対策会議
対策会議
コニー広場の中心に戻ったグレイは、酋長のテントへと向かった。
テントの前には、ホークが戻って見張りに立っていた。
「やあ、ホーク。何とか村は守れたな。」
「ああ、グレイと神のおかげだ。」
「神?誰の事だい?」
「お前も見ただろう。灰色熊様が助けに来てくれた。」
「ああ、なるほどな。酋長に話があるんだが入ってもいいかな?」
「ああ、入ってくれ。」
ホークはそう言うと入り口を開けてくれた。中では、この間と同じように囲炉裏の向こうに酋長が一人で座っていた。
「失礼するよ。少し時間をもらってもいいかな?」
「もちろんじゃとも。今回は本当に助けてもらえて感謝しますじゃ。」
「まだ終わった訳じゃないですがね。」
「と、言いますと?」
「まだ、軍艦は入り江にいますし、今回捕らえた兵たちを返さないと立ち去らないでしょう。
いや、兵たちを返したとしても、素直には立ち去らないでしょう。」
「では、何か良い案は無いかの?」
「私の仲間が、皆揃ったところで相談をしたいと思います。酋長もご参加いただけますか?」
「ああ、是非参加させて頂きたい。」
「では、後ほど仲間が揃ってところで呼びに参ります。」
「いや、このテントを使われればよかろう。暖かな食事も用意させておこう。」
「有難うございます。では、後ほど。」
酋長のテントを出たグレイは、周囲を見渡し仲間の姿を探した。
その頃、フランクとコーダーはマッキントッシュ小隊の囚われている場所にたどり着いた。手足を縛られた十七人は、何とか戒めを解こうと奮闘している最中だった。
「おう、頑張ってやがるな。もう、熊に食われたかと思ってたんだが無事らしい。」
「こんな不味そうな奴らを食おうなんて物好きな熊はいないんじゃねーか。」
「そりゃそうだ。」
コーダーとフランクが近づくと、気づいたマッキントッシュが、貴族らしく尊大に命令した。
「君たち、早く我々の縄を解かんか。」
コーダーが答えた。
「はい、ただいま。マッキントッシュ様。」
そう言ってコーダーはマッキントッシュの側に立つと、いきなり腹を踏みつけた。
「ゲホッ」
マッキントッシュの顔が歪み、苦し気に悶えた。
「人さらいが偉そうに命令するんじゃねえ。」
コーダーはそう言うと、腰のナイフを鞘から抜き、マッキントッシュの顔のわきに突き立てた。
「大人しく言うことを聞かねえと次は命がなくなるぞ。」
地面からナイフを引き抜くと、わき腹を蹴り上げて転がし、足を縛ったロープを切り落とした。
「立て!」
まだ両手を背中で縛られたままのマッキントッシュに命じた。マッキントッシュは、状況を理解したようで、おびえながら立ち上がろうとしては、何度か倒れて顔面を打った。
「全く世話が焼けるお貴族様だな。」
そう言って、コーダーが腕を縛ってある縄を掴んで強引に立たせた。
そうこうしている間に、フランクは手早く他の兵士の足の縄を切り落とし、全員を立たせていた。
「コーダー、そいつに何か恨みでもあったのか?」
「ああ、こいつの実家の領地が、俺の故郷でな。こいつも一度、領地に来た事があって、もっとひでぇ事をしてやがった。」
「何だ、今までそんな話はしたことはなかったろ?」
「いつか仕返しをしてやりたいとは思ってたが、軍隊内でそんなことをした日にゃ、すぐに銃殺刑だろ。だから、ずっと隠してきたんだ。」
フランクとコーダーは、兵達を後ろからサーベルで脅しながら上陸地点へ追い立てて行った。上陸地点が近づくとフランクはコーダーを先に行かせて様子を探らせた。
「フランク。設営場所には誰もいなかった。ただ、ボートが一隻も残っていなかった。どうも、コビーから水夫たちが回収に来たらしい。」
「そうか、ではお前たちは大人しく海岸へ行って助けを呼びな。ほら、全体進め!」
フランクが、ドスの利いた声で命ずると、兵たちはよろよろと進み始めた。
「じゃあ、俺達も戻るとしようぜ。」
フランクが、海辺に近づく兵士を見てコーダーに声をかけた。
「おう。」
