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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第3章 水没古城の双剣士編

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第18話 理不尽な重力と、限界女子たちの共闘

第18話 理不尽な重力と、限界女子たちの共闘


 肺から残りの酸素が、強制的に搾り出された。

 ミシッ……メキョッ……!

 水没古城の最深部。敷き詰められた石畳が悲鳴を上げ、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 セフィロト幹部【重力監視プロセス・ベリアル】の放つ『範囲重力圧殺』は、一切の物理的防御を無意味にする「システム的な理不尽」そのものだった。


『――不適格データの存在を検知。対象の空間座標を、極小点まで圧縮・廃棄します』


「が、はっ……!」

 ハルは冷たい石畳に顔を押し付けられ、血混じりの呻き声を漏らした。

 分厚い白銀の甲冑が、自らの重さで内臓を押し潰してくる。腕一本、指先すらピクリとも動かせない。自慢の盾すら持ち上がらない。

 人間の努力や意志など介入できない、圧倒的な物理法則の壁がそこにあった。


「……ハ、ル」

 すぐ横で這いつくばっていたみりんが、血で濡れた唇を震わせた。

「……はい」

「動け、る?」

「……指も、無理です」


 ハルが息も絶え絶えに答える。

 絶対の盾が地べたに這いつくばっている。それはつまり、パーティの全滅が確定したことを意味していた。

 宙に浮遊する巨大な単眼・ベリアルが、無機質な赤い光を明滅させる。


『――抵抗の無意味さを学習してください。次工程、完全圧殺へ移行します』


 致死量の重力波が、無慈悲にチャージされていく。

 その、絶望的な静寂の中。


 ギリリリッ……!


 骨が軋む、嫌な音が響いた。

「……みりん、さん?」

 ハルが驚きに見開いた視界の先。みりんが、両手の双剣を地面に深く突き立て、それを松葉杖のようにして――全身の毛細血管をちぎらんばかりの力で、無理やり立ち上がっていた。

 彼女に続くように、ぽんずも弓を支えにして膝を立て、クロイツは杖を折れんばかりに握りしめて立ち上がる。


「ウチらが守るって……決めたんや……ッ!」

「私たちの供給源(推し)を、ここで潰させるわけにはいきません……ッ!」


 今までハルの広すぎる背中に守られていた女子たちが、初めてハルを「庇う」ために立ち塞がる。

 みりんは口から滴る血を手の甲で乱暴に拭い、ハルを見下ろして、吠えた。


「……ったく。アンタがこんなところで、潰れてんじゃないわよ!」

「僕は、別に――」

「黙ってろ!!」


 初めてハルの言葉を力ずくで遮り、みりんは両の双剣を引き抜いた。


『――エラー。異常な生命活動(アドレナリン)のスパイクを検知。計算外の挙動です』


 無機質な音声がわずかにバグった。

 その隙を突き、三人の限界女子たちは、見えない重力の壁に向かって決死の特攻を仕掛けた。


「オラァァァァッ!!」

 みりんの双剣が、ぽんずの矢が、クロイツの呪いが、ベリアルの巨大な単眼に直撃する。

 ダメージなど、1ドットも入っていない。だが、三人の「無意味な同時攻撃」は、ベリアルの重力演算プロセスにコンマ一秒の『処理遅延(ブレ)』を発生させた。


 フッ、と。

 ハルを押さえつけていた重力が、ほんのわずかに、本当に紙一重だけ弱まる。


(――貰った)


 ハルはその一瞬のノイズを逃さなかった。

 立ち上がることはしない。地面に這いつくばったまま、彼は右手だけで白銀の盾を引き寄せ、床の最も深い亀裂に、盾の下部を「楔(くさび)」のようにカッチリとはめ込んだ。


 そして、盾の表面が『斜め上(ベリアルの方向)』を向くように、正確な反射角をセットする。


「……何する気!?」

 特攻を終え、再び重力で弾き飛ばされたみりんが、ハルの異様な体勢を見て声を絞り出す。


「重力は、質量じゃない。ただの『下に向かう力』だ」

 ハルは、這いつくばったまま完全に狂ったロジックを平然と口にした。

「俺が盾を持ち上げられないなら――この『地面(星)』を支柱にして、滑らせる」


『――バグの拡大を阻止。最大出力による重力圧殺波を投射します。消えなさい』

 ベリアルがエラーを強制排除すべく、致死量の『重力圧殺波』をハルめがけて解き放つ。

 ミシミシと空間が歪み、絶対的な死が上空から迫る。


 だが、ハルの目は信じられないほど冷たく、そして熱く、宙の巨大な単眼を射抜いていた。


「お前の計算式(ルール)は、絶対だ。だから――そのルールごと利用させてもらう」


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ パラディン『ハル』による【打ち払い(パリィ・ストローク)】を検知。

▶ ※接触対象:物理的質量(なし)/重力場エネルギー。

▶ 盾の反射角および地面の剛体係数を利用した『超・偏向処理』を開始。

-----------------------------------------


 ズギャァァァァァァンッ!!!


 空間がひしゃげるような、信じられない轟音が鳴り響いた。

 ハルの盾は、見えない重力の塊を正面から受け止めてはいなかった。床の亀裂で完全に固定された盾の『斜めの傾斜』が、上からの絶対的な圧力を受け流し、斜め上空へと『滑らせた』のだ。

 物理法則の隙間を突いた超・偏向重力は、そのまま上空に浮遊していたベリアル自身へと牙を剥く。


『――致命的矛盾(パラドックス)を検知。ベクトルの反転……当機体の装甲限界値を、超過――』


「ギ、ギギギギギッ!?」

 自らの放った最大出力の重力に自ら押し潰され、ベリアルの巨大な単眼が内部からひしゃげる。

 機械的な断末魔とともに、水没古城の最深部に、鼓膜を破るような大爆発が巻き起こった。


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ 現在の接続者数:1,069人

▶ エリア:水没古城

▶ ――BOSS『重力監視プロセス・ベリアル』討伐完了。

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【プレイヤー専用外部掲示板スレッド抜粋】


599: 匿名の魔法使い

【悲報】水没古城のボス部屋から、女たちの凄まじい怒号と、重力が反転したような信じられない轟音が聞こえてくるんだが。


600: 匿名の剣士

それ、さっき中ボス倒したパラディンのパーティじゃね?

ボスってベリアルだろ? 範囲重力どうすんだよ。


601: 匿名の暗殺者

たった今ボス部屋から出てきた……。

パラディンが、地面に這いつくばったまま『重力そのものを盾でパリィして上に跳ね返した』。

もうあのパラディン、物理エンジンに愛されてるとしか思えねえ。


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