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空を飛びたい魔法使い  作者: ヨウレ
二章 逃亡
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十一話 目指せ猟師

 サイベックにきて1年が過ぎ、先月はエイミーの1歳の誕生日を祝った。フォスターもエイミーも最近はお乳より離乳食が主になってきてると夫人に言われた。エイミーの乳離れ、そしてここを去る日も近いと感じている。


 僕もこれからの生活を考え始めた。

 僕は僕とエイミーの食い扶持ぶちを稼ぎ、当分の間は人目に付かずに生活したい。

 かては猟師で得ようと思う。利点は拠点の移動が容易だ、獲物の換金も容易で変に疑われない。欠点はコミュニティに溶け込みずらい、しかしこれは目立たない利点でもある。

 狩猟の最大の欠点は獲物を獲る事の困難さだ。しかし僕の魔法の範囲3m、これは矢を銃身3mのライフルで撃つようなものだ。僕は弓矢は簡単なものと舐めていた。


 それに、今は城から持ち出した金が沢山ある。土魔法で宝石を作っても良い。何とかなるだろとお馬鹿な僕は気楽に考えてた。


 先ずは弓を始めよう。その為に道具の入手、騎士爵に許可をもらい領都に向かった。

 領都で弓矢を買い、試射を行った。僕は弓を舐めていた。前に飛ばない、矢が下に落ちる、げんが耳に当たり耳を失うかと思った。

 僕は独学は無理と判断し誰かに教えを乞う必要を感じた。僕はあっさりと白旗を掲げ騎士卿に先生を紹介してと泣きついた。


「シオン様、猟師は危険です。他のお仕事を考えてください」


「弓の先生か、ラウスの親父さんに頼もう。紹介状を書く。シオン様は妻の従弟で家出中にしとけば大丈夫だろう」


「あなた、本当に大丈夫?」


「ダメだったら、戻って来れば良い。あの親父さんは子供に甘いから大丈夫さ」


 僕はエイミーを夫妻に託して領都に徒歩で向かった。



「失礼します。サイベック領主代行の紹介で参りました。こちらの紹介状をご当主にお渡しください」


「少し待て」門番が紹介状を受け取り中に消える。


「君、どこが悪いの?」と、代わりに出てきた若い女性に聞かれた。看護婦さんかな?


