十六話 魔法の先生
魔法教室講師準備室、(魔法科先生の職員室)
朝一番に学院長に引き回され先生や職員に挨拶回りを行い、副学長から細々とした説明を延々と聞かされ今に至る。
「ようやく来ましたね」
「すみません、遅くなりました」
「まあ、副学長の話は長いからしょうがないですね」
「はい」
「シオンさんは魔法が得意だそうですね?」
「はい」
「貴方には3人の生徒を見てもらいます。教え方は自由です。生徒の名前はこの補講指示書に書かれています。ます。授業時間は補講ですから放課後になります。何か質問あります?」僕は補講指示書を受け取った。
「ええと、この学院はこの教え方が普通なんですか?」
「そんな訳あるはずないでしょ。宰相の指示だそうです。と学院長が言っていました。それと半年は続けなさいと。それじゃ三か月の使用期間は何なの? 全くわからない。……ごめんなさい。あと、毎週5の日に私に報告して。がんばってね」
*5の日:休日の前日、金曜日みたい
話は終わった。エリザベス先生は、だいぶお疲れのようで。
事務室の受付、
「すみません」
「どちら様ですか?」
「魔法教室の助手のシオンと申します」
「ああ、はい、はい、なんでしょう?」
「この3人の生徒を呼び出したいのですが?」補講指示書を渡し。
「どれどれ、ああ、はい、いつ呼び出します?」
「なるべく早くお願いします」
「じゃあ、明日にしましょう。どこか希望の教室あります?」
「いえ、まだよく知らないので」
「では、22番教室にしましょう、時間は放課後。これでよろしいですね」
「はい。放課後にこの3人の生徒来てくれますよね?」
「大丈夫ですよ、このクラスの補講は取らないと進級できないから必ず来ますよ」
「ああ、そうですか。では22番教室で待ちます」
「頑張ってくださいね」
22番教室、放課後、
3人の生徒の向かいに座る。
「初めまして、君たちの魔法の補講授業を担当するシオンです。まあ、分かっていると思いますが新人で君たちが初めての生徒になります。授業内容は、魔法の習得が目的です。時間は週2時間あるそうです。座学はありません、これはノートを取るような講義をしないということです。ですからノートも、道具も必要ありません。何か質問ありませんか?」
「……」
「それでは個別に面談をします。ネイマール君は今から、ルドルフ君は明日、インガ君は明後日、場所と時間は事務室で確認してください。質問が無ければ、ルドルフ君とインガ君はお帰りください」
ルドルフとインガが部屋から出てドアの閉じたのを見届けて話を切り出した。
「君はこの授業についてどう思ってる?」
「いえ、特に考えていません」
「そうですか。今まで魔法について習った事と指導の内容の時期と期間を教えてください」
「6歳か7歳のとき家に魔法の先生が来て教えてくれました。たぶん学院の先生だったと思います。でもお爺ちゃんだったから引退した先生かも」
「なぜ学院の先生だと考えたのですか? その先生が自己紹介したからですか?」
「いえ、学院の1年生で教わった内容と一緒でした。だから僕の想像です」
「分かりました。たぶん正しいでしょう。君が1年の魔法の授業の先生の名前を覚えてますか?」
「はい、ポール先生です」
「ありがとう。他にも教わった方はいますか?」
「はい、学院に入学するまでふたりの先生に教わっています」
「そのふたりの先生から教わった内容は学院で教わった内容と違いはありましたか?」
「いえ、ほとんど一緒でした」
「最後に君は魔法を使えるようになりたいですか?」
「いえ、もうあきらめてます」
「では、以前は使えるようになりたかった?」
「ええ、まあ」
「ありがとう。これでお終いです。次の授業は追って知らせます」
「失礼します」
「さよなら」
翌日にはルドルフ、翌々日はインガに話を聞いた。
