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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第2章 光の勇者編

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第12話 マウント合戦とバグの報酬

第12話 マウント合戦とバグの報酬



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【SYSTEM MESSAGE】

▶ 現在の接続者数:1,071人

▶ エリア:鉱山都市バラム。

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 深い闇の中から意識が浮上する。

 ハルが重い瞼を開けると、視界の端に三つの影が蠢いていた。


「どきぃやキラキラ勇者! ハルの看病すんのはウチの役目や!」

「ズルい! 私こそがハルくんの美しき魂の供給源(信徒)……! ポーションより濃密な私の呪いで癒やすべきです!」

「アァン!? アタシはねぇ、騎士様の手で胸を直に愛撫されたのよ! 物理的な親密度が違うわぁん!」


 関西弁のオカン、黒ローブの限界オタク、そして布の服を着たでっかいオカマ。

 三人がハルの頭上(特等席)を巡って、バチバチと火花を散らすドロドロのマウント合戦を繰り広げていた。


「……あ、あの」

「「「ハル(くん/騎士様)!!」」」


 ハルが弱々しく声を出した瞬間、三人が同時にスライディング土下座のような勢いで顔を覗き込んできた。

 むせ返るような香水と、汗と、謎の熱気。

 (ひぃぃっ! 僕、何か悪いことした!?)

 限界童貞のハルの胃が、物理的なダメージとは別の意味でキリキリと痛み始める。


「……僕は、大丈夫です。ポーション代も……浮いたし」


 虚無の瞳でそう呟きながら、ハルはよろよろと立ち上がった。

 アスタロトを撃破したことで、彼の手元には一つのドロップアイテムと、システムからのアナウンスが届いていた。


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ 【演算統括プロセス・アスタロト】の機能停止を確認。

▶ システムロック一部解除:『予測ルート表示』機能が復旧しました。

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「予測ルート表示……」

 ハルが呟いた瞬間、彼の視界が奇妙なノイズとともに明滅した。

 本来、この機能は『敵の攻撃範囲が赤く可視化される』という、アクションRPGにおける初心者の救済システムのはずだ。


 だが、ハルの目に映ったのは、それだけではなかった。


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【SYSTEM MESSAGE】

▶ Error:演算モジュールの破損により、表示領域が反転しています。

▶ 『安全地帯(セーフエリア)』および『オブジェクトの耐久値限界』の可視化を開始します。

-----------------------------------------


 (……なんだ、これ)

 ハルの視界に、敵の攻撃範囲だけでなく、地面のわずかな凹みや岩の陰など「絶対に攻撃が当たらない青い空間(アンチ)」が、グリッド状に浮かび上がっていた。

 さらに、装備している甲冑や盾の表面に、『耐久値が減少する打撃ポイント』が赤い点でマッピングされている。


 (これ……この青いポイントに立っていれば、絶対に被弾しないってことか? しかも、盾の赤い点を避けてパリィすれば、耐久値が減らない……つまり)


 ハルの瞳に、かつてないほどのギラついた光が宿った。


「これなら……装備の修理費(オイル代)も、ポーション代も、完全にゼロにできるじゃないか……ッ!!」


 絶対的な死の回避(アンチの可視化)というチート級の能力を手に入れておきながら、彼の思考は完全に「究極の節約術(極貧ハック)」へと直結していた。

 ハルは嬉しさのあまり、ガッツポーズを取りながら震え上がった。


「見て! ぽんずさん! 騎士様が戦いの余韻に打ち震えてらっしゃるわ!」

「ウチらのために……もっと強くなろうとしてるんやな。ホンマ、泣かせる子やで」


 (違う! 修理費がタダになるって喜んでるだけだ!!)

 ハルのズレた歓喜は、女子(+オカマ)たちの激しい深読みによって、またしても「気高きヒロイズム」へと自動翻訳されていた。


     


 バラム鉱山の入り口へ戻る道中。

 ヒカリは「アタシ、戦うのは、もうこりごりよ。この村で可愛いお洋服屋さんを開くの」と、突如として勇者引退を宣言した。


「えっ……来ないんですか?」

「ウフフ……アタシみたいなか弱い乙女が、ずっと騎士様に守られてるわけにはいかないもの」

 ヒカリはハルの華奢な手を、両手の分厚い掌で力強く包み込んだ。

「アンタは最高の騎士様よ。死んだら、許さないからね」


 (……優秀な盾(質量)が減るのは、物理的に痛いな)

 ハルは内心でそんな無骨なことを考えながらも、虚勢(RP)を崩さず「……ええ。達者で」と短く返した。

 ぽんずとクロイツは「でっかいライバルが減った」と安堵の息を漏らしている。


 だが、彼らが鉱山の出口に差し掛かった時。

 そこには、明らかに彼らを『待ち伏せ』ていた一団がいた。


「……君が、アスタロトの演算をバグらせたというパラディンか」


 整然と並んだ重武装のプレイヤーたち。

 その中心に立つ、黄金の鎧をまとった男が、冷ややかな瞳でハルを見下ろしていた。

 全プレイヤーの頂点に君臨するトップギルド『虎竜の道標(ラオプ・ヴェーク)』のギルドマスター、完璧主義のエリート――ロードだった。


「その非効率な戦い方。ゲームのノイズだ……」




【SYSTEM SECRET LOG:対象プレイヤーの現実リンクデータを開示します】


■ アバター名:ヒカリ

・ジョブ:光の勇者(引退済)

・現実氏名:大仁田(おおにた) 光(ひかり)

・年齢/職業:38歳 / 新宿二丁目のバー「ルミエール」のママ

・特記事項:イケメンを愛でるためにゲームを始めたが、リアル・ミラー仕様のせいで現実の屈強な肉体のままの不憫なオネエ。

面倒見が良く、常連客から慕われていた。

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