「いえ、どこも悪くありません。私は患者ではありません」


「何しに来たの?」


「門番に渡した紹介状に書かれてある通り当主にお願いがあり参りました」


「ごめんなさい。勘違いしてたみたい。こちらにどうぞ」と、応接室に通された。


「すいません、待たせましたね。親父が留守でね私が代わりに話を聞きます」


「ランボー様の紹介状に書いてありますが、私が弓を習いたいので師事する先生を紹介して頂くお願いです」


「ああ、そうですか。親父は昼前に帰ります。部屋を用意しますそちらでお待ちください」


 先ほどの看護婦さんに部屋まで案内してもらった。庭を眺めながら1時間ほど過ぎた頃に当主が現れた。


「君か、ランボーの紹介状の少年だね。弓の先生か? 領都の道場ではどこも教えていないな。知り合いの兵士に頼んでみるが、君はそれでも良いかね?」


「一度お会いしてから決めてよろしいでしょうか?」


「ああ、良いよ。誰か、ノーマンを夕食に呼べ」


「すまんが、夕食まで待ってくれんか?」


「ご当主、領都の街を見物したいのですが構いませんか?」


「ああ、良いよ、6時までに戻りなさい」


「はい」


 僕は、領主の館を遠目に見ながら、館前の広場の屋台を冷やかし、腹ごしらえをしつつ教会や市場を見て回った。王都に比べると寂しいが久々の街の雰囲気を楽しんだ。



 夕食の席、ハウザー夫妻、ハウザー夫妻の息子で騎士卿の友人のラウス、兵士のノーマンに僕。

 僕は挨拶し、ハウザー当主に他の皆を紹介された。


「ノーマン、彼が弓を習いたいという少年だ良ければ教えてあげてくれ」


「彼は剣も弓も名人級だ、彼に教えてもらえば直ぐ上手くなるさ」と、ラウス。


 彼は190㎝を超えがっしりした戦士みたいな人だった。無口そうでここでは僕より緊張しているみたいだ。


「ノーマンさん、宜しければ弓を教えてください」と、僕は頭を下げた。


「ああ」


「ノーマン!」と、ラウス。

「こいつは、口数が少ないが気にするな」と、フォローする。


「ははは、ノーマン、明日から午後3時から2時間、訓練場で弓を教えてやってくれ。いいな! 隊長と領主には俺から伝えとく。ははは」と、当主はお酒ですっかりご機嫌だ。


「ノーマン、シオン君、明日は無理だ。私から隊長と領主に了解を取る。一応明後日から始めるつもりでいてくれ」と、ラウスがフォローしてくれた。


 ん? ノーマンが手招きしてる。


「はい?」


「弓矢見せて」


 先ほどの部屋から弓矢を取って来て渡す。


「駄目だ」


「ええと、どこが悪いのでしょうか?」


「猟師が使う弓。それも短弓。基本は長弓、長弓を教える」


「明日5時に兵舎に来い。買いに行く」


「はい、分かりました。あす午後5時に兵舎に伺えば宜しいのですね?」


「そうだ」


「分からない事があれば、何回も聞け。こいつの説明は分かりにくいし短かすぎる。こいつも分かってるから何処どこ如何どう分からないのか何回でも聞きなさい」と、ラウスが補足してくれた。


 横でノーマンが肯いてた。


 思わずクスッとしてしまった。まずい、まずい。



 敵は朝にあり、


 僕は、普段は使わない病室を借り、ハウザー家に居候することになった。

 そして今ひとりで朝食を取っている。寝坊したのだ。恥ずかしい、顔から火が出る。言い訳させてもらえれば、つい数日前まで朝は午前11時だった。これは気を引き締めないと又やりそうだ。


 今日は夕方まで暇だ、ラウスに手伝うと伝えたらあっさり仕事をくれた。

 療養してる貴族の坊ちゃんの遊び相手を頼まれた。これは僕が貴族だと思ってる証拠だ。それは僕が平民や騎士なら問題を起こすと首が飛ぶが(物理的に)貴族だから有耶無耶にできるとラウスは考えてる。それに僕も断らないし。

 その子の運動はどこまでさせて好いかと聞くと、暖かい部屋の中でほどほどと言われた。


「こんにちは、僕はシオン、君と遊びたいけどいいかな?」


「僕は伯爵家の長男だぞ」


「うん、何して遊びたい」


「かくれんぼ!」


「ダメ、寒いからこの部屋の中で! カードゲームかボードゲーム」


「う~ん、ボードゲーム!」


「それじゃあ、始めよう」


 ボードゲーム、まあチェスの洗練されてない古い形のゲームで僕は得意じゃないので三回戦うと二回は坊やが勝つので機嫌よく過ごしてくれた。


「じゃあ、今日はここまで」


「え~、もっと遊ぼうよ」


「明日は何か新しいことをしよう! 何かやってみたいことある?」


「竹馬! 最近流行ってるて誰かが言ってた! でもみんなあぶないからダメだって」


「そうか……」


「でも、一緒に遊んでくれたら許してやる」


「ありがとう、また明日」


 昼食を頂き、そのまま街に出かけた。お買い物は洋服だ。僕は周囲から浮いている事に気付いた、僕の服は普通の平民の服だと思っていたが貴族か富豪の着る服みたいだ。違いは分からないが。

