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この世界には聖女様がいるらしい  作者: やまとうみ
第二章 その男、B
12/87

12.迫りくる闇


身体を縛り付けられていた柱からようやく解放されたBは「う~ん!自由ってすばらしい!」と大きく伸びをした。が、すぐに「自由ではない」伸びをしているBにガナッシュは腰ひもをつけた。


「え、なにこれ?」

「リード」

「犬かよ!!」


「ひっど!いい加減、人間扱いしてよ!ガナッシュ君!!」リードを揺らすように腰を振るBに「お兄さんって呼ばれるのも嫌だったけど、ガナッシュ君て呼ばれるのも不快だな」ガナッシュは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「Bさん、ガナッシュさんの言うこときかなきゃダメですよ」

「それを言われたのはロゼちゃんでしょ」

「ガナッシュさんは私たちの中で年上のお兄さんなんですから、言うこときかなきゃダメなんです!」

「じゃあロゼちゃんは俺の言うこときくの?」

「どうしてですか?」

「俺より年下じゃん。多分」

「ききませんよ。私が言うこときくのはガナッシュさんとフラミンゴさんですもん」

「差別だし!!」


口を尖らせるBは腕を組んで不機嫌そうな態度を見せた。「はいはい、顔が笑ってます。ロゼ、こういう人は相手にしない方がいいんだよ。どれだけ酷い扱い受けても喜んじゃうマゾだからね」ガナッシュは大きく溜め息をつく。対照的にBは嬉しそうに笑った。「やだなあ、俺、そんな趣味ないよー。ロゼちゃんだけだよー」ガナッシュはBを見ない。


「無駄口たたいてないで、これからのこと話し合いますよ」

「おお!作戦会議ってやつ!?」

「いや、君と口裏合わせるだけだから」

「へ?」

「君はフラミンゴさんから預かった一千万を持ってアジトに帰る。そこで君は予定通りテールズさんの解放と組織の脱退を交渉してくること」

「一人で?」

「当たり前」

「そりゃそうか」


Bは頭をポリポリ搔いて、少し寂しそうに目を伏せた。


「俺は外からそのアジトを見張っておく。交渉が成功したのかそれとも失敗したのかを確認するためにね」

「成功したら?」

「全て終了。お達者で」

「失敗したら?」

「フラミンゴさんに報告して、テールズさん救出の交渉をこっちで行う」

「そこに俺も入ってる?」

「どうだろ?入ってないんじゃない?」

「入れてよぉ~!俺たち仲間でしょ~!」

「いや、違うけど」

「ロゼちゃ~ん!ガナッシュ君が冷たいこと言うよ~。俺たちって仲間だよねぇ?」

「裏切ったら針千本飲ませますからね」

「君が一番恐ろしいよ!」


Bは猫背を更に丸めて両腕をぶらんと垂らした。「・・・すげー怖いなぁ。上手くいってくれないと俺、この先ないんだもんなぁ」垂らした腕はアタッシュケースの取っ手を掴み「あぁ、一千万が重い。命の重さを感じる」一人ぶつぶつ呟きながらアタッシュケースを両手で抱く。


「さて、交渉の場はどこ?」

「さっきの酒場の裏にもう一軒、アドベント所有のクラブがある。そこ。そこにボスの右腕、アーノルドさんがいるはずだから、交渉はそっちとかな」

「アーノルド・・・。」

「知ってる?」

「さすがにマフィアには詳しくないよ」

「アーノルドさんはその辺の保安官よりデカいからね。そこそこデカいであろうガナッシュ君よりもデカいよ。それに何度殺しても死なない不死身の男って異名があるくらい頑丈な人さ。いや、人じゃないのかも。喧嘩はしない方が身のためだよ」

「喧嘩はしないって」

「俺がボコボコにされてても助けてくれないの?」

「うん」

「即答じゃん!」


Bはロゼに顔を向け「ロゼちゃん!俺に何かあったら店に爆竹投げ込んでね!」声を大にして言う。ロゼは一瞬ガナッシュに視線をやって、すぐBに戻した。「許可がでたら投げますね」と笑顔で言うと「絶対許可でないし!」Bはガナッシュに向かって口を突き出した。