まあ予想通りネイマールと同じような経験をしている。少し気になったのは3人とも魔法の先生がポール先生だったことぐらいだ。
魔法教室講師準備室、
「エリザベス先生、ポール先生の授業を拝見できませんか?」
「ポール先生が嫌がりますよ」
「この国の魔法のレベルが全然わかりません。3人がどんな授業を受けたか、知る必要があります」
「うーん、一応聞いてみましょう?」
「申し訳ないがどうしても内容が知りたい。私はこれはとても重要だと考えてます。最悪、学院長から話を通してもらいたい」
「あ、あなた、なにいってるの!」
「どうしてもできないなら、エリザベス先生の授業を拝見させてください。この学校の先生は皆同じ教え方をしているみたいですから」
「あなた、無礼ですよ」
「すみません、失礼な言いようですね。しかし私は3人の生徒を預かりました。私は3人の生徒に必要なことは全て行うつもりです」
「……わかりました。明日の授業をご覧になってください」
翌日、エリザベス先生の授業、
「今日から君たちに魔法を教えるエリザベスです。君たちの後ろにいるのは助手のシオンです、気にする必要はありません」
「初めに君たちの魔法のレベルが知りたいのでひとりずつ前で実演してください。名前を呼びますので呼ばれたら前に出てきてください」
やはりグレンフィートの学院と大差なかった。不味い方法だ、最低限、魔法が使える者、魔法を習ったが使えない者、魔法を習ったことのない者に分ける必要がある。欲を言えば個別にチェックすべきだ。
魔法が使えない者の授業も同じだ。『魔法の書』の解説本で『魔法の教え方』をなぞっているだけ。僕は全然推奨できない方法だと思ってる。
3回ほど授業を見学した後に、
「エリザベス先生、授業を見学させて頂きありがとうございました。私が受けた授業と同じでした。とても参考になりました」
「そうでしょう、この授業の進め方は素晴らしいと思います。他国から来た先生もこの通りの授業をしていると言ってました」
「そうでしょうか?『魔法の教え方』はあまり出来が良いとは思えません」
「あ、あなたは私の教え方が出来が悪いと言うのですか?」
「? いいえ、『魔法の教え方』が悪いと言ってるだけです」
「わ、私を侮辱するのですか?」
「いいえ、どうしたんですか? 侮辱なんか一切していません」
「あなたは、私の教え方が悪いと言いました」
「私は『魔法の教え方』を教材にするのに反対してるだけで」
「うーっ」
「もしかして『魔法の教え方』と呼ばれる解説本を知りませんか?」
「?」
「あなたの授業方法は200年くらい前に著された『魔法の教え方』と呼ばれる本に書かれている内容そのものです」
「この授業方法は本に書かれているのですか?」
「なぜ知らないのですか? この国には魔法関係の書物は豊富にあると思いますが?」
「この国に魔法書は少ないですよ」
「そんなことは在り得ない。この国は四公のひとりですよね」
「よんこう?」
「エイデン・ローゼフィートの盟友4人のことです」
「えいでん?」
「えーっ、そこからですか?」
「なんか今、馬鹿にされた気がしました」
「いえ、滅相もない」
「エイデンは古王国で反乱を起こした人物です。因みに古王国三代国王がアイジャンでその弟です」
「もちろん、知ってますよね。ここら辺は試験で良く出るところですよ」
「知ってます。良ーく知ってます」
「その反乱で強く味方したのが、ロングフィート、ストラスフィート、グレンフィート、そしてここロクスフィートの四公爵。四公爵の国には魔法関連の本が集まった。本が集まれば人も集まる。集まっているから新たに本が書かれ、本もまた集まってくる。この国には魔法関連の書物が豊富にあるはずだ。探せば見つかると思いますよ」
「話を元に戻しますけど『魔法の教え方』は伯爵以上の家を当たればすぐ見つかると思います。写本が大量に書かれたはずだから」
