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この世界には聖女様がいるらしい  作者: やまとうみ
第二章 その男、B
11/87

11.一寸の虫にも


「おかしいよね。対等じゃないよね。何で俺、縛られてんの?」


宿泊先の宿の柱に縛り付けられているBはフラミンゴとガナッシュとロゼに囲まれている。「対等なわけあるか。お前は俺の財布を盗み、ロゼを攫い、挙句の果てに一千万を要求してきた。こうでもしねぇと次何しでかすかわかったもんじゃねぇ」フラミンゴは呆れた声で首を振る。


「でも、俺の情報が欲しいんでしょ?」

「ああ、さっさと吐きな」

「やだなー、タダでしゃべるわけないじゃん?」

「お前には一千万やっている」

「それは身代金払うのに消えちゃうじゃん?だったら俺からもらう情報料の対価は?」

「おめー、何か勘違いしてねぇか?この話そのものを無くしてもいいんだぜ?一千万が消えれば困るのはお前さんじゃねぇの?」

「それってテールズを見捨てるってこと?」

「別の方法を考えるだけだ」


フラミンゴはアタッシュケースに手を掛ける。「お前なんぞに頼らなくったってどうにでもなる。マフィアには関りたくねぇが、こっちは伝手が広くあるんでね」Bに背を向け「行くぞ」ガナッシュとロゼに声をかけた。慌ててBが大声を出す。「まってまってまって!!俺が悪かった!!お願い!!俺を見捨てないで!!」縛られているのに必死に両足をバタつかせる。


「はあ・・・くだらねぇことやってねぇで早く喋れよ」

「俺も一介のマフィアの一員なんでね。駆け引きってやつをやってみたかったんだ」

「お前のは駆け引きじゃねぇ。駄々を捏ねてるだけだ」

「確かに俺はそういうの下手だよ。だからいつまでたってもBどまり」


「あ、自己紹介が遅れました~。テールズの友達のBって言います~」今まで長い前髪で目を隠していたBはフラミンゴによって前髪を頭頂部で紐で結ばれてパイナップルの葉のように広がっている。吊り上がった目は笑うと線のように細くなり、胡散臭い笑顔の割に人懐っこさがあった。


「B?」

「組織の階級だよ。俺は末端組員のBUG。略してB。そこにナンバーが振られて俺は11(イレブン)だけどナンバーで呼ばれることほとんどないから」

「なるほど。んで、お前はなんで組織を抜けたいんだよ」

「テールズの影響。俺も自由が欲しくなった。今まで金さえあれば自由になれると思って同じスラム出身のマフィアグループに入ったけど、金は全部組織の運営に回されるし自由なんてものには程遠い。仲間だって友達じゃない。あくまで同じ仕事をしているだけの存在だ。つまんないんだよ。上からの指示に従って、警察に捕まって、ボコボコにされて、独房から出たらまた同じことの繰り返し。そんな生活にうんざりしてた頃、テールズと会った。俺も商人だって嘘をついて、隙をついて金を盗むつもりだったのにテールズは商売がヘタクソで明日を生きる分の金しか持ってない。それでも楽しそうに生きてるから羨ましくなったんだ。俺もテールズみたいな生き方がしたいって」


「そして」Bは視線をロゼに向けた。「価値の意味を教えてくれたロゼちゃんには感謝してる。俺、大事なものとか正しいこととかわかんなかったけど、今の俺にとって二人は希望なんだ。テールズとロゼちゃんと同じ世界で生きたい。だからロゼちゃん、さっきはごめんね。今の俺は、君がとっても大事だよ」目も口も吊り上げBが笑う。ロゼは首を横に振ってBの言葉を否定する。「う~ん、距離の詰め方間違えたかな?」Bは小首を傾げた。


「お前が属してる組織はアドベントだろ?何用かは知らねぇがボスのランサーがこの街に来てるって噂だ」

「ボスの名前知ってんだね」

「ランサーの名前は有名だからな。武器商人から成り上がったビジネスマン。各地方で賭博場を経営しその儲けは下級貴族の資産をも上回るって話だ。だが裏では人身売買に麻薬の密造、ヒットマンの仲介すらやっていると聞くが?」