 洋服の店に入って更に気付かされる。奥から出してくる服が皆、微妙に高い服ばかりだ。


「私の欲しい服は、表通りや市場を歩いても誰も振り向かない服だ。普通の平民の服をくれ」


「こちらは、どうですか?」と、一揃い着せてもらう。


「私は昨日、平民の普通の恰好をしてると思っていた。しかし皆一目で貴族と見破る。私はこの店に貴族と見られない服を買いに来た。もし見破られたらここに怒鳴り込みに来るぞ、もう一度揃えてくれ」


 僕も相当理不尽な事を言ってるのは分かってる。でも他の方法が思い浮かばないのでこの店に泣いてもらおう。


 すそそでを直してもらう間に家具屋に向かう、もちろん今の店で教えてもらった店だ。

 家具屋の主人に忙しいと断られたが、ごねてひとり見習いを確保した。作らせたのは缶馬かんうまだ、空き缶の代わりに丸太をくりき、そこに足の大きさ位の板と紐をつけて完成。

 再び洋服屋で裾と袖を直した洋服を引き取り兵舎に向かった。兵舎では時間が早すぎたがノーマンと待ち合わせだと告げて詰め所に入れてもらう。外は寒い寒い。


 ノーマンが出てきた。詰め所の中の僕を見てうなずきそのままスタスタと歩き始める。笑ってる詰め所の兵に礼を言いノーマンの後を追った。


「ここだ」と、ノーマンは武器屋の中に入ってゆく。もちろん俺も続いて入る。


「親父、長弓、この子に合う」


「はい、はい、君が使うのかい?」


「はい、そうです」


「君、身長は150㎝位?」


「はい、150㎝です」


「長く使えるもの」


「はい、と言ってもこれがうちの一番小さい弓だよ。これが身長160㎝位向け。これより小さいと短弓を工夫して使うしかないからね」


「それで良い。弦は緩めて。矢と矢筒も」


「ノーマンさんはああ言っているが、それで良いかね?」


「はい、大丈夫です」


 僕は代金を払い、留め具などのサービスと弓矢一式を受け取り店を出た。


「明日から始める。3時に詰め所で待ってろ」


「ありがとうございます」と、どうもここで解散みたいだ。ハウザー宅への家路を急いだ。



 今朝は起きれた、ギリギリで。寝ぼけながら朝食を皆と取っていると、ラウスさんが

「シオン君、ノーマンから何か聞いてるかい?」


「はい、今日の3時に兵舎に来るように聞いています」


「ああ、隊長の許可は下りたんだな。今日から頑張りなさい」


「ええと、本当に許可が下りているのでしょうか?」


「大丈夫だ、ノーマンは副隊長だから常に隊長と一緒にいる。いくら何でも聞いてるはずだ」


「そうですか。それからお礼はいくら包みましょうか?」


「いらん、わし等に酒を差し入れれば良い」と、ご当主のお言葉だ。


「それは、無視して。最後にいくら包むか僕が指示するよ。それまでは『ありがとう』だけにしてね」


「今日も坊やと遊んでくれるかい?」


「はい、そのつもりです」


「ありがとう、10時からお願いするね」



「今日も遊ぼう」


「うん、良いよ」


「これを持ってきたよ、竹馬とは違う高馬(缶馬)だよ」


「どうするの?」


「やってみせるよ」と、高馬(缶馬)をやって見せた。


「じゃあ、やって!」


「えっ、良いの?」


「良いよ」坊やを高馬(缶馬)に乗せ紐を持たせ、支えながら歩いた」


「じゃあ、少し休もうか?」


「え~、今始めたばかりだよ」


「ダメ、ちょっと息が上がってるからお茶を飲んで、落ち着いたらまた始めよう。良いかい?」


「うん」


「こっちに来て座って」


 少しお喋りをしていた。どこで竹馬を見たの、誰々が持ってるの、誰が上手とか、たわいもない話をしていた。落ち着いたらまた高馬(缶馬)で遊んだ。


 帰り際、侍女に、

「玩具を坊やに贈ります、熱が出ないように遊ぶ時間は適切に管理してください」と、伝えた。



 午後3時、詰め所、


 時間通りに詰め所に行くと、立ち番の兵士が黙って中に入れて暖炉前の椅子を勧めてくれた。また時間ピッタリにノーマンが詰め所の前に立ち止まり、直ぐ踵を返し訓練場に向かって歩き始めた。