「とにかく問題は交渉が失敗に終わったとき。俺もフラミンゴさんも君はランサーに踊らされているだけのような気がしている」

「うーん・・・、やっぱり?」

「時系列はどうなってるの?ランサーがこの街に来たのが先?テールズさんが捕まったのが先?」

「ほぼ同じくらいかな。その前に俺はアーノルドさんに組織を抜けたいって話をしてて、ボスに話は通しておくって言われたけどそれからずっと何もなかった。でも、急に話が動いて・・・それで」

「利用価値を見出したってとこか。君が目的のためにBUGの仕事をすることが都合よかったんだろう」

「それが踊らされてるって意味?」

「そう。だから、君が約束通り一千万持ってきたとしてもランサーがそれで動くかはわからない。更に条件を追加してくることだって容易に考えられるし、もしくは金を手にした瞬間BANG()ってこともあり得る。そういう現場、何度も見てきてるんじゃないの?」


Bは急に口を噤んだ。肩を落として表情に影が差す。「君を助けられるかはわからない。けど、交渉が失敗した場合、必ずこっちは動くからそんなに落ち込むなよ」ガナッシュは慰めたつもりだったのかもしれないがBの表情に変化はない。「ガナッシュさん、そこは必ず助けるから安心しなよ、じゃないんですか?」ロゼがガナッシュを見上げながら小首を傾げた。「用心には用心を重ねるんだよ。俺も、そして彼もね」ガナッシュは顔を強張らせながらも、優しく微笑んだ。


「・・・・うん、俺が甘かった。そう上手くいくわけないんだ。わかっていたはずだけど、目を逸らしていたかっただけなんだ」

「やっと真面目に取り組む気になった?」

「うん」

「なら再確認するけど、俺たちを裏切ることは」

「しない。それはしない。・・・さすがに殺されそうになったらわかんないけど」

「いや、それを言ってるんだよ」

「大丈夫。俺の中で信じられるのはアドベントの人たちよりも君たちだから。ガナッシュ君だってさ、俺に冷たくするけどなんだかんだでずっと構ってくれてる。結局俺のことほっとけないんだよ」

「勘違いしないでくれる?君がずっと俺に付きまとってるだけなんだって自覚して」

「ロゼちゃんだって、イヤイヤって言いながらも優しいもんね」

「・・・私、優しくしました?」


「よっし!覚悟決めた!自分のことよりまずテールズ助けるのが優先だ!そのために一緒に頑張ろう!」Bは勢いよく拳を天に突き上げたが、ガナッシュもロゼも茫然と見ているだけだった。「ほら、一緒に!エイエイオー!」それでも二人はBを眺めるだけ。

「まったく!二人は恥ずかしがり屋さんなんだな!なら、指切りしよう!ね、ロゼちゃん」腕を伸ばしてロゼに近づこうとするBの腰ひもをガナッシュは強く引っ張り、Bは尻もちをついた。


**


「はあああ」とロゼの背後でガナッシュの深い溜め息が聞こえる。「ガナッシュさん、大丈夫ですか?」ロゼは振り返らず訊ねた。振り返れないのはガナッシュに背後を見ておくように言われたからだ。Bが一千万を持ってアジトへ行く姿を監視しているガナッシュの背後をロゼが守っている。


「なんなんだろう、あの酷いポジティブシンキング。間違ってるよ」

「え?あながち間違ってないと思いましたけど?」

「ロゼまでそんなこと言う?」

「実際こうやって親身になってあげてるじゃないですか」

「これは彼のためじゃない。テールズさんを救出するためだからだよ」

「でも、Bさんがガナッシュさんに付きまとうのは、ガナッシュさんがどこか親切だったからじゃないかと思うんです」


言葉も態度も冷たく振舞っているが、なんだかんだでガナッシュは何かしらしてあげようとしている。


「Bさんに厳しくしてるのは理由があるからなんですよね。私にはその理由がよくわからないですけど、きっと必要なことなんだって思ってます。だってガナッシュさん優しいから。きっと色んなこと沢山考えた上で全部やってると思うので」


