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Enisi  作者: 中田 敦
エニシ教編
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91/208

91.戦闘開始

    戦闘開始


 ジョーイは、夢も見ずに深く眠っていた。馬車の周囲を沢山の人が行き交い、賑やかにしていても、目覚める気配はない。

 「おい、ジョーイ。起きろ!」

 気持ちよく目覚めたジョーイの目の前には、アイザックの顔があった。

 「やあ、アイザック。よく来たな。どうしてここに?」

 「何を寝ぼけてるんだ。お前だろ、緊急の応援要請を出したのは。」

 「ああ、そうだった。今、何時だい?」

 「もうすぐ昼だ。」

 「え、もうそんな時間?お屋敷の方はどうなっている?」

 「まだ、俺もこちらに着いたばかりで状況は良く分からん。」

 (おはよう、ジョーイ。よく眠れましたか?)

 (ああ、ぐっすりと眠れたよ。でも、その後の状況が気になるんだけど。)

 (今日の午前中は、屋敷に特に変わった動きは有りません。唯一、門に守衛が立っていない事だけでしょうか。)

 「ああ、そうだった。昨日、守衛のおっちゃんが、ごつい傭兵にいたぶられて、怪我をしたんだ。助けに行かなきゃ。」

 「おい、ジョーイ。突然どうしたんだ。」

 「ああ、ごめん。頭の中で、ナナと話していたんだ。」

 「ナナ?あの伝説の?」

 「ああ、グレイのホラ話でも、伝説でもなく、平本とナナが、昨日から俺の頭の中に居るんだよ。」

 「ところで、ジョーイ。『えにし』はこれだけあれば足りそうか?」

 アイザックが、背負っていたカバンから、『えにし』を取り出して、並べて行く。

 (ナナ、どうだい、足りそうかな?)

 (はい、これだけあれば、昨夜ジェームズが用意してくれた分と合わせれば、十分です。)

 (なら、良かった。アイザックも来てくれたし、これで教祖たちと戦えるね。)

 (はい。大丈夫です。)

 (それなら、すぐに砦に向かおう。ぐずぐずしていて、屋敷の雇われ人やこの領地の人に危害が及ばないうちに…)

 (ジョーイ。ここまで準備が出来れば、慌てる事はありませんよ。それよりも、顔を洗って、食事を済ませて下さい。)

 「そう言えば、腹が減ったな。昨日は干し肉しか食ってないんだ。」

 「ジョーイ、アイザック。向こうに食事を用意してあります。腹ごしらえをして下さい。」

 ジェームズが、用意してくれた食事をアイザックと一緒に掻き込みながら、この後の作戦について、ナナに尋ねる。

 (ジョーイ、アイザックに今から、頭の中に話しかけると伝えて下さい。私や、平本さんだけではなく、ジョーイの言葉も伝わるようにします。)

 (分かった。ちょっと待ってね。)

 「アイザック、驚きたまえ。今から、平本とナナの声が、頭の中に直接聞こえるぞ。それに俺の声もだ。心の用意はいいか?腰を抜かすなよ。」

 「ジョーイじゃあるまいし、そんな事じゃ驚かないさ。」

 (アイザック。それなら良かったです。)

 アイザックの頭の中に、ナナの声が響き、アイザックは驚いて周囲を見渡し、座っていた椅子から転げ落ちた。

 (ほーら、心の準備は大事なんだよ。アイザック。思い知ったか!)

 (ば、馬鹿野郎。ほんの少し驚いただけさ。)

 (座ってる椅子から転げ落ちるのは、ほんの少しとは言わない。)

 (アイザック。平本だ。今回はよろしく頼む。)

 (わ、今度は平本の声もした。スゲーな。)

 (はい。アイザックも落ち着いたようなので、この後の作戦についてお話します。

 まず、用意して頂いた『えにし』に付いている金具は、全て外してください。この作業はジェームズさんにお願いします。)

 「おーい。ジェームズ。ナナさんが、『えにし』に付いている金具を全て外してくっれってさ。」

 「分かった。準備しておこう。」

 (でも、金具なしで良いのですか?)