「ん、まあ、手広くやってんじゃない?俺は末端だからそういうのには関わってないんでね」

「そんな裏稼業に手を染めている組織の一員が抜けることを易々と認めるはずがないだろ。現にお前はこうも簡単に口を開く。情報漏洩を防ぐには消しといた方が後々面倒なことにならん」

「物騒なこと言わないでよ」

「しかも一千万なんて、お前からしてみりゃ大金かもしれねぇが手にできない額でもねぇ。そしてランサーにとっては端金(はしたがね)のはず。怪しすぎる」


フラミンゴは腕を組んで唸る。「お前自身も胡散臭い。ランサーがこの街に来てることも怪しい。・・・何が目的だよ」独り言のように呟いた。ロゼはフラミンゴとBを交互に見た後、すぐ隣にいるガナッシュの袖を小さく引っ張る。振り向いたガナッシュに「お金渡せばテールズさん助けられるんじゃないんですか?」訊ねた。ガナッシュは眉を下げ「それで済めばいいんだけどね。それだけじゃ済まなそうだからフラミンゴさんは困ってるんだと思うよ」ロゼを安心させるかのように頭を撫でた。それを見ていたBが「あ!」と声を上げる。


「お兄さん!それやめて!ロゼちゃんが喜ぶから!」

「へ?」

「ちょっ!余計なこと言わないで!!」

「ロゼちゃん、現実を見ようよ!そこにLIKEはあってもLOVEはないんだよ!」

「もー!!うるさい!!」


ロゼは腰掛けていたベッドに備え付けてある枕をBめがけて投げつけた。「ぶ!」見事顔面に命中したのにBは嬉しそうに笑っている。Bの視線はロゼでなくガナッシュだった。Bに対しガナッシュも小さく笑む。「君、さっきから変なこと言うね。俺のことを知りもしないのに俺の気持ちを勝手に解釈しないでくれるかな?」笑顔が張り付いただけの顔には小さな怒りが滲んでいた。ひひっ!と歯を見せて笑ったBは「そうやってロゼちゃん騙そうとしてる?人に好かれるって気持ちいいもんね。やっぱ大人は汚いな~。自分の心地よさのために純情な気持ち利用しちゃって、ロゼちゃん可哀相」と口は笑っているのに目が笑っていない。ガナッシュも取り繕っただけの笑みを湛えたままBから目を逸らさずにいる。


ロゼはガナッシュの横を通り過ぎ、落ちている枕を拾い上げBの目の前に立つ。そして枕を振りかぶってBの頭にボスンと打ち付けた。「いてて」ちっとも痛そうにしていないBの前にロゼはしゃがみ込み「私が勝手に好きでいることに、ガナッシュさんの気持ちは関係ない。これ以上、みんなを振り回さないで。私のことが大事だなんて嘘よ。私を利用してるのはあなたの方なのに」鋭く睨みつけた。「おい、ロゼ」フラミンゴがロゼに近づきBの傍から離そうとすると「ごめん・・・」さっきまで人を小馬鹿にして笑っていたBの顔が陰る。


「ごめん、またやり方間違えた」

「私にはBさんの考えてることがわかりません。お友達を助けたいのですよね?一千万あればいいんですよね?それなのにどうしてお金を出してくれたフラミンゴさんを困らせるんですか?ガナッシュさんに失礼なこと言うんですか?テールズさんを助けようとしてくれている人たちに、どうしてそんな態度できるんですか!」

「ごめんってば!俺が間違ってた!ロゼちゃん、ごめん!君がおっさんとお兄さんにものすごく大事にされてるのに、警戒心薄くてあまりにアホっぽいからついつい遊んでみたくなっちゃったんだ!ごめん!」

「謝られてる気が全然しない!」

「全部しゃべる!俺が知ってること全部しゃべるから!お願い!俺もテールズのことも見捨てないで!」


「お願いだ!この通り!」Bは柱に縛られながら頭を何度も下げる。「いまいち信用ならねぇんだよなぁ」フラミンゴが困り顔でBを見下ろしていた。そこにガナッシュも近づいてきて「絶対に俺たち単独で動いた方がいいと思います。彼は信用に値しない」とBの前に屈んでいるロゼを抱きかかえ、さっきまで座っていたベッドまで運ぶ。


