空天歩
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「コロネー、ちょっとこの板の上に立って」
「はーい、って、わっ!なにこれ?!」
コロネが驚いて見ているのは1m四方の板。しかしただの板ではなく宙に浮いているのだ。板の裏に4つのスラスターがついていて板を宙に上げ、水平になるようフィードバックかけながら推力を調整している。
今やっていることは飛行魔法を作るための基礎研究のひとつ。ドラゴンの”重き風”を参考にしつつ使いやすいように改善したのがこの描画魔法だ。
飛行魔法を使うにしても整備された平な土地など無く、街道すら地形に任せてでこぼこしている。そんな土地ばかりであるがゆえ垂直離着陸の機能は必須と言えた。垂直離着陸を成すための重要な要素がこの1m四方の板には詰まっているのだ。
勿論コロネを乗せる前に自分で実験はしてある。
最初は自分が使ってる椅子にスラスターを付けて浮き上がるか実験をしたのだが、その結果は俺の寝室兼研究室に天蓋付きベッドが出来上がる事に繋がった。どういうことかというと…
◇
「セフィリア、今から椅子に乗って宙に浮かぶから、魔法界初の快挙をその目で見ていてくれ」
「うむ!しかとこの目で見届けよう」
セフィリアもワクワクとした目でこちらを見ていて、否が応でも成功させたくなったのが悪かった。ここが室内だということをすっかり忘れていたのだ。
「起動用意…3,2,1!」
起動!と念じてスラスターに魔力をつぎ込んだ。セフィリアにいいところを見せようなんて思いながら。
設計通り魔力を噴出し始めたスラスターは猛烈に推進力を発生し、椅子を浮かび上がらせ勢い良く天井に突き刺さっていった。もちろん俺を乗せながら。
頭で天井を割る音を聞きながら、身体強化があって良かったなぁなんて思い、意識が薄れていった。
「う~ん…」
目を開けるとセフィリアが目の前に居てこちらを見ていた。意識を失っていた時間は短く、実験を行った部屋の床に寝かされているようだった。
「無事か?」
「頭が痛い」
「当たり前じゃ」
セフィリアはほっと一息ついていた。落ち着いて室内を見渡すと、天井には頭一つ分の穴と足が折れた椅子、隣の俺の部屋が伺えるほど大穴が空いた壁だった。
「いやぁ…すごい惨状だね」
「お主が原因じゃろが!」
「いっでえぇええ?!」
先ほど天井ドリルをしたばかりの俺の頭にはでっかいたんこぶが出来ていた。
「あ、すまん」
「あら、ソーイチローさん、体は大丈夫ですか?」
掃除道具をもったミストさんと、濡らしたタオルをもったティアラが部屋に入ってきたようだった。コロネは外から板材や大工道具をもってくるらしく、まだ姿は見えなかった。ティアラは俺の頭に濡れタオルを乗せ、ずれないようにそっと抑えてくれていた。ひんやりとしたタオルがとても気持ちよかった。
「ふう、ありがとうティアラ。でっかいたんこぶができましたけど、それ以外は大丈夫そうです」
「大怪我しなくてよかったわ。それにしても…随分と部屋の見通しがよくなっちゃったわね。よし、セフィリアさん、ソーイチローさん、ちょっと提案があるのだけど」
「なんじゃ?」
「なに?」
「このままこの部屋とソーイチローさんの部屋をつなげて大部屋にして、研究室兼ソーイチローさんの寝室にしない?」
「その心は?」
と尋ねた時、若干ミストさんの目が座った。
「ふたりとも、研究室で寝ることが多すぎです!それでは風邪を引いてしまいます」
「「あ、はい」」
正直、俺の部屋はアレする時以外に用事は無い。そのため魔力供給(と趣味)をしない時の半数くらいは研究室で寝ていて、それを心配してくれたのだろう。
と、まあそんな理由で寝室兼研究室ができた訳だが、ベッドが天蓋付きのキングサイズに変えてしまった。
ミストさん達はかなり頑張ったらしくそこかしこに彫刻まで施されていて、どこの王族だと言わんばかりであった。元のベッドはシングルで毛皮が引いてある程度だったため、口には出していないが不満があったのかもしれない。
しかし、さすがに天蓋付きはやり過ぎだろうと思いミストさん達に尋ねると、
「ミストさん、大きいベッドは分かりましたが天蓋まではやり過ぎでは?」
「これには理由があるんですよ」
「どんな理由です?」
「重要なのは天蓋ではなく、この支柱になんですよ。ティアラ、ちょっと来なさい」
四隅にある支柱の一本をぽんぽんと叩きながらミストさんはティアラを呼んだ。
「ほら、この支柱があると…」
ミストさんは懐からロープを取り出し、天蓋の支柱にティアラの手を結びつけ、ティアラは少し涙目になりながらこちらを見ていた。
「ほら、『拉致された町娘』ごっこの出来上がり!」
「おいこら!いやこれはこれで…」
「あとは…」
今度はミストさんが胸に支柱を挟み、むっちりしたふとももを絡めながら、
「ポールダンスごっこも出来るわよ?」
「天蓋付きって素晴らしいですね!俺はこれを作った三人を褒めたいと思います」
「ソーイチローよ…」
セフィリアが隣で頭を抱えていた。目の前で肉感的なミストさんがポールによってそれが強調され、こちらを誘っているのを見ればOKを出さざるをえない。
一応その後フォローがあって、本来の使い方は蚊帳とプライパシーの保護らしい。研究室が一緒ということで、俺が寝ようとする時に他の人の動きが気にならないようカーテンで遮断するためだと言っていた。そちらを先に教えてくれればいいのに、なんて愚痴を言ったら「あら、最初に言ったことも本当ですよ」と言われ、俺は黙るしか無かった。