ガナッシュは物事をスマートに行う。酒場サンジェルでも全て対抗措置を用意して臨んでいた。争いや揉め事は極力起こさないように、自分の進めたい方向に物事を動かせるように。「私も何か力になれたらいいんですけど・・・。いつも頼ってばかりですみません」自分はいつも傍観者で何もできていない。お互い背を向けているので姿は見えてないけれどロゼは頭を下げた。すると、ガナッシュがロゼの背中に体重を乗せてきて「俺はいつもロゼに助けられてるよ」右手を取られて優しい力で握られる。


「この話は俺たちが彼に協力しているわけじゃないし、彼も俺たちに協力を求めたわけじゃない。でもこうやってお互い協力してるのはロゼが繋いでくれたからなんだ」

「私ですか?」

「彼はBUGという仕事をしていただけあって鼻が利く。大金を必要としていた彼がフラミンゴさんを狙ったのもその辺の商人たちとは違うものを見抜いたからだろう。ロゼを攫ったのも一気に金を手に入れるためだった・・・けど、ロゼは彼の心に何か訴えかけたんだね」

「大した話じゃないですよ。人間の価値で一千万って高いの?安いの?って話をされたので、それで」

「ロゼにとって大した話じゃなかったとしても、彼にとってはそれがすごく大事なことだったんだよ。だから、彼はロゼに執着する。そしてこちら側の意見を呑み手を組むことにした。結果的にテールズさんの救出という利害が一致したから俺らは協力体制をとってるけど、それを繋いだのはロゼなんだよね」

「そう、ですかね?」


ロゼの返答にガナッシュは手を握る力を強める。「嫌んなるよ、ほんと。ロゼは俺だけの聖女様でいいのに」思わずロゼは吹き出した。「せっ!聖女様じゃないですってば!」繋がれた手をブンブン振る。顔が一気に熱くなった。お互い背を向けていてよかったと思う。


「ははっ。このまま二人きりでいられたらよかったのに、とんだ邪魔が入っちゃったな。ロゼの反応が可愛くてついついからかっちゃうのは俺の特権だったのに」

「からかわないでください!もう!」

「あ、ごめんごめん。からかってるっていうのは間違い。ロゼの素直な反応見るの好きなんだよ。なんていうのかな、すごく心が落ち着くというか」

「そんな風に言ったって、騙されませんから!」

「はははっ。騙してるつもりないのにな」


繋がれた手が強くて汗が滲んでしまいそうになる。・・・騙されてるよなぁ。ロゼは横目で繋がれた手を見つめた。


手は繋がれたままで、ガナッシュはBが入っていったクラブを見つめ続ける。ロゼはガナッシュの後ろをぼんやりと眺めている。建物と建物の間の狭い路地。人が通るわけでもなく、風が小さく吹き抜けたところで揺れるものすらない。煉瓦で積まれた建物の線を一本一本なぞってみる。どこまでも続く網目状の線は蜘蛛の巣のようで、大きく聳え立つ住宅二棟に挟まれている自分は得体のしれないものに捕まっているように感じた。思わずガナッシュに握られた手を強く握り返す。


「なにかあった?」

「あ、ごめんなさい。なにもないです」

「そう?大丈夫?」

「大丈夫です!ごめんなさい」

「謝るのはこっちの方だから。ごめんね、こんな窮屈なとこに来させて」

「いえ!平気ですから!」


ロゼは握っていた手を緩める。自分は平気なんだと示したつもりだったのにガナッシュは手を離してくれなかった。


「ガナッシュさん、そんなに心配しなくても私、大丈夫で・・・」

「失敗だ」

「え?」

「交渉失敗。彼は向こうに捕まった」


Bがアジトからようやく出てきたが背後に大男がいる。その大男がBの言っていたボスの右腕アーノルドだろう。逃がさないようにか、ぴったりとBの背後につく。Bは蹴躓くように足を地面に引っかけてアーノルドに抵抗するように歩く。これがガナッシュとBが決めていた交渉失敗を伝える合図だった。