 思わず座ったまま見送ると、先ほどの兵士が、

「おい、追いかけろ置いて行かれるぞ」と、声をかけてくれた。


 僕は、兵士に礼を言い。急いで追いかけた。

 ノーマンは無人の訓練場に入って直ぐ僕に向き合い、

「弓だけ持って立って」


 僕は弓以外の道具をそこに降ろし直立する。


 ノーマンは落ちていた枝を拾い、僕の内腿うちももを叩いた。


「?」僕。


「……」ノーマン。


「あっ、すまん。足を広げて」


 先程の枝で腿を叩いたのは少し動かせの合図だったらしい? 少し足を広げた。


 ペチ。


 僕は足を少し狭めた。


 ペチ、ペチ、ペチ。


 腰、肩、顎、つま先等細かく姿勢を修正された。最後に弓を引いた状態で静止。


 ……


 2時間弱立ちん坊。


「痛いところを鍛えろ、終わりだ」


 ノーマン先生は兵舎に振り返もせず帰っていった。僕は体を引きるように詰め所に戻り暖炉の前の椅子に座った。


「少年、太腿と腕、手が痛いんじゃないか?」と、兵士。


「はい、痛いです。寒いです」


「まあ、あれだけど、副隊長は教え方上手いから頑張んなよ! 適当に温まったら帰れよ」


「……、ありがとうございます」

 僕は少し休んでから帰路に就いた。なぜだか腿が痛くて変な歩き方をしている。人の視線が痛くてとても恥ずかしい。


朝起きれなかった。いや寝坊した訳じゃない。体が痛くて起き上がれないのだ。それも昨日ラウス(医者)さんに大量の湿布を塗ってもらっているのに。


「兄ちゃん、遊びの時……。兄ちゃんくさい!」と、坊やは逃げ帰った。


 そりゃあ、このにおい、においと云うより目と鼻にみる何かだ。僕も耐えられないんだ、坊やが耐えられるわけないな。

 ベッドから出られない僕にメイドさんが朝食を部屋まで運んでくれた。ありがとう。昼、根性で食堂に這って行った。何とか動けるようにしないと。


 僕は随分早くに兵舎に向かった。しかし辿たどり着いたのは僅か十分前だった。ノーマン先生は時間通りに来てそのまま訓練場に向かう。詰め所のドアに縋り付いてた僕はズルズルと先生を追った。



