初体験は爆風に消える
唇に唇が重なるのは、ふわっという感覚だった。
押し付けるでもない夜久の唇は、触れた後に私の唇を擦るように微かに動き、私は微かなその摩擦によって腰のあたりにびりっと電気が走った。
「はあ。」
唇は勝手に開き、すると夜久は第二弾の攻撃を仕掛けてきた。
キスは舌を入れるもの?
そんな気持ちの悪いものなど絶対にしないと、ディープキスについて友人達と語り合った時には思ったものだが、気持ち悪いと感じないのは何故だろう。
夜久の舌はミントの味がすると感じただけで、夜久に嫌悪感が生まれるどころか、私の口の方が臭いんじゃないかと脅えたほどだ。
柔らかな舌は私の口の中を探索して、唇の裏や私の舌を突いて来た。
私ははふって喘ぎ声を出しながら夜久にしがみ付き、夜久は私の口の中で笑い声を立てながら私をゆっくりとベッドへと横たえた。
背中にパフって布団が当たった。
私の唇から夜久の唇が剥がれ、私はこれで終わりとホッとしながらも、物足りなさまでも感じていた。
だからか、夜久の肩を掴んでいた私の手は、夜久の頭と背中へとそれぞれが勝手に動いてしまった。
でも、私の両手が彼の探索を始めた途端に、それこそ待っていたという風に、私の唇は夜久の唇に再び塞がれたのである。
私のシャツは夜久の体の下ではだけ、夜久は私に自分の体を密着させてきた。
私は夜久の肌を直に感じる事になるのだ。
おや、ごろごろもぞもぞと、細長い紐が大量に体を覆っているような感触?
夜久の肌はムダ毛も無いつるピカじゃなかったか?
「ゴロゴロする?」
私は夜久の唇を受けながら、そっと目を開けた。
私の身体は白いひも状のもので覆われている?
「ぎゃあ!何よこれ!」
私の悲鳴に夜久はぷすっと吹き出して、私の上から簡単に退いて、私の横に転がって笑い出した。
「わ、笑ってないで!一体私はどうしちゃったの!」
「ハハハ。助平な妖精のこれこそ目的だ!」
「目的?」
「動物の性行為は動物だけのものだ!永遠の命の妖精は繁殖する必要は無いだろう?外見に人間に近い形の奴もいるが、それでも人形みたいなつるピタなんだよ。本来の生物的な性は無い。だけど性行為には憧れる。だからこうして人間の体に憑依して、人間の営みの味見をしているって事だ。」
「わ、私、憑依されてこんななの!いやだ!気味が悪い!外して!」
夜久は再び身を起こして私に覆いかぶさると、私を見下ろして悪魔のような笑みでニヤリと笑った。
「最後までやれば妖精は満足して離れるよ?突っ込んでいいかな?」
私を縛り包む白い触手は、夜久の言葉に返事をするようにしてひらひら動いたが、本体である私が突っ込まれたいはずは無い。
「いやだああああ!助けて夜久!こんなのは嫌だあああ!」
本気で嫌だった。
体を見ず知らずの妖精に共有されるなんてと、白い触手という気味の悪いものに纏わりつかれる状況に生理的嫌悪感ばかりだと、もうとにかく嫌でたまらないと大声で叫んでいた。
こんな境遇にしやがってと、見ず知らずの恥知らずな妖精に対して、殺してやりたいくらいの勢いで、自分の体から出て行けと叫んでいた。
「もう嫌だああああ!」
ばふ!
私の体の中で発泡スチロールが爆発しちゃったような感覚を感じ、すると、私は再び夜久に抱きしめられた。
「しがみ付け!今だけ全身全霊で俺を望むんだ!」
「やく!」
私は必死になって彼にしがみ付いた。
腕を彼の体に回しただけでなく、足だって彼の体に回してしがみ付いた。
彼の身体は熱かった。
火傷しそうなぐらいに熱くて、それでも私は彼の体にしがみ付いた。
熱くて痛い。
自分の体から、夜久の体からも炎が噴き出しているのが見えたけれど、私は夜久から手を外すことが出来なかった。
天井の鏡に夜久と自分の姿が映っていたからかもしれない。
ベッドは真っ赤で毒々しい多肉植物みたいな花でしかなく、私はその花から出ているおしべかめしべに巻き付かれているという姿だった。
「こんな化け物花に喰われるのは嫌だあああ!助けて!夜久!戻れたら何だってするからああああ!」
私を抱き締める男は私の耳元に、最高の約束だ、と囁いた。
チーンと時計が時刻を知らせる音が部屋中に響いた。
時計があった壁が大きな爆発音を立てて吹き飛び、私達はその爆発の爆風によって舞いあげられて吹き飛ばされた。




