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空を飛びたい魔法使い  作者: ヨウレ
四章 王立学院
16/20

十五話 王立学院

 本十五話から新規投稿です。修正前からお読みの方は、ここからが続きになります。

 鉱石運搬用の馬車の隅にシオンとエイミーがちょこんと座りサイベックを旅立って行く。



「エイミー姉さんとシオン兄さん、行っちゃったね」


「ケニーが良い子にしてれば、またすぐ遊びに来るさ」


「うん、良い子にしてる」


「フォスター、お爺様とお婆様があなたの魔法を見に行くと仰ってるそうよ。近いうちに来てくれます」


「僕も、お爺様とお婆様にお会いしたいです」



 馬車の中、


「エイミー、エルミーナ叔母さまにお会いしたら『叔母さま』と呼ぶなよ。必ず『姉さま』と呼ぶようにしなさい』


「なんで?」


「なんでも、必ず『姉さま』と呼ぶようにきつく言われているんだ。『叔母さま』と呼ぶとほっぺを抓られる、今でもその痛みを思い出すよ」


「うん、注意する」


「そうしなさい」



 クナリ、王都に近い宿場町、馬車で半日、徒歩で一日、


「エイミー、先に顔見せに行ってくる。夜更け前には帰るから。宿の人間以外はドアを開けちゃだめだよ、変な奴が来たら『雷様の子供』使って良いから、兄さんが許可する。なるべく急いで帰るけど先に寝てなさい」


「なんで、明日じゃダメなの?」


「兄さんは、叔母さまの旦那さんの侯爵様と面識が無いんだ。紹介状も無いからたぶん取り次いでもらえない。だから今晩忍び込んで叔母さまに直談判するのさ。分かった?」


「うん。早く帰ってね」


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 ハースウェイ侯爵の邸宅、夫人の寝室、


「きゃ、なにかが横切ったわ!」


「いかがされました。ああ、これですね。なんでしょう竹細工みたいですが」


「……これ、なんでもありません。皆も今日は下がりなさい」


「え、まだマッサージが……、はい、下がらせていただきます」



「もう、誰もいません」


「姉さま、お久しぶりです」


「幽霊じゃない。あなた、レオン? 死んでいないのですか?」


「はい、姉さま、生きております。お願いしたいことがあります。その前に座りませんか?」


「こちらに」


「夜分遅くに突然の訪問、お許しください。今は、シオンと申します」


「レオン、なぜ姉さまと呼ぶの?」


「はい? 姉さまが『姉さま』と呼べとほっぺを抓って強要しました。覚えてませんか?」


「えっ、思い出しました。ただの冗談です。忘れなさい。良いですね」


「エルミーナ、入るよ」と、パーチャス・ハースウェイ侯爵。


「良いワインを、君は誰だ? 誰かいヌヌ」

 エルミーナが飛びついて侯爵の口を押さえた。


「侯爵、はじめてお目にかかります。エルミーナ姉さまの甥のレオンと申します。今は訳あってシオンと称してます」


「あなた、騒がないでください! これは、レオン・グレンフィート。姉のアナマリアト・グレンフィートの息子です」


「グレンフィートの王子か? レオン・グレンフィート? 亡くなってないか?」


「はい、七年前に亡くなりました。今は平民のシオンです」


「う~む、それで何しに来たのかね?」


「侯爵とエルミーナ姉さまのお力をお貸し下さい。私の妹のエイミーをロクスフィート王国の王立学院に入学にお力をお貸し願えないでしょうか?」


「妹? 誰のことですか?」


「七年前のレオン王子が亡くなった日に誕生した私の妹です」


「憶えておるぞ! その日、レオン第二王子が亡くなり、アンソニー第三王子が生誕されたのを。近隣の国家がこぞって使者を送った。そうか、そんなことが」


「姉上は、どうしたのですか? その日、どうしたのですか?」エルミーナ姉さまは真っ青だった。


「姉さま、母上も苦しんでいます。それに誰も死んでいません。私は既に終わったことと考えています」


「わかりました」「あなた、何とかしてください。お願いします」


「何とかしよう」


「明日、妹のエイミーを連れてこちらを訪れてよろしいでしょうか?」


「もちろん、すぐにでも良いぞ」


「もうひとつ、エイミーは今話した事全て知りません。エイミーにはエイミーと私の母は没落して父と供に亡くなったと話しています。どうか話を合わせてください。お願いします」


