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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第1章 国宝級のパラディン様

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第5話 光子流体の防壁と狂乱の掲示板

第5話 光子流体の防壁と狂乱の掲示板


「ポーション代がもったいないだろォォォッ!!」


 血を吐くような叫びとともに、ハルは自ら盾をズラした。

 無防備になった白銀の肩口を、アンドラスの放った超高熱の圧縮レーザーが「僅かに」舐める。


「ハルぅっ!!」


 ぽんずの悲痛な絶叫が森に響く。

 だが、肉が焦げる音はしなかった。代わりに、レーザーが肩の装甲表面を削り取り、超高熱で気化した白銀の金属粉と、『被弾エフェクト(光の粒子)』が空中にぶち撒けられた。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 聖騎士『ハル』の被弾を検知。HP減少率0.1%。

▶ 局所的な装甲の融解、およびダメージエフェクト(光子)の過剰散布を確認。

-----------------------------------------


『――警告。対象周辺の光子密度が異常上昇。光学センサーにノイズが発生』


 アンドラスの機械音声が、初めて僅かなエラーを含んで響いた。

 空中に、キラキラと輝く光の霧が展開される。

 (盾で全部受けたら修理費で破産する! この光のチャフ(乱反射)で一瞬だけ威力を減衰させるしか――!)

 ハルは血相を変え、背後にいるぽんずとクロイツに向かって叫んだ。


「万が一の余波が来ます! ごめんなさい、僕の後ろに隠れてくださいっ!」

「は……えっ?」

「ちょ、ハル!?」


 有無を言わさぬ切羽詰まった声。ぽんずとクロイツは弾かれたようにハルの背後に飛び込み、その分厚い鋼鉄の背中にしがみついた。


「あ……っ!」

 甲冑越しにすら伝わってくる、尋常ではない男の体温。

 耳元を掠める、ハルの荒く焦った吐息。極度の緊張で暴走する彼の心音が、密着したゼロ距離からガンガンと響いてくる。


「ひゅっ……! あ、ハル……くん……背中、こんなに震えて……っ」


 死の恐怖に耐え、自分たちを庇う男の背。クロイツの脳内は完全に深夜帯の事後展開へと限界突破し、ぽんずもまた、頭の髄が痺れるような錯覚に陥り、膝から崩れ落ちそうになっていた。


 だが、当のハルの脳内は全く別の理由でパニックを起こしていた。

 (ひぃぃぃっ! 女の人が背中にくっついてる! 柔らかい! いい匂いする! やばいやばいやばい、意識飛ばせ! 盾の角度計算だけに集中しろ僕の脳みそォォッ!)


 女性免疫ゼロ(限界童貞)のハルにとって、この密着はレーザー以上の致死ダメージだった。彼は迫り来る女性の感触から現実逃避するため、脳の処理リソースを100%『物理演算』へと強制的に振り向けた。


『対象の消去を継続。レーザー出力を最大値で維持します』


 上空のアンドラスから、本命の絶対殲滅陣(圧縮レーザー)が撃ち下ろされる。

 村を消し飛ばす極太の光柱が、ハルを完全に呑み込もうとした瞬間。


 レーザーの本流が、ハルが身を削って展開した『光と金属粉の霧(チャフ)』に突入する。

 光子が乱反射を起こし、極太のレーザーの威力がコンマ一秒だけ「拡散・減衰」した。

 その一瞬の隙。それこそが、ハルが作り出した『パリィ可能な生存ライン』だった。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ パラディン『ハル』による【打ち払い(パリィ・ストローク)】を検知。

▶ 接触角の偏向率:臨界値到達。

-----------------------------------------


 ハルは歯を食いしばり、盾の角度をミリ単位でねじり込んだ。

 減衰したレーザーの圧倒的な運動エネルギーを正面から受け止めるのではなく、盾の表面を「滑らせる」ように斜め上へと受け流す。


『――理解不能(エラー)。物理演算の許容範囲を超過。レーザーの軌道維持、不可――』


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 物理演算過負荷(オーバーロード):衝撃の分散ベクトルが推奨計算域を超過。