コニー広場に戻った二人は、すぐにグレイの姿を見つけて、マッキントッシュ中尉の部隊は、無事上陸地点へ戻ったことを報告した。
「そうか、ご苦労さん。では、酋長のテントへ行って腹ごしらえをしよう。それが済んだら、作戦会議だ。」
「へい。」
六人は、捉えたオコナー大尉たちの監視をホークの部下たちに頼むと広場の中央へ向かった。
広場の中央では、盛大に焚火がたかれ、うまそうな料理の匂いに満たされていた。
住民の笑顔に出迎えられ、六人は焚火の周りの席を勧められた。
「では、灰色熊の神に感謝して宴を始めよう。」
酋長の言葉で宴会が始まった。
グレイ達は、思う存分腹を満たし、グレイと酋長を中心に明日の作戦会議を始めた。
「先ほども酋長に申し上げたのだが、オコナー達をコビーに送還したとしても、海軍は大人しく引き上げることはないだろう。
かといって、ここで戦って撃退することはしたくない。水夫たちは良い連中だし、傷つけたり、ましてや、命を奪うようなまねはできない。」
「でも、何もしなければ、いずれあいつらにいいようにされる可能性が高い。」
「うん、俺も去年まで士官候補生としてアフリカ沿岸や南アメリカの植民地化された土地を見てきて、白人に騙されたという人々をたくさん知っている。」
「まもなく、秋が終わり、冬がやってくる。あの入り江に停泊していれば冬の嵐が追い払ってくれよう。」
酋長が言い、ホークたちもうなずいた。
「我々もここから離れた越冬地に移動しなければなりません。」
「そうか。酋長、冬が始まるまで後、どの位の日にちが有りますか?」
「そうじゃの、次の満月が昇るころまでじゃろう。」
「とすると、後、三週間程度か。」
「フム、越冬地に出発するのはその十日ほど前になる。」
「と、なるとあと十日で何とかしないとな。」
(グレイ。せっかくですから手を貸しましょう。)
唐突にナナがグレイに語り掛けた。もちろん、グレイ以外に伝わってはいないが。
(ナナ、また俺の力を使うのかな?)
(はい、平本さんが構わなければ。)
突然黙り込んだグレイの様子を周りの者たちは不思議そうにのぞき込んだ。
その間に、短時間でグレイに説明するために言葉を介さずイメージだけで平本が作戦の内容を伝えた。
「判った。それで行って見よう。」
唐突なグレイの発言に周囲が戸惑った。
「アレックス。あの大砲は撃てるか?」
「鹵獲した大砲ですね。先ほど点検したところ、まだ使えそうです。」
アレックスが報告した。
「酋長。越冬場への移動は急がせたらいつ頃出発できる?」
「そうじゃの。五日は準備のために欲しいかの。」
「そうか、五日以内に片づけるか。」
「フランク、あいつらから回収した銃は何丁ある?」
「へい。ボブどれだけある?」
「四十丁です。」
「弾薬は二千発ほど。」
「少し少ないな。」
「アレックス。コビーの大砲の射程距離は?」
「そうですね。古い奴ですから三千ヤードが限界でしょう。」
「鹵獲した大砲は?」
「平場で二千五百ヤードですね。しかし、入り江の見張り場は、標高が三百五十ヤード程の場所なので、あそこからならコビーに届きますよ。」
「見張り場?大砲を引き上げられそうな場所か?」
「はい。フランクとグレイがいれば行けます。」
「誰か、紙とペンを持っていないか?」
「俺が持っているもので良ければ使ってくれ。」
と、ホーク。
「ホークがなぜ紙とペンを持ってるんだ?」
「去年来たフランスの探検隊を案内してやった時に礼としてもらったものだ。」
「ほう。フランスの探検隊?軍隊ではなく?」
「ああ、フランスの大金持ちらしい。四日で音を上げて帰って行った。」
「言葉は判ったのか?」
「ああ、俺はフランス語も得意だ。」
「すごいな。」
「では、紙とペンは今晩にでも少し分けてもらえるかい。」
「いいぞ、後でもって来てやる。」
「では、明日の朝、改めて作戦を説明する。今夜は少し準備をしたいのでこれで休ませてもらおう。」
その時、捕らえておいた囚人の方から絶叫が響いてきた。グレイ以外は、皆驚いてオコナー達のところに駆けつけた。
