的
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「ソーイチロー、今日は少しワシの講義を手伝ってくれんか?」
「えーと…分かった。何やるの?」
「例の的を出してくれ」
「ああ、なるほど。了解」
と言って了解したのは、ティアラやコロネの訓練で使っている人型の的だ。一般人と敵の二種類があって、出した瞬間に敵だけ撃ちぬくという訓練だ。判断力と素早さを養うために自分の訓練用で作ったのだが、これがミストさんとセフィリアに好評だった。
そしてのんきにセフィリアの後に付いて訓練場に向かった。今日は外ではなく屋内式の訓練場だった。引き戸を開け広い室内に入ると、すでに生徒は揃っていて、セフィリアが入場した瞬間、一斉に姿勢を正し敬礼をしていた。
「「「「おはようございます!講師セフィリア!」」」」
「うむ、おはよう、ではいつも通りランニングからせよ。ではいけ」
セフィリアは軽く号令を出すと、生徒たちは一斉に走りだした。列は乱さずそれでもかなりの速さで訓練場の外周を周っている。そんな生徒たちにセフィリアは時々攻撃魔法を飛ばして生徒に喝を入れていた。たまに直撃し転んでしまうのだが、そんな生徒にこそセフィリアは攻撃を加えているため、生徒もただ転ぶだけではなく同時に防御魔法を使ったり、素早く起き上がって回避したりしていた。
「それにしてもまたきっつい事やってるな。って、あれ?人数減ってない?最初は170名くらい居たよね?」
今走ってるのはせいぜい20名程度。どう見ても足りなかった。
「うむ、脱落した」
「いやいや、脱落したって…こんな高額な授業を辞められるの?」
確かセフィリアの講義は100万z、日本円で1000万円ほどとかなり高額だった記憶がある。
「まず初回の授業での、今のようにひたすら走らせてそこに魔法を打ち込んでふっ飛ばしたら半分消えたんじゃ」
「おい」
「その後は…実際に見せようかの。全員集合じゃ!」
そう声を掛けると、走っていた生徒達はまるで命の危機にさらされているようにセフィリアの周りに集まってきた。荒い息の生徒たちとは裏腹に、セフィリアはなんでもないことのように話していた。
「いつもと手順は違うが、今から組手をやってもらう。適当に分かれて始めよ」
セフィリアの宣言で、生徒たちはあっという間にペアに分かれた。すると、一人はひたすら詠唱をし、もう一人はその詠唱を止めようと格闘戦を始めてしまった。
魔法の訓練だよね?と思ってセフィリアを見ても、この光景がごく当たり前のように生徒たちを監視していた。詠唱を通させてしまった生徒はその場で腕立て伏せをし、詠唱を通せなかった生徒は殴られた痛みで地面でのたうち回っていた。
相手の拳打を掻い潜ったり巧みに防御しながら詠唱を続ける者、その詠唱を止めようと蹴りや暗器は当たり前、急所攻撃や目潰しなどでなんとしても止めようと足掻いていた。そこに貴賎や男女は関係なく、己の目的を成そうと必死になっている人ばかりだった。
「…いや、話には聞いていたけど、中々壮絶だね」
「刃物を使わないだけ優しいのじゃがな。まあこんなことを繰り返していたら、20名ほどしか残らんかったのじゃ。ソーイチローも交じるか?」
「全力でお断りします」
そんな壮絶な組手を見ていると、残った生徒はほとんどが貧困層らしく後がない者がほとんどだった。また、当初は男性率がそこそこあったのだが、今では数名程度しか残っていなかった。授業以外が目当てだった者達、セフィリアが曰く”愚か者”は初日で消え去ったらしい。
しかし、そんななかたった一人ではあるが貴族が残っていたのに驚いてしまった。それが講義の初回でおもらしした女生徒だったのだ。
「へぇ、あの子が残ってるとは思わなかったな」
「あの貴族か。ワシも意外じゃったがな。かなり甘やかされていたはずじゃが、どうしてどうして、根性だけなら生徒で一番かもしれん」
「ふーん」
たまに医療魔法の使い手が生徒を癒しつつ、1時間ほど組手を続けていただろうか、俺達が入ってきた入り口とは違う場所から違う生徒らしき団体が入ってきた。彼らはセフィリアの生徒より少し人数が多く30名程度であったが、繰り広げられる組手を見てぎょっと驚いているようだった。そして恐らく講師であろう人がこちらに近づいてきた。
「お待たせしました、セフィリア様」
その講師は一見どこにでもいるおっさんだが、余分な贅肉は一切見当たらず引き締まった肉体と頬の傷は歴戦の戦士を想像させてくれていた。
「なに、こちらも無理いってすまんな」
「いえいえ、こちらも貴重な経験を積ませてあげられそうですし、願ったりですよ」
そう言った講師の視線は、苛烈な組手を行っている生徒に向いていた。
「それでどのような形式にするのですか?実践形式と仰っていましたが」
「うむ、このソーイチローが特殊な魔法を使えるのでな、それを使って訓練を行おうと思う。やる事は単純じゃ。こちらの生徒が魔法を使うから、お主の生徒がそれを妨害するだけじゃ。手段は問わんが、一撃で絶命させなければよい」
