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Enisi  作者: 中田 敦
エニシ教編
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92/208

92.突入

    突入


 昨日の嵐が、過ぎ去った空には、雲一つ無く、澄んだ青空が気持ちよく広がっている。

 誰も居ない門を駆け抜けた二人は、屋敷と教会の裏の作業場の二手に分かれる。

 (平本さん。間もなくアイザックが位置に付きます。準備をお願いします。)

 (あのー、ナナさんや。俺には、詳しい説明が何もされていないのだけれど…)

 (平本さんは、いつも、理論的、学術的説明をしようとしても、聞いてはくれないではないですか。)

 (しかし、準備をしろと言われても、この後、何をすればいいのかさえ聞いていないのは、どうかと思う。)

 (それもそうですね。先ほど繋いて頂いた、『えにし』からの線に意識を集中して、その内側を覆う、空間に『えにし』の力を均等に広げるイメージで、力を開放して下さい。)

 (うん。なんとなく判った。そんな事で良いんだ。)

 (はあ、この様な抽象的な説明で、実際に出来てしまう平本さんは…)

 (うん、何か言った?)

 (いいえ、何も。)

 アイザックは、作業小屋の入り口に辿り着き、静かに忍び込む。

 話に聞いていた通り監視役の兵士が二人、場内の作業を見守っている。こちらに気付いた様子はない。

 場内に積み上げられた雑多な荷物の陰に隠れながら、一人目のターゲットに忍び寄る。

 (平本さん。今です。フィールド展開!)

 ナナの合図で、平本は、先ほど描いたエニシの線に意識を集中し、その線を一気に広げて行く。

 (フィールドが完成しました。)

 ナナの言葉と同時に、アイザックが一人目の監視に飛び掛かり、頸動脈を右腕を巻き付けて締め、口を左手でふさぐ。一分もかからず、監視の兵は落ちていた。

 アイザックは、気絶した兵士を静かに床に横たえると、両腕を細い革紐で、後ろ手に縛り付けると、次のターゲットに忍び寄った。

 こちらの男は、壁を背にして立っている。アイザックは迷うことなく、男の目の前に飛び出し、一瞬の驚愕で動きが止まった兵士の鳩尾に正拳の一撃を入れる。前のめりに倒れこんだ兵士を受け止め、こちらも同様に床に横たえると、後ろ手に縛りあげた。

 (ナナ、作業場の二人は片付けたぞ。)

 (アイザック、流石です。そのまま、屋敷のジョーイの応援に向かって下さい。)

 (了解!)

 アイザックは、作業場を後にして、屋敷へ駆け出した。


 ジョーイは、屋敷の入り口で一旦立ち止まり、視界の左上の地図を確認した。

 昨夜とは違い、屋敷内を動いている点がいくつもある。

 (ナナ、平本。屋敷の中を何人も動いてるみたいだが、全部赤色じゃ、傭兵と屋敷の人間の区別がつかない。)

 (ジョーイ、ちょっと待って下さい。傭兵のみを赤表示にして、それ以外の人を青で表示し直します。)

 ナナの言葉の直後に、動く点は、赤と青に分かれた。

 赤色の点は、今の所、屋敷の左側の部屋にほとんど固まって、五つほどになっている。

 屋敷の入り口に近い、赤の点は二つだけだ。位置を確認したジョーイは、勢いよく扉を開けると、風の様に屋内に駆け込んだ。

 「だ、誰だ。テメーは!」

 ジョーイは、入り口に一番近い傭兵の側に駆け寄り、その右腕を捕えた。

 「このやろ…。」

 傭兵の身に付けた簡易鎧の重量が一気に増し、傭兵を床にへばりつける。

 (へえ、これは簡単だ。ナナ、ありがとう。)

 (どういたしまして。その調子でお願いします。)

 「この野郎、どんな魔法を使いやがった!」

 少し離れた位置にいた傭兵が、腰の剣を抜き放つと、用心深く身構えた。

 「今から、このお屋敷に居る傭兵の皆さんを順番に退治していきます。大人しく投降して下さいな。」

 ジョーイが、朗らかに、緊張感無く、投降を呼びかけた。

 「なめるな。この野郎!」

 剣を振りかぶった傭兵が、ジョーイに向かって踏み込んでくる。

 ジョーイは、咄嗟に身を低くすると、振り上げられた剣の下に飛び込み、男の腕を捕まえた。男の身体は宙を舞い、ジョーイの背後の床に叩きつけられる。

 「なんだ。騒々しいな。」

 左側の扉が開き、傭兵が次々と玄関ホールに姿を現す。多分、食事中だったのだろう、最初の男は左右の手にナイフとフォークを持ったままだ。

 「誰だ、お前は?」

 「はい。正義の味方です。」

 「なめやがって!」

 男が、右手に持っていたフォークをジョーイに向かって投げつけてきた。

 ジョーイは、軽く身をひねり、飛んでくるフォークを躱す。そこに続けてナイフが飛んでくる。ジョーイは、そのナイフを空中で掴み取り、ナイフを構えて見せた。

 「駄目ですよ。食器を投げたりしちゃ。行儀が悪いですよ。」

 「おめーら、囲んでなぶり殺しにしてしまえ。」

 部屋を最後に出てきた男が、他の四人に激を飛ばす。

 ジョーイは、最初に向かってきた男の顔面に向かって、素早く右手に掴んだナイフを投げつけた。しかし、ナイフは、簡易鎧に弾かれ、床に落ちる。

 後ろに大きく飛び退ったジョーイが、改めて身構える。

 「ふーん。『赤えにし』でも、普通のエニシ鋼のような働きはするんだ。」

 ドアを背にしたジョーイの正面から、五人の傭兵が、思い思いの武器を手に迫って来る。

 ジョーイの見た所、一人一人の力量はそんなに高くなさそうだ。だが、人数が多すぎる。

 どう戦うかをジョーイが決めかねていた所に、玄関の左の窓に人影が現れた。

 その姿に気付いたジョーイは、右端の傭兵に襲い掛かっていた。突き出された槍を最小限度の動きで躱すと、槍の柄を捕まえ、手前に勢い良く引く。槍を握ったまま、男が前方にタタラを踏む。その肩をジョーイが掴むと、男は、簡易鎧に縛り付けられ、動けなくなった。

 ジョーイに、他の傭兵が注意を向けている隙に、窓を突き破って、黒い影が飛び込み、四人の傭兵に次々と背後からタッチしていく。

 四人は、急激に増した鎧の重みに押しつぶされ、床に倒れた。

 「よう、アイザック。お見事!」

 「人に余分に人数を押し付けたな。」

 「そんな事言ったって、隙だらけの四人にタッチするのは、簡単だったでしょ。」

 「まあな。」

 (アイザック。そこに倒れている傭兵の簡易鎧の小手を四つ外してくれませんか?)

 唐突にナナの声がする。

 (小手だけで良いのか?)

 (はい。それを持って、教会に急いで下さい。教祖とその手下が逃げようとしています。すぐに捕まえて、小手で動けない様にして下さい。)

 (判った。)

 アイザックは、素早く傭兵の二人から、その手に嵌められた小手を奪うと、教会へ向かって駆け出した。

 「あら、応援が来たと思ったら、行っちゃったよ。」

 ジョーイは、視界の左上のマップを見ながら次の作戦を考え始めた。


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