新政策
−主人公視点−
「ここまで酷かったとは……。今回の場所が特に酷かったという可能性もあるが、ほかの地方でも何らかの不正が行われていると考えたほうがよさそうだな」
血晶騎士団から魔法通信で報告を受けた俺は、思わずそう呟いた。報告された村や港町で行われていた不正は、俺が想像していた以上に酷いものだった。
「今回調査した村や港町は、特に酷かったのだと思います。ただ、ほかの地方にも多少なりとも不正はあるでしょうし、ダンジョン都市もありますからね」
隣にいたカレンがそう答えた。
「ダンジョン都市か……。確かに、そっちも調べる必要があるな」
ダンジョン都市は、必ずしも帝国が計画的に作った都市とは限らない。ダンジョンの発見をきっかけに人が集まり、自然と都市が形成される場合もある。そのため、代官の目が十分に届いていない場所も存在する。
一方、帝都が直接管理している高難易度かつ高収益のダンジョンでは、不正は確認されていない。しかし、それ以外のダンジョンでは、不当に高い入場料を徴収するといった問題が起きているらしい。
「とはいえ、ダンジョン都市の改革は後回しだな。まずは地方の行政を立て直す必要がある」
「よろしいのですか?」
「もちろん、放置するつもりはない。だが、ダンジョンによって力をつけた人間もいるし、利害関係も複雑だ。先に手を出せば、地方改革そのものが遅れる可能性がある。最悪の場合、武力による反乱が起きるかもしれない」
問題があるからといって、すべてを同時に解決しようとするのは得策ではない。まずは地方行政を正常化し、情報を集められる体制を整える。そのうえで、特殊な事情を抱えるダンジョン都市の改革に取りかかるべきだろう。
「なるほど。では、まずは地方改革を優先するのですね」
「ああ。調査によってほかにも何か分かるかもしれない。それまでは、今ある情報をもとに改革案を考えておこう。父上とも相談する必要があるしな」
そう言って、俺は改革案を思いつく限り紙へ書き続けた。
そうして思いついた政策を紙へ書き終わって、さっそく皇帝の執務室を訪れた。
「ヴェスト、お前は地方の腐敗をどうすれば解決できると考えている?」
父上も報告を受けていたのだろう、俺を見るなりそう尋ねてきた。
「いくつか考えがあります。こちらをご覧ください」
俺は用意していた紙を机の上に置いた。そこには、地方の腐敗を改善するための政策案が書かれている。
「ふむ……。これは一度、詳しく検討する必要があるな」
父上は書類に目を通すと、周囲にいた官僚たちにも確認するよう指示した。
その後、俺たちは政策案を一つずつ検討していった。実現できるのか、問題はないのか、どのような準備が必要なのか。意見を出し合い、必要な修正を加えていく。
気づけば、夜はすっかり更けていた。
翌朝、俺たちは疲れ切った状態で机を囲んでいた。
「ヴェスト様、皇帝陛下、お疲れさまです。飲み物と軽い朝食を用意しましたので、どうぞ召し上がってください」
カレンが飲み物と朝食を運んできてくれた。官僚たちはすでに食堂へ向かっていたため、その場に残っていた俺と父上は、ありがたく食事を取ることにした。
しばらく休憩したあと、俺たちは改めて政策案を確認した。そして、まずは三つの改革を基本方針として進めることが決まった。
一つ目は、魔法通信の積極的な利用だ。
現在の魔法通信は、通信する距離が長くなるほど必要な魔力が増える。そのため、遠く離れた地方と帝都の間で頻繁に通信するのは難しい。
そこで、各地に中継所を設置し、通信を段階的に引き継ぐ仕組みを整える。これにより、一度に長距離の通信を行う必要がなくなり、地方から帝都への情報伝達を効率化できるはずだ。
地方で不正が行われていても、中央に情報が届かなければ対処できない。まずは地方の状況を把握できるよう、情報伝達の仕組みを改善する必要がある。
二つ目は、地方代官の業務を分離することだ。
現在は代官に多くの権限と仕事が集中している。そのため、真面目な代官であっても仕事の負担が大きく、不正を働く代官がいれば、その不正を発見しにくいという問題がある。
