十八話 魔法教室
「学院長、シオンに魔法教室を開講させるのは不味くないか?」と、宰相。
「しらを切りましょう。知らなかったで押し通しましょう。それよりかシオンに魔法を教えさせて魔法の技術で他国より頭一つ抜ける方が重要です」
「しかし、飛行魔法が公になると他国との間で揉めるのは必至」
「分かった、飛行魔法は秘密で他言無用にする。魔法技術の向上がどの程度のものでどれくらいで習得できるか知りたい。飛行魔法を習得すれば隠し通すのは無理だ、心配しても仕方なかろう」と、陛下。
「学院長、ベスは舞い上がり過ぎじゃ、ペラペラ喋らないように釘を刺しとけ」
「はい……」
「もちろん、私からも言っておく……」
学院長室、
「シオン君の特別魔法教室の希望は何名かね?」
「15名、プラス、私です」
「補講授業を受けた8名全員が魔法を覚え、彼らが凄い先生と吹聴しています。しかし半年の休日が全部無くなるのは受講意欲を著しく下げるみたいです」
「なぜ平日の放課後ではダメなのか?」
「ある程度の時間連続して魔法の練習を行わないと効果がでないそうです」
「まあ、良いか、やる気のある生徒が集まる。授業を受けられる人数は何名だ、全員は無理だろ。シオン君は何名にすると言っているのか?」
「私を入れて8名がちょうど良いと」
「それも少ないな」
「5の日の放課後に面接をするみたいです」
「どんな面接か? シオンを呼んでくれ」
「はい、学院長何でしょうか?」
「特別魔法教室の面接内容を聞かせてくれ」
「2つのグループに分けます。1つ目のグループは魔法が使えない、または風魔法だけしか使えない生徒、2つ目のグループはそれ以外の生徒に分けます。1つ目のグループはやる気を見せてもらいます。2つ目のグループは技術と習熟を見ます。」
「その、やる気とは何じゃ?」
「1つ目のグループの生徒に優劣は付きません。どれだけこの授業を受けたいかアピールしてもらい判断します」
「技術と習熟は何を見るのか?」
「どの魔法が使えるかによって習得できる魔法に違いがあります、その評価です」
「良く分からんが、面接を受けた生徒に点数をつけてリストにして出してくれ。最終判断は王宮で行う。良いな?」
「はい、しょうがないですね」
「ああ、しょうがない」
学院某教室、
「エリザベス先生、父を説得してくれませんか?」
「ルドルフ君、それは君が説得しなさい」
「僕は、シオン先生の風魔法の教えを受けたいんです」
「君、風魔法は出来るようになったよね」
「シオン先生の魔法は僕なんかと全然違うんです」
「どう違うの?」
「シオン先生は、風の吹き始める位置を自由に変えられました。風の吹く面積を自在に変えていました、例えば指3本分の太さの風や指1本分の太さの風を吹かせました。こんなに自由に風魔法を操る人を始めてみたんです」
「えっ、そんな事出来るの?」ベス、真っ青。
「分かりました、宰相に話はしておきます。あなたもお父さんを説得する努力をしなさい」
「はい、もう一度話し合います」
学院長室、
「シオン君、これが合格者のリストだ」
「はい、ルドルフ君を入れたのですね。宰相が外すと思ってました」
「ルドルフ自身が大いに宰相とやりあったそうだ」
「このふたり入れたのですか? 私は外してほしいと書きましたが」
「そのふたりは魔法の成績は1番と2番の使い手だ。親の手前外すわけにいかなかった」
「彼らは苦労しますよ」
「やはり面接の成績はまるっと無視されましたね」
「すまない。難しいんじゃよ」
学院某教室、
「初めまして、私がシオンです。週に2回君たちの魔法の訓練の手伝いをします。魔法は簡単であり、難しくもあります。
」
「これからの予定を説明します。風、水、土、火、炎の魔法を一月で習得してください。習得できない者は今回の魔法教室から外れてもらいます。風魔法のみのふたりは、3の日の放課後授業を行います。残りの者は2、4の日に行います。時間はあまりありません、大変難しいと思います。何か質問がありますか?」
「風魔法だけの生徒がなぜ日数が少ないのですか? 普通逆だと思いますが」
「風魔法だけの生徒は問題なく覚えられます」
「他に?」
「……」
「では、明日から頑張ってください」
「シオン先生、少しよろしいでしょうか?」
「はい」
「先ほどの言い方はおかしくありませんか」
「そうですね、私もそう思います」
「では、何で?」
「風魔法のふたりを除いて、見込みがありませんから」
「……私もですか?」
「はい」
「なんで?」
「魔法には覚える順番があります。これを外すと難易度が跳ね上がります。なぜかは分かりません。経験的にとしか言いようがないのですが」
