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Enisi  作者: 中田 敦
海軍士官学校編
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40/208

潜在能力開放

   潜在能力の開放


 グレイ達は、鸚鵡亭の中に入った。

 「親父さん。大丈夫かい?」

 「ああ、おかげでなんともないよ。」

 「しかし、しばらく店を開けていないんだってな。何かあったのか?」

 「ああ、いつもの食材の仕入れ先が、食材を売ってくれなくてな。まともな材料がなきゃ、うまい料理は作れねぇ。店の開けようがなかった。」

 「なんで、急に?」

 「ああ、どうもギーニの野郎が裏で邪魔をしているらしくてな。」

 「なんて、非道なことをする輩だ!」

 チャーリーが、真っ赤になって拳でテーブルを叩く。

 「グレイ、やはりギーニは懲らしめねばならないぞ。」

 「チャーリー、見てたろ。あいつは、とんでもなく強い。今の俺じゃ手も足もでねぇ。」

 「何だ、いつものグレイらしくないじゃないか。この辺じゃ、お前が勝てない相手なぞ、いなかったろう。」

 「前にも言ったろ。俺なんて、本当に強い奴には敵わないさ。」

 そう言うと、グレイはテーブルに突っ伏してしまった。

 (グレイ。手を貸してあげようか?)

 「だ、誰だ!?」

 「おい、どうした突然。私達、以外にここには誰もいないぞ?」

 「いや、今、声が聞こえたような気がして…」

 (グレイ、君の頭の中にお邪魔している平本と言います。)

 「頭の中?」

 「お、おい、本当にどうしたんだ?」

 チャーリーが、心配そうに声を掛ける。

 (うん、実は今朝から、君の中でずっと見てたんだ。頭の中だから、声に出さなくても会話はできるよ。)

 (お前は、何者だ?悪魔の手先か?)

 (いや、違うよ。あ、でも、神様の使いでもないからね。)

 (じゃあ、誰なんだよ。)

 (うーんと、ただのお節介焼き?)

 (手を貸すって、何をしてくれるんだ?)

 (そうだな、さっきの大男、ブルだっけ、あいつに勝てるようにしてあげるよ。)

 (そんな言葉、どうやって信用しろってんだ?)

 (グレイ、あなたは先程、全力で戦おうとしていましたよね。)

 (もう一匹いやがったのか?)

 (あ、突然、失礼しました。私はナナと申します。平本さんは、理論的な説明が苦手なので、代わりに私がご説明いたします。)

 「おーい。グレイどこに行った?」

 カインが、突然黙り込んで天井を見つめだしたグレイの目の前で手を振って呼びかけたが、グレイは、戻ってこない。

 (人間の体は、どんなに訓練を積んでも、本来出せる力の半分程度までしか使えません。

 これは、全力を本当に出し切ってしまうと、骨や皮膚が、その力によって破壊されてしまうことを防ぐためです。さらに、動体視力、聴力など、脳の力は一割から二割程度しか発揮されていません。私たちが、手を貸せば、それらの隠された力を全て使えるようになります。)

 (大人しく聞いてりゃ、そんなホラ話かよ。)

 (では、少し実証して見せましょう。)

 (どうするんだ?)

 (あなたは、今、ポケットの中に革ひもを持っていますね。)

 (ああ、持っているが、何故そんなことを知っている?)

 (あなたの皮膚の感覚から予測しました。)

 (なんだそりゃ?で、革ひもがあったからって、どうすんだよ?)

 (あなたは、その革ひもを五本まとめて素手で引きちぎれますか?)

 (そんなもん、無理に決まってんだろ。)

 (では、試してみて下さい。)

 グレイは、頭の声の言うまま、ポケットの中から革ひもを取り出し、五本を束ねた。

 「おい、グレイ。突然どうした?」

 チャーリー達が、驚いて声を上げる。

 (では、先ず、あなたが全力だと思う強さで紐を両腕で引っ張ってみて下さい。)

 (こうか?)