 10日間まったく同じことを繰り返した。いや、今日は少し違う痛さと臭いの暴力を比べた結果、痛さへの我慢が勝ち湿布を止めたのだ。


 何時も通りの訓練場、でもちょっと違ったノーマン先生がいきなり近づき「クンクン」したのだ。


「矢を射る訓練を始める。弓を貸しなさい」


 先生は弓の弦を締め直し、

「あの的を射って」


 僕が弦を絞って射ようとすると、


「もっと、ゆっくり」と、指示し。

 木の枝で肘や顎、肩をペチペチと叩き姿勢を直された。2時間これを続けた。帰り際に、

「型立ち1時間。弦は絞るな、弓が壊れる」


 かただち? 『型立ち』の事か。

「型立ちとは昨日までの訓練の事ですか? 弓は持たずにしろと?」


「そうだ、弓は持て弦に触るな」


 今日から矢を射る訓練に変わった。ちょっと腑に落ちないのは矢がどこに飛んでもお構い無しなところ。でも矢は普通にビュンと飛んで行くので満足している。



 訓練開始から15日目、


 練習開始から1時間で、

「今日は終わりだ。片付けて付いて来い」


 スタスタ歩きだしたノーマン先生を追いかけて行く。兵舎を出て武器屋に到着。

「親父頼む」と、言うと帰って行くノーマン先生。


 ポカンとノーマン先生を見送り、振り返り武器屋の親父を見ると、

「じゃあ、弓、矢の手入れ、調整、弦張りを教える」


 納得。親父に丁寧に説明してもらい、言語による教育の重要性をひしひしと感じた。



 ノーマン先生からペチペチが無くなり、彼が射線上の後ろに立ち、

「もっと右」や「上」、「左」、「右上」、「少し戻せ」等にの指示を出し始めた。

 弓の狙いのつけ方の難しさをひしひしと感じていた。独学の自己流では、狙いのつけ方も勘違いしたままに違いないと思う。

 狙い方の指示がほとんどなくなると更に「狙いは合ってる」や「(弦の)絞りすぎ」、「絞り足りない」の指示も出始めた。この頃から急に的に当たりだし訓練に熱も入った。



 一月ひとつきほど過ぎ、

「今日で訓練は終了する。聞きたいことがあれば質問してくれ」


 おお、ノーマン先生が長文を話した。おっと、質問、質問、

「長弓、短弓、狩猟用で練習方法に違いがありますか?」


「無い。用途と威力、扱いやすさの違い」


「上達するために必要なことは?」


「射る瞬間に正しく体が止まる事」「その為の訓練」と、途切れ途切れに答えてくれた。


「先生、ご指導ありがとう御座いました」


 ノーマン先生はうなずくと踵を返し兵舎に去っていった。ノーマン先生は無口だが暖かい良い人だった。



 ハウザーの屋敷、


「ラウスさん、ノーマン先生の訓練終了しました。お礼はいくら包めば宜しいでしょうか?」


「そうだな、これ位で良いでしょう」


「わしが届けてあげよう」と、当主がニコニコしている。


「ダメ、ダメ、親父に渡すと親父とノーマンのふたりで全部飲んでしまう。これはノーマンの奥さんに渡す」


 えっ、ノーマンさん奥さんがいるんだ、人は見掛けによらんな。顔に出さないようにっ。


「用意してきます」と、僕。部屋に戻り用意しラウスさんに渡した。


「私も明日にも騎士爵の許に戻ります」


「そうか、気を付けて帰りなさい」



 翌日、坊やや屋敷の人に挨拶をして馬車に乗った。坊やは少しへそを曲げていたが一生懸命謝ったから許してくれるだろう。それにしてもこの馬車は乗り心地が最悪だ、鉱石の運搬用の馬車でサイベック行きは食料品と雑貨が少しと僕。4日間我慢した。お尻が痛い。



 騎士爵の屋敷に戻った。いや、騎士爵の屋敷に訪問し滞在する客になった。


 僕は騎士爵の屋敷の幽霊から脱却し正式に滞在する客となった。国を出て1年以上過ぎほとぼりが冷めたと思う。だいたい一番に逃げそうなここを探さないのだから黙認してるでしょう。

 もうひとつの理由はここを出て次の場所に向かう時に船を使おうと考えてるからだ。船は身元がしっかりしていないと乗れないから。



「カーナル騎士爵、カーナル夫人、ただいま戻りました」


「元気そうで安心しました」


「弓の訓練はどうだ? 良い先生は見つかったか?」


「はい、ハウザーさんにとても良い先生を紹介して頂き大変感謝しております。弓の腕も十分上がりました」


「シオン君、君にとても残念なことをお知らせします」


「あなた、悪いわよ!」


「?」


「フォスターとエイミーちゃんふたりともおしゃべりを始めました! いや、フォスターは少し遅いと心配してたんだ」


 僕はダッシュで2階に上がりふたりの赤ん坊のベビーベットに張り付いた。


「ついさっき寝たばかりだから当分起きないわよ」


「う~!」


「はい、下に戻って。お茶の支度が整ったみたいよ」


 僕は後ろ髪を引かれながらお茶に戻った。


 う~、騎士爵のニタニタ笑いが憎たらしい!