「そんな?」
「魔法の教師をやっていると分かると思いますが、火魔法を覚えていない生徒は、何らかの魔法を覚えられる確率が高い。しかし火魔法を覚えた生徒は、その後殆ど魔法を覚えられない。そうですよね」
「はい、それは感じてます」
「私は正しい順番で学んだので分かりませんが、昔の人の研究結果で魔法の習得に10倍から20倍の時間が必要とする、と書かれた記述を見たことがあります」
「私のテスト結果のリストはまるっと無視されました。今回の講習会の結果をもって次回の人選を考えてほしいと思います」
「私は、この先進めないのですか?」
「ええと、エリザベス先生は、風土火魔法ですね。人の20倍努力すれば水魔法も習得できると思います」
「……はい、私に水魔法教えて頂けますか?」
学院長室、
「二週間経過の中間報告をします。残っているのは風魔法のふたりとエリザベス先生の3人です。他の5人は脱落しました」
「彼らに対しての教え方に問題があると言う者もいる。どう考えている?」と、学院長。
「私は、リストにD評価の不可を付けました。彼らは10倍、20倍の努力が必要です。実際に風魔法のふたりは習得できています。半年後の後期の生徒も容易く習得できるでしょう。それを見ながら延々と努力するしかないんです。私が優しく接したり煽てたりしても無駄なんです。エリザベス先生のように不屈の精神で取り組む必要があります。私は彼らにそんなことを求める気はありません」
「そこまでしないと無理なのかね?」
「一年後のエリザベス先生を見て、判断なさればよろしいかと思います。魔法特別教室は、風魔法のふたりは先に進ませ、エリザベス先生はこのまま頑張ってもらいます」
「分かった」
学院某教室、
僕は風魔法のふたり、いや今では風水土火炎の魔法を行使できる魔法使いのふたりの授業を開始した。
授業は六の日、週に一回の休日に実施することにした。
「これからの訓練の進め方を説明します。始めに水魔法で2つ同時に魔法を行使する練習をします。次に風魔法の細かい制御を憶えてもらいます。時間があれば風魔法の二重化の細かい制御を練習しましょう」
「先生?」
「何ですか?」
「なぜ、風魔法ではなくて水魔法で練習するのですか? 風魔法の方が細かい制御も一緒に練習できて効率的だと思います」
「2つの魔法を同時に行使する二重化は風魔法も水魔法も難易度は変わりません。ただ水魔法の練習は風魔法より格段に効率的です。また二重化と制御は内容が全く違うので効率は変わりません。他に質問ありますか?」
「……」
「では、始めましょう」
私は彼らに手のひらで水玉を作らせ、二重化の練習を始めさせた。
水魔法が良い理由として、疲れて感覚が鈍っても水魔法なら目で見て発動状況が分かる。また水魔法は自分以外の人も練習状況を把握できる。風魔法は他人の風魔法の影響で発動が分かりずらい場合がある。
当然のように三週目当たりから熱が入らなくなっていた。そこは無理やりやらせている。脱落しなければよいのだが。
二月目入ってすぐひとりが脱落した。残りはルドルフ君だけだ、彼は妹や弟と空を飛んでいるから脱落しないだろう。
「おめでとう二重化ができたみたいだね。素晴らしいよ」三か月と三週間、まあまあでしょう。
「今日は終わりにしよう。ゆっくり休んで来週から次のステップに進みます。来週から2の日、4の日の放課後に時間を変更します」
「ありがとうございます。ホッとしました。できると信じてました。しかしひとりでの練習は辛かったです」
「分かっています。ひとりの練習は辛いですね。特に結果が見えない練習は辛いです。来週からの練習は少しずつ結果が見えてきます。頑張ってください」
ルドルフは、特別教室の終了までに風の強弱、任意の位置からの風の発生、風を細く制御する方法を習得している。まだまだ雑で魔法の発動まで時間がかかるが風魔法の中級に入ったと言えるだろう。
学院長室、
「学院長、特別魔法教室が終了しました。ルドルフがB評価、エリザベス先生がD評価、残り6名がE評価です」
「ベスのDは分かるが、ルドルフのBは厳しすぎないか?」
「そうですね、でも努力と洞察力が足りなかった。私は妥当だと思います」
「シオン、洞察力とは何だね?」
「学院長、これは他言無用でお願いします。私はこの授業を行うにあたって休日に8時間の授業を実施しています。このことに気が付けば授業とは別に週に1回8時間の自習を行えば大幅な習得期間の短縮が可能です」
「そうなのか?」
「そうです。自力で見つけるまで秘密にしてください」
「分かった。後期の人選はどうする?」