「わかりました。話せませんよね」


「それより妹さんを今すぐ連れて来なさい」侯爵殿はせっかちだ。


「いや、エイミーはクリナの宿にいます」


「なに、ひとりにしてるのか?」


「はい、でも私が今帰りますから」


「今から向かえば夜明けになるぞ」


「いいえ、飛んで帰るのですぐです」


「? それは比喩か?」


「いいえ、文字通り飛んで帰ります。始まりの王達と同様に空を飛びます」


「?」

「?」


「見て頂けたら納得するでしょう。そこのベランダから帰らせていただきます」

 僕はベランダに出てごそごそと飛行服を着て、ハンググライダーのセイルを直し「失礼します」と、ひと声かけて飛び立った。


 侯爵と姉さまは口をポカンと開けて見送ってくれた。



「初めてお目にかかりますハースウェイ侯爵、エルミーナ姉さま、シオンの妹のエイミーと申します。お二人には私のため、いろいろとお骨折りいただき感謝しております。今後も宜しくお願い致します」


「ようこそ、私がパーチャス・ハースウェイ侯爵です。歓迎いたー」

 エルミーナ姉さまは、パッと立ち上がりスタスタとエイミーの傍まで行くと横に座り抱き着いた。

「エイミーちゃん来てくれてありがとう。これからは叔母ちゃんをお母さんと思って甘えて頂戴、いつまでもここにいてね」


 僕はもちろん、エイミーも侯爵も皆目を白黒してエルミーナ姉さまを見ていた。


「ええと……」


「私のカップをここに」と、エルミーナ姉さまはメイドに指示してる。席を戻る気はなさそうだ」

「どうしたの、シオン続けて」


「エイミーの学院入学に協力をお願いしたい」


「それは、どうにでもなる。妻の親戚の子供を預かり願書等の書類の作成など訳もないことだ。問題はその、学力が、どうか?」


「それは大丈夫です。読み書きと算術は全く問題ありません。歴史は一般的な歴史は問題ありません。この王国の歴史はたたき込みます。地理も同じです。王国の地理を叩き込みます。魔法も全く問題ありません。問題は、礼儀作法とマナーです。これは、エルミーナ姉さまにお願いしたいと思います」


「そうか?」


「あなた、一度家庭教師を呼んで見てもらいましょう」


「それから、歴史と地理の授業は私も一緒に受けさせてください。他国の歴史や地理は受けたいと思っても受けることなどほとんど不可能ですから」


「シオン君は学院卒業してないよね」


「え~、兄さん学院行ってないの!」


「うん、そうだよ」


「ずるい、私だけ学院に生かせるなんて」


「エイミー、教会で私より勉強のできる人がいましたか?」


「……いない」


「エイミーは学院に行かないで私並みに勉強ができるようになれますか?」


「なれない」


「じゃあ、素直に学院に行きなさい。好いですね」


「はーい」


「教会って何なの?」


「兄さん、教会で子供たちの勉強の先生してたんです」


「あら、へえー。それよりエイミーちゃん、シオンのことはお兄さま(・・・・)と呼ばないとだめよ」


「え、はい」

 エイミーごめん、せっかく兄さん(・・・)と呼べるようになったのに。



 五日後の午前、


 エイミーと僕は家庭教師による試験を受けている。なぜ僕も受けているか? それは野望があるからだ。エイミーは良い、学生が親戚の家から学院に通う。何ら問題はない。誰も気にしない普通のことだ。それに比べて僕はどうだ、ハースウェイ侯爵夫妻は僕が無職でも気にしないだろう。なんたってこの国の重鎮だから。でも僕が気にする。そのための今日の試験だ。



 同じ日の夕方、


「おふたりとも、大変素晴らしい成績です。エイミー様は入学試験は言うに及ばず、入学後も上位の成績を維持できるでしょう。シオン様はほぼ満点です。あとはこの国の歴史と地理を勉強するだけです」