取り合えず木と縄で作った牢の中で、オコナーが横たわりながら悲鳴を上げていた。
「グレイ。どうします?」
「こいつは、今、悪夢の中にいるそうだ。蹴り飛ばしても目は覚まさないらしい。
ここじゃ村の皆に迷惑をかけるな。少し離れた場所に全員で移動させよう。」
グレイ達は、牢の中にとらわれていた兵士たちの縄を解いた。兵士は、自分たちがこの後も入れられる牢を解体し、オコナーと共に担ぎ上げた。
そして、村から適度にはなれた場所に移動し、改めて組みなおされた牢に閉じ込められた。
牢の見張りはホークの部下たちが交代でしてくれることになった。
撃退作戦開始
翌朝、グレイは部下と酋長、ホークに囲まれて指示を出していた。
「まず、酋長とホークには、これを見て欲しい。」
と、一枚の紙を酋長に手渡した。
「グレイ殿。わしもホークも英語は話せるが、文字は読めぬ。これは何が書かれている?」
「イギリス国王に対する手紙です。内容は、ワイアンドットの土地は、イギリスの物ではなく、この土地に住まう者の物だと。交易をしたければ、正式な使者を使わして平等な契約を結ぶことは拒まない。という内容です。
この手紙を捕らえたオコナーに持たせて国へ帰らせます。」
「素直に従うかの?」
「大丈夫です。彼は、昨夜から悪夢にうなされていて、悪夢と同じことにならないよう間違いなくこの手紙を国王か、宰相に渡すでしょう。
ただ、ワイアンドット族だけではこの先、力不足になって行くでしょう。他の部族とも協力して、白人が、植民地として好き勝手ができないようにする必要があります。
この冬の間に少しでも多くの部族と連絡を取って、協力を要請して下さい。」
「コーダー、ホーソン、ボブの三人は、接収した銃の構え方をホークの部下たちに教えてやってくれ。ホークも協力を頼む。銃撃は三列横隊陣で出来るように指導してくれ。」
「フランク、アレックス、大砲を見張り場所に持って行くぞ。」
「酋長殿は、越冬場への移動準備を大至急進めて頂けないか?」
「よかろう。」
「越冬場には俺たちもついて行く。どうせ軍隊を辞めたら、国へはしばらく帰れんだろう。頼めるか?」
「大歓迎じゃよ。」
グレイの指示に従って皆が一斉に動き始めた。
グレイは、フランクと共に急坂を重たい大砲を引っ張り上げると、大砲を発射できるように見張り場所を整えた。砲撃の反動を吸収出来るように砲の後方に三十度ほどの角度で滑らかな土山を作り、山の上に丸太を横たえる。
「アレックス。大砲を点検してくれ。」
「あいよ。」
アレックスが大砲を点検している間に、コニー広場に戻ったグレイとフランクは、砲弾と火薬を背負って見張場に戻る。
「どうだ?アレックス。」
「はっ。大砲に問題はありませんでした。ただ、ここからコビーに砲撃を当てるには少し射角が足りないかも知れません。」
「どうすればいい?」
「はあ、二発ほど撃って障害物を破壊します。ご許可があればですが。」
「そうか。一日待ってくれないか?」
「はい。わかりました。」
グレイ達は三人でコニー広場に戻って行った。
広場では、大勢の野次馬に囲まれて戦士十人がコーダーとホーソンに銃の構え方と隊列の入れ替えの特訓を受けていた。ボブはと言うと、銃に火打ちを取り付けていた。そうして整備した銃を木箱に納めて保管している。
「コーダー。調子はどうだい。」
「ホークが上手に通訳をしてくれて助かっています。一週間もあれば、実戦にも出られそうですよ。」
「ああ、言い忘れていたが、今回、彼らは構えるだけで銃は撃たないから。弾の込め方なんかは教えなくてもいい。撃つ格好だけで十分だから。」
「それなら、明日にはみんなできてしましますよ。」
「それは助かるな。では、明後日が本番かな?」
「本番ですか?」
「うん。オコナー達をいい加減でコビーに送り返す。その時に、オコナー達の後ろで銃を構えていてもらうだけだから。」
「アレックス。明日、大砲をぶっ放して障害物を蹴散らそう。それから、コビーに向けて当たらないように一発か二発、脅しで撃ってくれ。」