「信じてよ~ぉ、お願いだよ~ぉ」

「信じるか信じないかは俺ら次第じゃなくお前次第なんだよ」

「俺次第?」

「不確かだが、お前のいう友達のテールズは俺の知ってるテールズの可能性が高い。それが白か黒かは置いといて、とりあえずお前にはこの一千万を渡す」


フラミンゴはBの目の前にアタッシュケースを置いた。Bはアタッシュケースに目をやるがすぐにフラミンゴに戻す。口を小さく開け、顔をしょぼくれさせたBは不安そうに「え、でも」とフラミンゴを見つめる。


「金の出所を聞かれたら、気位高めのブルジョワを脅したと言えばいい。お前のいうとおり一千万で人質の解放とお前さんの脱退が認められるのか。まずはそれを確かめる。つーわけで」


フラミンゴはBの顎を掴み無理やり上を向かせた。「一千万分の情報やりな」顎を掴んだ手には力が篭っている。「わかってる。全部しゃべるよ」詰まったような掠れた声でBが言うとフラミンゴは手を離した。


「まず簡単に組織の説明をする。組織は大きく分けて三つ。攪乱のBUG、密造のPIG、密輸のEAGLE、頭文字をとってB、P、Eと呼び分ける」

「お前はBUGのBってわけか」

「そう。俺の主な仕事はボスが仕事で動くときに街で暴れて注目を逸らすこと。盗みもするし喧嘩もする。そしたら市民警察はこっちに手を焼くし、事が大きくなれば保安官も出てくるからね。とにかく事を荒立てるのが仕事」

「で、この街の商人を襲っているってわけか。つーことはボスのランサーに動きがあると」

「ボスがこの街に来たのは取引が一方的に破断になったからだ。その取引相手は俺も知らない」


フラミンゴはBを睨んだが、Bはそれに動じない。本当に知らないようだった。「それなら第一候補がいる」Bとフラミンゴよりも後ろ、ロゼの隣に立っているガナッシュが声を上げる。


「ゾビ侯爵です。フラミンゴさんを陥れようとした上院議員。保安官を買収していた人物にゾビ侯爵の名が挙がってます」

「俺を・・・サンジェルの店を潰そうとした?」

「他国と言えど俺も上院議員になるくらいの貴族はそれなりに知っています。それに・・・ゾビ侯爵はネラルク大公国(ウチ)とも取引を望んでいた一人です。大きい事業を展開しようと金の画策に必死な印象を受けます」

「だからといって、わざわざマフィアとまで取引するか?」

「だからこそするんですよ。マフィアは莫大な資金を持っているし、自分のバックにマフィアがついていると関係者を脅せば大抵の人は歯向かえなくなる。そうして恐怖政治を敷いて議会だけでなく市場(しじょう)までも支配しようとしていたのかもしれませんね」


不意にガナッシュは隣にいるロゼに目配せした。「ロゼにこんな話、聞かせたくないな。この世界は聖女様に守られてとても綺麗なんだよっていつまでも信じていてほしいのに」ガナッシュは眉を下げて笑っている。ロゼも同じように眉を下げて「難しい話は、さっぱりわかりません」と首を左右に振った。


「なるほどな。俺が貴族相手に商売を広げていったことで、ゾビ侯爵が展開する事業の売り上げが減り、味方する協賛者も少なくなってきたってことか」

「ジェイミー公爵夫人が最たる例ですね」

「とんだ逆恨みだが、俺も無関係なわけじゃねぇし。・・・・しかたねぇ、情報集めてくるか」


フラミンゴはもう一度、Bの目の前にアタッシュケースを置くとドンドンと床を叩き「お前はこれ持ってアジトに戻れよ」とBの目の前から去る。上着と帽子を被ったフラミンゴは「俺は仲間たちと情報共有しながらゾビ侯爵とランサーの動きを掴んでくる。あのBUGは逃がしていいがテールズの真偽は確かめたい。任せてもいいか?」険しい顔つきでガナッシュを見上げた。「もちろんですよ。もし本当にサンジェルさんたちの息子さんが捕らわれていたら見逃すわけにいきませんからね」ガナッシュは大きく頷いた。