「ルドルフと一緒に受けていた彼にチャンスを与えます。もう一度受けたければ無条件で受けさせます。半年前の面接で見込みありと判断した生徒を誘います。定員に満たなければ再度募集します」
「分かった、それで良い。今度は自由に集めなさい」
「はい、ありがとうございます」
「最後にルドルフは空を飛べるのか?」
「風魔法で必要な基本は全て習得しました。後は伸ばすだけです。それは、とても大変です。飛行道具ですが、魔法能力が低くてまだまだ作成は遠いでしょう。ですが道具ですから出来あいを調達できれば問題ありません。飛行技術、これは魔法に関係のない操作方法の習得です。これが一番難しく適性があるかどうかもわかりません」
「何だそれは、可能性があるだけでまだまだじゃないか」
「そうです、まだまだです」
「……ありがとう、もう良い」
学院某教室、
後期の特別魔法教室が開講された。顔ぶれは前期脱落した彼が再度チャレンジする。新たに5名とエリザベス先生の計7名でスタートした。
エリザベス先生はひとり黙々と水魔法の練習をしている。
後期の講習が終了した。再チャレンジの彼と三名が二重化を習得しB評価、二名が脱落しE評価、エリザベス先生が終了間際で水魔法を習得した。彼女はD評価。努力と評価が釣り合わなくてちょっとかわいそうだった。
国王陛下や女王陛下、兄上に盛大にお祝いしてもらったと言っていた。他に友人からも祝福されてた。妹も喜んでハースウェイ侯爵に招待してもらい私たちもお祝いをした。
再チャレンジした彼は三か月かかった。彼は僕に貴重な情報を与えてくれた。とても貴重な情報、練習の継続が途切れると、ある程度の時間経過で練習がリセットされる。また、魔法に理不尽な仕様を見つけてしまった。
夏休み、
「学院長、新年度の授業も昨年度と同様に行いますがよろしいでしょうか?」
「ああ、結構だ。本当は正規の時間にして(平日丸一日を使う)生徒を増やす案も出たが、他の授業数が足りなくなる、E評価が多すぎる等から却下されたよ」
「私も無理だと思います。やるなら学院に入る段階で新たな学科を作るか、卒業後に延長して在学させるしかありません。新たな学科を作るのは難しいですし、卒業生だとある程度魔法を覚えているので対象者がほとんどいないでしょう」
「ああ、御前会議でも同じ意見が出てたよ。受講人数をもう少し増やせないか?」
「事前の面接に時間をかけさせて頂ければ可能です」
「分かった、入学試験の採点期間に希望者を集めなさい。その間ならいくら時間を使っても構わない」
「ありがとうございます。事務と相談します。それから皆様はエリザベス先生からお話は聞かれましたか?」
「ああ、聞いたよ。魔法の覚える順番がそれほど重要だと思わなかったよ。ベスも他の人にはとても進められないと言っていたよ」
「……」
「もういいよ」
「失礼します」
特別魔法教室に応募してきた人数は9人だった。予想外の低調さに僕はショックを受けている。内2年生が7人、この世界の魔法の人気の無さと、半年の間の休日が潰れる、この2つは如何ともし難い。
学年が上がると脱落した知人がちらほらと見え、しり込みする人も多そうだ。
特別魔法教室の希望者と面接を行った。
結果、2年生の内、ふたりは貴族で魔法が全く使えないため応募したそうだ。彼らは魔法を覚えるまでは大丈夫だが長期間の風魔法の二重化練習に耐えられるか疑問だ。三人の2年生、平民、魔法使えずも一緒で心配だ。2年生ふたりと3年生ひとり、4年生ひとりの風水土火魔法が使える4人は問題なさそうだ。事務で調べたところ3年生以上で魔法が全く使えない生徒はひとりもいないそうだ。この分だと来年以降ますます人集めが困難になりそうだ。
学院長室、
「ーーが面接の結果です。魔法が全く使えない4名が続けてくれるか心配です」
「心配しても仕方なかろう。魔法の補講授業やめたのだから、魔法のできない生徒はここを頼るしかない」
「来年の夏休みに補講授業をやりなさい。1年生の魔法が全くできない者を集めればよい。その授業で勧誘するのを許そう』
「来年は、本当に人が集まりそうもありませんね」
「取り合えず、今年は風水土火魔法が使える4人とベスで頑張りなさい。今年から1年間に伸びたのだからゆっくりやればよい」
学院某教室、
「初めまして、シオンです。これから1年間特別魔法教室の先生をします。よろしく」
「全員が風水土火魔法が使えます。今日は次の段階、炎の魔法の習得を行います。質問ありますか?」
「シオン先生、今年はなぜ初めから休日なのですか?」
「炎の魔法の習得は今日で終わります。1日だけ平日の放課後にする必要もないでしょう。他になければ始めましょう」
