終話(十九話) 魔法のお披露目
6月某日、王都一のレストラン、
「お客様、相席をお願い致します」
「はっ、何を言ってるんだ。ここは個室だろ」
「どうしてもと、お客様のご希望でして……」
「嫌がらせか? 貴族のわがままか?」
「いえ、そのようなことはないと思います。その方は貴族ではないのですが、侯爵のお身内の方なので……」
「分かった。良いよ、お相手するよ」
「初めましてシオンと申します。久しぶりですねホーガン」
*ホーガン、グレンフィート王国のホーガン金属卸し主人
「あ、あ、あ」
「大丈夫か?」
「王子、生きていたのですね」
「今は、シオンだ」
「どうしたのですか?」
「それは、秘密だ。秘密にしてくれ。ホーガンさん、街であなたの顔を見かけたら、どうしても声をかけたくなりました」
「ありがとうございます」
「ホーガンさん、私がいなくなった事で損をしてませんよね」
「大丈夫です。ハーゼン(爺)さんに大変良くして頂いてます」
「それが聞けて良かった」
「シオン様は元気でしたか? お体は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。何も問題ないよ。あなたも元気そうで何よりだ。ホーガンさん自らこんな遠くまで、大変じゃないか?」
「はい、しかし最終的な契約は私が参りませんと」
「マーガレット様もお元気でいらっしゃいます。それとカーメラも。カーメラはマーガレット様から大量の竹とんぼの発注を頂いて苦労していました」
「シオン様はずっとこちらに?」
「いや、一昨年からここにいる」
「シオン様、空飛ぶ方法を広めましたか?」
「いや、広めていないよ」
「赤い鉱石が流通しています。サイトフィートで採掘しているみたいです。流通先は不明です。あと、ノックフィートで空を飛ぶ魔法を見たと言う噂があります」
「どちらも私は全く関与していないよ。今はハースウェイ侯爵のところに厄介になってる。今はここの学院で先生をしている」
「ホーガン、繫盛しているか?」
「おかげさまで順調です。ビーズの仕事を任せて頂いて繫盛しております」
「ホーガンには迷惑をかけたから気になっていたよ。そろそろ時間なんで行かないと。何かあったら声をかけてくれ力になる。それじゃあ、失礼する」
事務室受付、
教室の予約を事務受付で確認した後、
「事務員さんはここ長いの?」
「ええ、この学院を卒業してからずっとです」
「ここの卒業生なんだ。8年位前にロングフィートの視察がなかった?」
「ええ、憶えてますよ。教師や生徒が手伝いで領地に呼ばれ大変でした。その年は休講が多すぎて補講のスケジュール調整で泣きましたから。またなんで昔の事を」
「いや、昔の知人と会ってそのことを思い出したんですよ」
「あれ、シオンさん、ここにいたんですか?」
「いや、隣のアベラフィートでその視察で苦労したんだ」
「ああ、アベラフィートにいたんですか。アベラフィートもノックフィートの視察来ました?」
「いや、知らないな。来てないと思う」
「それは良かった。ロングフィートは大勢来て大変だったですけど、ノックフィートは態度が横柄で担当した人がブーブー言ってましたよ」
「へえ、官僚がブーブー言うの?」
「同僚じゃありませんよ。あなたのところの侯爵ですよ。私、侯爵の同級生ですから」
「ああ、そうなんだ。ありがとう」
ハースウェイ侯爵邸、
「侯爵、少しお話してもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
「7、8年前にノックフィートの視察が訪れたそうですね?」
「来たよ。またそんな話どこで聞いてきたのか?」
「事務受付の人から」
「あいつか。それで何が聞きたい?」
「彼らは何を探したのでしょうか?」
「赤い石だ。書付けと見比べていたからな、ちらっと見たが赤とか何とか石の特徴が書いてあった」
「見つかったのでしょうか?」
「いや、私のところは見つからなかった」
「他はどうでしょう?」
「陛下に見つかったと言う報告は上がらなかった」
「ロングフィートはどうですか?」
「それは知らない。父が案内したはずだ。父はそのすぐ後に亡くなったから分からない」
「シオン、何を知っている?」
「赤い石は飛ぶ道具の材料です。アルミというとても軽い金属です」
「……」
「ひとつ疑問があります。ロングフィートが横柄なのはわかります。あそこは国力が強く、魔法も発達しています。しかしなぜノックフィートが横柄な態度をとれるのでしょうか? あそこはパットした話を聞いたことがありません」
「それは皆が不思議がってた。陛下も訳が分からず情報を集めよと皆に指示していたよ」
