1本と無職
その日おばさんの部屋は仏滅で静かだった。
「今日は誰も来ないねぇ。」
紗和ちゃんが言う。
神職も、仏滅休みが多く出勤しているのは3名しかいない。
暇な時は神棚に飾る紙垂等を折る。
秋稲荷がある為、稲荷札をテーブルを向き合いながら、折っていると、引き戸から
「ちょっと良いかな?」
と声がかけられた。
「どうぞ。」
紗和ちゃんが答える
立て付けの悪い扉をガラガラと慣れた手付きであけ、鮎川さんが入って来た。
「きのことたけのこだと、どっちが好き?」
意味のわからない質問をしてくる。
「きのこ!」
紗和ちゃんは元気に笑いながら答えた。
「はい。」
そう言うと、鮎川さんは後ろ手に隠し持っていた菓子箱を紗和ちゃんに渡した。
きのこだ。
しかも、期間限定味のきのこだ。
2人は見つめ合い笑い合うと、
「それではまた。」
と鮎川さんは言い出て行った。
「結衣ちゃんも一緒に食べよう!」
無邪気な紗和ちゃんに困惑する。
多分、鮎川さんは紗和ちゃんに会いに来て、紗和ちゃんにお菓子をあげたのだ。
私も食べて良いのだろうか?
「良いよ。私は。」
遠慮して言うと、紗和ちゃんは続けた
「家、持って帰れないからさ。一緒食べよう。うち、旦那厳しいんだ。バレたら殺されるかも。」
そう言うなら、と私も一緒に頂く事にする。
「旦那さん厳しいんだぁ。やきもち焼き?」
お菓子を1つ摘みながら聞く。
「束縛が激しくて、亭主関白な無職だよ。怖くて逃げられなくて一緒にいるだけ、昔は大好きだったんだけどね。今は恐怖でしかないよ。私1本しか知らないから、男の人って、みんな同じなのかなぁ。ここで鮎川さんが優しいから、付き合って欲しいって言われて舞い上がってるけど、付き合うとなるとそう言う事もするよね。普通好き同士なら、するよね?」
何の話かと思ったら、下ネタである。
1本って、ちんちんかい!
と、心の中で突っ込みながら
「まぁ、焦らなくて良いんじゃない?」
と答える。
「そうだよね。純愛なんだぁ。いるだけで良い。そんな気持ち。」
遠い目をしながら、紗和ちゃんは言った。
その顔は赤らみ、意外にもウブな人だったのだと気づく。
私は勝手にヤンキーグループにいたせいで、遊び人だと思い込んでいた。
しかし、再度思いを返す。
これは不倫なのだと。
「お互いの家庭を壊さないようにしようねって、約束してあるの。」
家庭があるのだ。相手にも。
都合の良い女。
そんな考えが頭を過ぎる。
だが、口には出さなかった。
「絶対にやっちゃダメだよ。」
私は下ネタを返す。
「男なんてね。穴があったら入れたいだけって人いっぱい居るんだからね!気をつけな。」
「何それ〜。結衣ちゃんは本当に面白いな。」
屈託無く紗和ちゃんは笑った。