「どこに連れていくんだ?彼の話では、ランサーが所持する店はさっきの酒場と、このクラブハウスだけだって言ってたのに」

「ど、どうするんですか?」

「一旦ここから離れよう。さっきの宿屋まで戻るからロゼはそこでフラミンゴさんを待ってて」

「ガナッシュさんは?」

「俺も一緒だよ?」

「そう、なんですか?」

「今、彼を追うのはリスクが大きすぎる。あっちの誘導にこっちは絶対に乗ってやらない」


ガナッシュは繋いでいたロゼの手を引いた。「行くよ」ガナッシュはBが連れていかれた反対方向へ歩を進める。「ロゼ、振り返らないで。俺の隣を歩くんだよ」ロゼは言われたとおり小走りでガナッシュの隣に並んだ。突然のことに緊張して喉が渇く。言葉は何も出なかった。

宿屋までの道のりの間で何軒か用事もないのに店に寄った。とりあえず紙袋いっぱいのパンを買って、ガナッシュはロゼと繋いでいる手の反対の手に抱える。ロゼは周りを見ると似たように紙袋を抱えた買い物客が多くいることに気づく。周りの人たちのようにロゼはガナッシュに寄り添った。

宿屋に着き、テーブルの上に紙袋を置くとガナッシュは中を漁る。「ロゼ、何か食べる?」ロゼは首を横に振った。妙な緊張でお腹が空いていない。ガナッシュはバターロールを一つ手に取り半分を頬張った。「俺は逆にお腹空いたよ。疲れた」バターロールは二口でなくなった。


「Bさん、どうするんですか?」

「フラミンゴさん待とうと思ってるけど、最悪な事態は避けたいし・・・・どうしようかな」

「最悪な事態って?」


ロゼの問いにガナッシュの返事はない。誤魔化すように、にっこり笑い首を傾げた。


「ガナッシュさん、私、平気ですよ。ここで待ってます」

「俺もいるよ。今は下手に動きたくないし」

「でも」

「向こうも何か嗅ぎつけてると思うんだよね。現にフラミンゴさんは動いてるし。けど、フラミンゴさんが動くのは怪しく思われない。商人が狙われている以上、仲間内で情報交換をするのは当たり前だから」


ガナッシュはまた紙袋を漁る。相当お腹が空いているらしい。


「あっ!」

「なに?急に大きな声出して」

「忘れてました!」


ロゼは小さなポシェットから包み紙を出した。「買ってもらったお菓子!」ジェイミー夫人へのお詫びの品と一緒に買ったフィナンシェをガナッシュの前に差し出す。


「まだ食べてなかったの?」

「だってガナッシュさんのだから」

「・・・そっか。そうだったね」


ガナッシュはロゼからフィナンシェを受け取り半分に割る。「半分こするんだった」割れたフィナンシェを包み紙から取り出すと、包まれている方をロゼに渡す。それを受け取っている間にガナッシュは一口でフィナンシェを食べ「うん、うまい」と大きく口を動かす。ロゼも包みからフィナンシェを少し出して小さく頬張る。バターの甘い香りがふわっと広がって、砂糖の甘さが口に蕩ける。自然と笑みが零れ「おいしい」すぐ二口目を頬張った。ずっと緊張しっぱなしだったからか甘いものを口に含むと身体の力が抜け瞼が重くなった。ゆっくりと丸まっていく背中。するとガナッシュがテーブルの横にあった椅子をロゼの後ろに引き座らせる。


「疲れたね」

「え?あ、」

「俺も疲れた。疲れたときの甘いものは身体に沁みるよね」

「・・・はい。急に眠たくなっちゃいました」

「わかる。俺も」


ガナッシュはテーブルに浅く座り腕を組むと、ふうと大きく息を吐いた。「ガナッシュさん、大丈夫ですか?」顔に疲労が滲み出ている。いつもより目が虚ろで力がない。ガナッシュは力なく微笑むと「あんま大丈夫じゃない」腕を伸ばしてきてロゼの首元をくすぐるように服の下に隠していたネックレスを引っ張り出す。


「なにもされなかった?」

「え?」

「彼に捕まったとき」

「・・・・・・はい」

「変な間があったよ」

「あ、いえ、特には・・・Bさん、私をからかって遊んでただけで・・・」


ふとBに言われたことを思い出す。“年下の女の子に優しくしてるだけ”なのに“それに甘えている自分”。Bの言うことはあまりに的を得ていて恥ずかしくなった。首元で輝く金色のネックレスだってガナッシュの“庇護下”にあると示しているもの。それは過去にロゼの祖母がガナッシュの命を救ったからであり、自分はそれに完全に甘えているのだ。「・・・心配かけてしまってごめんなさい」ロゼは肩を落として俯いた。ガナッシュは責任を感じているのだろう。大人として、庇護者として。「ごめんなさい」優しさに甘えているだけの自分が情けない。


