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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第3章 水没古城の双剣士編

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第19話 光の残光と、空から降る理不尽

第19話 光の残光と、空から降る理不尽


 水没古城の最深部。ベリアルが爆散した光の渦の中から、一つの黒ずんだ宝玉が転がり落ちてきた。


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ 【重力監視プロセス・ベリアル】の討伐を確認。

▶ レアドロップ:ユニークアイテム【重力偏向の宝玉】を獲得しました。

▶ 装備効果:《重力制御(ベクトル偏向)》

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 ハルは息を乱しながら、その黒く濁った宝玉を拾い上げた。ずっしりとした異様な質量感と、掌を引っ張られるような奇妙な引力がある。

「……売ったらいくらになるだろう」

「あんた死線くぐり抜けた直後になんちゅう感想抱いとんねん!」

 ぽんずの鋭いツッコミが木霊する中、ハルは大事そうに宝玉をインベントリの奥底へとしまい込んだ。


     *


 水没古城からの生還後。

 バラムの街外れで、一行はみりんと別れの時を迎えていた。


「じゃあ、アタシはここで」

 みりんは少しだけ寂しそうな笑みを浮かべ、双剣のベルトを直した。

 その仕草は、今までのような「大人の余裕」を気取ったものではなく、ただの一人の女子としての素顔だった。


「……そうですか。短い間でしたが、助かりました」

 ハルが短く礼を言うと、みりんは突然、ハルの首に腕を絡ませて耳元に顔を近づけた。

 ふわりと、甘い香水の香りがハルの鼻腔をくすぐる。


「……アタシ、これ以上一緒にいたら、うっかり君を食べちゃいそうだから」

「えっ」

 ハルの体がビクッと跳ねる。

「……きっと、初めては君の本当に大事な人とするのがいいよね」


 そう甘く囁き、みりんはハルの頬に軽くキスを落としてから、ひらひらと手を振って去っていった。

 (……食べ、られる?)

 ハルの脳裏に、水棲モンスターが獲物を丸呑みする映像が過ぎる。女性への免疫ゼロの彼にとって、その言葉は完全に『物理的な捕食宣言(ホラー)』として翻訳されていた。


「ハル! あんた顔真っ青やで! あの泥棒猫、最後に何吹き込んでいきよったん!?」

「ハルくんの純血が……! 早く浄化の呪いを……ッ!」

 ぽんずとクロイツが騒ぎ立てる中、ハルはブルブルと震えながら、みりんの背中を恐怖の目で見送ったのだった。


     *


 数日後。

 一行は次なる情報と物資を求め、『商業都市アイン』へと到着していた。


 レンガ造りの街並みと、活気あふれる巨大な市場。

 その中央交易広場の片隅で、ハルは一人、真剣な顔で虚空にスキルウィンドウを展開していた。


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ パラディン『ハル』が【祈念の残光】を発動。

▶ 指定座標に光の紋様を配置。

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 ハルの手元から淡い光がこぼれ落ち、石畳の上に意味のない幾何学模様が刻まれる。

 彼はアスタロト戦での「光の乱反射」を思い出し、この産廃スキルに隠された『物理法則のハック』を検証していたのだ。


 (光子密度の限界点……配置間隔の最適化……よし、次は連続入力だ!)

 ハルは甲冑の隙間から汗を流し、猛烈な勢いで両腕を振り回し始めた。

 右、左、上、下。全身を大きく使いながら、次々と地面に光のノードを設置していく。


 それは、傍から見れば完全に『激しすぎるアイドルのオタ芸』だった。


「おおっ! なんだあの白銀の騎士!」

「動きのキレが半端ねぇ! 光の軌跡がスゲー綺麗だぞ!」


 ハルの奇行に、広場を行き交うNPCの街人やプレイヤーたちが足を止め、歓声を上げ始めた。


「ちょっ……ハル!? 広場のど真ん中で何やっとんねん!」

 買い出しから戻ってきたぽんずが、その光景を見て悲鳴を上げる。

「ぽんずさん、見てください……! ウチらの推しが……路上パフォーマンス(ファンサ)を……ッ!」

「あかん、尊すぎて直視できへん……ッ!」

 クロイツは両手で顔を覆いながらも、指の隙間からハルの勇姿(奇行)をバッチリと目に焼き付けて限界化していた。


 ハルのオタ芸(スキル検証)がクライマックスを迎え、特大の光の紋様が空中に弾けた瞬間。

 ワァァァァッ! と広場が割れんばかりの拍手に包まれた。


 チャリン、チャリリーン。

 ハルの足元に、歓喜したNPCたちから無数の銅貨が投げ入れられる。


「……えっ?」

 ハルは息を切らしながら、足元に転がった投げ銭を見た。


「こ、これで……ポーション代が……」

 ハルの瞳に、かつてないほどの強欲な光が宿る。

 (これだ!! ダンジョンで命をかけるより、ここで安全にオタ芸してるほうがよっぽど効率的に稼げるじゃないか!!)

 ハルは狂喜乱舞し、さらに激しいモーションで【祈念の残光】を連打し始めた。


 ――だが、そのささやかな日常の歓びは、突如として空を覆った『黄金の影』によって無残に打ち砕かれる。


 ビィィィィィィィッ!!


 街中のシステムアラートが鳴り響き、空がどす黒く反転した。

 雲を割って降り注いできたのは、街全体を覆い尽くすほどの『巨大な黄金の天秤』。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 警告:【強欲監視プロセス・マモン】の広域干渉を検知。

▶ 強制徴収プロトコルを開始します。

▶ 対象エリア内の全プレイヤーの『所持金(リソース)』を、50%削減(デリート)します。

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 シュゴォォォォンッ!!

 無慈悲な光が街を包み込む。

 ハルが慌ててステータス画面を開くと、ついさっきまで大事に貯め込んでいた所持金が、目の前でパラパラとカウントダウンを起こし、正確に「半分」になってしまった。


「……あ、あ、あああ……」

 ハルの口から、魂が抜けたような声が漏れる。


「ハル! しっかりしいや! たかが金減っただけやろ!」

「いや、これは物理ダメージよりキツいかもしれません……っ」


 膝から崩れ落ち、白目を剥いて泡を吹くハル。

 次なるセフィロト幹部・マモン。

 その攻撃は、命よりも金を重んじるハルにとって、物理的な死よりも恐ろしい「絶対的な絶望(破産)」の幕開けだった。



【SYSTEM SECRET LOG:対象プレイヤーの現実リンクデータを開示します】


■ アバター名:みりん

・ジョブ:双剣士

・現実氏名:三科(みしな) 凛(りん)

・年齢/職業:28歳 / 大手広告代理店のアカウントプランナー

・特記事項:バリキャリ女子。連日の残業とパワハラ上司のストレスを、ゲーム内の「酒」と「暴力(双剣)」で発散しているアル中一歩手前。現実では常に気を張って「大人の女」を演じているため、ゲーム内で自分を背中で守ってくれた少年(ハル)の無骨さに本気で情緒を狂わされた。現在、禁酒を試みるも「ハルくんの顔を思い出すとお酒が進む」という理由で失敗続き。



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