~!!自由に動き回れるんです~!!豚箱に押し込められてブーブー文句ばかり言ってるPIGとは違うんです~!!」


「バカ!!やめろ!!その言い合いの末お前さっき殴られたんだろ!!」テールズが容赦なくBに拳骨する。ゴッと骨と骨の当たる音が響いた。「これで勘弁してくれ。BUGってのは組織の最下部なんだろ?バカと同じ土俵に立つのはやめた方がいい」テールズがBの前に立ち、Pの人たちに歩み寄る。だが、Pの人たちは作業台から離れ近づいてくる。Bはロゼを自分の後ろに隠した。


「どけ、新人。俺は自分たちが虫けら以下だって気づいていないBの連中が大嫌いなんだ。P(俺たち)に盾突くんじゃねぇよ」

「さっき十分懲らしめたじゃないか。もういいだろう」

「いや、気が済まねぇ。あの野郎、ちっとも反省してねぇし」

「してるって!なあ、B!」


Bに振り返ったテールズにBは何度も頷いた。「嘘くせぇ。減らず口がお前の専売特許みたいなもんだろ」Pのボス的立場のような人がテールズを押しのけようとするのをテールズは堪えその場を動かない。Bもロゼを後ろ手に後ずさった。それを不審に思わないはずがないPが「女、いるんだろ。だせよ」強引に近づいてくる。「ちょ、まてって」必死に止めるテールズの肩を掴んだPは勢いよく壁に打ち付けた。テールズは脳震盪でも起こしたように力なくその場にへたり込む。


「なんでそんなにイライラしてんの?飯にありつけなかった?PIGってそんなに待遇悪くないでしょ?」

「顔の周りに蠅が飛んでたらイライラするだろ。それと一緒なんだよ、B。目障りだ、どけ」

「いやだ」

「外で一丁前に女で遊んできたか?なら俺らも遊んでいいだろ?だからアーノルドさんはここに連れてきた」

「違う。手を出すなって言ってた」

「どうせ売られる女、どうなっても構わんだろ」

「ボスは女を売らない」

「それは商売としてだ。けど、お前の後ろにいる女は取引の材料だろ?どれだけの価値があるのか知らねぇが、こんな所に連れてこられるくらいのみすぼらしい女の価値なんてたかが知れてる」


Pはニヒルな顔で笑う。後ろで他のメンバーも顔をニヤつかせていた。「乱暴はしない。“商品”だからな」PがBに手を伸ばすと「豚が触るな」その手を強く叩き払いのける。


「豚ごときが触っていい子じゃない。お前なんかにこの子の価値がわかってたまるか」

「なんだと?」

「アホそうに見えるけど、それだけすっごく綺麗な子なんだ!俺に価値の意味を教えてくれた、すっごい大事な子だ!絶対に渡さない!俺は約束した!絶対に裏切らないって!半殺しにされようとも、お前なんかにロゼちゃん渡してたまるか!俺がロゼちゃんを譲るのはガナッシュ君だけなんだよ!」


Bはロゼを庇いながらPを見上げる。Pは歯を食いしばり拳を振り上げた。「お望みなら、殺してやるよ!」振り上げた拳がBをめがけて下ろされようとしたときバン!と乱暴に扉が開く音がした。「仕事サボってんじゃねぇよ」さっき出て行ったはずのアーノルドが戻ってきた。


「おら、お前たちは持ち場に戻れ。邪魔だ」


アーノルドは両手をポケットに突っ込んだまま、Pのメンバーを足で小突く。アーノルドに逆らうことなくメンバーは作業場のところへ戻っていき、Bと口論になっていたボス格の男も振り上げた拳をそのままに動きを止めた。「おい、俺の声が聞こえねぇのか?」アーノルドの荒げた声にゆっくり拳を下ろしたボス格の男も顔を歪めながら元いた場所へ戻っていく。Pとすれ違うように近づいてきたアーノルドは、壁際で蹲っているテールズの前に立つと「B、お嬢ちゃん連れてきな」Bに顔を向けず呼んだ。だがBは動かない。


「聞こえねぇのか?それとも俺を歩かせたいのか?」

「・・・・アーノルドさん。この子は」

「脱退だ、B」

「・・・・え?」

「その子とこの新入り連れてどこへでもいきな。お前はもうアドベントの人間じゃねぇ」


アーノルドの隣にブラッドが並ぶ。「取引が成立した。お前たちはもう自由の身だ」ブラッドの隣に並んだのはガナッシュだった。


「驚いたよ、お嬢ちゃん。君、ネラルク大公国、大公爵の息子に買われてたんだな」

「・・・・なんで、ガナッシュさん」

「確かに君は底知れない何かを感じる。俺が初めてランサーと会ったときと同じような感覚をお嬢ちゃんにも感じた。大貴族様が可愛がるのもわかる。・・・が、自分の身を投じてまで助けたいと思うのは少し行き過ぎなような気もするがね」


「まあ、こちらは最高のカードを手に入れた。ネラルク大公国は金鉱山を擁しているだけでなく貿易国として強大な力を持っている。ゾビ侯爵よりも最高の取引相手ができるとは・・・最高だぜ、Bよ」アーノルドはテールズの胸倉を掴んで無理やり立たせる。「さあ、アイツらを連れていきな」ドンとテールズをBとロゼの前に突き出す。覚束ない足取りでテールズは二人の傍に寄った。


「・・・・行こう」

「まって、ガナッシュさんが」

「ロゼちゃん、あまりに分が悪すぎる。一旦はここを出よう」

「やだ。だってガナッシュさんが」

「ガナッシュ君は俺らよりも上手くこの状況を切り抜けると思う。・・・助けてもらってばっかで悪いけど、今は従おう」

「やだってば!!」


ロゼが二人の手から逃れるように後ずさりするのをBが捕まえる。「やだ、離して!」身を捩って逃げようとするロゼをBが無理やり抱きかかえるとBは扉の方向へ歩き出す。アーノルドの前で立ち止まりBは頭を下げた。アーノルドに動きはない。「僕のおかげだよ?B。僕がその子を攫ったからだ」ブラッドがロゼの擦り剝けている頬に触れようとすると「触るな」ガナッシュが縛られている手でロゼに触れようとするブラッドの手を遮った。


「お前がやったのか。この子の傷」

「僕は縛っただけだよ。傷になったのはこの子が口を動かすからだ」

「・・・・ガナッシュさん」

「ロゼ、本当にごめん。絶対に巻き込んではいけなかったのに。・・・・俺は大丈夫だから早くフラミンゴさんのところに戻って傷の手当するんだよ」

「いやです・・!ガナッシュさんも一緒に」

「もう喋っちゃダメだ。唇がどんどん裂ける・・・・。」


ガナッシュがロゼの唇に触れ血を拭う。両手首を一つに縛られながらも両手を広げてロゼの頬を包むと泣きそうな顔で微笑んだ。


「・・・B、連れていってくれ」

「ガナッシュ君・・・ごめん」


ロゼを抱えたままBはガナッシュを背にする。「いやっ!!まって!!」ロゼの抵抗も気にせずBは歩くのを止めない。Bの後ろをテールズも続き、部屋を出ると明かりのない長い廊下を突き進んだ。もう二度と通ることはないであろう廊下を抜けるとガランとした誰もいない酒場に辿り着いた。Bに攫われてフラミンゴとガナッシュが助けに来てくれた酒場だった。


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