「返事は? エリザベス先生、いつも生徒に返事をしなさいと言っているように率先して返事してください」
「……はい」
蠟燭とガラス管を取り出し、蠟の蒸発した煙が燃えることを納得させた後に練習を開始した。30分後には全員が炎の魔法が習得していた。
「皆さん、おめでとう。今日はこれで終了します。炎の魔法の練習を行う場合は、火事に十分注意して下さい。ここに桶に入った水があります、これと同様に十分な水を用意してから練習してください。来週からは、魔法の二重化の練習を開始します。今日はお疲れさまでした」
学院某教室、
「初めまして、シオンです。これから1年間特別魔法教室の先生をします。よろしく」
「全員が魔法をつかえません。でも大丈夫です。すぐに使えます。それでは始めましょう」
学院長室、
「貴族の二名は魔法を一種類、平民は全て習得した時点でリタイアしました。平民のひとりは残るつもりのようでした、しかし他のふたりに引きずられてやめたみたいです」
「まあ、予想通りだな」
「なぜ引き留めなかった?」
「人に引きずられるようでは、二重化の練習をひとりでは耐えられないでしょう」
「そうだな、来年からは夏休みの補講でやめる生徒は減るだろう」
「はい」
「ベスは、大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。二重化を習得した生徒が全員三か月越えていますから、それまでは頑張れるでしょう」
「三か月以内にできるか?」
「無理でしょう。生徒と違って教師は一日八時間は取れません」
「そうだな、八時間魔法の練習に費やしたら寝る時間が無いな」
今日、エリザベス先生が魔法の二重化を習得した。三か月ピッタリ、90日、15週。3回分縮めてきてる。
「エリザベス先生、おめでとうございます。やはり分かりましたか?」と、俺。
「馬鹿にしたもんじゃないでしょ」と、ベス。喜んでる、喜んでる。
「はい、御見それしました」
「みんなも頑張ってね」
18週目、
4人とも魔法の二重化を習得、このグループは真面目だ、さぼり無し。
「皆さん、おめでとうございます。来週はお休みにします。再来週の1の日、3の日の放課後に時間を移します。風魔法の制御の練習に入ります。ここからは効果が見えますので頑張りましょう」
二か月後、
「皆さん、お疲れ様です。少し早いですが今日で終わりにします。これからは個人個人で技術を磨いてください。今月の終わり、期末試験後に皆さんの魔法の上達具合を知るために発表会を行います。これは成績には全く関係ありません。あなた達の魔法の上達具合を見せてもらう機会です。気楽に参加してください。楽しみにしてます。これは今までの風魔法の制御まで終わった生徒全員です。ここにいない方は事務から連絡がいくと思います。皆さん、切磋琢磨してください。もうひとつ、風魔法以外でも構いませんよ」
学院長室、7月初め
「今年度後期の授業が全て終わりました。去年今年の特別魔法教室を終えた生徒に期末試験後に魔法の上達具合を発表させます。これを王国上層部の人間にご覧頂き魔法技術の向上を確認して頂きたいと考えます。よろしいでしょうか?」
「うん、許可が出たよ」
「ここからがスタートラインです。この国の魔法レベルが上がるかどうかはこれからですよ、学院長、エリザベス先生」
「シオン君、何言ってるの?」と、ベス。
「国王陛下や宰相の思惑の話ですよね、学院長」
「まあ、そうだね。しかし十分に魔法の技術レベルは上がったと思う」
「スタートラインです、中級に足が掛かった程度です。始まりの王達の魔法はこんなもんじゃありません」
「……」
「エリザベス先生、魔法関係の本を読んでますか?」
「なかなか読む時間が取れなくて……」
「この国には色々良くしてもらい恩があります。ひとつ古王国の魔法の話をします。古王国の魔法使いは神ノ山で魔法を習得しています。神ノ山の頂に祠があり、そこで魔法を習得できたそうです。その魔法で空を駆け、ドラゴンを止め、砦を焼き尽くしたそうです。この話はロングフィートの人間から聞きました。私は事実だと確信しています。為政者は知っておいた方が良いと思いましたので」
「シオン君、何であなたが知っているの? なんで話したの?」
「僕は迷ってます。何を話すべきか、どこまで話すべきか。殿下、あなたの魔法は初級から中級に入ったところです。空を駆け、ドラゴンを止め、砦を焼き尽くした魔法に至る道です。もうあなたに障害はありません。そのことを自覚して魔法の練習をしてください」
次回の投稿は10月16日です。