「その集めた情報は誰が管理しますか?」
「宰相だろ。他はない」
「ありがとうございました」
コーゲン伯爵邸、(宰相の屋敷)
「なぜ、君がここにいる?」
「ルドルフ君に夕食を招待して頂きました」
「そうか」
「はい」
「先生、魔法で何ができるのでしょう?」
「それが課題だよ。だから今は聞いちゃいけないし、教えられない。厳しいことを言えば、君は誰よりもそのチャンスを持っていた」
「兄ちゃん、頑張りが足りないな」と、アディ。
「そういえばアディ君は、真っ先に特別魔法教室を希望すると思ったのに?」
「アディは、成績が足りず許可が下りませんでした」
「兄ちゃん、言わないでよ」
「アディ君、頑張りなさい」
「……」
食後、
「シオン君、あちらに行こう」
「僕も!」
「お前たちはだめだ」
「ごめんね、今日は我慢してね」
「なにが聞きたい?」
「宰相、7年前のノックフィートの視察を覚えていますか?」
「シオン君、ギブアンドテイクだよ」
「承知してます」
「もちろん、憶えているよ。いや、思い出したよ。ハースウェイ侯爵に言われてな」
「なぜ、なぜノックフィートが横柄な態度を取れたのか分かりました?」
「マッシモの原稿を見つけたみたいだ。当時は何のことだかさっぱり分からなかったよ」
「しかし、君がベスに四公の話をし魔法書を探させただろ、それで気が付いたよマッシモがマッシモ・アイラフィートの事だと。君はその原稿に何が書かれているか知っているのか?」
「知りません。しかし想像はつきます」
「その内容を教えてほしい」
「それはだめです。しかし一番重要なことはみんなに教えました。殿下もルドルフ君も既に知っています、それを生かすのは彼らの知恵と努力です」
「……」
「わたしは、甘やかす気はありません」
「そうか」
「はい」
学院特別教室、
期末試験の二日後、特別魔法教室を終えた生徒の魔法技術の披露、
「どうぞ、始めてください」
教室を終えた順番に披露する。見学は、自分と宰相、エリザベス殿下、学院長、ハースウェイ侯爵夫妻と他に数名の貴族がいる。また、この教室には特別に視察できる部屋があり国王陛下もご覧になっている。知っているのは僕と宰相と学院長だけ。
次々に生徒が披露してゆく、僕は簡単なアドバイスをかけて行く。授業と全く同じで何一つ逸脱しない内容。
僕とベスと学院長を除いて、洗練された魔法がまるで手品のショウを見ている感覚だろう。ベスと学院長は何一つ有意義な助言を与えない僕に苛立っているみたいだ。
僕は、宰相に下駄を預けることにした。
「宰相、期待外れだったと思いますのでひとつプレゼントをします。始まりの王達は空を駆け、ドラゴンを止め、砦を焼き払った、と言います。この3つの技のどれかひとつ、私の推測したヒントを披露します。どれでも、どうぞ」
「魔法で砦を焼き払うことができるのか?」
「分かりました。蠟燭を持ってきてください」と事務の女の子に頼んだ。
「炎の魔法を発動できる生徒は学院にも何人かいます。もちろん僕の生徒達も皆できます。原理は蠟燭の煙を再現してそこに火の魔法で点火する魔法です。やってみますね」
僕は手のひらの上に蠟燭の炎を再現して見せた。
「ここまでは、ここにいる生徒もエリザベス先生もできます。少し変えてみましょう」
僕は手のひらに少し大きい炎を灯した。
「これは蠟燭の煙の代わりに菜種油ランプの菜種油の煙を再現したものです。如何ですか、魔法に未来が見えませんか? 次はラグ酒で同じことを行います」
僕は手のひらに青くて暗い炎を灯した。
「ラグ酒いえば大道芸人を思い出しませんか? 炎を噴き出す火吹き男の事を。生徒の皆さんは見たことはないでしょうが、お話に聞いたことはあると思います。お酒をたしなむ方は宴席で見た方も多いでしょう。やり方はラグ酒を口に含み霧状に吐き出し蠟燭などで火を点ける見世物です」
「先ほど魔法でラグ酒を再現しました。霧状に吐き出す、これは風魔法で再現できます。合わせるとどうでしょう」
僕は指先からラグ酒を霧状にして吹き出し、蠟燭の炎で点火した。僕の指先から炎が噴き出してる。
「宰相、どうですか? 基本は知っています。あとは知恵と努力です」
「……」
「皆さん、今日はありがとうございました。来季の授業を頑張りましょう」
国王執務室、
「宰相、あそこは『ドラゴンを止めた』の方が実用的だったんじゃないか?」と、ハースウェイ侯爵。
「いえ、なぜ『空を駆ける魔法』にしなかったのですか?」と、ベス。
「ええい、五月蠅い、あれが最適だと思ったんだ」と、宰相。
「ベス、そなたはあれができるか?」と、陛下。
「できました。昨日ラグ酒を用意して実験を繰り返したら呆気なく」
