90.戦闘準備
戦闘準備
自分達の馬車に、ずぶ濡れとなり、戻って来たジョーイを、ジェームズが向かえてくれた。
「ほれ、タオルだ。先ずは、濡れた服を着替えるついでに、熱いシャワーでも浴びてこい。」
「ありがとう、ジェームズ。でも、その前に緊急報告を出しておきたい。紙とペンを貸してくれないか?」
「仕方ないな。ほれ、さっさと済ませろ。報告書の送り先はどこだ?」
「ここから、一番早く連絡が付く所。」
「なら、手紙じゃなくて、直接話をした方が早い。ちょっと待ってろ。」
ジェームズが、二台目の馬車の荷台に潜り込む。
「おい、トムに連絡が着いたぞ。こっち、においで。」
ジョーイは、ジェームズに呼ばれて、馬車の荷台に飛び乗った。
ジェームズが、小さなラッパのような道具を差し出してくる。それをジョーイが受け取った時、荷台の奥から、トムの声が聞こえてきた。
「やあ、ジョーイ。遅くまでご苦労さん。」
ロンドンに居るはずのトムが、何故、この馬車に?
「あれ、ジェームズから聞いてなかったのか?
その馬車には、最新式の電磁波通話装置が積まれているんだよ。私は、今、間違いなくロンドンで話をしているよ。」
そう言えば、商品開発部で、そんな機械が作られていると聞いた事が有った。
「トム、遅い時間にすみません。今、私はプロイセンのホフマン伯爵の領地に来ているんですが、そこで、エニシ教の教祖がとんでもない事をしているんです。」
ジョーイは、かいつまんで今日の出来事を報告した。
「『赤えにし』か、それはまずいな。何としてもそこで流出を食い止めてくれ。応援の人員はどの程度必要だ?」
(ジョーイ。ジョーイと一緒にエニシの里で修練を積んだレベルの戦力があと一人と、正常な黒の『えにし』が六個から十個、それと、アヘン中毒患者の治療が出来る専門の人員が必要です。それから、フリードリヒ大王の支援も。)
「あの、黒い『えにし』六個から十個が、必要だそうです。私と一緒にエニシの里から戻った誰か一人。それから、アヘン中毒にされた人が大勢いるので、その治療に当たれる人と、フリードリヒ大王から、応援部隊も送って欲しいそうです。」
「うん?君以外にも誰かそこにいるのかな?」
「はい、平本とナナが、僕の頭の中に。」
「なら、ジョーイは、今、無敵だな。それを聞いて安心したよ。
依頼の品物と人員は、大王の応援部隊以外は、明日中にそちらに届くように手配しよう。
平本とナナがいるのなら安心だとは思うが、くれぐれも無理はしないでおくれ。」
「はい。有難うございます。」
通話を終えて、放心状態のジョーイは、ジェームズに荷台から引き出され、即席のシャワールームに放り込まれた。
「ジョーイ。こちらに来ているチームの持っている『えにし』は、これで全部だ。」
乾いた服に着替えを終わらせたジョーイの前に、ジェームズが、『えにし』を並べて行く。
「こんなにたくさん持っていたんですか。」
「ああ、お前さんが、さっき浴びていたシャワー用の湯沸かしから、耕運機に取り付けていた分、それに、通話機に使っていたものと、照明用。これで、全部だ。足りるかどうかナナ達に聞いて見てくれ。」
(ナナ、平本。これで足りそう?)
(当面の攻撃と防御には間に合いそうです。
しかし、教祖が所持している分に対抗するには、もう少し欲しいですね。)
「やっぱり、まだ少し足りないそうです。」
「
「そうか。じゃあ、応援が来るまで大人しく待つしかないな。」
ジェームズは、仕方ない、と肩をすくめた。
(じゃあ、応援が来るまで、大人しく待っていないといけないの?それでは、あの守衛さん達の命が…。)
(現在の状況を整理しておきましょう。
屋敷の地下には、八十六人の人がいると伝えましたが、その内、三十人は、この屋敷の奉公人や守衛などです。夜間は、地下室の牢に閉じ込められていて、日中は、教祖や傭兵たちの食事などの世話をさせられているようです。
地下の敵は、五十人を超していますから、ジョーイ一人で立ち向かうには無謀です。
教祖の所持している『赤えにし』の数は、作業場で使われている分を除いて、現在、確認できる数は八個になります。この数に対抗するには、これよりも多くの『えにし』があった方が安心です。)
(ナナは、俺とエニシの里で修練をしていた人間が、後一人って言ってたけど、俺と二人で、五十人以上を相手に戦うのも無謀じゃないか?
どう見ても、相手は歴戦の傭兵達だよ。)
(それについては、作戦がありますから、大丈夫ですよ。)
「ジョーイ。きちんと休息は取って置けよ。
休んでいる間の見張りは、こちらで引き受けるから。」
ジェームズが、深刻な顔をしているジョーイに声を掛けてきた。
「でも、屋敷の地下に閉じ込められている人たちの命が心配で。」
「だからって、寝不足で戦う方がもっと心配だぞ。」
(ジョーイ。寝られそうじゃないなら、俺が手を貸すよ。はい、強制就寝!)
平本の言葉が頭に響いた後、ジョーイの意識は無くなっていた。




