第22話 タンクの仕事と、盾の向こう側
第22話 タンクの仕事と、盾の向こう側
ツルンッ。
石畳から突如として摩擦が消え去り、ハルたちもまともに立つことすらできず、瓦礫に手をついて辛うじて体勢を維持していた。
「な、なんやこの理不尽なデバフ! 足に力が入らへん!」
「……これじゃ、援護も――ッ」
ぽんずとクロイツが顔を青ざめさせる。
その氷上のような無摩擦空間で、アラタテだけが巨体を滑らせるようにして、宙に投げ出されたひとみの前へと割り込んだ。
「グルルルァァッ!!」
徴収獣コレクターが、強欲に光る一つ目をアラタテに向け、巨大な爪を振り下ろす。
「こいッ!!」
アラタテがタワーシールドを構え、王道タンクの防衛スキルを連続で発動させる。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ 聖盾騎士『アラタテ』が【鉄壁】および【シールドバッシュ】を発動。
▶ 対象のヘイトを固定化。物理ダメージ軽減率が一時的に極大化します。
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ガガァァァァンッ!!
盾と爪が激突し、凄まじい衝撃音が廃墟に響き渡る。
アラタテの足元の石畳が、摩擦ゼロのまま衝撃に耐えきれずに砕け散った。
「ぐ、おぉぉぉッ!」
アラタテが歯を食いしばる。盾の防御力は完璧だった。物理的なダメージは、分厚い装甲とスキルによって完全に相殺されているはずだった。
――しかし。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ 警告:【徴収獣コレクター】の攻撃属性は『リソース直接徴収』です。
▶ 物理防御力を貫通。対象のHPを強制的に徴収します。
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「な……!?」
ハルが絶望の声を上げた。
アラタテのHPゲージが、物理ダメージではなく『システムからの没収』という形で、ごっそりと、凄まじい速度で削れ始めたのだ。
「おじさん……っ!!」
背後に尻餅をついたひとみが、震える声で叫ぶ。
どんなに分厚い装甲も、どんなに優れた防御スキルも、システムから直接HPを奪い取る攻撃の前では無意味だった。
アラタテの顔から急速に血の気が引き、重厚なアーマーの隙間から生々しい血飛沫が噴き出す。
「逃げて! おじさん、逃げてよッ!!」
ひとみが泣き叫ぶ。
アラタテは、盾を構えたまま後ろを振り返った。
血まみれの口元を、わずかに歪めて笑う。
「……タンクってのはな、逃げるためにいるんじゃない」
その瞳は、ただのゲームのプレイヤーのものではなかった。
寒がる少女に無言でマントを着せかけた時のように。不器用で、世話焼きで、どこまでも優しい『親』の眼差しだった。
「おじさ――」
ズドグシャァァァンッ!!!
徴収獣の二撃目が、タワーシールドごとアラタテの分厚い胸板(鳩胸アーマー)を無残に貫いた。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ 聖盾騎士『アラタテ』のHPが強制徴収限界値【1】に到達しました。
▶ 戦闘継続不能。
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「が、はっ……」
アラタテの口から大量の血が吐き出され、彼の巨体がゆっくりと前へ崩れ落ちる。
「逃げろ……ひと、み……」
最後の言葉を絞り出し、アラタテは冷たい石畳の上に倒れ伏した。
カラン。
ひとみの震える手から、自分より大きな『断頭巨斧』が力なく滑り落ち、摩擦のない床を虚しく滑っていく。
「あ、ああ……」
ひとみの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
無邪気に「敵の首を飛ばす」とはしゃいでいた少女は、今初めて、自分を守って大人が死ぬという『リアルな喪失の恐怖』を味わっていた。
「う、あ、あああああああッ!!」
ひとみが絶叫し、素手のまま、防御力4の華奢な体で徴収獣へと無謀な突撃をしようと地面を蹴る。
だが、その少女の小さな背中の前に――。
ガシャンッ。
白銀の甲冑を鳴らし、ハルが冷たい瞳のまま、静かに立ち塞がった。




