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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第4章 名も無き廃墟の狂戦士と不屈の盾編

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第22話 タンクの仕事と、盾の向こう側

第22話 タンクの仕事と、盾の向こう側


 ツルンッ。

 石畳から突如として摩擦が消え去り、ハルたちもまともに立つことすらできず、瓦礫に手をついて辛うじて体勢を維持していた。


「な、なんやこの理不尽なデバフ! 足に力が入らへん!」

「……これじゃ、援護も――ッ」

 ぽんずとクロイツが顔を青ざめさせる。


 その氷上のような無摩擦空間で、アラタテだけが巨体を滑らせるようにして、宙に投げ出されたひとみの前へと割り込んだ。


「グルルルァァッ!!」

 徴収獣コレクターが、強欲に光る一つ目をアラタテに向け、巨大な爪を振り下ろす。


「こいッ!!」

 アラタテがタワーシールドを構え、王道タンクの防衛スキルを連続で発動させる。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 聖盾騎士『アラタテ』が【鉄壁】および【シールドバッシュ】を発動。

▶ 対象のヘイトを固定化。物理ダメージ軽減率が一時的に極大化します。

-----------------------------------------


 ガガァァァァンッ!!

 盾と爪が激突し、凄まじい衝撃音が廃墟に響き渡る。

 アラタテの足元の石畳が、摩擦ゼロのまま衝撃に耐えきれずに砕け散った。


「ぐ、おぉぉぉッ!」

 アラタテが歯を食いしばる。盾の防御力は完璧だった。物理的なダメージは、分厚い装甲とスキルによって完全に相殺されているはずだった。

 ――しかし。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 警告:【徴収獣コレクター】の攻撃属性は『リソース直接徴収』です。

▶ 物理防御力を貫通。対象のHPを強制的に徴収します。

-----------------------------------------


「な……!?」

 ハルが絶望の声を上げた。

 アラタテのHPゲージが、物理ダメージではなく『システムからの没収』という形で、ごっそりと、凄まじい速度で削れ始めたのだ。


「おじさん……っ!!」

 背後に尻餅をついたひとみが、震える声で叫ぶ。


 どんなに分厚い装甲も、どんなに優れた防御スキルも、システムから直接HPを奪い取る攻撃の前では無意味だった。

 アラタテの顔から急速に血の気が引き、重厚なアーマーの隙間から生々しい血飛沫が噴き出す。


「逃げて! おじさん、逃げてよッ!!」

 ひとみが泣き叫ぶ。

 アラタテは、盾を構えたまま後ろを振り返った。

 血まみれの口元を、わずかに歪めて笑う。


「……タンクってのはな、逃げるためにいるんじゃない」


 その瞳は、ただのゲームのプレイヤーのものではなかった。

 寒がる少女に無言でマントを着せかけた時のように。不器用で、世話焼きで、どこまでも優しい『親』の眼差しだった。


「おじさ――」


 ズドグシャァァァンッ!!!


 徴収獣の二撃目が、タワーシールドごとアラタテの分厚い胸板(鳩胸アーマー)を無残に貫いた。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 聖盾騎士『アラタテ』のHPが強制徴収限界値【1】に到達しました。

▶ 戦闘継続不能。

-----------------------------------------


「が、はっ……」

 アラタテの口から大量の血が吐き出され、彼の巨体がゆっくりと前へ崩れ落ちる。


「逃げろ……ひと、み……」

 最後の言葉を絞り出し、アラタテは冷たい石畳の上に倒れ伏した。


 カラン。

 ひとみの震える手から、自分より大きな『断頭巨斧』が力なく滑り落ち、摩擦のない床を虚しく滑っていく。


「あ、ああ……」

 ひとみの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

 無邪気に「敵の首を飛ばす」とはしゃいでいた少女は、今初めて、自分を守って大人が死ぬという『リアルな喪失の恐怖』を味わっていた。


「う、あ、あああああああッ!!」

 ひとみが絶叫し、素手のまま、防御力4の華奢な体で徴収獣へと無謀な突撃をしようと地面を蹴る。


 だが、その少女の小さな背中の前に――。


 ガシャンッ。

 白銀の甲冑を鳴らし、ハルが冷たい瞳のまま、静かに立ち塞がった。


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