「私がエリザベス殿下を侮辱していないことがお分かりいただけたでしょうか?」
「分かっていただけたようなので、お暇させてください。ありがとうございました。失礼します」
僕は逃げた。
22番教室、数日後の6の日(休日)、
「皆さん、休日にご苦労様です。一度に長い時間が必要なので休日に補講を行います。了承してくださいね」
「では、授業を始めます。君たちは魔法を習得できます。魔法の習得は難しいことじゃありません。誰でもできることです。噓くさいと思いますが取りあえず信じましょう」
「ネイマール君質問します。風とはなんでしょう?」
「……」
「ルドルフ君、風はなんだと思いますか?」
「……」
「インガ君、息をふーっとするのと木々の間を吹く風の違いが分かりますか?」
「強さですか?」
「ネイマール君、どうですか?」
「風の吹いてる場所の広さですか?」
「どちらも正解です。息をふーっとし手のひらに当てる。少し遠ざけるだけで本当に弱くなります。理解できます?」
「……」
「反応してほしいな」
「はい、分かります」3人が答えてくれた。
「では、息だけで木々の間の風を再現しよとしたら何人のネイマール君が必要でしょう?」
「ルドルフ君、どうですか?」
「何人も、いや、たくさんのネイマールさんが必要です」
「そうです。だから風を再現しろなど馬鹿げています。そう思いませんか?」
「君たちが行う魔法は息でふーっとする程度で十分です」
「風魔法を容易く発動する人は分かっています。意識的に分かっているか、無意識で分かっているかは別ですが。息でふーっとする、団扇で扇ぐを実践しています。間違っても嵐や吹雪、砂ぼこりの舞う強風を想像していません」
「君たちはどうですか? 無謀な想像をしていませんか?」
「では、少し散歩をしましょう」
学院内の食堂のすぐ外、
「今日は人がいないので助かります」
目の前には大きな樽に水がなみなみと入っている。
「ここに、コップ(もちろん木のコップ)があります。コップをひっくり返して沈めます。これを倒したらどうなりますか? インガ君」
「泡がでます」
「あたりです」
「このコップを元に戻します。この中に泡は入っていませんね。ネイマール君?」
「はい、水だけだと思います」
「ルドルフ君、この麦わらで軽くふーっとして水の中のコップに息を入れてください。麦わらが裂けないていどでお願いします」
ボコ、少し溢れた。
「どうですか? 息でふーっとする程度だとコップ一杯を少し超える泡で足ります。あなた方の目標とする魔法は息の強さ程度でコップを少し超える程度の泡の量で事足りるのです。どうです、魔法なんて大したことしていません。なんか質問あります?」
「先生、でも魔法の上手な人は木の枝を揺らしたり騒めかしたりできる人もいます」
「では、やってみましょう」
みんなで近くの木の下に移動した。僕は木の葉を揺らした。
「どうです、こんな感じですよね。インガ君?」
「はい、そうです」
「よく見てましたか? 枝は揺れてませんよ。もう一度やってみます、よく見てください」
僕は、もう一度同様に木の葉を揺らした。
「どうです?」
「はい、葉っぱだけでした」
「同じ風を君たちに当ててみましょう。横に並んで」
3人に順番に風を当てた。
「どうです?」
「……」
「えっ」
「微かに吹いた気がします」
「じゃあ、もう一度風を当てます」
「今度はとても強い風が来ました」と、インガ。他のふたりも頷いてる。
「なにが違うかわかりますか?」
「風の強さが違います」
「いいえ、同じ強さです」
「?」
「先生、風の吹き始めた位置ですか?」
「正解です」
「初めは私の手元で風を吹かせました。次は君たちのすぐ前で吹かせました。風魔法の上手な人は多くがこの方法を無意識に実践してます。周りから見たら分からないですよね」