「あれで砦を炎で焼き払えるか?」
「無理でしょう。しかし方法があるのでしょう。ラグ酒をはじめから用意して一度に大量のラグ酒を霧状にする仕組みを作る。等、考えれば幾らでも方法はあるのでしょう」と、学院長。
「なぜ、シオン君は急にヒントを教えてくれる気になったのかしら?」
「……」
「……」
「何でみんな目をそらすの?」
「周りが少しきな臭くなってきたからだ」
「何なの?」
「8年9年前のロングフィートとノックフィートの視察を覚えているか?」
「ええ、もちろん。みんなバタバタして大変だったから」
「あれは飛行道具の材料を探していたらしい」
「え、本当に?」
「ロングフィートは良く分からず探していたみたいだ。しかしノックフィートは明確な目的を持って探していた」
「我が国も四公の一角だから遅れをとらずに対処したいと考えている」
「じゃあ、シオン君に聞きましょうよ!」
「聞いた結果が昨日の回答だ。そなた達に必要な技術は全て渡ってるそうだ。そうなのか?」
「うん、シオン君にそう言われた。でも分かんないの!」
「ベス、自分が希望したんだ。もっと考えなさい」
「……」
学院某教室、
「エイミーちゃん、なんかヒント教えて!」
「私も知りません。叔母さまにも聞かれたけど炎の魔法は見たことないし」
「飛行魔法は?」
「私、魔法に興味ないし。飛ぶ時も寒くないように頭からすっぽり覆っているから、周りは見えないし殆ど寝てるから分からない」
「えっ、景色とか見ないの?」
「いつも飛ぶのは夜がばっかり。街や道の上は飛ばないで森とか荒野の上しか飛ばないからつまらない」
「どんな魔法使ってるか分からない?」
「風の魔法は見てもわからないし、聞いた事もない」
「……」
「……」
「何かな~い?」
「あと、お兄さまは土魔法が得意だよ。私がちっちゃい時、お兄さまが先生をやる前に鋳掛け屋をやってたんだ。河原とかで石を拾って、鉄とかの金属に変えるんだよ、その金属で包丁とか鍋とか奇麗に再生するんだ」
「へえー、苦労してたんだ」
「ん、ちょっと待って、土魔法で金属の棒とか板とか作れるの?」
「うん、作ってたよ」
「シオン君、多才だね」
「うん、結構細かいし」
「ふふふ」
学院長室、
「学院長、魔法実技の補講、3名無事終了しました」
「ご苦労、特別魔法教室に勧誘できたかね?」
「ダメでした」
「そうか」
「特別魔法教室の希望2年生4名、面接試験の結果4名全員を受け入れます」
「そうか、4名とはずいぶん減ったな。もう少し増やす算段を付けてくれ」
「はい、……かんがえます」
半年後、学院長室、
「休暇の申請、許可が下りましたか?」
「下りたよ、5月から三月。休暇なんかどうする気じゃ?」
「サイトフィートの赤い石を見に行きます。巷に噂が流れてない今のうちにどうしても見ておきたい」
「そうか」
「少し? いや、だいぶ早いが来季から古代文字の特別教室を持ってもらう。この教室は学院生以外の一般から若干名、聴講生を受け入れることにした。週2コマ連続、最大15名で考えてくれ。魔法7、実務3の内容で頼む、教材にする本の選定は任せる。魔法特別教室と魔法実技の補講も続けてもらう」
某教室、
「エリザベス先生、エイミーにまで魔法のヒントを聞いたそうですね」
「え、何のことですか?」
「まあいいでしょう。休暇も貰えたし、学院長と宰相から餞別も頂けたし。……」
「ん、」
「頂けたし。……」
「分かりました、餞別をあげますよ!」
「ありがとうございます。お礼に魔法をひとつ見せますね」
僕は指先から炎を噴き出した。
「え、何で、蠟燭無いのに!」
「ラグ酒を作る、風で霧状にする、火魔法で点火する、どれもあなたは容易くできる魔法です。なぜ2つ同時ができて、3つ同時発動ができないのですか? 練習方法も全て伝えてあります。少し甘すぎますが餞別のお礼です。頑張ってください」
ハースウェイ侯爵邸、
「休暇、好いな!」と、エイミー
「特別魔法教室は休日出勤だから。埋め合わせだ」
「でも、平日暇そうにしてるし」
「うっ、痛いところを」
「本当にあなた暇そうにしてるわよね」
「エルミーナ姉さま、真実だからこそ言ってはいけない言葉があります」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと行きなさい」
「はい。エイミー、エルミーナ姉さまの言う事を聞いて良い子でいなさい」
「お兄さまこそ悪いことしたらダメですよ」
「ははは、ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
本作をお読みいただきありがとうございました。




