おばあちゃんの昼寝
桑さんは全く起きない。
うつらうつらと舟を漕ぎながら、椅子から落ちるんじゃないか?
と、心配になりながら仕事する。
実質1人で働いてるのと一緒だが、桑さんは宮司の胃袋を掴んでいた。
田舎臭い素朴な料理で、煮物やきんぴら、そんな物ばかり作っていた。
自慢の漬物樽を3つ持ち、大根の酢漬け等しょっちゅうつけていた。
「若い子が作る料理は口には合わん。」
宮司は、桑さんが居るときは、桑さんに作らせていた。
80過ぎのおばあさんには、きついのだろう。
寝ている事をいい事に、私はアプリの返事をわくわくしなが待った。
程なく
「スマホ、新しくしたんだ。それで間違えちゃった。」
?
間違えて送ってくる事なんて有り得るのだろうか?
悩みながらも、返信する。
「そっか、久しぶりだから元気かなぁ。」
「元気、でも毎日忙しい。自営業は大変です。」
「お父さん元気?」
私は何気無しに返信した。
「父は15年前に他界しました。」
私は何と返せば良いのか分からなくなった。
そして、高水君のお父さんの事を思い出していた。
高水君のお父さんは、私の父とは違いとても優しい人だった。
家に行くと
「結衣よく来たね!」
そう言い、必ずハグをしてくる。
「夕飯はまだかい?今日は、ローストビーフを作ったんだ!結衣も食べると良い!」
行く度にそんな感じで、英語教師をしていると言うお父さんは、食卓にやたらと招いて可愛がってくれた。
高水君のお母さんも、優しく。
「食べられる物を食べられるだけ、食べれば良いのよ。」
と、大皿に山盛りに作られた料理を取り分けて食べた。
食の細い私はいつも
「結衣は少食だな。」
と、豪快に笑ってる姿を思い出していた。
高校生で、料理等した事がなかった私は、この夫婦の手伝いで料理が出来る様になった。
今、宮で働けてるのも、何不自由も無く生活出来てるのは、高水家のお陰なのだと思った。
暫く、想いを馳せ私はアプリに
「ご愁傷様でした。御冥福をお祈りします。」
と、返した。
いつかは、人は死ぬのだ。
当たり前だが、ここでうたた寝をしている、桑さんだって、いつその日が来るのかは分からない。
そう考えると、優しくしなくては。
そんな気持ちにさせられた。
その日のメッセージは、それを最後に返信がなくなった。
悲しい気持ちが込み上げて来る。
でも、泣くわけにはいかない。
ただ黙って目の前にある作業をするだけだ。
楽しかった頃を考えよう。
そう思い直し、机に向かう。




