第31話 終演のアンコールと、最悪の結末
第31話 終演のアンコールと、最悪の結末
黄金の宝物庫から、マモンの巨体が完全に消滅した。
「やった……やったああぁぁッ!!」
「最高のライブだった! 天使と悪魔のユニット、最高ーッ!!」
アリーナ席のパーテーションが取り払われ、48人の女子たちが泣きながら抱き合い、歓喜の声を上げる。
悪魔のドレスを着たひとみは、「えへへ、勝ったよ!」と巨大な斧を引きずりながら、観客たちに無邪気に手を振っている。
*
「……よくやった。でも、次はもっと厚着させろ」
病室のベッドの上。
アラタテは、水晶球の中継映像に映るはしゃぐひとみの姿を見て、深く息を吐き出すと、手作りの応援うちわをそっとサイドテーブルに置いた。
不屈のタンクの顔に、今日一番の、静かで温かい安堵の笑みが浮かんでいた。
*
「はぁ……はぁ……」
一方、お立ち台(瓦礫)の上で天使の衣装を着たままのハルは、その場に崩れ落ちていた。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、甲冑の中は汗でずぶ濡れだ。だが、彼の心はかつてないほどの達成感と安堵で満たされていた。
(終わった……。誰も死ななかった。レイドペナルティの莫大な罰金を払わずに済んだ……!)
所持金を守り抜いた。その事実だけが、ハルの疲労困憊の身体に一筋の光をもたらしていた。
だが、その光は、満面の笑みを浮かべた『プロデューサー陣』によって一瞬で遮られる。
「ハル! 最高のステージやったで!」
「本当に、涙が出るほど尊かったです……ッ!」
ぽんずとクロイツが駆け寄り、その後ろから商人キムチがもみ手をして近づいてきた。
「いやぁ、流石は白銀の騎士様ッスね! うちの『応援グッズ』も大活躍で、最高の宣伝になったッス!」
「……キムチさん。なんであなたが……」
ハルが嫌な予感を覚えて後ずさる。
「はい、これ」
ぽんずが、ハルの目の前に一枚の長い羊皮紙を突きつけた。
ビリリリッ。
羊皮紙の下端が、冷徹な音を立てて破り取られる。
「今回の『舞台演出費(ペンライト50本分のリソース強制消費代)』と、『アイドル衣装(天使と悪魔)の特注レンタル費』の請求書や。あ、マモンのドロップ品で払ってもらう契約になってるから、自動引き落とし(強制徴収)やで」
……ヒュ。
ハルの口から、過呼吸のような浅い息が漏れた。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ アイテム《応援の魔光杖》の連続稼働によるリソース消費を精算します。
▶ マモンのドロップアイテム(金貨・素材)をすべて徴収しました。
▶ ※不足分はハルの残金から差し引かれます。現在の所持金:【0】
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「あ、あ、あああ……」
ハルの視界の端で、先ほど守り抜いたはずの残金カウンターが、無慈悲に【0】へと弾け飛んだ。
マモンを倒すために消費したリソース(ペンライトの金貨消費)が、結局マモンのドロップ報酬を完全に相殺し、さらに借金を背負うハメになったのだ。
システムの総資産バランスは絶対に保たれる。それは、マモンよりも理不尽な『マクロ経済の絶対ルール』だった。
「アンコール! アンコール!!」
何も知らない女子たちが、熱狂的な歓声を上げている。
その光景のど真ん中で、ハルは灰のように真っ白に燃え尽き、魂が抜けたまま完全にフリーズしていた。
「……ん? なんだこれ」
キムチが、回収したドロップ品の山の中から、奇妙な『黒い水晶片』を拾い上げる。
「マモンのドロップに、こんなバグっぽいデータ片なんてあったッスか……?」
灰になったハルをよそに。
その黒い水晶片は、世界の根幹の裏側を覗かせるような、不気味な赤いノイズを微かに放っていた。




