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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第4章 名も無き廃墟の狂戦士と不屈の盾編

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第20話 不審者コンビと鳩胸の狂想曲

第20話 不審者コンビと鳩胸の狂想曲


 所持金を半分にされたハルたちは、ポーション代すら危うい極貧状態に陥っていた。


 ハルが絶望的な顔でインベントリの銅貨を数える。

「大丈夫や。敵を倒せばドロップするから」

 ぽんずが励ますように言うが、ハルはピシャリと跳ね返した。

「その“敵を倒せば”ができるなら、最初から苦労しないんですよ!」

 (回復手段がないのに戦えるか!)という切実な叫びである。


「毎度ありー。しかし聖騎士様、ポーション代ケチって死んだら元も子もないッスよ?」

 そう言ってニヤニヤと笑うのは、商業都市アイン(コミケ)の路地裏で店を構える密売商人(スマグラー)の『キムチ』だった。

「……高いです。前より銀貨二枚も値上がりしてるじゃないですか」

「マモンの仕様変更で物価が高騰してるんスから、しょうがないッスよ。それに、盾の修繕素材も……おや?」


 キムチの視線が、ハルの泥と汗にまみれた顔――特に、眉間に寄った苦悶のシワと、微かに擦り切れた頬の傷跡に釘付けになる。

 (うわ、その傷顔エッッッ……!! これは良い値がつくッスねぇ……ジュルリ)


 実はこの商人、重度の限界オタク(壁打ち同人作家)であり、裏で「美貌のパラディンの隠し撮りブロマイド」をぽんずやクロイツ、さらには他ギルドの女子たちに売り捌いて暴利を貪っていたのだ。

「……キムチさん? なんで僕の顔を見てニヤニヤしてるんですか?」

「いやいや! 何でもないッス! あ、そうそう。金策ならいい情報があるッスよ。《名も無き廃墟》っていう過疎マップに『失われた金貨』っていう隠しクエストがあるらしいッス」

「隠しクエスト……!」

 ハルの瞳に、強欲な光が戻った。


     *


 一行は、キムチから得た情報を頼りに初心者エリアの外れに存在する隠しエリア――《名も無き廃墟》へと向かった。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 現在の接続者数:1,069人

▶ エリア移動:名も無き廃墟へ移動しました。

-----------------------------------------


 崩れかけた石壁の裏。

 そこに、通常のプレイヤーなら絶対に選ばないような『不審な装備』を身につけた二人組がいた。


 一人は、異常なまでに胸部装甲を盛った重装の槍盾騎士(ランサー)。

 巨大なタワーシールドを背負い、胸だけが異様に前へ突き出している。

 彼が歩くたびに、

 キュッ……キュッ……。

 と、鳩胸アーマーの関節部が擦れるマヌケな音が鳴り響いていた。


 もう一人は、ジェイソンを思わせるホラーな鉄仮面を被り、身長ほどもある血塗られた大斧を担いだ小柄な男。

 その男は、廃墟を徘徊する雑魚のゴブリンを見るなり、無邪気な声で言った。


「ねえ、おじさん」

「なんだ」

「あのゴブリン、首を落としたらアイテム落とすかな?」

「試すな」

「じゃあ試そう」

「試すな!」


 ハル、ぽんず、クロイツは、物陰で全員同じ顔になった。

 (……なんだ、このイベントNPC)


 しかし、二人の頭上にはしっかりとプレイヤーネームが浮かんでいた。

 鳩胸の男・『アラタテ』の職業は《聖盾騎士》。防御力とヘイト管理に全振りした典型的な壁役(タンク)だ。

 一方、『金曜日よりの使者』の職業は《狂戦士》。STR極振り、防御・回避ほぼゼロという、脳筋度カンストのピーキーすぎるステータス。


「おじさん、今日のレイド行く?」

「行かない」

「なんで?」

「お前が雑魚を全部殺すからだ」

「それ、強いってことじゃない?」

「違う。迷惑ってことだ」

「えー。じゃあ、あのゴブリン殺していい?」

「だから試すなと言ってるだろ!」


 アラタテが怒鳴りながら一歩踏み出すと、またしても鳩胸アーマーが鳴った。


 キュッ。

「……」

 キュッ。

「…………」

 キュッ。

「……なんで俺だけこんな音するんだ」

 アラタテが深いため息をつく。

 金曜日よりの使者が、ジェイソンマスクの奥からケタケタと笑った。


「おじさん、歩くたびにアヒルみたい」

「お前は黙れ」

「キュッキュおじさん」

「殺すぞ」

「僕より物騒じゃん」


 ハルは、その無駄にリアルな物理演算エンジン(関節の摩擦係数)の仕様に内心感心しながらも、意を決して二人の前に姿を現した。


「あの、お二人。ここで何してるんですか?」

「ん? ああ、クエストだ」

 アラタテが怪訝な顔で答える。

「《失われた金貨》っていう隠しクエストを探してるんだが……」


 ハルたちが顔を見合わせる。

 ――自分たちの目的(金策)と、完全に一致していた。


「ちょうどいい。僕たちも――」

 ハルがそう言いかけた、その時だった。


 ぐきゅるるるるぅぅ……。


 空気の読めない間の抜けた音が、使者のお腹のあたりから鳴り響いた。

「……あ、お腹空いちゃった」

 使者がぽんぽんと自分のお腹を叩く。

「仕方ない。クエストの前に、少し休憩して飯にするか」

 アラタテが苦笑しながらインベントリから携帯食料と水筒を取り出した。

「ちょうどよかったら、君たちも一緒にどうだ? 情報交換も兼ねて」


 ハルたちは空腹度も限界だったため、ありがたくその提案に乗ることにした。

 瓦礫の上に座り込み、アラタテが配った硬いパンを齧る。


「いただきまーす」

 金曜日よりの使者が、食事をするためにホラーなジェイソンマスクに手をかけた。


「あ、使者さんって中身どんな顔なんやろ。やっぱり傷だらけの厳ついおっさんか――」

 ぽんずが何気なく視線を向けた、次の瞬間。


 カチャリ、とマスクが外され、落ちた。

 そこから現れたのは、ダボダボの服に身を包んだ、ショートヘアの小柄で華奢な『僕っ娘の少女』だった。


「もぐもぐ……ん? どうしたの、みんな僕の顔見て」


 大きな瞳を瞬かせながらパンを頬張る少女の姿に、ハルたちは持っていた水筒を落としそうになった。


【プレイヤー専用外部掲示板スレッド抜粋】


821: 匿名の斥候

【目撃情報】名も無き廃墟の過疎エリアでヤバい組み合わせ見かけたんだが


822: 匿名の剣士

あそこ隠し金策あるって噂の場所だろ? 何がいた?


823: 匿名の斥候

歩くたびに「キュッキュッ」鳴る鳩胸の重装タンクと、血まみれの断頭巨斧担いだジェイソン。

完全に不審者コンビかと思ったら、飯食う時にジェイソンが仮面外してビビった。


824: 匿名の魔術師

どうせ中身も厳ついゴリゴリのおっさんだろ


825: 匿名の斥候

それがダボダボ服着たショートヘアの華奢な美少女(僕っ娘)だった件。

しかもSTR要求値250超えの斧を片手で持ってる。脳筋美少女と過保護な保護者タンクとか属性盛りすぎだろ……

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