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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第3章 水没古城の双剣士編

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第17話 最弱の矛と、最大の反逆

第17話 最弱の矛と、最大の反逆


 静まり返った石造りの小部屋。

 本物のハルと偽物の『水鏡の騎士』は、鼻先が触れ合うほどの至近距離で対峙したまま、完全に硬直していた。


「……何、やってんの」

 みりんが極度の緊張で乾いた喉を鳴らす。

 最強の防御力を持つ敵に対し、ハルはおもむろに腰のインベントリを開き、一本の武器を取り出した。


 刀身の半ばでぽっきりと折れた、赤茶けた剣。

 初期装備の『折れた銅の剣(攻撃力1)』だった。


「……は? なにそれ。それで何する気?」

「刺します」

 ハルは真顔で答えた。

「はぁ!? もっとマシな武器あるでしょ! なんでそんなゴミを……!」

「これが一番安全なんです」

「安全って……意味わかんないわよ!」

「万が一パリィされて反射ダメージを食らっても、攻撃力1なら痛くないじゃないですか」

「そこじゃない!!」


 みりんのツッコミを無視し、ハルは折れた銅の剣を偽物の胸元――甲冑の隙間に青く光る『コア』へと向けた。


 そして、ハルは動いた。

 あくびが出るほど、信じられないくらい『ゆっくり』と。


 じり……じり……。

 剣先が、1秒間に数ミリというカタツムリのような速度で前進していく。

 息を止めたハルの横顔から、冷たい汗のひとしずくがゆっくりと顎を伝い落ちる。


「……えっ? なんで弾かれないの?」

 ぽんずが目を丸くした。

 先ほどまでは、自分たちの矢も双剣の斬撃も、完璧な反応速度で弾き飛ばされていたのだ。しかし今、ハルの突き出す剣先は、偽物の胸の装甲に触れ、そのままぬるりと沈み込み始めている。


「パリィの発生(アクティブ)フレームは0.01秒です」

 ハルは剣を押し込みながら、ひそひそ声で解説した。

「向こうのAIは『一瞬の衝撃ベクトル』を検知して盾を合わせるプログラムになっている。だから、こうやって『検知されないほど遅い持続判定』で触れ続ければ……システムの防御判定を完全にすり抜けられるんです」


 じりっ、じりっ。

 ハルの手首がわずかに震え、錆びた剣先が偽物のコアの表面に到達する。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 対象プロセスへの微弱な継続接触を検知。

▶ 攻撃ベクトルとして認識不能。防御ルーチンをバイパスします。

-----------------------------------------


「嘘でしょ……そんなセコいやり方で……」

 みりんが呆然と呟いた。

 最強のステータスと完璧なAI。最適化されたシステムを打ち破ったのは、最強の魔法でも伝説の武器でもない。

「痛いのが嫌だ」というハルの極限の貧乏性と、初期武器による『世界一遅い突き』だった。


 パリンッ。


 硬質なガラスが砕けるような、澄んだ音が響いた。

 攻撃力1の刃先が、無防備なコアの急所を的確に貫いたのだ。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 中ボス【水鏡の騎士】のコア破損を確認。

▶ システムエラー……行動ロジック崩壊……

-----------------------------------------


 ピキ、ピキキキキッ!

 偽物のハルは、驚愕の表情を浮かべる暇すらなく、甲冑ごと無数のヒビ割れを起こし、光の粒子となってダンジョンの水面へと崩れ落ちた。


「……ふぅ。ノーダメで勝てた」

 ハルが折れた銅の剣をしまい、安堵の息を吐く。

 その信じられない光景に、三人の女子たちは言葉を失っていた。


「……何それ」

 みりんが、少し掠れた声でこぼす。

「言ったじゃないですか。仕様の穴です」

 ハルは平然と答えた。「向こうが『待つ』しかできないなら、こっちがゆっくり奥まで押し込めばいいだけの話で――」


「……アンタ、女にもそういうことするの?」


「はい?」

 ハルは不思議そうに小首を傾げた。

「女にも? 仕様の穴を突くんですか?」

「ち、違うわよ! バカ! もういい!」


 みりんは顔をカァッと赤くして、両手で自分の頬を覆い隠した。

 (バカバカアタシのバカ! なんで自分から意識しちゃってんのよ……ッ!)

 強者の余裕も、口の悪いセクハラお姉さんの仮面も完全に剥がれ落ちた。ただの「無防備でミステリアスな美少年に翻弄される女子」がそこにいた。


「ちょっと泥棒猫! ウチのハルになに赤面しとんねん!」

「さっきのハルくんのゆっくりとした突き……あぁっ、私の脳髄まで侵食されそうです……ッ!」

 ぽんずが牽制し、クロイツが別の意味で限界化して悶える。


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【プレイヤー専用外部掲示板スレッド抜粋】


512: 匿名の暗殺者

【朗報】水没古城の中ボス『水鏡の騎士』、攻略法判明!


513: 匿名の遊び人

マジで!? あいつパリィ無双すぎて詰んでたんだが! どうやるんだよ!


514: 匿名の暗殺者

『折れた銅の剣を持って、10秒くらいかけて超ゆっくり刺す』だ。


515: 匿名の剣士

は? お前ふざけてんの?


516: 匿名の暗殺者

ふざけてねえよ! 白銀甲冑のパラディンがそれでコアぶち抜くの見たんだよ! パリィAIの検知フレーム外から持続判定押し付けるバグ技らしい。

マジで誰だよあのパラディン、中身絶対デバッガーだろ!!

---


 中ボス撃破の安堵と、女子たちの騒がしいやり取り。

 だが、そのぬるま湯のような空気は、一瞬にして凍りついた。


 ズズズズズズッ……!!


 小部屋の奥。

 最深部へと続く巨大な両開きの石扉が、けたたましい地響きを立てて強制的に開いたのだ。

 奥から吹き付けてきたのは、冷気ではない。

 内臓を直接下へ引っ張り込まれるような、暴力的なまでの『重圧』だった。


「……えっ、体が……重っ……」

 ぽんずが膝をつく。

 みりんも双剣を取り落とし、石畳の上に這いつくばった。

 重厚な甲冑を着たハルに至っては、肩に巨大な鉄塊を乗せられたように、ガシャンと激しい音を立てて床に伏せさせられてしまう。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 警告:エリア内の重力演算係数が書き換えられました。

▶ 警告:【重力監視プロセス・ベリアル】の降臨を検知。

-----------------------------------------


 開かれた扉の奥。

 暗闇の中から、足音もなく『それ』は現れた。

 巨大な単眼。物理法則を完全に無視して宙に浮遊する、異形のセフィロト幹部。

 その一つ目が、地を這う虫けらを見下ろすように、ハルたちを冷酷に睨みつけていた。


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