執務室の戦い
−主人公−
今、俺は皇帝の部屋の前でノックをしている。
なぜなら、8歳になった今、自分が把握している帝国の現状と、皇帝の認識をすり合わせる必要があると感じたからだ。
「入っていいぞ」
その声が聞こえると、「失礼します」と返事をして、部屋の中に入る。
部屋に入ると、書類と格闘している皇帝と、その補佐をしている何人かの文官が見えた。
「それで、何の用だ? 見ての通り、今俺は地方の申請やらなんやらで忙しいから、手短に要件を頼む」
「それです。地方のことについてです」
「どういうことだ? 政治ということか? それは大人になってからでもいいと思うが?」
「実は……」
そこから俺は、8歳になるまでファリアンクルで飛び回っていたこと、そして地方では腐敗や汚職が蔓延していること、軍は昼間から酒に溺れているうえに汚職まであり、帝国は今、ゆっくりと衰退していることを、できるだけ分かりやすく、そして子供っぽく話した。
「……ということが、俺が実際に見てきた地方の現状です」
「うーん、確かにその話には一定程度の信憑性があるかもしれないが、地方はなあ。なかなか目が届きにくいのは、しょうがないところもあるんだ」
「違います。目が届きにくいのではありません。目がないのです」
「どういうことだ?」
「例えば、地方の代官です。賄賂を受け取っている者がいたり、勝手にルールを作って農民を酷使している者もいました。それだけじゃありません。代官がまるで貴族のように振る舞っている場所もあります」
「……代官が?」
「はい。それに、軍も酷いです。昼間から酒を飲んでいる兵士がいました。軍の中でも汚職が起きているようでしたし、兵士が本当に国を守れる状態なのか、俺には分かりませんでした」
「そこまで酷いのか……」
「まだあります。海岸沿いでは、海賊と繋がっていると思われる者までいました」
「海賊と……?」
皇帝の表情が変わった。
「はい。もちろん、俺が見たものだけで帝国全土がそうなっているとは言いません。でも、少なくとも俺が見てきた地方では、こういうことが起きていました」
「……」
「だから俺は、帝国の現状を一度きちんと調べる必要があると思っています」
そこからさらに皇帝に対して、地方の腐敗を確認するだけでもいいから、帝国最精鋭の血晶騎士団を動員して、大規模な地方調査をしてはどうかと提案した。
「うちの国は新興国家なので、地方まで届く目や耳がありません。なので緊急措置として、帝国で最も強く、異変にも一人で対応できる血晶騎士団を、どうか動かしていただけないでしょうか?」
「確かに我が国には、まだ目や耳がない。だが、そのためにも地方は代官の世襲を禁止したり、一定程度の年数を働いたら別の人間に移るように決めているのだぞ?」
「ですから! その制度自体が機能しているかどうか怪しいって言ってるんです!」
この期に及んで制度を例に出して話してくる皇帝に、俺は少し大きな声で反論した。
だが、これは絶対に必要なことだった。
帝国は俺の国だ。
なら、救わなければならない。
「それに、これはあなたの仕事を減らし、間接的に帝都に余裕ができることでもあるのです」
「俺の仕事を?」
「例えば、今あなたが処理している書類の山。その中にも虚偽の報告は絶対にあります! それを減らせれば帝都に余裕ができ、さらに地方にも目を向けることができるのです」
「……」
「今、帝国はギリギリなんです。地方から変えていかなければ、帝国にとって必ず不利なことが起こるんです!」
「……はあ、分かった。血晶騎士団を用いての調査を実施しよう」
皇帝は大きく息を吐いた。
「だが、そこまで言ったのだ。地方のことについては皇帝の俺じゃなくて、お前がやってみろ。派遣までは俺がやっておく。その後はお前がやれ。もちろん、それなりの権限と血晶騎士団の使用権も与える。それだけ言ったのだ。やってみろ」
「分かりました。では、派遣結果は私に送ってください」
「あと、お前が執務をするなら執務室をやろう。お前の部屋の近くに空いていた大きな部屋があるだろう。あそこを執務室として使用することを許可する。そこで執務をしてみるといい」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げて立ち上がり、ゆっくりと部屋から出ていった。
その手には、帝国復興の第一歩となる改革の実行権と、帝国の未来を握りしめていた。
―作者です―
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