「まあ、素晴らしい。シオンも本当でしたのね」


「やっぱり、エルミーナ姉さまは疑っていたのですね」


「ふふ、そんなことありませんよ」

「でも良かったです。これでエイミーちゃんの礼儀作法とマナー、お化粧や着こなし、歩き方、時間は幾らでも必要ですもの」


「エルミーナ姉さま、お手柔らかにお願いします」


「シオン君、前から疑問に思っていたが、その『エルミーナ姉さま』は何なのかね?」


「あなた、それは何でもないのです。気にしないでください」


「はい、むかしエルミーナ姉さまがいらしたとき、叔母さまとお呼びしたら大層ご立腹され、今後必ず姉さまと呼べてきつく諭されたのです」


「ははは、なるほど」


「シオン、今後叔母さまと呼ぶように、良いですね」


「もう、ほっぺが痛くなることはありませんか?」


「そんなことあるわけないでしょ」



「侯爵、お願いがあります」


「なにかね?」


「仕事を探しています。できれば教師が良いのですが」


「そこの家庭教師の君、シオン君は務まると思うかね?」


「算術は完璧です。読み書きも問題ありません。歴史と地理はちょっと」


「まあそうだな。夏休みに入ったら学院長に打診しよう」


「あの、私は魔法が得意です。古代文字の読み書きもできます」


「古代文字が読めるのかね?」


「はい、魔法関係の語彙は完璧に、行政関係は及第点ギリギリでしょうか」


「わかった、聞いてみよう」


「よろしくお願いします」



 夏休み、


 子供たち(学院生)は夏休みを謳歌おうかしている。しかし、彼ら以外は皆忙しい。受験生は最後の追い込み。卒業生は新たな任地への移動、官舎の移動、新たな職場での研修。普通の大人たちも今期の決算、来季の計画、移動、昇進、色んな事の重なる時期である。

 *この世界は新年度が9月1日、夏休みは新年度への切り替え期間の意味合いが強い。



 王立学院、応接室、


「学院長、今日はお時間を取っていただきありがとう。こちらが妻の遠縁のシオン君だ」


「侯爵殿、わざわざ足を運んでいただき恐縮です。こちらは魔法の講師のエリザベス殿下です」


「エリザベス殿下、今日はお時間を取っていただきありがとうございます」


「ハースウェイ侯爵、今日は講師としてきている。そのつもりでいてくれ」


「それで、シオン君のことですが。講師の椅子はひとつも空いていないのじゃ」


「古代文字もですか?」


「古代文字の講師は欲しい。城の上も重要度の高さは分かっている。しかし新たに予算を組むのも難しい。それに生徒も集まらなんだ(あつまらなかった)

「そこで、魔法教室の助手としてエリザベス君の下について数年待ってもらえないか? これが国の方針だ」


「はい、わたくしに依存はございません」と、僕。首の皮は繋がってる。


「少し待ってください。私は何も聞いてません」


「今、話したじゃないか」


「学院長!」


「エリザベス君、君も助手が欲しいと希望していたはずだ。取りあえず助手にしなさい。君も古代文字を習いたいと言っていたな。取りあえず三カ月使用期間じゃ。良いですね、エリザベス殿」


「君、幾つかね?」おかんむりのベス。 *ベス エリザベスの愛称


「はい、18歳になります」


「どこの学院の出身だ?」


「途中で辞めました。貴族でなくなりましたので、ですから学院の名前は聞かないでください」


「そんな者を教師にするのか?」


「お言葉を返すようですが教師でなく助手です。それに使用期間があります」


「エリザベス、もう話は終わりだ」と、学院長が無理やり終わりにした。



 帰りの馬車の中、


「侯爵、今日はありがとうございました。無事、仕事につけそうです。エイミーにも面目が立ちます」


「そうだ、話しておくことがある。君のことは国王陛下と宰相に話した」


「はい、学院の職員に他国の王族がいて知らないでは済みませんから、当然だと思います」


「それから、エリザベスのことは気にしないで欲しい」

「国王とベスの関係があまり良く無くてな」


「それで」


「国王はベスに嫁に行って欲しい。ベスは学院で魔法の研究をしていたら幸せ。だからふたりはぶつかる。今日も君に悪感情があるわけじゃなく、国王に頭ごなしに決められたのが苛立ちの原因だね」

「君には長く我が国にいて欲しい、皆そう考えている。当分居てくれるのは確定だけどね」

「まあ、ベスと仲良くやってくれ」


「はい、努力します」



 居間ではエイミーがファションショーをしている。学院の制服が仕上がり、エルミーナ姉さまがエイミーに着用させ、付き人や侍女とともに批評を繰り広げている。

 僕もその様子を少し離れた所からニヤニヤしながら眺めている。


「シオン、あなたはどのような恰好で学院の先生をするの? あなたが醜態をさらすと恥をかくのはエイミーですから気を付けてちょうだい」わ~、僕に風当たりが強いな。


「はい、今から仕立て(つくり)に行きます」


「あら、行かなくてもエイミーのドレスを仕立てるためお針子が来るから一緒に済ませませんか?」


「いえ、申しわけないですが、他にも用事があるのでご遠慮します」


「あら、そうですか」


「失礼します」



 エルミーナ姉さまの元を逃げだし王都の街をぶらついている。さてどこで仕立てるか? この街には来たばかりで洋服関係の店等みせなど知らん。唯一知っているのはエルミーナ姉さまや付き人が話していたモレーリ洋装店と云う店。他に充て等無(あてなどな)いので、その店に行くことにした。

 幾つもの辻馬車に当たり店を探しだした。この時代?この世界?の店は、通りから見て店に見えない、看板や表札の類が無い、僕からすると不親切極まりないと思うのだが? どう思う?


