第28話 強欲の理不尽と、光る集金棒
第28話 強欲の理不尽と、光る集金棒
ブォン……ブォン……ブォン……。
空間を埋め尽くす数万の金貨が、まるで巨大な蜂の群れのように、低く不気味な羽音を立てて空中で回転し始めた。
「ハル兄ちゃん……これ、弾ききれないよ」
悪魔の衣装を血と汗で汚したひとみが、息を荒げながら呟く。
「……ああ。防風陣形も突破される。一発でも被弾れば……」
ハルは奥歯を噛み締めた。
一発でも被弾すれば、背後にいる48人の非戦闘員のうち、誰かのHPと所持金がゼロになる。
それはつまり、レイドペナルティが発動し、ハルが天文学的な『罰金(借金)』を背負わされることを意味していた。それだけは絶対に、物理的な死よりも避けなければならない。
「させるか……ッ! 盾の角度、0.3度上方へ修正――」
ハルが絶望的な状況下で、なおも狂気的な軌道計算を始めようとした、その時だった。
……ゴフッ。
暗がりから何かが壁に勢いよく頭をぶつけるような奇妙な物音が響いた。
「お嬢ちゃんたち! 今こそ物販で買った『応援グッズ』の出番やで!!」
マネージャーのぽんずが、安全地帯(アリーナ席)からメガホンで絶叫した。
「えっ!?」
ハルが振り返る。
ぽんずの声に呼応するように、キムチ(商人)がニヤリと笑い、46人の女子たちに合図を送る。
「さあさあ皆さん! ここで推しを照らさなくて、いつ照らすッスか! 買っておいた『アレ』を出すッスよ!!」
女子たちが一斉にインベントリから取り出したのは、一本の短い棒状のアイテムだった。
――《応援の魔光杖(通称:ペンライト)》。
「……は? こんな時に何やってるんですか、あなたたちは!」
ハルが絶望のあまり叫ぶ。全滅の危機だというのに、ライブの応援グッズを取り出してどうするというのだ。
だが、女子たちの熱狂は止まらない。
「ハルくんに光を!」
「ひとみきゅんに力を!」
「天使と悪魔のユニットに、私たちの思いを届けえええッ!!」
バキッ!!
バキバキバキッ!!
50本のプラスチック製のスティックが一斉にへし折られる、鋭く暴力的な破砕音が宝物庫に響き渡った。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ アイテム《応援の魔光杖》×48本の起動を確認。
▶ ※警告:本アイテムは発光中、1秒につき銅貨1枚を強制消費します。
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「な……ッ!?」
ハルが驚愕に目を見開く。
50本のペンライトが、極彩色のまばゆい光を放ち始めた。赤、青、緑、白――宝物庫の暗闇が、瞬く間に熱狂的なライブ会場の光の海へと変貌する。
女子たちは「尊い……!」と叫びながら純粋な熱狂でペンライトを振っているが、その実態は『強制的に所持金を吸い上げられ続ける呪いの集金棒』である。キムチがレイド前に超高値で売りつけ、さらに起動中も金を巻き上げる極悪仕様だ。
しかし、その理不尽なまでの『リソース(金)の激しい消費』は、この空間において、ある絶対的な効果をもたらした。
シュォォォォォォンッ!!
マモンの周囲に浮遊していた数万の黄金散弾が、一斉に向きを変える。
マモンのヘイト(攻撃対象)は、「最もリソースを多く持っている者」ではなく、「今、最も激しくリソースを消費している座標」へと強制的に上書きされたのだ。
「……軌道が、逸れた!?」
ハルたちの頭上に降り注ぐはずだった数万の黄金散弾が、まるでブラックホールに吸い込まれるように、極彩色の光の群れへとグンッとねじ曲がっていった。