「ロゼ、ジェイミー夫人のところに行くぞ。匿ってもらうから」

「え、どうして?」

「どうして・・・って。俺もガナッシュも野暮用してくるから、ここにロゼ一人でいさせるわけにはいかんだろ」

「ここにいる。夫人のおうちは緊張しちゃって落ち着かないもの」

「いや、でもよ・・・。誰かが傍にいないと心配なんだって」

「なら一人にならないようにする」

「そうは言ってもだな」


フラミンゴが大きく溜め息をつくと「俺が傍にいますよ。Bのことは状況次第で捨て置くので」ガナッシュが言った。「言葉に棘がない?お兄さん」すぐさまBが乾いた笑いで言い返した。


「・・・ん、まあ、お前だったらロゼは大丈夫だろ。ロゼ、ガナッシュの言うこときくんだぞ」

「はーい」

「ガナッシュ、相手はマフィアだ。深く関わるんじゃねぇぞ。これは俺が買った喧嘩だからな」

「大丈夫ですよ。俺は喧嘩苦手なんで。やるなら権力使ってでもスマートに事を進めますからご心配なく」

「あー、さすがは大公殿下の正統後継者様だこと。俺のような成り上がり商人とは持ってるものが違いますねー。ま、そんなお前に俺は助けられたわけだから、なんも言えねぇんだけどよ」


「んじゃ、無茶だけはするなよ」とガナッシュの肩をポンと叩きフラミンゴは部屋を出て行った。「フラミンゴさんこそ一人で大丈夫なんですか?」ロゼはガナッシュを見上げて訊ねる。「場数踏んでるだろうし、仲間も街にいるなら大丈夫だよ、きっと」ガナッシュは優しく微笑んだ。


「それにしても困ったな。ロゼ、あの人どうする?」

「どうするって?」

「俺はね、テールズさんを助けたい気持ちはあっても、どうしても彼を信じることができないんだよね」

「わかります」

「ロゼちゃんまで!そんなこと言わないでよ!」

「何度も痛い目見てるからね。信じろっていうのが無理なんだ。けど、テールズさんの話はあまりにも出来過ぎてる。嘘かもしれないし、本当かもしれない」


「どうするかな」溜め息と一緒に小さく零したガナッシュの横でロゼは自分の荷物である行商箪笥を漁っていた。「何してるの?」ガナッシュが訊ねる。「しゃっくりが止まらなくなる薬があったと思うんですよ」ロゼはごそごそと行商箪笥の引き出しをいくつも引っ張り出していた。


「しゃっくり?」

「嘘つくとしゃっくりが出て、止まらなくなる薬を貰ったことがあるんですよ」

「へえ」

「なんで信じてるの、お兄さん。そんなのあるわけないじゃん」

「う~ん、ないなぁ。置いてきちゃったみたいです。使ってみたかったのに、残念」

「残念だね。他に何かないかな。例えば、彼が悪いことしようとしたら動けなくなっちゃう薬とか」

「爆竹を靴の中に仕込むとか?」

「急に怖いこと言い出した!!ロゼちゃん、君、俺のこと嫌いでしょ!!」


Bのことを無視してロゼはガナッシュに爆竹を見せる。「え、持ってるの?」自分から何かないか訊ねたのに戸惑いをみせるガナッシュに向けて「爆竹は昔から手作りしてます。山暮らししていたとき鳥獣を追い払うために使ってたので」手のひらに収まる小さな爆竹をロゼは笑顔で数本見せた。ガナッシュの表情が固まる。


「使います?」

「どうしようかなぁ」

「悩まないで!!俺の足が吹っ飛んじゃう!!」

「そんな火力ないと思いますけど・・・試してみましょうか?」

「やめてってばー!!!」


「お願いお願い!俺のこと信じて!!絶対に裏切ったりしないから!!」Bは涙目になりながら訴える。そんなBに対して温度のない無表情を見せたガナッシュは「裏切るって具体的になに?君の中でどういったことが俺らへの裏切りになるの?」静かに低く落とした声で訊ねた。


「・・・一千万を持ち逃げしたりしない」

「お金は気にしないでいいよ。好きに使えばいい」

「で、でも、それじゃ」

「君は一千万を手に入れたんだ。友達の救出に使いたければ使えばいい。その話が嘘だったとしても、しつこい君の手切れ金だったと思えばがこちらにも利がある。自由に使えばいいよ。君の言う裏切りってそんなこと?」