▶ 光学レーザーの軌道を上方へ逸らします。

-----------------------------------------


 パキィッ! とシステムウィンドウがヒビ割れる音とともに、極太のレーザーがハルの盾で鋭角に跳ね上がり、空の彼方へと逸れて消えた。

 圧倒的な火力を「0.01秒のパリィ」だけでいなし切ったのだ。


 直後、アンドラスの機体がガクンと沈み込む。

 大技を放ったことによる、ゲーム仕様通りの強制クールダウン(硬直)だった。


「……射線、開けました!今です!撃ってください!!」


 ハルのひび割れた声が響く。

 それは、MMOにおける最も基本にして究極の正攻法――『タンクが敵の最大火力を耐え凌ぎ、後衛がその隙を突く』という絶対のセオリー。


「……ウチの盾に、これ以上傷ひとつ付けさせへんぞ……!」

「クゥッ……供給の、お礼です……ッ!」


 ぽんずの放った必中の幻影矢と、クロイツの極大の死霊の呪いが、無防備なアンドラスのコアに同時着弾する。

『――致命的エラー。機能、停止……』

 絶対の最適解を誇っていた機械天使は、最後に無機質なノイズを残し、音を立てて崩壊。光の粒子となって森に散った。


「……っはー……マジで、死ぬかと思ったぁぁ……修理費、浮いた……」


 ガシャンッ、と。

 虚勢の糸が切れたハルが、泥と汗に塗れたまま、力なくその場にへたり込む。

 その身体が完全に地面に倒れ伏す直前、ぽんずが滑り込むように彼を抱きとめた。


「ハル……」


 腕の中に収まったのは、分厚い甲冑の見た目とは裏腹な、ひどく頼りない質量だった。

 微かに震え続ける華奢な背中。熱を放つ息遣い。

 彼がどれほどの死の恐怖と引き換えに、自分たちを守り抜いたのか。


 ぽんずは、無意識のうちにハルの頭を自らの胸元に強く抱き寄せていた。

 奥歯を噛み締め、誰にともなく、だが絶対の誓いとして呟く。


「……アンタは、ウチが守る」


---

【プレイヤー専用外部掲示板スレッド抜粋】


912: 匿名のスカラー

【急募】オルナの村でアンドラスを完封した白銀の変態パラディン


913: 匿名の魔法使い

は? ボスってアンドラスだろ? 広範囲即死魔法どうしたんだよ。


914: 匿名のスカラー

それが意味わかんねえんだよ! パラディンが『挑発』使って魔法のタゲを自分一点に圧縮させて、わざと肩の装甲を抉らせたんだよ。そこで飛び散ったダメージエフェクト(光の粒子)を『光学チャフ』にしてレーザーの威力を減衰させてから、盾の角度だけで『パリィ』して空に逸らした!


915: 匿名の遊び人

何言ってんのお前? エフェクトをチャフ代わりにしてパリィって、物理エンジンどうなってんだよ。


916: 匿名の暗殺者

頭おかしいだろ。その直後の硬直に弓と魔法合わせて倒したって……AI超えのフレーム入力必須だぞ!?


917: 匿名のスカラー

しかもそのパラディン、顔面が国宝級の美少年だった……。

直後に力尽きて、パーティの弓使いの女に抱きしめられてた。


918: 匿名の剣士

許さんぞチーターァァァァァァァァッッ!!!


---


【SYSTEM SECRET LOG:対象プレイヤーの現実リンクデータを開示します】


■ アバター名:ハル

・ジョブ:聖騎士(パラディン)

・現実氏名:春夏秋冬(ひととせ) 晴(はる)

・年齢/職業:16歳 / 学生

・特記事項:現実では極度のビビりな、ごく普通の男子高校生(女性への免疫ゼロ)。「異世界で特別な自分になりたい」という憧れと虚勢だけで孤高の騎士をロールプレイ(RP)し続けているが、その結果、無自覚に多数の限界オタク女子や大人の女性たちの情緒を狂わせていることに本人は全く気づいていない。また、現実でも毎月のお小遣いを1円単位で家計簿につけるほどの筋金入りのドケチであり、ゲーム内における「修理費(コスト)削減」への異常な執念と狂気の物理演算ハックは、この日々の血のにじむような節約生活によって培われたものである。


■ アバター名:ぽんず

・ジョブ:幻影弓師

・現実氏名:本田(ほんだ) 柚子(ゆずこ)

・年齢/職業:22歳 / アパレル店員

・特記事項:現実でも関西弁で容赦なくツッコミを入れる少し残念な美人。私生活は非常にズボラで、部屋は常に散らかっている。


■ アバター名:クロイツ

・ジョブ:暗黒死霊術師(ネクロマンサー)

・現実氏名:黒川(くろかわ) 泉(いずみ)

・年齢/職業:20歳 / 美大生(油絵専攻)

・特記事項:重度の腐女子であり、常に妄想のスケッチブックを持ち歩いていた。


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