第10話 幾何学の牢獄と反射する推し活
第10話 幾何学の牢獄と反射する推し活
坑道が、狂気的な光の乱舞に包まれていた。
アスタロトが放った致死の閃光は、ハルが血を流しながら配置した【祈念の残光】のノードに衝突し、鋭角に折れ曲がり、また別のノードへと跳ね返る。
光の軌道が何千回、何万回と反射を繰り返し、空中に複雑怪奇な「光の幾何学模様」を織り成していく。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ 光彩の屈折盾、連鎖起動。
▶ ノード間での光子乱反射がループ状態へ移行。
▶ 【演算統括プロセス・アスタロト】の演算キューがオーバーフローしています。
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「バカな……。あり得ない! こんな非効率な乱反射、私の最適化ルーチンで計算しきれないはずが――ッ!」
ギギギ、ギチチチチ……。
無機質だったアスタロトの声が、ひどくノイズまじりに裏返る。
彼の完璧な身体を構成する機械的な関節から、重く軋む音が響いた。
空間を飛び交う光のエネルギー。その軌道のすべてを「最短距離」に修正しようとAIが演算を続けるあまり、処理能力の限界(遅延)を引き起こしていたのだ。
アスタロトの純白のローブの隙間から、排熱による熱風がシューッと吹き出し、焦げた回路の匂いが冷たい坑道に充満する。
「……計算が追いついてないみたいですね」
ハルは浅い呼吸を繰り返し、鉄の匂いがする口元を微かに歪めた。
(やった……! 目眩ましで撒いたスキルが、まさか物理エンジンで【鏡の部屋】みたいになるなんて!)
奇跡的な仕様ハックの成立。アスタロトの攻撃がループに囚われている今なら、こちらから反撃できる。
だが、ハルの顔にすぐさま焦燥が走った。
(だめだ! 反射してるだけじゃダメージにならない。このエネルギーを一つにまとめて撃ち返さないと……でも、それには光を一点に集めるための『最後のデカい壁(反射板)』がいる!)
周囲を見渡すハル。
鉱山の岩壁は凹凸が多すぎて、光が拡散してしまう。
ぽんずやクロイツの華奢な身体では、面積が足りないし、そもそも彼女たちを標的にするわけにはいかない。
(何か……何か、平らで、分厚くて、光をガッチリ受け止められるだけの『面積と質量』を持った壁は――)
その時、ハルの視界の端に、ある巨大なオブジェクトが映り込んだ。
豊満な大胸筋。丸太のような二の腕。
そして、初心者用の布の服をパツンパツンに引き伸ばしている、分厚い脂肪と筋肉の鎧。
「……あ」
ハルは振り返り、自身のすぐ背後で震えているヒカリの「でっかいガタイ」を凝視した。
(さっき、僕が避けた時……あの人、岩壁に激突しても脂肪でダメージを相殺してたよな……?)
「…騎士様……?」
ヒカリは息を呑んだ。
血を流し、息を荒らげた美貌の騎士が、獲物を狙うような、かつてないほど熱を帯びた瞳で自分を見つめている。
彼と視線がぶつかり合った瞬間、ヒカリの胸の奥で、甘く痺れるような熱が爆発した。
(あぁっ……! そんな目で見つめられたら、アタシ……ッ)
ハルは極限の集中(RP)状態のまま、低く、切実な声で告げた。
「……勇者様。あなたの、その『ガタイ』が必要です」
「えっ……!?」
「お願いです……僕の盾になってください」
ドクン、と。
ヒカリの心臓が、乙女のようにけたたましく跳ねた。
(……盾になってくれ……!?)
それは、ハルにとっては「物理的な反射面積と質量が欲しい」という、身も蓋もないロジカルな本音でしかなかった。
だが、限界オタクの精神に書き換わったでっかいオカマには、その言葉は最強のプロポーズ(推しからの指名)にしか聞こえなかった。
「……アタシ、やっぱり光の勇者だったのね……ッ!」
ヒカリの瞳に、歓喜と決意の炎が灯る。
「ええっ! 任せなさい、アタシの王子様! このヒカリのすべて、アナタに捧げるわぁぁッ!!」