「で、今後予定は決まった?」


「今度の秋に出て行こうと考えています。そのころには乳離れも済んでエイミーも連れて歩けると思から」


「まだ、ここにいても良いのよ」


「そうも行きません、客としてここにいれば詮索せんさくする人も出てくる。長くなれば尚更です」

「行き先はストラスフィートを考えてます。神ノ山に接してる国だから、神ノ山が見たいし」


「船で行くつもりなのか?」


「はい、船を考えてます。ここアベラフィートからストラスフィートまで約16日。船で入れば入国の証明も容易ですから」「陸路だと、グレンフィート(シオン、エイミーの母国)、ダルモフィート(旧首都、古代文字教師ロイのいる国)、ロングフィート(赤い鉱石を嗅ぎまわってる国)を通らなくては行けません。海路だとその危険を冒す必要が無いから安全です」


「まあ、そうだな。陸路より安全だ」



「猟師としての訓練がしたいので山側の森に入る許可と猟の許可をください」


「いいけど、領都で習ってきたんじゃないの?」


「いいえ、教えて頂いたのは長弓だけ、騎士や兵士が習う弓の技術です。猟の技術はまだ何も」


「ああ、なるほど。でも気を引き締めなさい、熊や狼がいるからね」


「はい、でも大丈夫です。熊や狼なら魔法で撃退できますから」


「シオン様、気を付けて怪我をしないでください」


「ありがとう、エイミーのおしゃべりを聞きに行きますね」



 3日後の朝、


 エイミーとフォスターのおしゃべりも聞けた、さて猟に出発だ。何も分からないので取りあえず1泊の予定だ。


 あまり獲物がいない。いや全然いない。そして体力もない、弓の訓練で感じていたが騎士爵の屋敷から出ない生活は体力を相当奪い取られた。体力づくりを兼ねて2日間歩きに歩いた。


「ただいま」


「どうでした?」


「獲物を見つけられなかった」


「怪我がなくて良かったです」


「怪我もないが獲物もない」


「ふ、ふ、ふ」


「明日1日休んで明後日又猟にでます」


「はい、頑張って」


 一月ほどしてやっと獲物いる場所が分かってきた。しかし、僕が獲物を見つけるより、獲物が僕を見つける方が早く獲物の影しか見えない。


 更に一月ほどしてやっと獲物より早く見つけられ始めてきた。そう10回に1回くらい僕が先に見つけられる。しかし長弓では無理だ、弓が下草を撫でる音で逃げられてしまう。僕は、だんだんと猟が理解で(わかって)きた。理解が進む(わかればわかる)ほどに猟が難しく思えてならない。



 僕は覚った、所詮王族のボンボンに猟師など無理な事が。初心に帰る、魔法・・と元の世界の知恵・・で何とかすることにした。


 使う弓はクロスボウ。矢は短く、羽を大きく。矢は回転させずに羽で滑空させ魔法で制御する。通常の矢は回転することで直進し狙い通り進むが、僕の矢は紙飛行機の要領で飛ばし魔法で進行方向を制御し加速させることにした。


 先ずはクロスボウの作製、材料集めのため王都に向かう事にした。


「騎士爵、クロスボウ作製の材料集めに王都に行きます」


「ええと、唐突ですね。クロスボウとは何ですか?」


「あれ、知りませんか? 攻城兵器の一種で大きな弓を横にした形の兵器です。古王国の反乱に使われたし、最近は……ロクスフィートとこの国がもめた時に国境の砦で使われたと思います」


