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Enisi  作者: 中田 敦
グレイ小隊編
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13/204

戦艦コビーとオコナー大尉の悪夢

   戦艦コビー


 船長室では、マッキントッシュ中尉が艦長と向き合い言い争っていた。

 「艦長!もう一度私に行かせてください。グレイ海尉に好き勝手を言わせておく訳にはいきません。あんな国賊、ひっとらえてやります。」

 「しかしな、オコナー大尉がどうしているかもわからんのだぞ。昨日は銃声もしていた。第一、君たちの武装は、すべてグレイ達に奪われたのだろう?無武装でどうやって彼らに勝てる。」

 「この艦には、予備の銃器も積まれていたのではないのですか?それをお貸しください。」

 「あるにはあるが、旧式の火縄銃だぞ。新型銃相手に火縄銃で勝てるのか?」

 「では、艦載砲で砲撃を行いましょう。」

 「どこを撃つ?」

 「とりあえず手当たり次第に打ちまくります。さすれば、おびえて森の奥に逃げ込むでしょう。そこを一気に追撃して仕留めます。」

 「砲弾がオコナー大尉の部隊に当たるかもしれん。許可できんよ。」

 「そこを何とか。艦長お願いします。」

 その時、砲声が響いてきた。

 二人は慌てて艦長室を飛び出し、デッキに出た。

 「何だ?今の砲声は?」

 「はっ。陸の方から聞こえました。」

 艦の右舷に行くと水夫たちが森の上の方を指して騒いでいる。

 「誰か、何があったか報告しろ。」

 「はい。あっちの丘の上で大砲が鳴って、大きな木が吹き飛びました。あの大砲の音はオコナー大尉たちですね。」

 「そうか。オコナーが撃たせたのか。」

 続いて、もう一度砲声が響いた。と、丘の上の木が吹き飛ばされ白煙が上がった。

 「さすが、大尉だな。もうすぐ土民共を引き連れて戻ってくるだろう。今回の作戦は、大成功だな。」

 と、さらにもう一度砲声が響き、今度は砲弾が艦の上を飛び越して海に水柱が上がった。

 「なんだ。今のは?」

 「勇敢なイギリス海軍の諸君!」

 大音量の声が響き渡った。

 「なんだ?誰だ?」

 「ご無沙汰しております。フランク軍曹であります。」

 船内からどよめきの声が響く。

 「今ご覧頂いたように、貴鑑は砲撃の射程内であります。これから、オコナー大尉の隊が帰還されますが、くれぐれも間違って砲弾を当てないようにご注意下さい。」

 その言葉と同時に森の中から両手を挙げたオコナーの小隊が出た来た。そして背後には新式銃を構えた先住民が現れ、しっかりと銃を構えた。

 「では、大尉のお出迎えをお願いします。」

 「砲手、あいつらの大砲には、こちらから攻撃できるか?」

 「無理です。あの高さには届きません。」

 「では、ボートを出せ。急げ!」

 コビーからはボートが下ろされ、恐る恐る海岸に近づく。

 海岸で待つ兵士たちは、まともに一人で立てるものは半分もいない。

 船に収容され、軍医の診断を順番に受けた結果、重傷者も適切な処置を早期に受けており大きな問題のある者は一人もいなかった。

 ただ、全員が極端な睡眠不足になっており、全員寝床に放り込まれるやいなや、深い眠りに落ちて行った。

 翌日の朝遅く、起床したものから順番に、艦長が状況報告を聞いた結果、寝不足の原因は、オコナー大尉に有ることが判明した。

 オコナー大尉の小隊が、灰色熊の襲撃により大打撃を受けたのち、グレイ達に拘束され、先住民の手厚い治療を受け、眠りに就いた夜の事だった。

 オコナーは、悪夢を見て二晩うなされては大声で叫び続けていたのだった。



  オコナー大尉の悪夢


 「ナナ。その行為は人道的に許されないんじゃないか?人の思考を第三者が許可も無く勝手に変えるなんて。」

 「確かに、第三者が意図的に誰かの考え方を変えてしまう事が可能であれば、そのノウハウを持つ者は世界の支配者になる事も可能となります。」

 「そんな支配者になるのはごめんだね。」

 「そうはっきりと断言できる平本さんにだからこそ、お願いできるのです。」

 「いや、絶対だめだ。」

 「そういわずに、どこにも証拠は残りませんし、だれも気付きはしませんよ。」

 「いや、証拠が残らないとか、気付かれないなんて、言い訳にはならないよ。」

 「そうですか…。残念です。では、少し方法を変えましょう。」

 「どう変える?」

 「直接思考を同調させて強制的に変えるのではなく、対象者に、予知夢として今後起こり得る未来を見せてあげるのです。」

 「で、俺もその夢に付き合わなきゃいけないの?」

 「いいえ、平本さんには、オコナーの意識と『エニシ』とをつなぐ中継器になってもらいますが、平本さん自身にはその夢のデータは見えません。」

 「『エニシ』が、まずそんな悪行に加担するかな?」

 「そうですね。『エニシ』の協力が得られなければ、どのみち実現は不可能ですね。と、いう訳で実験してみましょう。うまく行けば、今後色々と便利な武器になるはずですし、『エニシ』が賛同してくれない限り実行はできませんから、平本さんが世界の支配者になる事もありません。」