「失礼する」


「はい」

 なんだ、いらっしゃいませとか、ご予約はとか、ご紹介はとか、なんか言えよ。


「ここは、服屋だろ?」ちょっと意地の悪い聞き方だな。


「はい、そうですが」


「洋服を仕立てて欲しい」


「どちらのご紹介でしょうか?」やはり断る気満々だな。


「ハースウェイの家に滞在してる。妹のドレスの仕立てに今日来ると夫人とその周りが話してた」


「はい、ぞんじております。どのようなお召し物をお考えで?」切り替えが早いな。


「新年度から学院で講師の助手を務める。学院に着ていく服を4、5着頼む」


「では、お体を測らせていただきます。奥へどうぞ」


 採寸され、服の形や好みの色を聞かれたが、お任せ、お任せで通した。


「フィッティングにいつお伺いすればよろしいでしょうか?」


「いや、僕がここに来る。夫人や妹やその他の女性ばかりの中で批評に耐える自信が僕には無い。僕宛で日時を指示してくれ、9月まで日がないから呼ばれたらすぐにくる。頼むぞ」


「承りました」



 ハースウェイ侯爵邸の居間、


 なんで僕はここでフィッティングしてるのだ?


「もう少しウエストを絞ってあげてください」


夫人(姉さま)、きついです」


「大丈夫です。我慢しなさい」


夫人(姉さま)、この街の商人は商道徳しょうどうとくが無いのでしょうか?」


「そのようなことはありません。モレーリの主人も一度は私に黙って進めようとしてましたよ」


「じゃあ、なぜ?」


「エイミーちゃんが店の主人に『昨日、兄が伺いましたか?』と聞いたら、すぐ白旗を掲げて全て話してくれましたよ」


「エイミーの感が鋭いのを喜ぶべきか、悲しむべきか?」


「馬鹿なこと言ってはいけません」


「はい、喜ばなければいけませんね。エイミーはふつか続けてドレスを仕立てたのですか?」


「いいえ、翌日は少し華やいだ生地を見せて頂いたのです」


「タイミングが悪かったのですね」


「ふふふ」



 学院入学試験当日、ハースウェイ侯爵邸の居間、


「シオン、なんでここにいるの?」と、エルミーナ姉さまに問われた。


「それは、エイミーの試験が心配だから。部屋にひとりでいるより居間ここで皆といる方が気が紛れるし」


「いえ、そうではなく、あなた学院の先生になったのでしょう?」


「ちょっと違うけど、はい、そうです」


「なぜ、学院に行って働かないのですか?」


「ああ、そういう意味ですか。まだ先生達に紹介前の新人先生が、入学試験期間に学内を歩き回るとトラブルの元だから呼ばないそうです」


「ああ、そうなのね。さぼってる訳じゃないのね」


「はい……」



 学院入学式前日、ハースウェイ侯爵邸の居間、


「お兄さま、なぜ家にいるの?」


「お前までそんなこと言うのか?」


「もしかして、叔母さまにも言われました?」


「私の上司のエリザベス先生から、明日から来るように指示されているの」


「教会の新年度前は忙しくしてましたよね」


「教会はそうだったな。でもエリザベス先生が怖くて突っ込んで聞けなかったんだよ」


「お兄さま、なにか嫌なことしませんでしたか?」


「いや、そういう事じゃないから」

「それより、お前は準備は済んでるのか?」


「たぶん、大丈夫です」


「お前、明日どうやって行くの?」


「叔母さまが馬車をだしてくれます」


「ああ、ちょうど好い僕も乗って行こう」


「新米教師は歩きだそうです」


「お前、意地悪だぞ」


「いえ、叔母さまがそう仰ってます」


「えっ、本当に?」


「叔母さまにお聞きになってください」


「いや、聞くだけ無駄だな」


「私もそう思います」


「……」


 次回投稿は10月10日の予定です。

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