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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第2章 光の勇者編

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第6話 コミケ会場の聖騎士とポーションの空き瓶

第6話 コミケ会場の聖騎士とポーションの空き瓶


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ 現在の接続者数:1,071人

▶ エリア移動:『商業都市アイン』(通称:コミケ会場)へ移動します。

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 木漏れ日が差し込む『商業都市アイン』の中央交易広場。

 プレイヤーたちの間で『コミケ会場』と呼ばれていたそこは、デスゲーム化した今もなお、情報交換と物資調達の生命線として機能していた。


 広場の片隅で、ぽんずとクロイツは頭を抱えていた。


「……あいつ、何してんねん」

「ぽんずさん……ハルくんの尊厳が、公式によって辱められています……ッ」


 二人の視線の先。

 行き交うプレイヤーたちの注目を一身に集めているのは、白銀の重甲冑をまとった圧倒的美貌の騎士――ハルだった。

 彼は今、真顔で、地面に這いつくばるようにして『空のポーション瓶』を拾い集めていた。


「よし……これで十三個目……」


 透き通るような白金の髪を揺らし、深い夜の湖を思わせる瞳をキラキラと輝かせながら、他人が捨てたゴミを大切そうにインベントリに仕舞い込む顔面国宝。

 周囲のプレイヤー(特に壁サークル級のトッププレイヤーたち)が、遠巻きにヒソヒソと囁き合っている。


「おい、見ろよあのパラディン。顔面偏差値カンストしてるのに、ゴミ拾ってるぞ……」

「しかもあいつ、昨日オルナの村でアンドラスをソロで完封したって噂の……。えっ、なんで空き瓶集めてんの? 」

「ちょっと、間近で見るとヤバくない!? まつ毛長っ!」

「ねえパラディンくん! お姉さんたちが新しい装備買ってあげよっか?」

「その拾った空き瓶、私が買い取るわ!」


 シャッター音が鳴り響く中、興奮したオタク女子たちが雪崩を打ってハルに群がり始めた。


「えっ!? ちょ、まっ……!」


 女性に対する免疫が文字通り「ゼロ」のハルは、四方八方から迫る強烈な香水の匂いと、遠慮のない熱のこもった視線にパニックを起こした。

 心拍数が跳ね上がり、呼吸が浅くなる。


「ひぃぃっ! さ、触らないでください! 僕はただのゴミ拾いだから!」


 ハルはガシャンガシャンと重い甲冑を軋ませながら、産まれたての子鹿のようなおぼつかない足取りで逃げ惑う。だが、圧倒的な女子の波に揉みくちゃにされ、ついに地面に転がってしまった。


 (空き瓶、リサイクルに出せば銅貨一枚になるんだよな……! 僕の空き瓶が割れるぅぅっ!!)

 彼にとっては、美意識よりも貞操の危機よりも、次の死地に備えるための『数円の節約』の方が圧倒的に重要だったのだ。


 ぽんずは奥歯をギリリと噛み締め、群衆を掻き分けてハルの襟首を鷲掴みにして引きずり出した。


「アホかアンタは! ウチらのパーティの面目丸潰れやんけ!!」

「……僕が捨てられた資源を回収して、大地を浄化してるんです。それの何がおかしいですか?」

「嘘つけ! 目が完全に『これで銅貨三枚……ジュルリ』ってなっとったわ!」


 ぽんずの怒号に、ハルはピクッと肩を震わせ、目を泳がせた。

 しかし、クロイツの目には全く別の真実(ファンタジー)が映っていた。


「……違います、ぽんずさん。ハルくんは……次の旅に向けて、一文でも多く私たちに負担をかけないよう、自らのプライドを捨てて這いつくばっているんです……ッ!」

「……え?」


 クロイツの言葉に、ぽんずの心臓がトクンと跳ねる。

 (そうや。あのアンドラスの時も、コイツは自分の身を削ってウチらを守ってくれた……。今だって、ポーション代を一文でも多く稼ぐために、泥水啜るような真似を……)

 ハルが拾い集めた薄汚れた空き瓶が、ぽんずの目には『彼が自分たちを守るために削った命の欠片』に見えてきた。


「……ハル。もうええ、もうええんやで。そんな惨めなマネせんでも、ウチがなんとかしたるから……っ」


 ぽんずがハルの頭を抱き寄せ、その白金の髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。

「えっ? いや、ちょ――」

「ええ子や……ホンマに、ウチらがアンタを死なせへんからな……ッ!」


 (違う! 僕はただ装備のメンテナンス用のオイル代が欲しかっただけだ!!)

 ハルの心の叫びは、ぽんずの特大の母性(オカン属性)と、クロイツの激しい深読みによって完全に掻き消されていた。


     *


 ひとしきり撫で回され、息も絶え絶えになったハルを連れ、一行は情報屋のテントへと向かった。

 次に目指すべきは、次のセフィロト幹部が支配する『鉱山都市バラム』。


「……なるほど。バラム鉱山は今、【演算統括プロセス・アスタロト】によって完全に支配されている、と」


 ハルが情報屋から買い取ったメモ(銅貨五枚・ハルの自腹)を見つめながら、低い声で呟く。

 アスタロトは『効率化』の鬼。彼の支配により、バラムでは夜の酒場の歌と踊りが「非効率」として禁止され、無音で採掘だけが続くディストピアと化しているらしい。


(効率化、か……)

 ハルの脳内で、アンドラス戦の経験と、アスタロトのAIルーチンの予測がロジカルに結びつき始める。

(敵が『最短の演算』で来るなら、こっちは『非効率』のノイズをばら撒けばいい。……使えるかもしれないな、あのスキルが)


 ハルがステータス画面を睨みつけ、静かに思考の海へと沈みかけていたその時。

 テントの外から、場違いなほど甲高く、そして野太い悲鳴が響き渡った。


「イヤァァァァァッ!! なんだこのバケモンはっ!!!? 」


---

【プレイヤー専用外部掲示板スレッド抜粋】


912: 匿名のスカラー

【急募】コミケ会場に現れた白銀の美少年パラディン、なんで広場で空のポーション瓶集めてんの?


913: 匿名の魔法使い

見た見た。顔面偏差値カンストしてるのに、地面這いつくばってゴミ拾ってた。マジで意味わからん。


914: 匿名の暗殺者

お前ら何も分かってないな。あれは『死地へ赴く前の精神統一(ルーティン)』だよ。不要なものを拾い集めることで、自らの心を無の境地に置いているんだ。


915: 匿名の遊び人

なるほど、深いな……。さすがアンドラスを完封した男だ。


916: 匿名のスカラー

いや、普通に金欠なだけじゃないの?

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