表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/13

覚悟

訓練場の中央。


そこには、小さな氷山ができていた。


当然、自然のものじゃない。


リリア・アニーの氷魔法だ。


天井まで届きそうな巨大な氷塊の中に、

深緑色の髪をした、

アルメディオでは珍しい筋骨隆々の少年

ガイウス・レムは閉じ込められていた。


舞台の外にいる生徒たちには、その姿は見えない。


魔法を放った後、リリアは肩で息をしていた。


大粒の汗が、石畳の舞台に落ちる。


リリアが疲れているのは、魔力切れじゃない。


ガイウスの言葉に、心を削られていたからだ。


迷いのない目。 迷いのない言葉。


その全てが、意図せずリリアの心を抉っていた。


「……こんなものよ」


「努力なんて……意味ない」


「神に選ばれなかったやつが、やることよ……」


「運命なんて、生まれた時に決まってるのよ……」


「私は……間違ってない……」


その声は震えていた。


目には涙が浮かんでいる。


それはガイウスに向けた言葉じゃない。


自分自身に言い聞かせる言葉だった。


姉――エリア・アニーには、一生届かない。


隣には並べない。


周りから見れば、自分は“エリアの妹”でしかない。


その現実が、一番苦しかった。


訓練場は静まり返っていた。


誰も、この巨大な氷塊を前に言葉を失っていた。


その時だった。


「……これで終わりかぁ?」


笑い声が響いた。


皆が振り向く。


そこにいたのは、ディール・フォスターだった。


眠そうに笑いながら、舞台へ歩いてくる。


「終わりよ……」


リリアが小さく呟く。


「所詮、この程度だったのよ」


「努力したって、意味なんかないのよ……」


ディールは、余裕の笑みを浮かべた。


「努力ねぇ……」


「努力できるやつは、この国じゃ頭のおかしいやつだ」


「それを、あいつは当たり前みたいにやる」


リリアが睨む。


「……何が言いたいの?」


ディールは氷塊へ視線を向けた。


「お前……いや、お前らは」


「ガイウスを舐めすぎだ」


「……あいつは、“諦める”って言葉を知らねぇ」


その時。


パキ。


小さな音が響いた。


そして――


パキパキッ。


氷塊に亀裂が走る。


「……嘘でしょ」


リリアが呟く。


そして――


バキンッ!!


氷塊が砕け散った。


その中から、ガイウスが現れる。


ディールが笑う。


「どうだった? 凍らされた気分は」


ガイウスは肩を回した。


「あぁ」


「意外と涼しくて、気持ちよかった」


「肩こりも少し治った気がする」


一瞬の沈黙。


そして。


「ははははっ!!」


ディールが腹を抱えて笑い出した。


「馬鹿だこいつ!!」


「変人すぎるだろ!!」


ガイウスは気にせず、リリアを見る。


「次は、俺の番だ」


両腕を交差させる。


液体のような魔力が、体を流れる。


肘から先に、魔力が集まっていく。


――《魔力剣》。


リリアが唇を噛みしめた。


「認めない……」


「絶対に、認めない……」


「努力なんかじゃ、変わらないのよ……」


「そうじゃないと……私は……」


リリアの魔力が、さらに膨れ上がる。


訓練場の空気が、張り詰めた。



「……あはは」


リリア・アニーは、泣きそうな顔で笑っていた。


強がるように。


震える両手に、膨大な魔力が集まっていく。


涙で揺れる瞳が、まっすぐガイウスを見ていた。


……覚悟を決めた目だった。


「ねぇ……言ったわよね」


「戦いってのは……生きるか死ぬかだって」


一瞬の静寂。


そして――


「……殺してあげる」


涙が、ぽたりと地面に落ちた。


リリアは地面に手をつく。


ゴゴゴゴ――!!


石畳が隆起する。


土が盛り上がり、ガイウスの四方を囲った。


完全な密室。


外からは、中の様子は見えない。


だが、状況を把握している者もいた。


教官たち。


そして――ディール・フォスター。


《感》。


見えない相手の位置や、魔力の流れを把握する魔力操作の基礎技術だ。


ディールの口角が上がる。


「……どうするんだ、ガイウス」


密室の中。


ガイウスはただ、静かに立っていた。


リリアが土壁に手を触れる。


魔力が流れ込む。


「終わりよ、ガイウス」


「凍土魔法――氷雪柱」


次の瞬間。


ドゴォォォッ!!


巨大な氷柱が、地面から突き上がった。


土壁に沿うように。


逃げ道を塞ぐように。


密室の中が氷で埋め尽くされる。


土と氷。


二属性による複合魔法。


神官でも扱える者が少ない、高度な魔法だった。


誰が見ても、リリアは天才だった。


……本人以外は認めていた


舞台の周囲にいた生徒たちは思った。


――ガイウスは終わった、と。


だが。


その予想は、次の瞬間に覆る。


――パキ。


小さな音。


「……え?」


リリアの顔が凍りつく。


土壁に、亀裂が走っていた。


魔法の失敗じゃない。


リリアの魔法は、完璧だった。


誰もが息を呑む。


……一人を除いて。


ディールが笑った。


「あいつの変人なところは」


「痛みも、失敗も」


「全部、学びに変えることだ」


「だから、あいつは止まらない」


ディールの笑みが深くなる。


「本気で止めたいなら……殺す覚悟をしろ」


――バキィンッ!!


土壁が、内側から砕け散る。


冷気が舞う中。


現れたのは――ガイウス・レム。


……だが、様子がおかしい。


両腕が、ぶらりと垂れていた。


ありえない方向へ、歪んでいる。


「……え」


リリアの思考が止まる。


答えは一つ。


腕の許容量を超えるほど魔力を流し込み、氷柱ごと粉砕したのだ。


その代償で――両腕は壊れていた。


「……いかれてる」


「あんた……いかれてる……!!」


ガイウスは首を傾げた。


「戦いってのは、生きるか死ぬかだ」


「お前も、俺を殺す覚悟だったんだろ」


「なら、俺も同じだ」


「腕がなくなっても」


「足がなくなっても」


「俺が壊れるまで――」


「お前が終わるまで、俺は終わらない」


その瞬間。


訓練場にいた全員が震えた。


魔力じゃない。


もっと根源的なもの。


――殺気。


ガイウスの足に、魔力が集まる。


そして――突撃。


壊れた腕をぶら下げたまま。


リリアは手を向ける。


だが。


震える。


思考が止まる。


魔法とは、魔力と想像力。


想像できない

魔法が使えない


死を恐れない人間なんて。


「いやっ……!!」


「死にたくない!!」


リリアは、その場にしゃがみ込んだ。


勝負はついた。


血が、ぽたりと指先から落ちる。


それでもガイウスは笑った。


「……今日はいい日だ」


「俺の肉体に纏える魔力の限界が分かった」


一瞬の静寂。


そして――


「はははははっ!!」


ディールが、腹を抱えて笑い出した。


こうして。


ガイウス・レムと、リリア・アニーの戦いは――


ガイウスの勝利で幕を閉じた。


だが。


誰も拍手しなかった。


誰も歓声を上げなかった。


誰一人、ガイウスから目を逸らせなかった。


この日、訓練場にいた生徒たちは初めて知る。


才能より恐ろしいものが、この世にはあることを。


それは――死を恐れない覚悟だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