 グレイは革ひもの両端を握り全力で左右に引っ張り、千切ろうとした。

 「お、おい。本当にどうしたんだ?」

 (ほら、無理だよ。)

 (では、もう一度。今からあなたの力を開放します。)

 グレイは、もう一度同じように力を込めた。

 ブチッ、ブチ。

 革ひもが次々と千切れていく。

 「なんだ、その力は?」

 チャーリーが、呆れて千切れていく紐を見つめる。

 (どうですか?今の状態で、あなたの力の六割を少し越した程度です。)

 (これで、六割だと?)

 (次に、ポケットの中の硬貨を一枚出してください。)

 (おう、出したぜ。)

 (では、軽くコイントスを天井に向かってして見て下さい。)

 グレイは、声の言う通りに硬貨を取り出すと、右手の親指で硬貨を上に弾いた。

 確かに、軽く弾いただけだったが、硬貨はグレイが思ってもいない動きを見せた。

 グレイの目には、とてもゆっくりと回転する硬貨が、ゆっくりと天井に向かって上がっていく姿が映っていた。そして、ゆっくり動く硬貨は、止まることも無く天井に向かい、天井の板を削り取ると、今度は、ゆっくりと落ちてきた。グレイはそっと手のひらを伸ばし、その硬貨を受け止めた。

 ビシッ。

 側で、見ていた他の三人の目には、グレイがコインを銃弾のような速さで弾き上げ、跳ね返ってくるコインをグレイが、目にも止まらぬ速さで捕まえたところしか見えなかった。


 (今度は、親指の強さを六割、動体視力を5割、手の素早さは六割開放しました。グレイ、いかがですか?まだ、納得がいきませんか?)

 (魔法なのか?)

 (いいえ。先程、説明した通り、あなたの肉体が持っている力を開放しただけです。)

 (少し考えさせてくれ。)

 (判りました。)


 グレイが、黙り込んだまま考え込んでいると、鸚鵡亭の表の扉が叩かれた。

 「誰だ?」

 ジャックが、緊張のこもった声で問いかけた。

 「クロエです。」

 「ああ、クロエか。悪いな、今日も休業だ。帰ってくんな。」

 「ジャック。違うんです。なんか人相の悪い男から、ジャックに渡せって、手紙を預かったんです。」

 「なに、手紙だと。ちょっと待ってろ。」

 ジャックは、そう言うと扉の閂を外し、クロエを中に入れた。

 「グレイ。お前もいたのか。」

 「ああ」

 「ジャックさん。これ、手紙です。」

 そう言うと、クロエは、手紙を差し出した。

 「おう、クロエ。ありがとな。」

 「じゃあ、俺はこれで。グレイ、またな。」

 「おう、またな。」

 クロエが、店を出た時には、ジャックが、手をわななかせて、手紙を握りしめていた。

 「ジャック、誰からの手紙だい?」

 「ギーニからだ。」

 「ギーニからだって?なんて書いてあった?」

 「リーシャを捕らえてあるから、店の権利書と交換しろと。」

 「何?リーシャを攫ったのか?くそ、ギーニの奴め。」

 グレイは、拳を強く握りしめた。

 「グレイ。どうする?」

 「チャーリー達は、先に学校に戻ってくれ。もう、道は判るよな?」

 「ああ、それは大丈夫だが、お前はどうするんだ?」

 「リーシャを助けに行く。」

 「おい、あの用心棒には勝てないんじゃないのか。そうだ、士官学校のみんなに、手を貸してもらおう。何人かで掛れば倒せるかもしれない。」

 「だめだ。お前たちに怪我をさせる訳にはいかない。」

 「でも、お前一人じゃ勝てないんだろ?」

 「そうでもない。今の俺は無敵かもしれないからな。」

 「どういう事だ?さっきから何か様子が変だぞ。」

 「まあ、悪魔かも知れないが、手を貸してもらう。」

 (決心が付いたのですね。私たちは悪魔ではありませんから安心して下さい。)

 (ああ、頼む。)