◇
飛行魔法の結果が寝る場所の拡大という訳わからんことになったがそれはさておき。前回の実験の失敗から飛行関係の人体実験は必ず外で行うことと決められてしまった。試作の描画魔法を見せてコロネを外に連れていこうと思ったら、残りの三人もぞろぞろとついてきた。ミストさんの手に薬草が握られているのがちょっとさみしかった。
「んじゃ、ここらでいいかな。もう一度起動っと。……よし、問題無さそうだ」
1m四方の板が30cmほど浮いている。スラスターからの噴煙で土埃が舞っているが、まだまだこんなものではない。
「何度見ても不思議な光景じゃな。こうしてみるとそれほど音も大きくないのう」
「あんまりうるさいと魔獣の森で不要な戦闘を起こしちゃうからさ、静音性は結構悩んだよ。じゃあコロネ、乗ってくれ」
ちなみにコロネに頼んだ理由は体重が一番軽く身体能力も高いからだ。なお、体重が軽いという項目については口外していない。まだ死にたくないからだ。
「はーい、大丈夫かな~?ん~………よっと」
足先でちょいちょいと突いていたが、意を決してぴょんと飛び乗った。
「ほっと、お、お、お~~!」
一瞬ぐらりとした後は無事コロネを乗せたまま水平を維持している。さきほどより増した土煙がコロネの重さを物語っていた。
「よしよし、今度は問題無さそうだな。コロネ、板の上に慣れたら適当に動いてみてくれ」
「は~い、よっと!」
コロネは足元を左右に揺らしたりして安定性を確かめたと思ったら、今度は板の上でバク転を始めた。くるくると同じ場所でバク転し、服が開け白いおへそが目に眩しい。そして相変わらずパンツは見えない。
「ふむ…」
「ソーイチロー、お主は一体どこを見ておる?」
「パンツ。いやまてティアラ、別にパンツが見たいと言っている訳ではないからスカートをめくるな。見たいとは思っているが」
横に居たティアラがスカートをたくし上げようとしていたため、さすがに止めた。そしてティアラよ、何故悲しそうな顔をする。
「正直なスケベは手に負えん…」
セフィリアはため息をついているが、俺は正直は美徳だと思っている。なんて考えていたら、一通り運動を終えたコロネが板から降りた。応答速度も中々優秀で成果としては十分だろう。
「よいしょっと…おにいちゃんすごいねこれ!」
「だろ。コロネのおかげでいいデータが取れた。ありがとう、コロネ」
「えへへ~、ねえおにいちゃん、このぼひゅぼひゅいってる魔法をコロネの足の裏に使えないかな?」
「む?うーん、使えはすると思うぞ。ただバランス取りが自力になるから、物凄く難しくなるはずだ」
言うなれば濡れてる氷の上で氷の玉に飛び乗るようなものだ。運動神経が優れているというレベルでは足の裏のスラスター制御など出来るはずもない。無いが…、
「物は試しだ、作ってみよう。力が掛かる部分は足のどこがいい?」
「えっとね…う~ん…親指の付け根かなぁ」
しばらく飛んだり跳ねたりした結果、そう場所を指定してきた。それに了承し、またコロネの用の描画魔法を作ることになった。
推力や噴出時間、力点の微調整など色々あったが、コロネからの要望後数日で描画魔法が(たぶん)できた。
「コロネー、出来たぞー、外行くぞ」
「わーい!えへへぇ」
腕に抱き付いてきたコロネをそのままに外に向い、コロネの足の裏に描画魔法を転写した。
「『空天歩』という描画魔法だ。起動すれば踏み込んだ足の裏が爆発するように推力を発生させる。使い勝手は正直分からんからコロネの意見を反映させ調整する」
「おにいちゃん、ありがと!よーし、いくよ!『空天歩』!」
と、勢い良く踏み出したコロネだったが、やはりいきなり使う事はできず盛大にすっ転んでいた。白だった。
「ふむ……………。コロネ、大丈夫か?」
「あたた…うん、受け身取ったから平気だよ。なんとなくわかったかなー、もう一度いくよ!」
「そう簡単に使えるもんじゃないんだから、ほどほどに…」
「『空天歩』!」
コロネは自力でジャンプした後『空天歩』を起動させ、まるで空中に段差でもあるようにもう一度ジャンプしてみせた。二階建の家屋の屋根に乗れるほど高く飛び、空中でくるりと一回転し綺麗に着地を決めた。
「…リアルで二段ジャンプとかできるのかよ」
「うん!いいね!おにいちゃんありがと!」
「いや、まあなんだ、喜んでくれて何より」
唖然としている俺だったが、コロネは純粋に喜んでいた。そんなコロネの動きを室内で見ていたのだろう、セフィリアが俺のほうに走り寄ってきた。
「な、なんじゃ今の動きは!」
「コロネがいきなり『空天歩』を使いこなした。使い方は…コロネに聞いてくれ」
その後、コロネは『空天歩』をどんどん使いこなしていった。地を這うような高さで飛んだり、打撃時に発動させ威力を増したり、空中三角飛びなんてこともやってみせ、そのトリッキーさに磨きを掛けていった。
一方、セフィリア、ミストさん、ティアラの三人にも描画魔法を転写したがコロネほど上手く扱えないようだったが、高いところから飛び降りるくらいは使えるようになり、それなりに活用していた。
当然俺も試したが、後頭部にたんこぶを量産するだけで終わった。開発者の俺だけが使えないという謎仕様。バグだろうか?
天井に頭をぶつけた時、『楔の盾』が自動発動しない理由は自分から天井に向かっていったためです。