そこで、各役職の担当業務を分け、権限が一人に集中しないようにする。
代官:地方行政・公共事業・住民への対応
税務官:税の徴収・納税記録の作成
司法官:裁判・法令違反の審理
守備隊長:治安維持・軍事防衛
会計官:収入・支出・物資の記録
帝国監査官:各役職の不正調査
こうして業務を分担すれば、各役職が自分の担当する仕事に集中できるようになる。また、税務官が作成した記録と会計官が管理する記録を照合するなど、異なる役職の記録を確認することで、不正を発見しやすくなるはずだ。
三つ目は、帝国監査局の設置だ。
地方の行政を改善するためには、制度を整えるだけでは不十分だ。実際に制度が守られているのか、不正が行われていないのかを確認する必要がある。
そこで、帝国監査局を設置し、各地方の行政や軍事、税収、支出などを調査させることにした。
帝国監査局は、まず二百人規模で発足させる。そこから人員を育成し、五年後には五百人規模まで拡大することを目標とする。初期の人員構成は、次のとおりだ。
帝国監査局長:1人 組織全体の指揮・監督
副局長:3人 地方監査・会計監査・苦情調査の統括
地方監査官:80人 各地方を巡回し、行政や軍事の状況を調査
会計・記録監査官:46人 税収・予算・物資の記録を照合
特別調査官:20人 大規模な不正や重大な疑惑を調査
記録係・事務職員:50人 調査記録の作成・書類管理・通信業務
合計二百人。まずはこの規模で発足させ、実際の調査を通じて問題点を洗い出していく。
そして、五年後には五百人規模への拡大を目指す。
帝国監査局長:1人 組織全体の指揮・監督
副局長:3人 各部門の統括
地方常駐監査部:250人 地方都市に常駐し、行政や軍事の状況を調査
巡回監査部:80人 各地方を巡回し、抜き打ち監査や再調査を実施
会計・記録分析部:50人 税収・予算・物資の記録を照合・分析
特別調査部:40人 大規模な不正や重大事件を調査
情報管理部:30人 各地から集まった情報を整理・管理
監査局内部監察部:12人 監査官自身の不正や癒着を調査
中央管理:24人 監査基準の統一や組織全体の管理
教育部:10人 人員の育成・研修
これで合計五百人となる。
監査局を設置する以上、監査官自身が不正を働く可能性も考えなければならない。そのため、監査官の不正を調べる内部監察部も設けることにした。
また、地方の不正を発見した際には、証拠を集めて中央へ報告し、必要に応じて軍や血晶騎士団に対応を要請する。監査局だけで対処しようとするのではなく、調査と実際の対応を分担するのだ。
さらに、地方監査官や特別調査官には、帝国の高難易度ダンジョンで血晶騎士団による訓練を受けさせる。調査先で武力による脅迫を受けても、簡単には屈しないだけの力を身につけさせるためだ。
もっとも、今回決まったのは、あくまで改革の基本方針である。具体的な制度の設計や人員の配置、通信中継所の設置場所など、詰めなければならない問題はまだ多い。それでも、まずはこの三つの改革を軸に進めていくことになった。
さらにこの三つの政策を軸に進めるとで皇帝と皇子が賛成し、文官達も自分たちの仕事が減ってデスマーチが終わると思いこの政策に込める想いと情熱は並々ならぬものだった。
帝国の最高権力者である皇帝と将来の最高権力者であり実質的に上から2番目の権力を持つ皇子の賛成があった政策は急ピッチで進められ真面目な地方には祝福を持って迎えられ、一方、不正に手を染めていた者たちが支配する地方では、文字どおり粛清の嵐が吹き荒れた。
帝国全土の状況がすぐに改善したわけではない。それでも、これまで見過ごされてきた不正が次々と明らかになり、少しずつ地方の行政は変わり始めていた。
俺たちは、これで帝国を立て直すための第一歩を踏み出せたと考えていた。
しかし現実はそう甘くはなかった。
帝国監査局の調査によって、ある証拠が発見されたのだ。
それは、地方の不正に、王国の人間が関与していたことを示すものだった
―作者です―
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