第45話 不屈のダンテと、計算崩壊の魔導学者
第45話 不屈のダンテと、計算崩壊の魔導学者
「お前の右目に宿ったバグデータ……それがシステムに穴を開け、ルシファーがひとみにログインする経路になっちまったんだよ」
ダンテが、二丁の巨大なリボルバーをハルの顔面に向けながら、ひどく面倒くさそうに言った。
「システム修復パッチだ。少し痛ェぞ」
カチャッ。
ハルの右目からわずか数センチの距離で、撃鉄が上がる乾いた音が響く。冷たい鉄の匂い。
「ちょっ、待って! 目ん玉撃たれるとか普通に痛いでしょうがぁ! 」
ハルが本気でキレるが、ダンテは一切容赦しなかった。
ズドォォンッ!!
「がァッ!?」
ゼロ距離で放たれた銃弾(修復パッチ)が、ハルの右目に命中する。
物理演算オブジェクトに書き込まれたエラー解除コードが、対象(右目の当たり判定)に直接適用される荒療治。硝煙の焦げた匂いがハルの鼻腔を突き抜ける。
「……あれ? 痛くない」
ハルが恐る恐る目を開けると、視界を埋め尽くしていた赤いエラーコードは完全に消え去り、右目の激痛も嘘のように引いていた。
「フッ。お前のその合理性(貧乏性)は、時にシステムすら騙すからな。俺もそれにあやかって、物理的にシステムを書き換えさせてもらった」
ダンテが銃口の煙を吹き消し、ニヤリと笑う。
(いや、貧乏性は関係ないだろ。普通にシステムパッチの仕様だろ)というハルの的確なツッコミは、ぽんずたちの「男同士の荒々しい儀式……尊い!」という悲鳴にかき消された。
*
「ひとみを取り戻す(ついでに詫び石の権利も守る)ために、ルシファーが立ち上げた『幸福教団』の拠点に行く」
ハル、ダンテ、ぽんず、クロイツの四人は、商業都市の郊外にある旧大聖堂へと向かっていた。
その入り口で、彼らは一人の女性プレイヤーと遭遇した。
知的な銀縁眼鏡に、露出の少ない魔導学者のローブ。
「あら、ぽんずとクロイツ。相変わらず非効率な動きをしていますね。……そちらの初期装備のパラディンは?」
「くじら! あんたなんでこんな所に!」
ぽんずたちが驚く。彼女は元パーティーメンバーの魔導学者『くじら』だった。
「ククク……教団のシステムのロジックを解析しに来たのです。それにしても、初期装備でダメージを受け止めるパラディンとは……非効率の極みですな。最適解の真逆、ただの地雷プレイヤーですぞ」
カチャッ。
くじらが眼鏡を押し上げ、硬質な音を立ててハルを嘲笑する。
その直後。教団の防衛システムが作動し、大聖堂のガーゴイル像が突如としてハルたちに襲いかかってきた。
石の巨腕がハルを完全に捉える――。
「最適解から計算すると、彼の生存確率は0%……」
くじらが無慈悲な計算式を弾き出した、その時。
カィィィンッ!!
ハルが白銀の盾の角度を捻り、ガーゴイルの巨腕をミリ単位で受け流した(パリィした)。
ダメージ0。装備消耗0。
「……いや待って、あそこから盾の角度を変えて受け流した!? 計算式が崩壊しますぞ!?」
くじらの眼鏡のレンズに、ピキィッという見事なヒビが入った。
計算(最適解)ではなく、ただ「絶対に修理費を払いたくない」という極限の意地と気合が、システムが定めた理論値すら凌駕していく。
「フハッ、フハハハッ!! 素晴らしい! これは極上の検証データですぞ!」
数秒前までハルを見下していたはずのくじらが、即座に限界化(沼落ち)し、鼻息を荒くしてハルの背中にピッタリと張り付いた。
「さあ顔面国宝殿! 貴方のそのイカれた生存戦略、私が一番近くで観測させていただきますぞォォッ!!」
「えっ、ちょっと、近いです。盾を振る邪魔なんで離れてください」
カオスなアンジャッシュを引き連れたまま、一行はルシファーの待つ幸福教団の内部へと突入した。