「ああ、思い出しました学生の時に習いましたよ。あんな大きいもの?」


「いや、小さくします」


「なぜ、短弓じゃダメなのですか?」


「クロスボウだと構造上、矢を短くできるんです。風魔法には短い矢が相性が良いから」


「なるほど、良く考えますね。で、いつ行って、いつ帰られますか?」


「明日の夜明け前に出て、夜には帰るつもりです」


「へっ、できるのですか?」


「小1時間の買い物だから可能でしょう」


「行ってらっしゃい」



 翌日の夜、

「ただいま」


「お早いお帰りで」


「お土産」と、ドライフルーツを渡す。


「今まで赤ちゃんの大合唱でした」


「寝たばかりですか……」ちょっと残念。


「何を購入されたのですか?」


「好くしなる乾燥した板、にかわ、強力な弦、やじり、すぐに揃えられました」「何か食べて、エイミーの顔見たら寝ます。疲れました」


 翌日は寝坊した。それでもまだ寝足りない僕は朝食後、赤ん坊のベビーベットに寄りかかり転寝うたたねしていた。ふたりの赤ん坊の泣き声で起こされた僕はあやしながら「まんま、まんま」の声にニヤニヤしてしまった。


 やる気が出た僕は、クロスボウの作成を開始した。10日程で完成し明日からまた猟の生活に戻る。


「明日からまた猟の練習に戻ります。以前と同じ1泊して明後日の夕方には戻ります」


「気を付けなさい」


「怪我をしないで帰ってきてください」


「はい、大丈夫ですよ」


 翌朝早くからクロスボウを抱えて猟に出発した。クロスボウと魔法の恩恵は絶大だ。弦を絞る時音を立てなければまず外さない。姿勢がどんなに崩れても狙えるのはとても大きい。改良点は多々あるが2日でに三羽の野鳥とウサギを獲ることに成功した。


 ここから、1日で常に3羽以上、一月後は朝から昼までに5羽以上獲れるまでになった。

 また、待つことを覚えた。餌場、頻繫に通る獣道、良い具合に開けて必ず鳥が止まる枝、ここを狙いひたすら待つ。この方法だと体勢を崩す事無く狙え、魔法を使わず長弓や短弓で獲物を狩る事が可能だ。


 順調に猟の腕を上げている僕に騎士爵夫人が、

「シオン様、毎日新鮮のお肉は嬉しいけど、噛み応えのお肉も食べたいと思います」


「はい? ? ?」


「ははは、通じてないぞ! シオン君、奥さんは野鳥や兎ばかりでなく鹿や猪の肉も食べたいそうだ」


「そうですね、私が猟を始める前、食卓に並ぶ料理は殆ど鹿か猪ばかりでしたね。分かりました獲物に変化をつけます」そうだ獲りやす獲物ばかりは詰まらないな。 


「いや、野鳥や兎も必要だ。使用人たちが毎日お肉が食べられて感謝してるぞ」


「分かりました。量も考えろと言うことですね。そうですね独り善がりはいけませんでした」


「はは、そんなに深く考えなくて良いよ」



 夏から秋にかけて猟師の真似事をして過ごした。猟の腕は格段に上がった。自分では初めての土地でも猟師で生活できると自負していた。(ただの思い上がりの勘違いでした)


 僕は、騎士爵の元を離れエイミーと二人で暮らせる場所を求めて旅立つことにした。エイミーと二人でまだまだ身軽に動けない僕はなるべくグレンフィートから離れて生活したいと思っている。


「カーナル騎士爵、カーナル夫人、私とエイミーを匿って頂き感謝の念に堪えません。今まで生きてこられたのもこれから生きて行けるのもおふたりの尽力があってです。本当に有難うございました」


「シオン様、何かございましたらすぐにお帰りください。いつでも待っています」


「気を付けて、旅の安全を祈ってますよ」


 僕は大事にくるんだエイミーを抱きながら、おふたりとフォスター赤ちゃんに別れを告げた。

 揺れる馬車から見えなくなるまで手を振り、居心地の良い場所から離れる心細さと戦っていた。グレンフィートから逃げ出した日より遥かに心細い僕がそこにいた。


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