第29話 オタ芸の幾何学と、病室の親心
第29話 オタ芸の幾何学と、病室の親心
シュォォォォンッ!!
マモンの放った数万の黄金散弾が、ハルとひとみの防衛線を完全に無視し、安全地帯のアリーナ席(ペンライトの光)へと一直線に向かっていく。
このままでは、アリーナ席の48人が全滅し、ハルは莫大なレイドペナルティ(借金)を背負うことになる。
「馬鹿かあなたたちは! 早くそれを消してェェッ!!」
ハルが血相を変えて叫ぶが、熱狂の渦に飲まれた女子たちの耳には全く届いていない。
「キャー! マモンの攻撃(演出)がこっちに来るーッ!」
「まるで光のシャワーみたい! 綺麗ーッ!」
(綺麗じゃないよ! 殺されるんだよ!)
ハルは絶望的な状況の中で、視界いっぱいに広がる「黄金散弾の軌道」と「ペンライトの光の動き」を、極限の集中力で結びつけていた。
――ペンライトの光(リソース消費)が、弾幕の軌道を引っ張っている。
ならば。その『誘導のベクトル』を完全に統制できれば。
「……計算は、追いつく」
ハルはインベントリから、予備として押し付けられていた自分のペンライトを二本取り出した。
そして、周囲の瓦礫の中で最も高いお立ち台へと跳躍し、白銀の天使衣装を翻しながら、無機質な瞳で両手の光を振り抜いた。
「僕の動きに合わせて!」
ハルが叫ぶ。
「1フレームもずらさないで!!」
それは、空間の幾何学を支配する、完璧に統制された超高速の『オタ芸』だった。
右、左、斜め上、下への鋭い振り下ろし。ハルの手元で極彩色の光がブレなく残像を描き、弾幕の軌道を強引に捻じ曲げる。
「え……ハルくんが……踊ってる……?」
ぽんずが双眼鏡を落とす。
「ウチらの推しが……センターでお手本を見せてくれてるのよォォォッ!!」
クロイツが発狂したように叫んだ。
「合わせろォォッ!! 一糸乱れぬ動きで推しに応えろォォッ!!」
その瞬間、アリーナ席の48人が、ハルと全く同じオタ芸を狂乱の中でシンクロさせ始めた。
ただの弾幕軌道計算(生存戦略)のために無表情でオタ芸を打つハルと、それを神からのファンサと受け取り泣きながら踊り狂う限界オタクたち。MMO史上最もカオスで、完璧なアンジャッシュが完成した。
*
一方その頃。
教会の病室(療養所)では、全身を分厚い包帯で巻かれたアラタテが、ベッドの上でレイドの中継映像(水晶球)を見ていた。
「……ひとみ。スカートが短すぎるぞ。防御力がねえだろ」
アラタテは中継映像の『悪魔のドレス』を着たひとみに対し、真顔で親目線のダメ出しを呟いていた。
その太く無骨な手には、『天使と悪魔★』とデコレーションされた手作りの応援うちわが握られている。
ペチッ……。ペチッ……。
病室の静寂の中、アラタテが不器用に振るうちわが、ベッドの柵に当たる間の抜けた音が響く。
「……もっと腰を入れろよ」
不屈のタンクは、誰にも見られない病室で、一人真顔で推し活(娘の応援)を完遂していた。
*
宝物庫の戦場では、48人の統制された光の軌跡が、物理演算を完全にバグらせていた。
右へ、左へ。
同期された強烈なヘイト誘導により、数万の黄金散弾が空中で互いに激突し、複雑に絡み合い始める。
ギギ、ギギギギギギギッ!!
金属同士が擦れ合う、鼓膜が破れそうな甲高い炸裂音。
オタ芸による誘導ベクトルの支配。それは、散弾の運動エネルギーを特定の空間に強制的に密集させ、一つの巨大な『黄金の塊』を作り上げていく、圧倒的な視覚的クライマックスだった。