「どうしてロゼが謝るの?謝るのは俺の方なのに。怖い思いさせてごめんね」


ロゼは首を強く横に振った。「私、また、ガナッシュさんに助けられました。世間知らずで・・・なにも、なにもわかってないから、守られるばっかりで・・・全然」小さく手が震えそうになり誤魔化すために手をぎゅっと握りしめた。Bもガナッシュも何も間違っていない。自分がアホで世間知らずの年下の女の子だから周りが世話を焼いてくれているだけだ。それに甘えてばかりではいけない。

ロゼはゆっくり顔を上げると、すぐ近くにガナッシュの顔があってひっくり返りそうになるくらい仰け反った。


「ガ!ガナッシュさ・・・」

「なに吹き込まれたの」

「は、はい!?」

「あの人でしょ。おかしなことばかり言うなと思ってたんだよ。ロゼ、ダメだよ。あんなデタラメな人の言うこと信じちゃ」

「いや、その、これは」

「ほんっと・・・テールズさんのことがなければ絶対に関わらないのに」


「運のいいやつだよ、全く」不機嫌な顔でガナッシュは言うが「そうじゃなくてもガナッシュさんは何かしら助けてあげそうですよ」ロゼは即座に言い返す。「また、そういうこと言う。俺は聖人じゃないんだけど」またロゼは首を横に振った。「・・・・絶対、何か言われたでしょ」問いただそうとガナッシュがまた顔を近づけようとしたとき、コンコンとドアをノックする音がした。


「すみませーん、ちょいといいですかー?」


宿屋の主人がドアの外から声をかける。一拍置いたガナッシュがしぶしぶドアを開けると「お客さんが来てますよ。伝言を預かったから伝えにきたって」と告げるなり宿屋の主人はすぐ戻っていく。「伝言?・・・フラミンゴさんからかな?」ポツリとガナッシュが呟いた。


「ロゼ、ちょっと待ってて。すぐ戻るから」

「はい」

「戻ったら彼に何を言われたのか教えてよ」


ロゼは返事できず固まった。それを見て「・・・絶対聞くからね」と釘を刺されるとガナッシュは部屋を出て行った。ガナッシュの姿が見えなくなってロゼは隣にあるテーブルに突っ伏す。「・・・言えないよ。絆されるってわかりきってるのに」理由はどうあれガナッシュが自分を甘やかしてくれるのは確かなのだ。それに喜んでしまっている自分を抑えられないのだ。「・・・好きの感情って、難しいなぁ」首にかかるネックレスを手に取って見る。優しくしてくれるから好きになった。好意を向けてくれるから好きになった。そんな理由では子供だ初心だと言われても仕方がないけれど、ガナッシュの声も仕草も視線も好きなのには変わらない。この気持ちはまがいものなのだろうか。ぼんやり獅子の飾りを眺めていると


「それって金だよね」


知らない声がした。あまりに急なことに一瞬頭が真っ白になった。テーブルに突っ伏していた身体を起こそうと力をいれたけれど頭がテーブルに押さえられていることに気づく。・・・動けない。確かにいる存在を目で確認できない恐怖。息が詰まった。


「君、さっきBと一緒に店にいた女の子だよね。あの一千万は君が?金のネックレスを所有してるってことは、どこぞのご令嬢かな?」


ロゼは声が出ない。頭を押さえる力が強くて、意識が見知らぬ声よりも痛みの方にいってしまう。


「ずっと見てたよ。Bと結託して何か企んでるよね?あんな奴のことなんてほっとけばいいのに、僕らに関わっちゃったら無事では済まないよ?ボスの指示がないから勝手に殺ちゃうことはできないけど・・・君は金になりそうだ」


目の前に銃口を向けられた。口径はさほど大きくない。けれど、この至近距離で撃たれたら確実に死ぬ。見知らぬ声は楽しそうにククッと喉で笑う。


「おいで、お嬢様。君の知らない世界を見せてあげるよ」


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