つまりは、魔法使いは前衛の妨害を受けながら敵だけを撃破する、という訓練だ。セフィリアが更に詳しい話を始めたため、俺はセフィリアの後ろで見本となる標的を出しながら、説明のフォローをしていた。一通り話を聞いて納得できたのか、講師は大きく頷いてた。
「了解しました。ですが本当にいいのでしょうか?その、いくら訓練とはいえ、まるで近接戦闘が行われるような距離から始めるなんて」
セフィリアが指定した立ち位置は、それこそ前衛同士で戦うような距離だった。魔法使いは当然遠距離戦が得意であるため、如何にして相手を近づけさせず完封するかが肝のはずだった。そんな定石を、セフィリアは一笑に付していた。
「ふん、実戦で相手がいつも待っていてくれる訳なかろう。近寄られたら何も対処できない魔法使いなんぞ、せいぜい敵をおびき寄せる餌にしかならん」
「…それを魔法使いギルドが聞いたら、真っ赤になって怒り狂いそうですね。ですが私もその意見には賛成です」
何か思う所があったのか、相手講師は大きく頷いていた。実際、今の魔法使いギルドは近距離の鍛錬を殆ど行っておらず、それどころかそんな汗臭い事をやる魔法使いは低ランクしかいない、とまで言い切っているようだった。
「うむ。今のギルドは役に立たん頭でっかちしか育てておらんからな。まあ気づかず死ぬのはあ奴らじゃから、ワシはどうでもいいのじゃが。さて始めようかの」
そう言われて俺も配置についた。左右に別種類を展開出来るため、同時に訓練が出来るのは二組までだ。
「んじゃ…『人質君LV1』、左右に展開っと」
描画魔法を起動すると、それぞれ5mくらい離れた場所にナイフで脅された人質と犯人の書割が立ち上がった。犯人は赤、人質は青を色分けまでしてあるから、まあ間違えることはないだろう。
椅子に座り、いつでもいいよとセフィリアに合図すると、さっそく最初の組の訓練が始まった。生徒は魔法を唱えようとするが、前衛はそれを邪魔したりと戦っている。そして隙を見つけた一人の生徒が魔法の詠唱を成功させ、土の槍が書割に向かって飛ばす事に成功した。しかし、その土の槍は犯人ではなく人質のほうに当たってしまった。
「キャアアアアア!」
そんな人質の悲鳴とデロデロデロデロデーデンと某クエストのセーブデータが消える音を出し、
『おきのどくですが ひとじちのいのちは きえてしまいました』
という立て看板まで出現させていた。
「な、なにあれ!すっごいムカつくんだけど!?」
「なんか不安になる音だな…」
「人質の悲鳴も心臓に悪い…」
「そもそも何あの魔法…」
そんな感じで、生徒達には概ね好評だった。ちなみに失敗した生徒は腕立て伏せ100回の罰が与えられていた。
「はいはい、マイナス10点っと、メモメモ」
「はっふっ…え?評価なんて聞いていないですわよ?」
腕立て伏せをしている生徒が初耳とばかりに抗議の声をあげていた。その生徒はセフィリアの初講義でおもらしした生徒だった。何か違和感を感じると思ってよくよく見たら、ツインドリルだった髪型は片方が無くなっており、モノドリルに変わっていた。
「ドリルって取れると死んじゃうんじゃなかったのか…」
「失礼ね!それより何よ、その評価は!」
モノドリルのお嬢様(?)は罰の腕立て伏せをこなしつつ、尋ねてきていた。そしてどこからかザクッザクッという音が聞こえてきている。
「セフィリアのメモ帳。プラス50点で銀のセフィリアシールが貰えるらしいよ。銀のセフィリアシールを三枚集めたら、金のセフィリアシールと交換できるとか。それで金のセフィリアシールはセフィリア缶と交換出来るってさ。中身はお楽しみとか言ってた」
「な、なによそれ?!セフィリア様のグッズ貰えるなら、わたくしとことん頑張るわよ!!」
いきなり張り切りだしたモノドリルは、少しで早く腕立て伏せを終えるためか、腕立て伏せの競争でもしているようにスピードを上げた。そして変な音も合わせて早くなる。
「さっきからザクザク煩いな。一体なんだ…って、おいいい!?ドリルで地面に穴空いてるじゃねえか?!」
垂れたモノドリルが腕立て伏せで頭を下げる度に、先端が地面に突き刺さり、ドリルのひねり部分で土がかき出されていた。
「100っと…ふう、終わりましたわ。わたくしのロールですもの、地面ごときに負けるわけありませんわ」
お嬢様はツンを鼻をあげ、カッコつけて前に垂れていたモノドリルを後ろに流したせいで、後ろで控えてる人に土の塊が飛んでいった。そして土を被った生徒はものすごく嫌そうな顔していた。
「え?そのドリルってそんなに頑丈なの?ドリル完備とか実はすごいことのような気がするな」
「ドリルドリル煩いわね!我が家に代々続くロールが羨ましいからって妬まないでくださる?これだから庶民はまったく…まあ答えてあげますわ。髪型の支柱に魔獣の角を使っていますの。これでも立派な防具なのですわ」
「(そんな珍妙な人がいるなんて)すごいな!ちょっと驚いたよ」
「あら、庶民のくせにこの髪型の良さが分かるなんて、少し見直したわ。褒美として美容師を紹介しても」
「全力でお断りします」
何故かモノドリルは泣きそうな顔をしていた。なぜか今日は断ってばかりだった。




