第47話 胸部質量のバイアスと、完璧な観測手
第47話 胸部質量のバイアスと、完璧な観測手
「考えなくていい。私の絶対的な合理性に従え」
グラマラスな女性へと変貌したひとみ――ルシファーの放つ神速の斧は、苛烈を極めていた。
リーチ、速度、破壊力。すべてが子供の姿だった頃とは比較にならない。
回避不能の範囲攻撃(AOE)が次々と展開され、ダンテの銃弾もくじらの魔法も、分厚い風圧に弾き返される。
「くっ……防戦一方ですぞ! あの姿になってから、ステータスが異常な数値に跳ね上がっている……!」
くじらが眼鏡を押さえながら悲鳴を上げる。
だが、ハルは絶望的な連撃を盾で受け流しながら、ある違和感に気づいていた。
(違う。ただ強くなっただけじゃない。……大人の姿になったことで、斧の『重心』がズレている)
急速な身長の伸び。そして何より、胸部に増大した反則的な質量。
ルシファーのAIは「子供の体格」をベースに斧の軌道を計算していた。そのため、大人の体格でフルスイングした時、胸部の質量が慣性を生み出し、斧の振りが【0.05秒】だけ遅延しているのだ。
「ハルくんがひとみちゃんの胸の谷間に目を奪われないなんて……本物の騎士様!」
「あれだけ激しく揺れてるのに、一切動揺してないわ!」
ぽんずとクロイツが感動の声を上げるが、ハルは「あの質量のせいで遠心力がブレて、僕の防御フレームが計算しづらい……最悪の物理演算だ」と、ただひたすらに迷惑がっているだけだった。
(0.05秒の遅れ……僕の勘だけじゃ、パリィのフレームを合わせきれない)
焦るハルの耳に、硬質な声が届いた。
「ククク……物理演算の誤差、私がミリ単位で補正しますぞ!」
ハルの背後で、くじらが杖を高く掲げていた。
彼女の瞳には無数の数式が浮かび上がっている。
「対象の胸部質量によるスイング遅滞、0.05秒。当方のフレーム猶予調整魔法にて、その差分を強制的に帳尻合わせ(デバッグ)する!」
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ 魔導学者『くじら』が【時空の微睡み(フレーム補正)】を発動。
▶ パラディン『ハル』の防御発生フレームを【0.05秒延長】します。
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カチャッ、というガラスが弾けるような乾いた音。
くじらの支援魔法がハルを包み込んだ瞬間、ルシファーの放った致死の斧が、ハルの白銀の盾へと迫った。
ハルが自ら一歩踏み込み、盾の角度を捻る。
盾と斧が衝突するタイミングが、くじらの魔法によって絶対の『正解』へと誘導された。
カィィィィィンッ!!!
重い斧がハルの甲冑をかすめ、凄まじい火花が散る。
ハルの心臓が警鐘のように跳ねる不快な振動。だが、ジャストパリィは完璧に成立し、ルシファーの体勢が大きく崩れた。
「なっ……私の完璧な合理性を、たかがシステム内のバグ(魔法)で調整しただと……!?」
ルシファーの顔が驚愕に歪む。
「今ですぞ、顔面国宝殿!」
「……我が盾は友のために。」
ハルが盾を振り抜き、ルシファーの無防備な胸元へ強烈なシールドバッシュを叩き込む。
ドゴォォォッ!!
強烈な衝撃波と共に、ひとみの身体が吹き飛ぶ。
その瞬間――ひとみの背中から圧倒的な光を放つ『何か』が這い出してきた。
「――泥臭い。お前たちの足掻きは、実に泥臭くて見苦しいな」
背中から顕現したそれは、性別を超越した絵画のように美しく、圧倒的に妖美な【堕天使(ルシファー本体)】だった。
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【プレイヤー専用外部掲示板スレッド抜粋】
631: 匿名の斥候
【悲報】顔面国宝パラディンと野良のスカラー、セクシー美女の胸の揺れによる重心のズレを計算してフレーム回避www
632: 匿名の魔法使い
マジかよあの魔導学者。ただのバフじゃなくて、相手の胸の質量によるスイング遅延と、パラディンのパリィ発生フレームの差分を魔法で強制的に帳尻合わせしたってことか? ロジックの変態かよ。
633: 匿名の重装兵
パラディンのやつ、あのエロいボディの猛攻を前に「計算しづらいから胸揺らすな」って顔してて草。
634: 匿名の暗殺者
おい見ろ! ボスの背中から本物が出てきたぞ!
って、なんだあの圧倒的なイケメンは……俺、男だけどちょっとドキッとしたんだが!?
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