「あ、いや」

「俺が指す裏切りっていうのは、ロゼやフラミンゴさんに害をなす行為だ。君は既にフラミンゴさんの財布を盗んだ。その次はロゼを攫った。今度はケガを負わせるかもしれない、組織に売り飛ばして二人の命を危険に晒すかもしれない」

「そんなことしないよ!」

「悪いけれど俺は君を信じられない。が、これだけは言っておく。裏切りは許さない」


鋭い目でガナッシュはBを睨む。ロゼの見たことない顔だった。初めて会ったときは仏頂面であったけれど、少しずつ気が許せるようになってくると、いつも穏やかな顔をして微笑みを絶やさなかった。保安官を前にしても、堂々と飄々としていたのに。


「・・・お兄さんの言う裏切りはしない。約束する」

「・・・・・・。」

「ロゼちゃん、俺は絶対に君をアドベントには売らない。約束する」

「・・・・・・。」

「・・・俺も正直なところ、ボスは嘘ついてるんじゃないかって思ってる。一千万でテールズを解放してくれるのも、俺の脱退を認めてくれるのも。けど、そういわれたらそうするしかないんだ」


「俺たちBUGは上に従うしかない。腐ったものに群がるBUG(虫けら)にはそれしかない。与えられたものにケチはつけれないし、それすらできなければ生きていけない。憧れて入ったマフィアだったけど、やってることはスラムにいた頃となんら変わらなかった」Bはガナッシュを足先から頭の天辺まで視線を滑らせた。「お兄さん、さっきの話本当?大公殿下の正統後継者って」眉を垂れ下げ、口を小さくしか開けずに喋る。


「お兄さんから見たら俺なんて虫けら以下だよね。助ける価値もないし、野垂れ死にしてようと気にも留めない存在だ。けど、俺だって生きてる。必死に、抗いながら」

「確かに俺は君がどうなろうと知ったことじゃない。けど、それは俺と君との関係性によるものだろう。マフィアだからとかBUGだからとかじゃない」

「なら見捨てないでよ。俺を見てよ。信じてなんておこがましいけど、俺のことをちゃんと見てよ!」


Bは涙目になりながらガナッシュをじっと見つめていた。ガナッシュは視線を逸らさないものの、何か喋るわけでもない。お互い黙ったまま時間だけが過ぎる。どちらが先に根負けするのか競っているようで、たまらずロゼが声をかけた。


「ガナッシュさん、信じてみましょうよ。裏切らないって約束するって言ってましたよ」

「甘いよ、ロゼ。口先だけなら何とでも言える」

「Bさん、信じてもいいんですよね?裏切らないって」

「・・・・・うん、約束する」

「じゃあ、指切りしましょう」


ロゼはBの後ろに回り、縛られている縄から出ている手に小指を絡ませた。


「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら、針千本ぜったいにのーます!ゆーびきった!」

「・・・・本気っぽくて怖いんですけど」

「約束しましたからね!」


ロゼはまた行商箪笥を漁り、千本とはいかないまでも数百本ある針をBに見せつけた。「・・・・ガチじゃん」ロゼのにっこり笑顔とは逆にBは顔を引き攣らせた。


「ロゼ、そう易々と人を信じちゃ危ないよ」

「約束しましたよ」

「だけどね」

「これ以上、ガナッシュさんが悪者になる必要ないんですよ。こんなことでガナッシュさんが責められるのおかしいです。だから!約束破ったらBさんが悪者ですからね!」


ピンと立てた人差し指をBに突き出した。Bは豆鉄砲でもくらったかのような顔をすると、次第に顔が緩み「それって俺を悪者にしたいだけじゃん」と笑いだす。


「お兄さん、俺、絶対ロゼちゃん裏切らないよ」

「そうしてくれるとありがたいんだけど、そもそも俺、彼女のお兄さんじゃないよ」

「俺が無事、マフィアから卒業できたらロゼちゃんを俺の彼女にさせてください。お兄さん!」


ガナッシュは目の前に落ちていた枕でBの頭を叩いた。


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