 アイザックがナナに尋ねた。

 (はい。金具は、『えにし』から、電気を取り出したい場合には使いますが、それ以外の用途に使う際には邪魔になりますから。)

 (ヘーェ。そうゆうもんなんだ。)

 (ジェームズが作業をしてくれている間に、攻撃計画を説明します。

 まず、作業場には、監視の兵が二名だけいます。この二名は、特にエニシ鋼製の防具は身に付けていません。

 この二人を、アイザック、本館の傭兵に攻撃をする直前に片付けて下さい。貴方の技量なら、二人を気絶させるのは何の造作も無いでしょう。

 (それぐらい、任せて下さい。)

 アイザックの口調(思考?)は、グレイに指揮されている時の様だった。

 (その後、ジョーイとアイザックは、準備した一番大きい『えにし』を二つ身体に縛り付けて、地下の傭兵たちに挑んで下さい。)

 (えー、あいつらは、赤エニシ鋼の防具を全員身に付けているんだよ。自殺行為じゃないか!)

 (大丈夫です。戦う必要は有りません。平本さんの力をお借りして、私が、ジョーイの触れた相手の防具を、通常の『えにし』鋼製に変換していきます。

 そうすれば、触れられた傭兵たちは、その殺気を受けたエニシ鋼の防具で身動きが出来なくなります。)

 (おーい。俺にそんな力があるのかい?)

 平本が、不安げに口を挟んだ。

 (はい。平本さんの異常なまでの同調能力を開放してもらえれば良いだけですよ。)

 (何だ、いつもの様に同調すればいいのか。簡単だな。でも、その化け物みたいな形容詞を付けるのは勘弁してほしいな。)

 (別に、客観的に修飾しただけで、化け物扱いはしていないと思ったのですが、以後気を付けます。)

 (で、教祖様の精神支配能力には、どうやって対抗するんだ?以前は、五人位しか乗っ取っていなかったけど。今は、二十人以上まとめて、支配しているみたいじゃないか?)

 (多くの人数に影響を及ぼせているのは、アヘンで支配対象者の正常な意識を混濁させている為と思われます。精神支配を受けている人々を直ちにアヘンの影響下から切り離すのは難しいので、『えにし』の力を最大限に借りて、『赤えにし』の思念波を妨害します。

 その為、アイザックとジョーイの二人には『えにし』を身体に縛り付けておいてもらいますが、それ以外の残った『えにし』は、攻撃の開始前に、砦の周囲に置いて行きます。

 配置場所は、ジョーイに紙に書いてもらい、ジェームズのグループに設置をお願いしましょう。)

 (なんだって!俺は、この砦の地図も書けないよ。)

 ジョーイが情け無い、声にならない悲鳴を上げる。

 (大丈夫ですよ。書くべき地図は、私が知っていますし、ジョーイの手は、平本さんが操りますから、何の心配もいりません。)

 (そうか、俺は何もする必要が無いんだ。良かった~!)

 (ジョーイ、そこはもう少し不安がった方が良いぞ。完璧に身体を平本とナナに支配されるって事だからな。)

 冷静なアイザックが突っ込みを入れるが、

 (別に、楽そうだからいいじゃん。)

 と、ジョーイのほうは、お気楽なものである。

 ジョーイは、用意された紙を前にして、ペンを手に握ると目を閉じた。

 ジョーイの手が、何者かに操れれるように(実際操られているのだが)すらすらと地図と、『えにし』の配置位置を掻き込んで行く。続けて、用意された『えにし』を配置位置に対応する記号を書いた紙を張り付ける。ここまで、ジョーイは目を開けることも無く、瞬く間に仕上げてしまった。

 「まったく。ジョーイの気楽さには、感心するぜ。」

 アイザックが、あきれたように呟く。

 「では、ジェームズさん達。よろしくお願いします。全部を置き終わったら地図を僕に下さいね。」

 ジョーイは、そう言うと、ジェームズに地図を手渡した。

 地図を確認したジェームズ達が、手分けをして、素早く『えにし』を所定の場所に設置して行く。


 「ジョーイ。『えにし』の設置はすべて完了した。ほい、地図を返すぜ。」

 ジェームズから、地図を受け取ったジョーイは、地図をテーブルの上に広げると、目を閉じた。

 (では、平本さん。配置された『えにし』から糸が一本引っ張り出される姿を想像して下さい。)

 (うん、一個ずつで良いよね。)

 (構いません。引き出した糸の端は、砦の中央の上に繋いでおくことをイメージしておけば、そこから勝手に動く事はありません。)

 (よし、慣れてきた。後、二つ。よーし、これで全部が繋がったぞ。)

 (では、アイザック、ジョーイ。突入して下さい。アイザックの攻撃開始に合わせて、『えにし』のフィールドを展開します。)

 (よし、ジョーイ、いくぜ!)

 気合と共に、アイザックが砦へと音もなく走り出し、ジョーイがその後に続いた。


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