第41話 極限の攪拌
第41話 極限の攪拌
ブォォォォォォォンッ!!
巨大な鳥と大釜が融合したようなセフィロト『ハーフファス』が、その巨大な口をカパッと開いた。
「さァァて、本日のメインディッシュは誰かなァ!? ……ッて、なんだそのペラペラの布の服は! カロリーが低すぎるだろォが! もっと脂っこい重装甲をよこせェェ!!」
大ボスの風格を台無しにするような、偏食気味のクレーマーのような咆哮。
だが、その直後。周囲の空間そのものが歪むほどの、理不尽な超高温の吸引が始まった。
「ぬぅぅッ……!!」
田尾が中華鍋の大盾を地面に突き立てて踏ん張るが、凄まじい吸引力に削られ、ジリジリと後退を余儀なくされる。
ドロ……ドロドロ……ッ。
ハーフファスの放つ超高温により、周囲の岩が粘性の高い嫌な音を立てて溶け出していく。
「あかん! ハル! 逃げてェェッ!!」
安全圏にいるぽんずたちの悲鳴が、爆音に掻き消される。
田尾でさえも押し負ける圧倒的な吸引力。初期装備のハルなど、一瞬で釜の底に吸い込まれ、消し炭になるはずだった。
だが、ハルは一歩も引いていなかった。
「……風速、熱量ともに申し分ない」
ハルの無機質な瞳が、ハーフファスの吸引力を正確に観測している。
「この熱量なら、オイルの消費量を0.2%減らせそうですね」
彼は、この絶対的な絶望空間のど真ん中で、ただ一人「修理費の削減計算」をブツブツと呟いていた。
「ああっ……熱波に喘ぐハルくんの首筋……汗ばんでエロいわァッ!」
クロイツが双眼鏡を握り潰さんばかりの力で限界化する中、ハルはインベントリから最安値のオイルを取り出し、自らの盾ではなく、地面のあちこちに素早くぶちまけ始めた。
「ブブェェッ!? お前、自らオイルで味付けしてくれるのかァ!? 素晴らしい調理だ! サクッとアジフライみたいに揚げてやるぜェェ!!」
ハーフファスが巨大な複眼を輝かせ、よだれ(マグマ)を垂らしながら狂喜する。
「小僧! 何をしている!」
田尾が叫ぶ。
「師匠、少しだけ持ちこたえてください! 『できるまで練習する』のが、プロの流儀なんでしょう!?」
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ パラディン『ハル』が【祈念の残光】を連続発動。
▶ 指定座標に光の紋様を幾何学的に配置。
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ハルは強烈な吸引に逆らいながら、光のノードをすり鉢状のエリアに正確な角度で設置していく。
それは、アスタロト戦で見せた『光の乱反射』でも、マモン戦の『オタ芸(ヘイト誘導)』でもない。
ハーフファスの超吸引力。
ハルが配置した光のノード(物理的な防壁の残滓)と、ばら撒かれた可燃性オイル。
ハルは、敵の「すべてを吸い込む力(直進するベクトル)」を、光のノードによる『流体力学的なガイド』で受け流し、曲げ、すり鉢状の空間全体を【巨大な螺旋の渦(撹拌の動力)】へと強制的に変換する盤面を構築していたのだ。
ギュォォォォォォォォンッ!!
ハーフファスの吸引力が、ハルの配置した光のノードにぶつかり、逸れ、オイルに引火する。
その瞬間。
スタジアム状のエリア全体が、ハルと田尾を中心にして、超巨大な炎のミキサーのように回転し始めた。
「ブ、ブベェェェッ!? な、なんだこの回転はァァ!? 目が回るゥゥ! 俺はミキサーにかけられるスムージーじゃねェェぞォォォ!!」
ハーフファスの情けない悲鳴が、自ら生み出した業火の渦の中に吸い込まれていった。




