マルジンの新商品テスト
マルジンの新商品テスト
連日続いた、大工仕事が片付いた翌日だった。
マルジンたちの新しい機械が、大きい馬車に乗せられて運ばれてきた。
子供たちが、物珍しい、異様な機械に群がる。
前後の車輪に、薄い鉄板を帯状に繋げたものが、輪になって掛け渡されている。
機械の前方には、草刈り鎌の刃のような形をしたものが、何本も取り付けられていた。
「みなさん、これが世界を救う大発明品の最初の試験となります。」
マルジンが、誇らしげに宣言した。
「て、鉱山用に既に販売してきた機械の改造品じゃないですか。」
マルジンの助手を務めているジェームズが、ぼそり、と言った。
「何をおっしゃる、ジェームズ君。採掘用の削岩機は、岩をある程度の大きさに砕いて、コンベアの上に集めて乗せるもの。
しかしだね。荒れ地を開墾するには、土の中の大小様々な石を細かく砕き、木の根は、切り刻む必要がある。
そこで、回転する刃の形状は、全く新しく設計しなければならなかった。
さらに、開墾した土地に畑として畝を同時に作る工夫もされておるのじゃ。」
「でも結局、動力源の蒸気タービンは同じですよね。」
「ああ、改良を重ね、信頼できる動力部分は、確かにそのまま応用したぞ。しかし、車輪の代わりに、取り付けた無限軌道は、軟弱な地面で絶大な機能を果たすはずじゃ。
では早速、試運転だ。」
そう言うと、マルジンは機械の上に、よじ登り、取り付けられている椅子に座った。
椅子の前には、太い棒が二本並び、その左右に細めの棒が二本ずつ、縦に突き出している。
「では、皆さん、機械の周りから離れて下さい。危ないですよ。」
ジェームズの警告に、大人達は、慌てて、子供をかばう様に立ち、子供達を後ろに下がらせた。
「開発部の発明品は、よく爆発したりするからな。気を付けろ。」
ルイスが、油断なく突発事態に備えて、険しい顔を見せている。
マルジンが、足元から飛び出している左のペダルを一つ踏み、左手側の細い棒を手前に引いた。そして、右のペダルをそっと踏み込むと、大きな機械が、自力で動いて、荷馬車の荷台から降りてくる。
体の正面にある太い棒の一本を動かすと、機械は進む向きを変えてゆく。
「では、始めるぞ!」
左の細い棒を手前に引くと、前方に取り付けられた草刈り鎌が一斉に回転を始めた。
異様な回転音に子供たちの顔が恐怖で引きつる。大人たちは、固唾を飲んで見守る。
続いて、右側の細い棒を前方に押し込むと、地面から少し上で回転していた鎌の群れが、地表に押し付けられた。
今度は、正面の太い棒を二本同時に、少し前に押すと、機械は真っ直ぐに前へと進み始める。
機械が、通り過ぎた後ろには、荒れ地だった土地が、立派な畑に生まれ変わっていた。
「おお、すげーぞ。こんなに簡単に畑になるなんて。」
ルークが、歓声を上げた瞬間だった。
突然、機械はその動きを完全に止めてしまった。
「何だ。どうした?」
マルジンが、機械の各部を点検し始める。
しかし、止まった原因が、全く分からない。ジェームズも一緒になって問題点を探すが、一向に動く気配は無かった。
「こいつのせいじゃないですか?」
サムが、機械の前方に付いている鎌の刃の先を指さして言った。
「何?どこに問題が?」
「この機械の刃って、『えにし』鋼ですよね。そして、動力も『えにし』が使われている。」
「確かに、その通りじゃ。」
「やっぱり。ここにモグラの巣があるんですよ。」
「モグラ?ああ成程、じゃあ悪いが、モグラたちには、向こうの林に引っ越してもらおう。」
マルジンの指示で、子供達が、モグラの巣穴から、全てのモグラを引っ張り出し、少し離れた林の中に移動させた。
すると、さっきまで、びくとも動かなかった機械が、嘘のように動き始める。
「うむ、これは何か対策を講じなければならんな。」
マルジンが、腕を組んで考え始めた。
「耕す前に、モグラと野兎、それから、野ネズミの巣穴を全部取り除けばいいんじゃないですか?」
サムが、事も無げに言い放った。
「なるほど、確かにその通りだ。」
マルジンは、手を打って頷いた。
「サム、ありがとうな。それで問題は起こらないだろう。
子供達よ、他にも生き物の巣穴が無いか探して、移動させてくれんか?」
子供達が、一斉に開墾予定の荒れ地を歩き回り、他の生き物の巣穴を掘り返し始めた。
その後は、機械が突然止まる事は無く、順調に新しい畑が広がって行った。
新しく作られた畑に、子供達は、早速、ジャガイモを植え付け、試運転は無事終了した。
ルーク達が作り上げた納屋には、新しい機械が片付けられた。
その後、ルイスは、その使い方をジェームズから指導されていた。
新しい機械は、『耕運機』と名付けられ、多少の改良の後にブライトン商会から発売された。
そして、世界各地の農場に導入された結果、それまで、奴隷のように地主たちに使われていた農民を救うこととなった。
もちろん、そこに至るまでには、多くの抵抗があったが、それはまた、別の話である。