 「だから支配者に用は無いって。実験なんて軽く言うけど本当に俺にできるのかい?」

 「では、始めましょう。」

 「いや、やり方を説明して。」

 「そうですね。平本さんの精神同調のほんの少しを分離して、オコナー大尉の意識内にしばらく固定してみましょう。」

 「そんな器用なことが俺にできる?」

 「私がやります。優秀なAIですから、簡単な事です。いつものように特定の人に平本さんの意識を少しだけおいてくるだけですから。」

 「俺の意識を粘土みたいに扱うな!」

 「大丈夫です。ほんの少しだけですから、痛くもないですよ。」

 「ほんと?絶対痛くしないでね。」

 「はい。では、始めます。」

 ナナが、そう言っても俺には何も変化が無かった。

 「まだ?」

 「いいえ。もう始めました。」

 「もう?」

 「はい、今、オコナーの意識に『エニシ』が持っている「起こりえる未来」が流れています。」

 「起こりえる未来?」

 「前にもご説明した通り、この宇宙の歴史は一つではありません。

 無限の可能性の内の一つが、選択され観測されて初めて確定します。

 オコナーが見ているのは、確定観測がされていない未来の出来事です。その中では、オコナーは、自由に自分の行動を選択できます。

 ただ、その選択の結果、手に入る未来は、吉と出るか、凶と出るか。

 『エニシ』は可能な限り夢の進み時間を早めて、短い時間で出来るだけたくさんの予知夢を見せています。」

 「ナナには判るの?」

 「はい。平本さんがオコナーの悪夢に付き合うのは御免だと仰ったので、平本さんには何一つ感じられなくしておきましたが、私は全てモニターしています。それが責任あるAIの正しい姿ですから。」

 「自画自賛ですか。友達からは嫌われるタイプかもね。」

 「私は人間ではないので、友達と言うものを必要としておりません。ですから、放って置いて下さい。」

 「ごめん。言い過ぎた?」

 「大丈夫です。」

 「で、オコナーは、どんな悪夢を見て、絶叫したり、震えたりしているんだろう。五月蠅くてしょうがないんだが。」

 「そうですね。先住民をたくさん捕まえて帰国し、奴隷として販売して大金持ちになった所で、奴隷販売禁止法が制定されて全財産は没収の上、販売に関わった首謀者は絞首刑になる、という夢ですとか」

 「そんな法が、本当にできると良いのだが。」

 グレイが、突然口を(思考を)挟んだ。

 「なんだ、グレイ聞いてたのか?」

 「ああ、あんたらも、勝手に人の頭ン中に入り込んで、あーだ、こーだと打合せしてんじゃねーよ。俺の頭ン中は宿屋じゃねーぞ。」

 「済みませんでした。打ち合わせに集中した結果、遮蔽フィールドが緩んでいることに気づき…。え?フィールドは正常にかかっている。」

 「ああ、あの邪魔な幕ならどかしたぜ。」

 「自力でですか?」

 「もちろん。」

 「驚きました。グレイはもしかしたらすごい能力を持っているかもしれません。」

 「どんな能力だい?」

 「まだ、はっきりとは分かりませんが、私の仲介なしで『エニシ』と繋がれるかも。」

 「そうか、そりゃ楽しみだ。で、オコナーの奴は他にどんな夢を見てるんだい?」

 「ここからの帰国をぐずぐずと遅らせている内に、冬の嵐に巻き込まれて難破し、そのまま死んでしまう夢とか。」

 「あ、これは、酋長からの親書を握りつぶしたことが、宰相にばれて、軍を首になった上に監獄に入れられ、病気で死んでますね。」

 「今度は、親書をマッキントッシュ中尉に奪われて、手柄を横取りされたうえで、海に落とされて暗殺されました。」

 「つぎは、マッキントッシュ中尉の魔手からは無事逃れて、国王と宰相に提出して、お褒めの言葉をもらっていますね。階級も一つ上がりました。再度、北アメリカに艦長として出航した後で、フランス海軍に撃沈されました。」

 「これは、さっきの夢のやり直しで、お褒めの言葉をもらった所で、海軍を辞めようとしていますね。方々に頭を下げて、ようやく海軍は辞められたようです。で、領地に戻ったら、相続争いが起こって、あ、また暗殺されました。」

 「ナナ、もう、いいよ。いくら夢とはいえ、踏んだり蹴ったりだね。」

 「しかし、全てオコナーの選択の結果ですから、こう云うのを自業自得と言うんでしょうね。」

 「幸せな夢は見られないのかい?」

 「『エニシ』も色々さがしてますがなかなか見つからないんですよね。」

 「あ、一つ見つかった。領地に戻った後、相続争いに加わらずに、田舎に小さな家を一軒もらって、隠居しました。お孫さんが時々遊びに来てくれて、ああ、今度は老衰で亡くなりました。家族に見守られて、幸せそうな笑顔で息を引き取りました。」

 「お、オコナーの奴、気持ちよさそうに静かに寝だしたぞ。」

 「ああ、静かになってよかった。」


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