「もうひとつ、皆さん手のひらを私に向けてください。手のひらに2回風を当てます。感じてください」
1回目は指3本くらいの太さの風、2回目は指1本の細い風を当てた。
「どうですか?」
「風の当たる広さが違いました!」他のふたりも頷いてる。
「そうです。息ではーとするのとふーっとする違いです。風の力は一緒ですよ」
「このように、魔法の上手な人の多くは無意識に手品をしているようなものです。無意識に真似られる人が魔法を簡単に覚える人です。まあ中には意識的にやって魔法の力を更に大きく見せる人もいますが」
「納得しましたか。さあ、一度教室に戻りましょう」
22番教室、
「魔法は想像力です。風を想像してください」
「ネイマール君はその机に移って、ルドルフ君は反対の一番前、インガ君は一番後ろに移って」
僕は、蠟燭の立っている燭台を各自に2台ずつ机に置き火を灯した。
「各自、燭台を目の前に1台、もう1台を右か左に少し離して置いてください」
「準備できたら弱い息で消してください。消えたら再度火を灯して更に弱い息で火を消してください。更に魔法で消すという意識を持ちながらゆっくりと繰り返してください」
15分程続けさせて、
「もしかしたら魔法使えたかもと思ったら、ゆっくり手で口を覆って続けてください」
「できた! できた!」
「僕もできたよ!」
「……」
「できたふたりは帰宅してください。今後の予定は明日の放課後に事務室で訊ねてください。いいね」
できたふたりはさっさと帰らせた。
「よし、少し休憩しよう。食堂に行ってお茶にしよう」
「ほら、立って。行くよ」
「インガ君、どうしました。まだ始めたばかりです。魔法なんて誰でもできるものです」
「……」
「もう少し頑張りますか?」
「はい」
「戻りましょう」
インガを席につかせ彼女の前に燭台を置いた。
「同じように吹き消してください」
彼女は蠟燭の炎を吹き消した。
僕は燭台を10㎝だけ彼女から遠ざけ、再び火を灯した。
「同じように吹き消してください」
彼女は蠟燭の炎を吹き消した。
再び10㎝だけ遠ざけ彼女に消させを繰り返し、燭台をどんどん遠ざけた。
とうとう一息で消せない距離まで、彼女と燭台は離れた。
「少し休みましょう。5分くらい」この学院はーー、等と世間話を少しして彼女の息が落ち着くのを待った。
「では、深呼吸して落ち着いたら息で吹き消してください」
今度はようやくという感じで炎が消えた。燭台を10㎝遠ざけた。
「では、また深呼吸して落ち着いたら息で吹き消して」
炎が揺らめいたけど消えなかったと思えた瞬間に、風が強く吹いたように炎はスッと搔き消えた。
終わった。今日のお仕事は終わりだ。
「もう一度行います」
蠟燭に火を灯した。
「どうぞ、吹き消して」
彼女は容易く吹き消した。
僕は大きめのハンカチを取り出し、2つ折りにし鼻から下を覆い頭の後ろで結ばせた。
「もう一度吹き消して」
「これじゃ消えません」
「もう君は消せるよ。はい、息を吹きかけて」
彼女は首を傾げながら息を吹きかけた。ハンカチが少し膨らみ炎は搔き消えた。
「えっ、なんで」
「おめでとう、魔法を覚えたんだよ。いろいろ試してみなさい」
インガは何やらいろいろやっていた。近づいたり、遠ざかったり、口の前に手をかざしたり。実感がわいてきたみたいで、
「できた! できた!」と声もはしゃいでいた。
「君も明日の放課後、事務室で次の予定を確認してください。今日はもう帰っても良いですよ。どうぞ」
「失礼します」と、言うと風のように帰って行った。きっと家族に嬉しい報告をするために急いで帰るのだろう。
僕は燭台を片付け、教室の閉じまりをし、食堂で後片付けをして帰った。
とりあえず、最初のテストは合格だろう。これで学院やハースウェイ侯爵家で居心地が良くなること願おう。
次回投稿は10月12日の予定です。




