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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第7章 屍食の郷と、食の求道者の流儀編

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第43話 借金完済と、エラーコード

第43話 借金完済と、エラーコード


 ハーフファスの遺灰からドロップした『食の魔石肉(レア食材)』。

 それは、キムチへの莫大な借金を一発でチャラにして余りあるほどの価値を持っていた。


「良い腕だ。お前は立派なプロの料理人だ。……また厨房(戦場)で会おう」

 田尾は満足げにそう言い残し、巨大な中華鍋を背負って去っていった。


「いやー、ハルさん! お疲れ様ッス! で、例のレア食材は……」

 田尾と入れ替わるように、物陰から商人キムチがもみ手で現れた。

 ハルは無言のまま、熱を帯びた『食の魔石』をキムチの顔面スレスレに突きつけた。


「おっふ!? こ、これは……特級の食魔石肉……!?」

「これで借金は全額チャラですよね。さあ、質入れしていた僕の『白銀甲冑』を今すぐ返してください」

 ハルが親の仇のような目で凄むと、キムチは冷や汗を流し、チッと小さく舌打ちをした。

「……計算外ッスよ。仕方ないッスね、はい、お返しするッス」


 キムチがインベントリから取り出したハルの愛用の白銀甲冑。

 しかし、ハルはそれを受け取った瞬間、眉間を深く寄せた。

「……キムチさん。なんで『股間の装甲パーツ(コッドピース)』だけが、異様にピカピカに磨き上げられてテカテカ光ってるんですか」

「いやぁ、男の急所は大事ッスからね! 店頭に飾る時、摩擦係数を極限まで減らす特殊オイルを塗り込んでおいたッス! これでどんな攻撃も股間を滑り抜けるッスよ!」

「僕の股間パーツにいやらしいオイルを塗るな! 拭け! 気持ち悪い!!」

 ハルが布切れで必死に自分の股間アーマーをキュッキュと擦り拭き取る。


「ひゃあぁッ! 推しの股間アーマーがテカテカに……ッ!」

「摩擦ゼロの股間……薄い本が厚くなるわァ!」

 ぽんずとクロイツが別の意味で限界化して鼻血を吹き出す中、キムチがぽんずの傍へとスルリと近寄った。


「ぽんずサン、取引成立ッスね。これ、例のブツッスよ」

 キムチがもみ手でこっそりと差し出したのは、黒い箔押しがされた怪しげな『謎のチケット』3枚。

「おっ、さすがキムチはん。話が早いわ。これでまた一つ、ウチらの推し活が限界突破できるっちゅうもんや……」

 ぽんずは鼻血を拭いもせず、ニチャァと笑ってその怪しいチケットを素早くインベントリに滑り込ませた。


「……ぽんずさん。今、キムチさんから何か怪しいもの受け取りませんでした?」

 股間を拭き終えたハルがジト目で睨むが、ぽんずは「なーんも? ただの肩たたき券やで」とすっとぼける。

 釈然としないハルだったが、ようやく本来の装備(無駄なオイルなし)を身に纏い、深く安堵の息を吐いた。


 借金地獄からの解放。修理費を気にせず装備を整えられるという当たり前の事実が、今のハルには何よりも尊い静寂だった。


 商業都市アイン(コミケ)の中央広場。

 そこにある巨大モニターには、今まさにライブステージで大観衆を沸かせる一人のアイドルの姿が映し出されていた。


「みんなー! 今日も限界まで楽しんでいってね!!」

 黒と赤の悪魔のドレスに、純白の天使の羽。

 【半天使・半悪魔】という奇跡のハイブリッドアイドルとして覚醒したひとみの明るい歌声が、広場に響き渡る。


「あいつも、プロになったんだな」

 ハルはモニターを見上げ、小さく微笑んだ。

 保護者として見守るような温かい眼差し。ぽんずとクロイツが隣で「エモい……ッ!」とハンカチを噛んで泣いているが、ハルの脳内は「あの羽のメンテナンス費、ひとみの自腹になったんだな。よしよし」という極限のドケチ演算に満ちていた。


 ふと、ハルはインベントリの片隅にある『ソレ』に目を落とした。

 ハーフファスの遺灰の中から回収した、もう一つのドロップ品。

 マモンの遺物と同じような、不気味な赤いノイズを放つ『データ片』。


「……また、バグデータか」

 ハルは何気なく、その赤いデータ片に指先で触れた。


 チリッ。

 静電気のような冷たく鋭い痛みが指先から走り、右目に突き刺さった。

「がっ……!」


 ハルが右目を押さえた瞬間。

 彼の視界(UI)が、ドクンと大きく脈打ち、世界の色が反転した。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 警告:基幹システム(アストラル・ボード)への不正アクセスを検知。

▶ 致命的なエラー:[ERROR_CODE_666_SEPHIROTH]

▶ ――これ以上の解析は、管理者権限によりプロテクトされています。

-----------------------------------------


「な、なんだこれ……!?」

 ハルの視界を、血のような真っ赤なエラー警告が埋め尽くしていく。

 それは、マモンのホクロやハーフファスの遺灰といった末端のバグではない。このMMO世界の根幹ルールそのものが、何者かによって意図的に書き換えられ、崩壊し始めているというマクロな絶望の証明だった。


 モニターから響くひとみの明るい歌声と、静寂に包まれた街の喧騒。

 その平和な風景を切り裂くように、ハルの脳裏に、冷徹な機械音声が響き渡った。


----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 【アカウント:ルシファー】のログインを確認しました。

▶ 次なるエリアの再構築(デバッグ)を開始します

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---

【SYSTEM SECRET LOG:対象プレイヤーの現実リンクデータを開示します】


■ アバター名:田尾

・ジョブ:武道家

・現実氏名:田尾(たお) 慎一郎(しんいちろう)

・年齢/職業:52歳 / フレンチレストラン「L'Aube(ローブ)」のベテランシェフ

・特記事項:現実では線の細いインテリ系のフレンチシェフ。「できないなら、できるまで練習しなさい」という厳しいスタンスは、彼がフランスの厳しい厨房で叩き込まれたプロ意識そのもの。ゲーム内ではストレス発散のため、巨大な中華鍋(大盾)を振り回す屈強なオッサンをロールプレイしている。


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