家庭教師の男
高校時代、父親が1枚のチラシを部活から帰って来た私に手渡した。
家庭教師のチラシだ。
「結衣。お前は頭は悪くない。進学をしろ。」
父は、そう言いダイニングテーブルに来る様に促した。
「今の学校はダメだ。幸い周りが馬鹿なおかげで推薦枠も取れる位の成績をお前は収めている。だが、進学するなら上を目指して貰わなければ困る。それで、これだ。
家庭教師を雇うぞ。週に2回も来れば成績も上がるだろう。くだらん部活など適当に辞めるなりし、行かなくて良い。」
父の言う事は絶対だ。
逆らえない。
怒ると手が付けられない怖さがあった。
母も
「結衣は女子大なんかが良いと思うのよ。大人しいし、今みたいな乱暴な集まりの高校に行かせて、本当に私達後悔してるのよ?」
私はただ頷き。
「わかった。」
と、両親に言う。
部活は正直どうでも良かった。
絵は描こうと思えば家でも描ける。
翌日、家庭教師は早速やって来た。
私は顔を赤らめ心臓が高鳴るのを感じた。
なんて、かっこいい人なんだろう。
背は高くすらっとして、日本人離れした顔立ち。
「彼は高水君。クォーターなんですって。」
母もまさか、人材派遣の家庭教師の大学生がクォーターの美男子が来るとは思ってもいなかった様で、動揺していた。
「よろしくお願いします。結衣さんは英語が苦手だと聞いていたので僕で良ければ力になりたいです。」
爽やかな挨拶をし、高水君は靴をスリッパに履き替え家の中に入って来た。
「よろしくお願いします。」
私も声が裏返りながらも、何とか挨拶を交わした。
「お部屋はどちらですか?勉強に集中したいので2人になれる部屋で、終わるまでは声掛けやお茶等ご遠慮して頂く決まりになっておりまして。」
高水君は微笑みながら言った。
母は
「わかりました。それでは案内しますね。」
と答えると、2階にあるわたしの部屋へと案内した。
8畳間のフローリングに、シングルベッドと勉強机、クローゼット付きの広々とした部屋が私の部屋である。
「お嬢ちゃんだ。」
母が去りドアが閉まるなり高水君は言った。
「いやいや、そんな事は無いです。」
2人きりになると、緊張して小さな声しか出ない。
どかっと、ベッドに高水君が座る。
「座れば?」
私の部屋なのに何故か、高水君の方が偉そうである。
それもそうか。
先生なのだから。と考えを自分なりにまとめ、
「お邪魔します」
と、隣に座る。
すると、高水君は私の口を手で覆いベッドに押し倒した。
「君の興味があるのは?勉強?それとも僕?」
少しだけ茶色い瞳に見つめられ、私は黙って高水君を指差していた。
「今時の女子高生は、直ぐにやりたがるけど、君も一緒かな?」
手を退けてつまらなそうに、起き上がる高水君に私は言った。
「私付き合った事ありません。人、好きになった事ありません。でも、先生には興味あります。」
勇気を振り絞って言う。
「同感だな。僕も人を好きになった事は無い。やる事はやるけど、君はなんか変わってるね。」
部屋の中を眺めて高水君は言った。
「絵好きなの?」
私の部屋のあちらこちらに、コンテストに出した作品が額縁に入れ飾らせていた。
「確かに人がいないね。」
風景画を観ながらごろんとベッドに横たわる。
そんな高水君を見ながら、もう一度だけ勇気を出して言ってみる。
「私と付き合ってみませんか?」
「良いの?僕も今同じ事考えていた。」
こうして、私に初めての彼氏と言う者が出来た。