 「じゃあ、チャーリー、カイン。余計な心配わせずに寮へ戻ってくれ。気をつけてな。」

 そう言うと、グレイはチャーリー達を店から追い出した。

 「ジャック。手紙には権利書を持って行く、時間と場所は書かれているか?」

 「おう、今夜八時に港の古い倉庫に持って来いと書いてある。」

 「もう、あまり時間がないな。七時過ぎには助け出してくる。ジャックは、店で待っていてくれ。」

 「おい、グレイ。無茶をするなよ。」

 「大丈夫。今夜の俺は無敵らしい。」

 そう言うと、グレイは店を飛び出した。


 (グレイ。指定の倉庫にはまだ誰もいませんよ。)

 (なぜ判る?)

 (平本さん、拡張視野の同調をお願いします。それとグレイ、今から体力維持と脚力の一部開放を行います。視野が変わったら、平本さんの指示に従って走ってください。)

 平本の視野は例によってRPGの画面と化していた。街と港の地図が広がり、リーシャの現在位置と、ギーニ一党の位置がそれぞれ異なるマークで示されている。

 (じゃあ、グレイ一度立ち止まってくれ。視野同調を走りながら行うのは危険だからな。)

 グレイは、素直に立ち止まった。もうすでに鸚鵡亭から港までの距離は半分過ぎていが、グレイの息もかなり切れ始めている。まだ、春になり切らないこの季節の街は、夕暮れも早く、真っ暗になっていた。

 (じゃ、視野同調を始めるぞ。)

 もはや、言葉ではなく思考がグレイの頭の中で響く。そして、視界がおかしくなった。

 暗いはずの街の通りが、昼間のような明るさに見える。そして、建物の向こう側が透けて見えた。周囲を歩く人や馬車が壁の向こう側に見える。

 (左上を見てくれ。)

 平本と名乗った男の思考が聞こえ、グレイは自分の視界の左上を見た。そこには、グレイの良く知っている街と港が、地図になって浮かんでいる。

 (この地図の中で、緑色に光っている点がリーシャの現在位置だ。そして、赤色の二重丸は、ギーニだな。赤色の三角は、ギーニの雇っている用心棒だ。三人いるが、みんなかなり強い。黄色い三角は、やはりギーニの手下だが、ザコばかりだ。

 いまから、リーシャの所へたどり着く最短の道を案内していく、正面を見てくれ。青色の線が伸びているだろ。この線をたどって進んでくれ。)

 (わかった。チャーリー達の居場所は判るか?)

 (ああ、左上の地図に今、表示した。青い丸がチャーリー達だ。もうすぐ学生寮の門に入るな。)

 グレイは、安堵した。チャーリー達が無謀なことをしていないか、気にはなっていたが、無事の様だ。

 (では、グレイ。先程お知らせした様に、体の筋力を少し開放します。聴力と嗅覚、そして動体視力も強化します。軽く走ってみて下さい。)

 おかしな視界の中で、案内の線に従って、グレイは走り出した。グレイとしては、本当に軽く走っているつもりだが、グレイが全速力で走っている時の様に建物や周囲の物が動いていく。

 (この状態に慣れてきたら少しずつスピードを上げて行って下さい。)

 言われるままに徐々に速度を上げていく、今日のグレイは黒っぽい服装なので、この暗い通りを駆け抜けていくグレイに気付ける人はいない。グレイから見ると、静止している様に見える、人や馬車を避けながら駆け抜ける。

 左上の地図に目をやるとリーシャの居場所はもう目の前だった。

 (グレイ。一旦止まって、敵の位置と数をもう一度確認してください。)

 物陰に隠れたグレイは、左上の地図を見た。黄色の三角が大体三十程度。アジトに使われている建物の入り口に四人。残りは入り口を入ってから少し奥に行った大きめの部屋に固まっている。同じ広い部屋に赤の三角が一つ。あとは、さらにその奥のギーニの部屋と、その隣のリーシャが囚われている部家にあった。

(全員、槍や剣で武装しています。気をつけて下さい。)


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