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記憶共有的異世界物語  作者: さも
第5章:絶対的な成長
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第39話:目的の理由

奈恵は困惑しきった顔であたりを見回していた。

自分の記憶が数分吹っ飛んだかのようなリアクションをしていたが、どうやら人格間で記憶は共有していないようだった。


「なぁ、ナエラの記憶って入ってきてるか?」


シュンヤがそう言うと、奈恵は考え込むように過去の記憶を読み出した。


ツッ...と火傷したときのような声を上げ、奈恵は自分に起こった現象を理解したようだった。


「貴方達はもう彼女が死んだ事を知ってるの?」


「あぁ」


僕がそう答えるのと同時に、僅かな希望が消えたシュンヤは、辛そうに顔面を抑えていた。

目も当てられないその様に僕自身複雑な心情になっているのだが、これで一つハッキリした事がある。


ナエラはもう存在しておらず、奈恵の中にあるナエラの人格はナエラの記憶を元に作られたモノだということだ。

シュンヤには辛いだろうが、奈恵からナエラの人格を取り除かないといけない。

記憶が元に構成されているという事は、つまりナエラは死の直前とにかく生き延びようとしていたという事だ。


そうなると取り除く方法はなんとなく分かる。


【自分の死を理解させる】


これしかない。

他にも方法はあるのだろうが、一番リスクが少なくて後遺症も残らなそうなのはこれぐらいしか考えられない。

少なくとも僕の頭ではこれが限界だ。


少なくとも奈恵自体はナエラの死を理解した。

という事は奈恵の中からナエラの死の記憶は消えていないということだ。


ならこの方法が使えないと言ったことは無さそうだが、問題は人格が消えた際の奈恵にかかるダメージの量だ。


奈恵の目からハイライトが入ったり消えたりを繰り返し、その目から奈恵の不安定さがよく分かった。

数秒もしないうちに奈恵の目からハイライトが完全に消え、目が死んだ。


奈恵は僕とシュンヤの顔を一通り見回し、少しの間沈黙した。


「....」


「これってやっぱり憑依とかじゃないのね」


「そうなるな....ほんとにごめん」


僕の中でずっと悔やんでることがある。


あの場でナエラをチュラル村に向かわせたのは僕だ。

だからこそ極端な言い方をすればナエラを殺したのは僕だ。

エルフの目的が最初から【追放すること】だと知っていれば別の方法だって取れた。

ナエラを【生かす】事だって十二分に出来た。


でも結局殺してしまった。


「なんで貴方が謝るの?」


「自分の記憶を一通り見てもらえると分かると思う」


シュンヤの目から生気が消えており、その表情からは【絶望】しか感じなかった。


「もうとっくの昔に見たわ、私が死んだ瞬間もね。だから言ったじゃない『時間を戻してももっと残酷な死に様を迎えるだけだ』って」


「どうせこのまま行けば私は完全に消える。自分の死を理解したんだもの、別人の中に居続けたって意味はないでしょう?それに私は私であって私でないもの」


奈恵...いや、ナエラの言葉には、自分の運命を受け入れて先に進めようとする【強さ】と【美しさ】があった。

僕はこの【美しさ】にどこか既視感を感じていたのだが、それが何だったかは一切思い出せない。


「ねぇシュンヤ。私はこのまま消えるけど、一つだけ言わせて」


スゥ...と一つ大きな息を吸ってゆっくりと吐く。

そんな深い深呼吸を行って、ナエラは今までにないほどにまっすぐシュンヤを見つめた。


「ありがとう」


ナエラのその言葉にシュンヤの顔に光が戻った。

それはまるで温かい光に照らされ安らぐ子供のような顔だったが、その顔から涙がボロボロ落ちていたのは言うまでもない。


「お前さ...なんで...そういう事言っちゃうんだよ....まじで...」


「大丈夫、貴方達ならきっと成功する。エルフを潰すんでしょ!ほら、涙拭きなさい」


そう言ってポケットからハンカチを取り出したナエラを見て、既に人格の融合が始まっている事に気付いた。


「あぁ....あぁ」


「一つだけ...一つだけ聞かせてくれ、存在が消えるのはやっぱり怖いか?」


シュンヤの質問の意図が一瞬理解できなかったが、その目に感じた決意が本物であることは十分理解できた。


「全然。だって、ちゃんと貴方の記憶の中に私はいるでしょう?それに奈恵もいることだしね。私が消えても【ナエラ・リライ】は残る。そうでしょ?」


心なしか奈恵がナエラのように見える。

精神的な意味ではなく外見的な意味でだ。


赤い髪、静かに落ち着いた瞳。


その堂々とした姿には聖母のような安らかさと美しさがあった。


「もうこれ以上は無理そうね、じゃぁね。シュンヤ、俊介。目的は達成するから目的。忘れないでね?」


そう言ってナエラはその場に倒れた。

赤く見えていた髪は赤みががった茶色に変わっていた。

地面に倒れたナエラの顔は、安らかに笑っていた。


「目的は達成するから目的だってよ....随分無茶なこと言うよな、あいつ」


シュンヤの頬を一粒の涙が流れ、様々な感情を噛み殺していたシュンヤだったが、その口元は安らかに、そして優しく。




笑っていた。


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