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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第3章 水没古城の双剣士編

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第15話 守られる残念美人と、狂気のタンク

第15話 守られる残念美人と、狂気のタンク


 キィィィィンッ――!!


 円形の小部屋に、冷酷な金属音が反響する。

 水棲モンスターの群れが、怒り狂ってハルへと殺到していく。

 みりんは荒い息を吐きながら、慌ててその後を追って小部屋へと駆け込んだ。


 そこで彼女が見たのは、信じられない光景だった。

 ハルは部屋の中央ではなく、冷たく湿った『壁際』に背中をぴったりとつけ、一歩も退けない状況を自ら作り出していたのだ。


「バカ、なにやってんの! 壁際に行ったら逃げ場がないだろ!」


 みりんの悲鳴をよそに、十匹の半魚人が一斉に槍を突き出す。

 逃げ場はない。だが、ハルは全く慌てる素振りを見せなかった。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ パラディン『ハル』による【打ち払い(パリィ・ストローク)】の連続検知。

▶ 防御方位:前方180度に限定。

▶ 物理演算:対象のすべての攻撃ベクトルを上方へ偏向。

-----------------------------------------


 ガァン! キィィンッ! ガシュゥゥッ!

 火花が散り、冷たい水飛沫がみりんの顔にまで飛んでくる。


 ハルは壁を背負うことで『背後と左右の死角』を消滅させ、処理すべき敵の攻撃ベクトルを前方のみに限定していた。

 そして、アスタロト討伐の報酬である『予測ルート表示』によって可視化された「絶対に攻撃が当たらない青い空間(アンチ)」に立ち、迫る連撃を盾のわずかな傾き(0.01秒パリィ)だけで全て上へと受け流し続けている。


 (視界のアンチに立って、正面の攻撃だけをパリィする。これなら修理費もポーション代も絶対にかからない……!)

 ハルの瞳には、極限の節約術を成立させた狂気的なロジックだけが宿っていた。


 だが、その無口で圧倒的な横顔は、みりんの目には全く違う文脈で映った。

 (アタシを守るために、わざと逃げ場のない壁際を背負って……敵の攻撃を一人で引き受けてる……?)


 みりんがハルの横に並ぼうとした、その時。


 ――ピチャリ。


 小部屋の天井付近、暗がりの通気口から、水滴が落ちる音が響いた。


「……動かないでください」

 ハルが、その物音には気付かず、冷徹な低い声でみりんに告げた。

「え……?」

「あなたが動くと、敵の攻撃角度が増えます。そこにいてください」


 ハルからすれば、「みりんが動くと敵のフォーメーションが崩れ、せっかく計算した安全地帯(アンチ)がズレてしまうから邪魔」というだけの理由だ。

 しかし、その不器用なほどに短いセリフと、自分を背中で庇うように立ち塞がる無表情な横顔は、静かで圧倒的な『オス味』を放っていた。


 ドクン、と。

 みりんの心臓が、今まで経験したことのないリズムで跳ねた。


「……そういうところよ」

「?」

 ハルは弾き返しながら、不思議そうに眉をひそめる。

「なんでもない……っ」


 みりんは顔をカァッと赤らめ、両手で自分の頬を押さえた。

 「大人の女」としての余裕など、とうの昔に消し飛んでいる。今の彼女は、ただの「守られる普通の女子」へと完全にメス堕ちしていた。


「……アンタさ」

「はい」

「自分が今、どんな顔してるか分かってる?」

「顔? ……」

「……いや、もういい」


 本気で意味が分かっていないハルの純粋さに、みりんは特大のキュンを食らいながらため息をついた。


「ぽんず、クロイツ! 射線、開きました!」

「任せとき! ウチらのイケメンに群がる泥棒猫(半魚人)ども、まとめて射抜いたるわ!」


 みりんが守られている間に、後方で準備を整えていたぽんずとクロイツの火力が火を噴く。

 一歩も動かない絶対の盾(ハル)と、後衛からの十字砲火。

 完璧なタンクとアタッカーの連携により、十匹の水棲モンスターは瞬く間に光の粒子となって消え去った。


「ふぅ……」

 ハルが盾を下ろし、ようやく安堵の息を吐く。

 みりんは赤くなった頬を隠すようにそっぽを向きながら、「……ありがと。助かったわ」と小さな声で呟いた。


 だが、その甘い余韻は、冷酷なシステムアラートによって無残に打ち砕かれる。


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ 警告:エリア内に高密度の魔力溜まりを検知。

▶ 中ボス【水鏡の騎士】がスポーンしました。

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 部屋の中央の水溜まりが、不気味に盛り上がる。

 水の塊は次第に人の形を成し、白銀の甲冑をまとい、深い夜の湖を思わせる瞳を持った『一人の美少年』へと姿を変えた。


「……」

「……」

「……」


 その姿を見た三人の女子は、完全に言葉を失った。


「……なんか、増えた」

 みりんが呆然と呟く。

「気持ち悪いですね。僕の偽物なんて」

 ハルが本気で嫌そうに吐き捨てた。

「いや、そこじゃない」

 みりんが即座に突っ込む。


 プレイヤーの姿と能力を完全にコピーする中ボス『水鏡の騎士』。

 それはつまり、このパーティの要である『0.01秒の完璧なパリィ』を操る、最悪の敵の誕生を意味していた。


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