鸚鵡亭の危機
鸚鵡亭の危機
鸚鵡亭の表の扉は、閂が掛けられ完全に閉まっていた。
勝手を知ったグレイは、迷わず店の裏口へ向かう。
店内からは男たちの話し声が聞こえてくる。
「ジャックさんよ。いい加減あきらめて、権利書を渡しな。タダとは言わねえ。そうだな、五ポンドでどうだ?」
「お前もしつこい野郎だな。誰が店を売るかよ。」
「ちょっと、痛い目を見ねえと分かってもらえんか。おい、ジャックさんの体に分からせてやりな。」
ギーニが、背後に立っている大男に命じた。
その時だった、裏口の扉から、グレイ達が飛び込んできた。
「おめーら、何してやがる。」
「だれでい、小僧。」
「この店の常連さ。話は聞いてたぜ。親父さんに手を出そうってんなら、まず、俺が相手だ。」
「ほう、勇ましい坊主だな。ああ、その顔は、この辺りで用心棒を気取ってるグレイってガキだな。」
「表に出な。ここじゃ店が壊れちまう。」
グレイは、そう言うと表の扉の閂を外し、外に飛び出した。
その後を大男がついていく。チャーリーとカインは、店の中でギーニと睨み合っていた。
(平本さん、気付きましたか。レオンが来ていますよ。)
(え?レオンって、元暗殺者の?)
(はい、アムステルダムで協力してくれたレオンです。)
(そうか。また協力してもらえないか聞いてみようか?)
(そうですね。このままでは、グレイが危険です。)
平本は、グレイを見つけ出すと話しかけた。
(グレイさん。お久しぶりです。平本です。)
グレイは、久しぶりの感覚に少し戸惑ったが、すぐに反応した。
(ああ、久しぶりだな。当然、ナナもいるんだろ?)
(はい。ご無沙汰しています。レオン。)
(で、今日は何の用だ?)
(あの少年と大男の戦いはどうなると思います。)
(あの坊主が、袋叩きになって終わりかな?殺されはしないと思うが、腕の一本や二本は折られるだろうな。)
(すこし、内緒で助けられませんか?)
(ああ、お前らが手を貸してくれれば、何とかなるだろう。だが、再会していきなり年寄りをこき使うんじゃねーよ。)
(それは申し訳ないのですが、お願いします。)
「噂は聞いてるぜ。お前は、この辺りじゃ敵なしだそうじゃないか。」
「そんなこと、どうでもいいだろう。かかってきな。」
「ああ、少し遊んでやろう。」
こいつ、かなり強いぞ。隙が見えない。グレイは、両腕をダラリとたらしたまま、構えもせずに近づく男を見て恐怖を感じた。
グレイは、左右の拳を顔の前にかまえ、男との距離を測る。身長は大男の方がグレイよりも頭半分ほど大きい。当然腕も長いだろう。スピード勝負か。
グレイの左拳が素早く、大男の顔に向けて放たれた。男は小さなバックステップで冷静に避ける。そこに、踏み込んだグレイの左拳が連続で放たれる。大男の大きな手が拳を掴みに来た。そこで、さらに鋭く踏み込んだグレイは、右こぶしで男の腹を殴りつけた。
「ふ、軽いパンチだな。」
男の腹筋は異常なまでに硬かった。まるで、石のような硬さだ。
グレイは、急いで男の腕が届く距離から大きく離れた。その時、グレイの顔の前を大きな拳が通り過ぎた。グレイは、身を沈めて右足で男の足を払う。が、男の足は、びくともしなかった。
男が上からのしかかるようにグレイの体を掴みにくる。グレイは、慌てて横に転がって逃れた。
また、距離を置いて、グレイが立ち上がった瞬間、男の額に何かが当たったのが見えた。
男の眉間から血が滴り、少しぐらつく。その時をグレイは逃さず、右フックで、男の少し前に出た顎を殴りつけた。
脳震盪を起こした男が、少しぐらつく。
「だれだ、邪魔をする奴は?」
大男が凶悪な表情を浮かべて、周囲を睨みつけた。その時、周りを遠巻きに取り囲んだ近所の住人たちが、一斉に男に向かって手当たり次第、手近にあったものを投げ付け始めた。男は、たまらず両腕で顔をガードしながら後ずさる。
「ブル、ずらかるぞ!走れ!」
鸚鵡亭を飛び出してきたギーニが、大声で叫んで通りを走りだした。ブルと呼ばれた大男も後を追う。
「ま、待て!」
ギーニの後を追って飛び出してきたチャーリーが追いかけようとする。
「チャーリー、止めろ!」
グレイの鋭い制止でチャーリーが、振り返る。
「だが、グレイ。あんな奴を放っておけるか。」
「俺達じゃ、追いかけても勝てねえよ。」
グレイは、周囲の住民に声を掛けた。
「みんな、ありがとう。助かったよ。」
「なあに、いつもこっちが助けてもらってるんだ。力になれて良かったよ。」
住民たちが、口々にそう言いながら解散していく。
(レオン、ありがとうございました。)
(あぁ、これで、また、二・三日は、右手が筋肉痛に悩ませらえれるな。)
大男の額に小石を弾いて出血させたのはレオンだった。
(じゃ、俺はこれで行くぜ。色々調べ物があるんでな。)
レオンは、人ごみに紛れて姿を消した。




